第八十五話
2024/08/30 一部を修正、加筆しました。
[第八十五話]
時刻は二十二時過ぎ。もういい時間だからログアウトしようか。
俺はメニューから『ログアウト』を選択する。
途端に、現実へと引き戻された。
「ふう、今日も色々楽しめたな」
そう独り言ちた俺は明日の部活を楽しみにしながら、眠りにつくのだった。
※※※
翌、四月二十三日水曜日。おはようございます。
朝はトーストを食べてコーンスープを飲み、万全の準備を整えて部屋を出た。
今日は授業と、読書部の活動があるな。発表は要さんと冴姫先輩だ。
一体、どんな発表をしてくれるのだろうか。
そんなことを考えながら通学していると、後ろから声をかけられた。
「おっす!透!透は今日、読書部あること覚えてたか?」
「勇也の頭じゃあるまいし、覚えてるに決まってるじゃない。自分の番だったらどうするのよ、まったく」
「勇也は本当に忘れっぽいですっ!おでこに書いとけばいいですっ!」
「そしたら自分で見れないじゃない」
「私たちが教えてあげればいいですっ」
「な、なるほど。そうやってポイントを稼ぐ算段ね」
「ポイント?……なんの話だ?」
「こっちの話ですっ」
俺そっちのけで夫婦漫才を繰り広げる勇也と、ゲーム内だとステム、ブルームだった女性か?
「こっちだと初対面よね。私は北条美樹よ。どうぞよろしく」
「花咲香蓮ですっ!よろしくですっ。クラスは三人一緒で一組ですっ」
どちらも黒髪で、服装は美樹がエレガント系なワンピース、香蓮がかわいい系のトップスとスカートといった感じだ。髪型は[AnotherWorld]と同じで、美樹がロング、香蓮がおかっぱだ。
「柊透だ、よろしくな。あっちでも少し言ったが、勇也と同じ読書部に入っている二組だ」
俺も自己紹介をする。
ゲームで会っていてリアルだと初対面なので、なんとも不思議な感覚だ。
「立ち話もなんだし、歩きながら話さないか?」
「なんだかんだ時間もないしな!行こうぜ!」
時間を食ったのは主に女子二人の漫才のせい……、とは言えない。
「透って呼んでもいいかしら。透は読書が好きで、読書部に入ったの?」
美樹が質問してくる。
そうだな、それもあるが……。
「去年の全国高校生ビブリオコンクールっていう、いわば日本一の読書感想のプレゼンをするコンクールなんだが、それで優勝した人が今部長をやっててな。少しでも勉強できることがあるんじゃないかと思って入ったんだ」
「殊勝な理由ですっ!あまりにも常識と品性に欠けてる勇也とは大違いですっ!」
「花咲!?常識と品性に欠けてるとはなんだ!」
「欠けてるから、今日部活動があったことも忘れるんですっ!」
「うぐっ、た、確かに……」
香蓮に言い負かされ、打ちひしがれる勇也。
「おい。立ち止まってると時間なくなるぞ」
そして、勇也を捨て置きながら歩き続ける俺たち三人。
「おおおい!待ってくれええ!」
後ろから響いてくる勇也の叫び声は、ゲーム内と変わらずやけに元気なのであった。
※※※
一気に時間も飛び、お昼休み。
俺たち四人はだらだらと喋りながらお昼ご飯を食べていた。
「やっと週の折り返し地点だな」
「体育があったから、俺はまだまだ元気だぜ!」
体育の授業は月、水、金とある。[AnotherWorld]で体がなまってしまわないように、週に三回あるらしい。
「僕は反対に疲れたよ。サッカーで走りすぎて……」
「私もでしてよ。もっと運動しなくちゃですわ……」
彰と静は消沈気味だ。日頃運動不足なのか?
かくいう俺はというと、バイトでハードワークを押しつけられるせいで、体育ぐらいではへばらないようになった。
まだやっていないが、持久走とかになると流石にしんどいと感じるかもな。
そんなことを思いつつ、わいわいがやがやと話していると、近づいてくる三つの影があった。
「おーっ!皆アバターとそっくりじゃん!」
「こら!失礼でしょ勇也」
「品性が欠けてるですっ!」
まだ言ってるのか、香蓮は。
「この声と話し方は……!」
「男子1女子2の三人組と言えば……!」
「その意味深な言い方はなんですの!?ごきげんようですわ、美樹さん」
昇と彰はなぜか盛り立ててくれたが、静は冷静だった。
声の方向を見てみると、そこには勇也と美樹と香蓮がいた。
というか、俺が紹介を兼ねて呼んでおいたのだ。昼休み、食堂に来るようにな。
「紹介するぞ。読書部のメンバーの関原勇也、北条美樹、花咲香蓮だ。三人とも一組になる」
「[AnotherWorld]では会ってるから、不思議な気分だな!よろしく!亘昇だ!」
「よろしくね、濱彰だよ」
「美樹さんとは園芸部で一緒に活動してます、森静と申しますわ」
三人と三人が自己紹介し合う。
よし、これで準備万端だな。
「今日、皆を引き合わせたのは他でもない。ついに、”アレ”を実行に移すときが来たからである」
「変な言い方するな」
昇に突っ込まれるが、俺は無視した。
「”アレ”とは……、ココデ海岸から出発する航海の旅だ!!!」
俺は迷惑にならないくらいの大声で宣言する。
「えええええっ!」
「えええええっ!」
「ごめんなさいですわ。美樹さんから聞いていました」
俺の一言は静には不発に終わったが、昇と彰にはクリーンヒットした。
「そもそも、東はあれで打ち止めかと思ってたぜ。泳いでいこうとしたらなんか変なのに引きずり込まれて死に戻りしたしよ」
「僕も南に行くことばっかり考えてて、東にも海があったこと、忘れてたよ」
二人がそれぞれ言う。俺は続けざまに言葉を発する。
「勇也たちが船舶を持っててな。今日話したんだが、昇、彰、静の三人も船に乗せてくれるってさ。どうだ。一緒に航海に行かないか?」
実は朝、勇也たちとこれについても議論していたのだ。
「もちろん!」
「喜んでご一緒させてもらうよ!」
「海の向こうにはなにがあるのですわあ!」
三人とも即決でOKしてくれた。
断られなくてよかった。皆船に乗るのに抵抗がないみたいだ。
「これで、シズクさんも入れて八人でいいか?カナメさんは戦闘ばっかりだから誘わないでおく?」
勇也が耳打ちしてくる。
当然のようにシズクさんが入っているのは遺憾だが、俺も勇也の意見に同意だ。
「そうだな。船旅の目的地が決まっているわけでもないし、長い時間拘束しちゃうのは気が引けるな」
「そうと決まればこの八人で、船旅にレッツ……」
「ちょっと待った!!!」
勇也が締めに入ろうとしたところで、大声とともに何者かが俺たちのテーブルに近づいてきた。
あ、この声は……。
「その船旅、僕も参加させてもらうよ、トールくん!」
そこには声の主、アヤカシ湿原で出会ったライバルくんがふんぞり返っていたのだった。




