第八十四話
2024/08/29 一部を修正、加筆しました。
[第八十四話]
調薬も済んだことだし、狩りに行くとしよう。
”工房”を出た俺はその足で南門へと向かう。
検問をしていたガンケンさんに挨拶をする。
「こんばんは、ガンケンさん。今日も大変ですね」
「まったくだ。急にフライドラゴンの数が増えちまって……。依頼の文章考えるのめんどくさいんだよ……」
そこをめんどくさがったらダメだろう。
まあ、彼がめんどくさがっているのも、俺がフォクシーヌを倒したせいなんだが。
「今から駆逐しに行きますよ。依頼は受けていませんが」
「なんなら、事後報告で依頼を達成したことにするか?トールはずいぶん強くなったみたいだし、信頼も置ける」
なにっ。そんなことできるのか。
「じゃあ、それでお願いできますか?」
「おしっ!それじゃ、百匹頼むな。ジョージュの札に書いておくから。いやあ、これで面倒ごとが消えたよ!」
ひゃっ、百匹!?
俺は口をあんぐりと開けて驚く。
「余裕だろ?トールは以前会ったときよりレベルが相当上がってる。努力してきたんだな!」
そう言ってガッツポーズするガンケンさん。
評価してくれるのはありがたいんですが、いきなり百匹って……。
だが、せっかくの依頼だ。ぱっぱとこなしてタメルをもらおう。
「……分かりました。報酬に期待してますよ」
おだてには乗るまいか、と思ったが、まあいけるだろの精神で安請け合いしてしまう俺なのだった。
※※※
「『アクア・アロー』」
何匹目かも分からないフライドラゴンを、水の矢で貫く。
初めは百匹なんて多すぎだろ、なんて思っていたが、今は違う。
フライドラゴンが大増殖しているから、百匹でも足りないかもしれない。
「キシャアアアアアッッ!!」
視界いっぱいから迫ってくるやつら。
「ふうううううっ」
対して俺は、左から順に息を吹きかけていく。
ボオオオオオオオオッッッ!!
口から噴き出された火がドラゴンたちを焼き尽くす。
『まったく、人遣いが悪いわね』
お前は悪魔だろうが、と心の中でつまらないツッコミを入れる。
「『アクア・ソード』」
「キシャアアアアッ!」
ザクッ!
さらに、突っ込んできた一匹の複眼にソードを突き入れる。
そのまま切り払い、右からやってきたもう一匹も切り捨てる。
まったく、きりがないな。
バーネスト、今何匹くらいか覚えてるか。
『今、ちょうど六十六匹よ』
お、悪魔の数字。きりが良いのか悪いのか。
『私のこと、便利な道具扱いしていない?』
そ、そんなことはないぞ。
いわば、あれだ。頼れる相棒だと思ってる。
『もう、調子いいんだから』
呆れた風に彼女は言う。なんとか納得してくれたようだ。
踊るようにしてフライドラゴンの突進を避けながら、『アクア・ソード』で切りつけていく。
時折火を噴き、周囲のフライドラゴンを一掃する。
「ふう……」
流石に疲れたぞ。
誰か手伝ってくれないかなあ、なんて思っていると……。
「『サンダー・アロー』!」
俺の後ろから迫ってきていたドラゴンを、雷の矢で倒してくれた人物がいた。
「……」
その男は、池のほとりにぽつねんと佇んでいた。
金色の短髪をオールバックにしている。服装はオレンジのマントに覆われているのでわからない。裾から覗く靴はブーツのようだが。
プレイヤーか。こんな時間に出歩いているNPCの冒険者はいない。
「大丈夫かい?期待の新人くん」
低い声が彼から発せられる。
期待の新人って、俺のことか?
「期待の新人って、俺のことか?って顔をしているね。僕たち一年の間では有名だよ。各地で名を馳せているニュービーがいるってね」
一年生なんだな。変わった風格があるから二年生かと思った。
というか、一年生ならあなたもニュービーだろ。
「ということは、俺の名前も知っているのか?」
「もちろんさ。トールくんっ」
なんか、鼻につく言い方だな。
俺にやっかみでもあるのか?
「僕はきみをライバル視している。今のは一つ貸しだよ。トールくんっ」
「ライバルになりたいなら、名乗ったらどうだ?」
「とにかく、今からフライドラゴンの討伐数で勝負だ!」
あ、あの……。人の話を聞いてもらえると助かるのですが。
しかもこっちは魔力を結構使っている。フェアじゃないような。
「三十分後にここに集合だ。それじゃあいくぞっ!よーい、スタート!」
ライバルくんは勝手にスタートコールをし、一人で駆け出してしまった。
※※※
『これで合計百匹ね。あのおじさんが言ってた内容はクリアかしら』
それから十五分ほど経った頃。
俺は所定数のフライドラゴンを狩り終わった。
よし、帰ろう。礼儀のない人には、こちらも容赦なくいかせてもらう。
残念だったな、ライバルくん。俺が認めていないのだから、始めから勝負なんてないのだよ。
変な人にあったけど今日は大漁だったな。入手したアイテムを確認する。
〇アイテム:フライドラゴンの複眼
湿原地帯に生息するフライドラゴンの複眼。ギョロギョロとした目が気持ち悪い。
〇アイテム:フライドラゴンの牙
湿原地帯に生息するフライドラゴンの牙。硬く、手ごろな大きさなのでナイフに用いられる。
〇アイテム:フライドラゴンの爪
湿原地帯に生息するフライドラゴンの爪。牙よりは小ぶりだが、鋭さは劣らない。
〇アイテム:フライドラゴンの甲殻
湿原地帯に生息するフライドラゴンの甲殻。軽く、そこそこ硬い。
ほくほくだ。大量に手に入ったのでスキップしたい気分である。
時刻は二十二時。南門に到着すると、ガンケンさんがまだいた。
「おう!百匹討伐お疲れさん!これ、お礼の十万タメルだ」
ガンケンさんがずっしりと重いタメル袋をくれる。
こんなにもらっていいのだろうか?
「明日までかかると思ってたからな。手早くやってくれた礼も入ってる」
ほうほう。それならありがたくもらっておこう。
アイテムもタメルもがっぽがぽ。今日はいい日だったな。
もっとも、誰かさんにとってはよくない日になったかもしれないが。
今も湿原で俺を待っているライバルくんを哀れに思いながら、俺は南門から王都に入るのだった。
次回の更新は12月21日(火)だぜ!




