第八十九話 『ペインフル・クラウド』
2024/09/06 一部を修正、加筆しました。
[第八十九話] ペインフル・クラウド
時刻は十八時。
ここからは、先ほどカルアドネさんから受注したフォレストウルフとアロハメガロドンの討伐依頼の達成を目標にやっていこう。
さて、まずはどちらから行こうか。
やはりフォレストウルフかな。メガロドンよりかは簡単そうだし。
そう考えた俺は、北門を目指す。
門の前には、俺を瀕死の重傷から介抱してくれたクララさんがいた。
「あっ、左腕なくなっちゃった人だ!快復おめでとうございます!」
クララさんは俺を見つけるなり、手を振って呼びかけてきた。
この通り、彼女はちょっと抜けている人だ。要さんしかり、こういう人にはなんとなく庇護欲が湧いてくるよな。
「水魔法使いのトールっていいます」
今日何度目かの自己紹介をする。
「トールさんですね!覚えておきます!……ってトールさん!?フォレストウルフの依頼受けてくださったんですね!ありがとうございます!」
今にも飛び跳ねそうな勢いで喜んでくれるクララさん。かわいい。
「くれぐれも気をつけてくださいね。群れが大きいですから」
かと思えば、途端に真剣な顔つきになってそんなことを言う。
やっぱりいい人だな。
「大丈夫です!用心しますから」
あまり心配させるのもよくないので、俺は簡単に応えてから足早に門を去る。
「がんばってくださいね~!」
クララさんが手を振ってくれる。
やっぱり、天使だった。
※※※
天使成分を補給したところで、ウルフの群れを探すとしよう。
十分ほどかけて走り回ってみると、ようやくそれらしきものが見えた。
「ガルルルルルルルゥゥ……」
「ガルルルゥッ」
「ガルルルルルルルルルゥゥゥ……」
獣のうなり声がひっきりなしに聞こえてくる。これ以上近づくのは危険そうだ。
やつらは鼻が利く。現在風らしき風は吹いていないが、風向きの変化にも注意しないとな。
音を立てないように気をつけながら、俺は周囲を観察する。
茶色と薄緑色のウルフたちの合間に、ちらっと濃い緑色が見えた。
ちっ。やはりボスは群れの中にいるか。
といっても、いきなりボスを倒しても群れが散り散りになってしまうので、最後に倒すつもりでいたが。
数分間群れの様子を観察したところ、やつらは現在休憩中のようだ。辺りを警戒しつつ、ぐるぐると動き回っている。
「……」
さて。いきなり飛び込むか、それとも魔法で奇襲攻撃をしかけるか。まず俺が取れる行動としては、この二択だな。
集中すれば、あの痛々しい牙と爪を搔い潜りながら各個撃破することは可能だろう。しかし、ボスを前に精神的に消耗することは避けたい。
ならば、魔法で奇襲か。魔力はそれなりに消費するが、レベル六十の魔力量だ。だいぶ余裕がある。
よし、奇襲にしよう。
俺は杖を構えると、照準を一番手前のファングウルフに定めて、魔法を唱えた。
「『アクア・アロー』」
「ギャンンンッッ!」
飛んでいった水の矢が、見事頭部に命中。一撃で仕留めることができた。
できたのだが……。
「ガルッ!?」
「ガルルルルゥッッ!!」
「ガルルルルルルルルル!!」
群れに気づかれてしまった。
「「「ギャアアアウッッ!!!」」」
距離にして百メートルほど。四十頭ものウルフたちが、波のように押し寄せてくる。
「『アクア・アロー』、『アクア・アロー』、『アクア・アロー』」
これだけ数がいれば、さほど命中部位を意識せずとも、どいつかには当たる。
放った三発の矢が三頭を戦闘不能にする。二頭がファングウルフで、一頭がグリーンウルフ。
残りおよそ三十七頭。すぐそこまでウルフの波が迫ってきている。
だが、これだけ引きつければヒットするだろう。
俺は初お披露目の新魔法を唱える。
「『アクア・ウェーブ』!」
『アクア・ウェーブ』。前方に大きな波を出現させ、水属性ダメージを与えるとともに、相手を前に押し流す魔法だ。
[タイカイノシズク]より威力は劣り、前方にしか相手を押せないが、こういう集団戦のときに便利な魔法である。
「ギャウンッ!」
「ギャアアアウッ!」
「ガルルルルルルッッ!」
ウルフの群れは大波にさらわれ、全頭が再び百メートルほど流される。
あとはこれの繰り返しだ。
近づいてくるウルフをアローで迎撃。限界まで引き寄せてウェーブで押し戻す。
再び近づいてくるウルフをアローで迎撃。限界まで引き寄せてウェーブで押し流す。
近づいて……。
こない、だと?
「アオオオオオオンッ!!」
ボスの号令でぴたりと足を止めたウルフたち。
しまった、学習された。
[AnotherWorld]の魔物には学習AIが搭載されており、こういったパターン化された戦略を封じてくる動きをするようになる。
「ギャウウウンッ!」
ボスは続けて低いうなり声を上げると、残り二十頭ほどのウルフの部下たちは三、四頭ずつに分かれ、左右からグループになってにじり寄ってくる。
左に二グループ。右にも二グループ。ウェーブに対応できるように、それぞれ縦に配置されている。
残り一グループは、ボスを取り囲むようにしている。
ちょうど、Uの字のようなフォーメーションでじりじりと俺を包囲してくる。
「まずいな……」
少し焦る。ウェーブに完璧に対処されてしまった。
全方位を押し流す[タイカイノシズク]と違い、『アクア・ウェーブ』は一方向のみの攻撃だ。こういう包囲のされ方をされると弱い。
ならば、どうする。
答えは、近接戦だ!
「『アクア・ソード』」
「アオオオオオンッッ!!!」
俺の『アクア・ソード』を見たボスは、部下に突撃命令を下す。
瞬間、右前と左前からウルフの群れがやってくる。
さあ、集中の一分間だ。
※※※
まずやってきたのは、左前の一グループ。四頭いる。
「ガルルルルルッ!」
「ガルッ!」
まず前の方にいた二頭から攻撃が来る。同時に繰り出される爪と牙。
俺は一歩下がって避ける。
「はああっ!」
そして、真一文字に一閃。
二頭を両断する。
「ガルルルルルルルルッッ!!」
「ガルルルル!」
次に、右のグループの増援が来る。
左前の残党と連携を絡めた引っ搔き、噛み付き攻撃が交差する。
「くっ、いった!」
避けられるものは避け、避け切れないものは体で受ける。
爪が来る。
避ける。
カウンターで切り払う。
牙が来る。
避ける。
牙が来る。
「がっ!」受ける。
ソードでまとめて切り払う。
爪が来る。
牙が来る。
爪が来る。
「ぐわあああっ!」全て受ける。
まとめて、切り払う!
左前、右前のグループを狩り終えたところで、追加が来た。
左後ろ、右後ろに控えていた、計七頭だ。
「はあ、はあ……」
ここまで来たら、やってやる。
俺はオオシャチの杖に『アクア・ソード』をかけ直す。
来いよ、オオカミさん。
「グルッ」
そんな俺の心の中の挑発を知ってか知らずか、真ん中にいたボスのグループも動き始めた。計十二頭。
マジか。
もう少し、様子を見ているというのはどうでしょうか?
「アオオオオオオオオンッ!!」
ダメだった。
再度鳴らされた突撃指令に、ボス以外の十一頭が一斉に向かってくる。
もはやグループの体を成しておらず、一頭一頭が本能のままに俺を食らわんとしている。
よし、いいぞ。
ダメじゃないか、陣形を崩しちゃ。
俺が『アクア・ソード』をかけ直したところを見て、ボスは俺がこのまま接近戦に興ずると思ったのだろう。
だが、甘い。勉強不足だったな、オオカミの頭さんよ。
「『アクア・ウェーブ』ッ!」
「ギャウンンッッ!」
「ガルルルルルルッ!」
とっさに『アクア・ソード』を解除した俺は、四回目のウェーブを放つ。
度重なるウェーブで消耗していた十一頭はカウンターの形で白波をまともに受け、その身をアイテムに変えた。
「ガルルルゥゥゥッ……」
一匹ぽっちになったボスが低くうなる。
俺には心なしか、歯ぎしりしているかのように聞こえた。
後はただの上位種一匹だ、油断せずに倒せばいい。
「ガルルルルルルルッッ!!!」
一際大きなうなり声をあげて、フォレストウルフが突っ込んでくる。
上位種と言えども、所詮はウルフ。
「『アクア・ソード』」
「ギャウンンンッッ!!」
カウンターでその身に食い込んだ水の刃は、致命傷になったみたいだ。
バタッ。
「ふー」
ゆっくりと地面に倒れたフォレストウルフを見て、俺は安堵の息を漏らすのだった。




