第八十三話
2024/08/29 一部を修正、加筆しました。
[第八十三話]
”工房”の扉を開けると、やっぱりノーレッジが本を読んでいた。
「おお、帰ったかトールよ。他に新しい本はあるか?」
「ない」
よかった。逃げ出してなかったな。と、野良猫みたいなことを思う。
俺はノーレッジとのあいさつもそこそこに、工房のアイテムボックスを開いて中のアイテムを確認する。
今回の旅で手に入れたアイテムを入れて、改めて調薬に必要な素材を引っ張り出す。
ナオレ草×231、ネムレ草×129、ヨクナレ草×4、ココデアサリ×144、ココデハマグリ×61、ヤドカリヤシの実×23、ヤシヤドカリの脚×80、ココデイモガイの毒液×26、ココデオオシャチの肉×36、ココデオオシャチの骨×4。
レア度の高いアイテムが少なくなったな。また調達に行かなければ。
今回手に入れた使えそうなアイテムは、これくらいかな。
ウインドイーグルの肉×25、ポイズンワスプの毒液×9、タラフクベアーの肉×1、ブラックスコーピオンの肉×31、ブラックスコーピオンの毒液×31、タラフクアップル×84、タラフクオレンジ×96、タラフクグレープ×79、タラフクピーチ×80、タラフクマロン×25、タラフクペアー×25
アルグスネ丘陵で倒した上位種やアロハメガロドンの素材は、他のメンバーに譲ってしまったので持っていない。
それにしても、見事に肉と毒しか持ってないな。これじゃあ疲労回復薬と毒薬しか作れないぞ。
「『アクア・ソード』」
包丁のように杖を持って、そう宣言する。
それならそれで、全部乗せで作ってみるのはどうだろうか。
皆も幼い頃に経験がなかっただろうか。ファミレスのドリンクバーでありったけのフレーバーを混ぜて特製ジュースを作った経験が。あれと同じことをする。
ヤシヤドカリの脚を身だけ取り出し、ココデオオシャチ、ウインドイーグル、タラフクベアー、ブラックスコーピオンの肉をそれぞれ一口大に切って鍋に投入!
ぐつぐつと煮て、出汁を取る。
数分間待って、できた薬(?)を一本ずつ試験管に注いでいく。鍋一杯分、計十本ができた。
〇アイテム:疲労回復薬 効果:疲労回復:大
疲労を回復する薬。飲むと日をまたいだ時の体力、魔力の回復量が大きく増える。これでもかというくらい旨味に溺れた味。
おお、効果が一段階上昇したな。ドリンクバー作戦成功だ。
旨味もすごいことになっている。これなら、NPCに高値で売れそうだ。
お次は毒薬。
これもドリンクバー作戦で、ココデイモガイ、ポイズンワスプ、ブラックスコーピオンの毒液を『アクア・クリエイト』で水を張った鍋の中に流し込む。
できたものがこれだ。
〇アイテム:毒薬 効果:神経毒:中、出血毒:中
飲んだ相手を神経毒、出血毒に侵す薬。神経毒で動きを封じ、出血毒でダメージを与え続けられる凶悪な代物となっている。
お、おお。まさしく理想の毒薬ができてしまった。
毒の効果はどちらも中になっている。これは使えそうだ。
けど、これ。また売れないんだろうな。十本分在庫を抱えてしまった。
これ以上毒薬を作っても試験管が埋まるだけなので、もう一度疲労回復薬を作ろう。
タラフクベアーの肉は一個しかなく、さっき使ってしまった。それ以外のココデオオシャチ、ウインドイーグル、ブラックスコーピオンの三種類の肉を入れて薬を作ってみる。
〇アイテム:疲労回復薬 効果:疲労回復:中
疲労を回復する薬。飲むと日をまたいだときの体力、魔力の回復量が増える。旨味にあふれる味。
タラフクベアーを入れないと効果が大にならないのか。残念。
それと、後ろの説明がちょっと弱くなったな。タラフクベアーは味も引き上げてくれる優れものだったわけだ。
それじゃあ次は、ココデオオシャチとウインドイーグルの肉で作ってみる。
〇アイテム:疲労回復薬 効果:疲労回復:中
疲労を回復する薬。飲むと日をまたいだときの体力、魔力の回復量が増える。旨味にあふれる味。
あ、あれ?
これって、もしかして。
次はココデオオシャチとブラックスコーピオンで。
〇アイテム:疲労回復薬 効果:疲労回復:中
疲労を回復する薬。飲むと日をまたいだときの体力、魔力の回復量が増える。旨味にあふれる味。
ははあ、だいぶ分かってきたぞ。
最後はイーグルとスコーピオンで調薬する。
〇アイテム:疲労回復薬 効果:疲労回復:小
疲労を回復する薬。飲むと日をまたいだときの体力、魔力の回復量が増える。旨味にあふれる味。
はい。謎が解けました。
どうやら、ヤシヤドカリの脚とウインドイーグルの肉、ブラックスコーピオンの肉は同じ括りのようだ。まあ、効果が疲労回復:小で同じだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
それと、小の効果の素材同士を組み合わせても効果は中に上がらない。中+小でようやく効果が中になるっぽいな。
旨味のところは、二種類以上で『旨味にあふれる味』になると。
さらに、タラフクベアーの肉のような効果が大のものは、薬の効果と味をさらに一段階上げてくれる。
こりゃあ、今からでもクマ狩りに行きたい気分だ。それくらいベアーの肉の効果が優秀。
で多分だが、この法則は疲労回復薬の調薬の際にしか成り立たないと思う。体力回復薬は抽出の方法を変えて効果を上昇させたからな。
「はああ……」
ため息を一つつく。
なんて奥深いんだ、調薬は。
しみじみと感動していると、いつの間にか隣にやってきていたノーレッジが……。
「それくらいのこと、『調薬の組み合わせレシピ』に全て書いてあったぞ」
とボソッと呟いた。
はあ、これだから知識にしか興味がないやつは。
俺は無言で首を振りながらため息を吐き、効果の低い疲労回復薬を一本ずつ飲んでいくのだった。
※※※
その後、効果が中の疲労回復薬を百五十本作り、フクキチに連絡を取った。
今回作った薬は……。
疲労回復薬:大×10、疲労回復薬:中×180、毒薬×10だ。
なんか前回と似たようなラインナップになったな。肉ばっかり獲れるから仕方ない。
フルーツも使おうと思ったが、今回作った薬に混ぜてもまずくなりそうだったのでやめた。
それから、待つこと時刻は二十一時。フクキチから返信がきた。現在、遠方まで行商しているので今日中には会えないとのことだった。
ちぇ。買ってもらおうと思ったのに。
そういえば、借金の返済のために貯金もしないとな。
手持ちは、二十万-本二冊二万-氷属性の杖五万で十三万タメルだ。
十万は貯金しよう。三万タメルあればとっさの買い物には十分だろう。
俺は十万タメルを預けて、アイテムボックスを閉じた。
残り借金は三百九十万タメルだ。なんだかんだすぐ返せるだろう。期限も定まってないし。
さて、フクキチとの商談もなくなったので、この夜をどうやって過ごそうか。
やっぱり、狩りでしょう。
「狩りに行ってくる。本は期待するなよ」
俺は吐き捨てるようにノーレッジにそう言って、”工房”の扉を開けて出ていくのであった。
次回の投稿は12月18日(土)20時だな。




