第八十六話
2024/09/03 一部を修正、加筆しました。
[第八十六話]
ら、ライバルくん。どうしてここにいるんだ。
「きみたちの話は聞かせてもらったよ。ココデ海岸を航海するってことだよね?」
しかも盗み聞きしてるし。よほど暇だったんだろうか。
「それにしてもトールくん?前回の勝負はきみが逃げたから、僕の勝ちってことでいいね?」
前回の勝負?
ああ…。めんどくさいから勝ちってことでいいか。
「いいぞ。それで、自己紹介してもらってもいいか。俺も皆も、きみの名前すら知らない」
俺は[AnotherWorld]内で一度会ったことがあるからかろうじて誰だかわかるが、他の皆は初対面だ。
突然の新キャラの登場に、皆ポカンとしている。
「紹介が遅れたね。僕は春風雷太。[AnotherWorld]ではフーライとして活動している、魔法使いさ」
春風雷太はキメ顔で自己紹介をした。
だろうな。フライドラゴンを倒すほどの威力の魔法を出すのは、魔法使いぐらいしかいない。魔法使い以外は魔法の出力が落ちるから。
雷太は空いているテーブルから椅子を一つ持ってくると、俺の隣に無理やり座ってきた。
「そして期待の新人、トールのライバルでもある。今のところは僕が勝ち越しているけどね」
そう言って雷太は下手くそなウインクをしてくる。
なんか、気障の成り損ないみたいなやつだな。
「俺は柊透。ゲーム内ではトールとして活動している水魔法使いだ。それでこっちが亘昇で……」
突然の登場に呆けているので、俺が代わりに皆を紹介する。
「なるほど。こんな有名人たちとお近づきになれるなんて光栄だよ!」
それはへりくだっているのか?それとも皮肉を言っているのか?
いつも調子に乗ったような口調だから判断がつかない。
「高校の中では僕たち、ある程度有名人らしいんだよね。スタンピードとか、メカトニカの件で目立ってるから」
正気に戻った隣の彰が説明してくれる。
なんだ、そんなことか。別にいいじゃないか、ゲームの中なんだから派手にやっても。なんでやっかみを受けなきゃいけないんだ?
「なあ、そう思うよな、雷太くん」
「え、なんの話だい、透くん?」
なんと、雷太は俺の心が読めないのか。
それはちょっとめんどくさいな。
「変なやっかみはやめてくれという話だよ、雷太くん」
「雷太でいいよ。それにやっかみではない!四組は今、きみたちの話でもちきりなんだ!それっておかしくないかな。ゲームは皆が平等に楽しむ場所だ。きみたちだけが有名になっていいはずがない」
雷太は支離滅裂なことを言っているが、俺の考えと近い……、のか?
「つまり、雷太は四組の中で有名になりたいんですの?」
めちゃくちゃ端折って単刀直入に、静が呆れたように質問する。
「そ、そういうわけじゃ……。いや、そうだ!僕は名声が欲しい!」
正直だな。だが、それがいい。
ここで変にごまかすくらいだったら、俺は雷太のことを突っぱねてたところだった。
「じゃあ、一緒に行くか?」
「いいの?変な人だけど……」
「確かに雷太は変だが、悪いやつではないだろう。それに、アヤカシ湿原のフライドラゴンたちをソロで狩れるくらいの実力がある。仲間に入れてもいいと俺は思う」
俺は率直な意見を皆にぶつける。
まあ、彰の言ってる通り、変な奴だけどな。
「有名とか名声とかよく分かんないけど、透がいいって言うんならいいんじゃないか?」
「僕は雷太くんのことよく知らないけど、遠距離支援は多い方がいいね」
「確かにそうですわね。透の言う通り変ですけど、悪い人ではなさそうですわ」
昇、彰、静の三人からは概ね好意的な印象だった。
変というのは全会一致だが。
「俺はいいぜ、旅は道連れ世は情けっていうしな!」
「勇也と同じく、なんにも考えてなさそうな顔だし、入れてもいいんじゃないかしら」「俺と同じくってどういうことだよ!」
「二人がいいなら、いいですっ!魔法使いは貴重な火力源ですっ!」
勇也、美樹、香蓮の三人は、渋々了解したといった感じだった。
勇也たちは一組で雷太は四組だそうだからな、彼らも雷太の人間性を把握できていないのだろう。
「皆ありがとう!必ず透くん以上の活躍をして、四組の中で有名になってみせるよ」
思いを言葉にしたことで、自分の中に踏ん切りがついたようだった。
クラスで有名になりたい。ちやほやされたい。
また一人、野望を持ったプレイヤーを生み出してしまったな、と俺は胸の内で思うのだった。
※※※
時は移り、放課後。
読書部の活動時間がやってきた。
「じゃあな、三人とも」
俺は三人と一階の入口で別れ、図書室に入る。
「遅いぞお、透」
読書部二年、佳乃部長が椅子の背もたれに寄りかかりながら言う。
そんなに遅かったか、俺。
他の皆は集合していた。また俺が最後だ。
もう少し早く来ることを心がけないとな、と思っていると、泰史副部長から号令がかかった。
「よし、全員集まったな。これからCグループの発表を始めるぞ。要さん、頼めるか」
「は、はい」
要さんが立ち上がってスクリーンの前に立つ。
「こ、今回私が発表したいのは、『かみさまとかくれんぼ』です。神隠しにあった友達を救いに、村の森に入る主人公ですが……」
要さんが細く、しかししっかりとした声でプレゼンをする。
「……という彼女の結末は?い、以上です」
「ありがとう、要さん。……では、ディスカッションの時間に入る。十分間話し合ってくれ」
ディスカッションの中では、やはり声の大きさに関する指摘が多くあった。
「は、はい。次はもっと前を向いて大きな声で話すことにします」
要さんもよく学んでいる。
よかったよかった。
「……さて、そろそろ十分経ったから、要さんの発表はこれにて終了とする」
泰史さんの一言でふっと息を漏らす要さん。
結構緊張していたんだろうな。肩の荷が下りた面持ちをしている。
「続いて、倉持。頼めるか」
「はい」
今度は冴姫先輩が皆の前に立つ。
流石に今は、ペンとメモは持っていないな。
「今回紹介したいのは『ファーアウェイ』。ある運び屋の男が命じられたのは、『この箱を持って可能な限り遠くに逃げること』。箱の中身とはなんなのか、依頼人の正体とは……」
おお、すごい発表だ。
聞いていくうちに、どんどん話に吸い込まれていく。
冴姫先輩は普段あまり話すタイプではないから、より新鮮に、話がすっと耳の中に溶ける。
この後主人公はどうなってしまうのか、という絶妙に気になる辺りで話が終わったところも、俺としては評価したい。
「……ご清聴ありがとうございました」
素晴らしかった。
その後のディスカッションでも大きな指摘を受けることなく、冴姫さんのプレゼンは終わった。
「それじゃあ、今日はこれで終了とする。来週は透くん、織内、それに吾妻の発表となっている。資料作成をよろしく頼むぞ」
「「「はい」」」
俺を含めた三人が重なった返事をして、今日の活動は終わった。
※※※
「一緒に帰ろうぜ、透、要さん!」
さて帰るかと立ち上がったところで、勇也が話しかけてくる。
「いいぜ、帰ろう」
「か、帰ります」
俺と要さんは快く返事をする。
俺たち三人は先輩方に挨拶をし、図書室を後にする。
帰り道、要さんが話を切り出してきた。
「あ、あの、雷太くんから聞いたんですけど、皆さんが東の海に航海されるとのことですが、それは本当ですか?」
しまった。口止めするのを忘れていた。要さんも四組だから、雷太とつながりがあったんだな。
といっても、悪いことじゃないから要さんには広まってもいいか。
「雷太と友達だったのか!世界は狭いなあ!」
勇也はのんきなことを言う。
「そうだよ、ココデ海岸から出発することになっている。日にちはまだ決まっていないんだけどな」
勇也が感心してばかりで応えないので、俺が代わりに応える。
「その航海、私も連れていってほしいです」
「えっ?」
「実は今、”あれ”の製作が難航していまして。航海で新しいインスピレーションが湧けば、きっと完成すると思うんですっ!」
要さんは普段の彼女らしからぬ、大きな声を出した。
それだけ、”あれ”に情熱を注いでくれてるのか。
「わかった、というか勇也に決めてほしいんだが、要さんも航海に同行するということでいいか?」
「もちろん!」
ちゃんと考えているんだろうか。守る対象が増えることになるんだぞ。
でも、まあ。
またあの九人(+一人)で冒険できるなら、嬉しいよな。
「だそうだ。詳しい日取りは追って連絡するよ」
「あ、ありがとうございます!」
なにも感謝されるようなことはしていない。
「さ、難しい話も終わったことだし、早く帰って[AnotherWorld]しようぜ!」
段々勇也の底の浅さというか、なにも考えていないのが透けてきたなと思いつつ……。
俺も[AnotherWorld]をしたいのは同感なので、要さんを置いていかないようなスピードで早足になるのだった。
次回の更新は12月27日(月)だよ。




