第八十二話
2024/08/29 一部を修正、加筆しました。
[第八十二話]
まあ、こんなもんでいいかな。
時刻は十七時。
ネッサ砂丘でサソリをあらかた狩り終えた俺は、そのままタラフク果樹林へと足を速める。
アラニア平原を北東に進みながら、またクマに出会ったらどうしようと考える。
そのときは腹を括ろう。懐に潜り込んで『アクア・ソード』するしかないな。
そう覚悟を決めて、俺は果樹園へと到着した。
「ほうほう……」
旅のときには碌に見なかった、果樹園の外観をまじまじと見る。
白い漆喰だろうか、で塗られた壁にブルーの屋根がよく似合っている。周りが柵で覆われていることから、森の浅い部分にもクマが出るのだろうか。
そんなことを考えつつも茶色の木のドアを押す。
よし、内開き。
「いらっしゃい。おや、その分じゃ怪我もすっかりよくなったみたいだね」
「はい、おかげさまで元気になりました」
中に入ると、以前フルーツを進めてきたおばちゃんがいた。ここの経営者なんだろうか。
今日は、一宿のお礼を伺いにやってきた。義理はきちんと通さないとな。
「この度は大変お世話になりました。……ところで、お礼と言ってはなんですが、なにか困っていることはありませんか?おければ力になりますよ」
なにか特別な依頼がないか、それとなく探りを入れてみる。
カゾート木材加工所で森の深部を見に行くように頼まれた経験から、積極的に人に話しかけるようにしようと思う。
「そうさねえ、ベアーは私でどうにかなるし、やっぱりバタフライの幼虫の駆除かねえ、今手を焼いているのは」
ちょっと待ってくれ。
おばちゃん、ベアーを倒せるのか。
「こう見えて、腕っぷしは強いんだよ」
俺が顔で訴えると、おばちゃんは自分の腕をぽんと叩いた。
たくましい腕にふくよかな胴。がっしりとした下半身。
(どう見ても強そうに見えるんですが)、とは言えないので、ポーカーフェイスで思うにとどめる。
「強さの秘訣は新鮮なフルーツですかね……。とにかく、バタフライの幼虫というのはパラライズバタフライですか?」
「そう。成虫は網を張ってもひらひらと入ってきて卵を産みつけるし、孵った幼虫はバクバク葉を食べちまう。私お得意の投げ技も、ぶよぶよした体にはちっとも効かないんで困ってるのさ」
ここで、ふー、とため息を吐くおばちゃん。
おばちゃんにも相性の悪い相手だったとは。恐るべし、パラライズバタフライラーバ。
「あんた、名前はなんて言うんだい」
「トールです。水魔法使いをしています」
「魔法使いなら倒せるね。トールや。いっちょ、園内の幼虫を片付けてきてくれないかい。このシャーノ・デラヘルトに免じてさ!」
ん?デラヘルト?
「デラヘルトさんってことは、ミューンさんやハロメさんの……」
「なんだい、娘たちに会ったのかい。まったく便りをよこさないんだからあの三人は……」
奇妙な縁ってあるもんだなと思いながら、俺はシャーノさんの愚痴を数分間聞かされることになったのだった。
※※※
「はあ、いったい何匹いるんだ?」
何匹目かもわからないラーバを『アクア・アロー』で貫きながら、俺は辟易とする。
〇アイテム:パラライズバタフライラーバの体液
森林地帯に生息するパラライズバタフライラーバの体液。変な臭いがする。
〇アイテム:パラライズバタフライラーバの糸 効果:麻痺:小
森林地帯に生息するパラライズバタフライラーバの糸。触れると少しピリピリする。
〇アイテム:パラライズバタフライラーバの顎
森林地帯に生息するパラライズバタフライラーバの顎。なにかに使えそうで使えないくらいの小ささ。
ラーバからはこれらのアイテムが手に入った。
体液は臭そうだし、あんまり欲しくない。糸は縫製に使えるのだろうか。後でカナメさんに聞いてみよう。顎もよく分からない説明だな。爪切りにでも使えるんじゃないか(適当)。
そんなことを考えつつ、俺はラーバを無心で駆除していく。
「ローズが見たら卒倒ものだな」
果樹の葉がちぎれそうなほど、幼虫が木の上に乗っかっている。
木を揺すってそれらを落とし、一匹ずつ『アクア・アロー』で仕留める。
しまった。これじゃあ、魔力が心許ないな。効率のいい『アクア・ソード』に変えた方がいい。
訂正。落ちてきた数匹を、まとめて『アクア・ソード』で刈り取る。
いいな。最初からこうすればよかった。
「……」
ラーバがかわいそうだが、駆除とはこういうものだと自分に戒めて狩っていくのだった。
※※※
時刻は十九時。約二時間ほどラーバの駆除をした。
それでもまだ足りなさそうだったが、暗くなってきたので引き上げた。
「ひとまずお疲れさん!新鮮なフルーツのお礼だよ!」
シャーノさんから報酬の果物を貰った。リンゴにミカン、ブドウにモモとよりどりみどりだ。
ん?見たことのないフルーツもあるな。これは、クリと洋ナシか?
「それは、うちの果樹園でだけ栽培している新品種さ。タラフクマロンとタラフクペアーだよ!」
おばちゃんが説明してくれる。
フィールドには生っていないのか、これはレアだな。
各フルーツの説明は以下の通りだ。
〇アイテム:タラフクアップル
タラフク果樹林に生るフルーツの一つ。実がとっても大きく、ジューシーな甘さが特徴。
〇アイテム:タラフクオレンジ
タラフク果樹林に生るフルーツの一つ。実がとっても大きく、甘味と酸味のバランスが絶妙。
〇アイテム:タラフクグレープ
タラフク果樹林に生るフルーツの一つ。実がとっても大きく、腐った粒など一つもない。
〇アイテム:タラフクピーチ
タラフク果樹林に生るフルーツの一つ。実がとっても大きく、芳醇な香りと甘さが最高。
〇アイテム:タラフクマロン
タラフク果樹園に生る新種のフルーツ。実がとっても大きく、ほくほくとして甘い。
〇アイテム:タラフクペアー
タラフク果樹園に生る新種のフルーツ。実がとっても大きく、バランスの良い甘さ、酸っぱさが溢れる果汁に込められている。
おそらく、クリと洋ナシは果樹園の依頼をこなさないと手に入らないのだろう。
やってみると少し面倒だったが、駆除をした甲斐があったな。
その後、さらにフルーツを勧めてくるシャーノさんに半ば強引に別れを告げ、果樹園を後にした。
魔力もかなり消耗したので、走って途中の魔物を無視し、アラニアの街に帰る。
全速力で北門の検問を終え、中央広場に着いた。
「お腹が空いたな……」
時刻は十九時半。ここらで一度ログアウトして晩ご飯にしよう。
たらふく狩りを終えた俺は、メニューからログアウトするのだった。
※※※
今日の晩ご飯は、ブリの照り焼き。
買ってきておいたブリの切り身に醤油と少しの味噌、しょうがを混ぜたたれを塗って両面をこんがり焼く。
程良く焼けたら皿に盛って、残りのたれとフライパンに残ったたれをトッピングする。
ご飯とお味噌汁と、深めのサラダボウルに盛り付けたトマトのサラダと一緒に……。
いただきます。
※※※
さて、食後の後片付けと入浴を済ませて、時刻は二十時半。
今日はもう少し遊びたい気分だ。
俺はヘッドセッドとコントローラを装着し、[AnotherWorld]の世界にダイブする。
まずは、中央広場でメールを作成する。
カナメさん、パラライズバタフライラーバの糸要りますか、好きなだけありますよ、と。
送信。
そうしたら、次は調薬だな、少し久しぶりになるが。
広場のテレポート機能を使って、王都へと戻る。
瞬間に広がる、見慣れた街の景色。
ふう、やっぱり王都の方が落ち着くな。アラニアは旅行先のような印象があってまだまだ慣れない。
「行こう」
考え事はこれくらいにして、徒歩で”秘密の工房”へと向かう。
ノーレッジは元気にしているだろうか。なんて、ペットのようなことを考えてみる。
まあ、心配するだけ無駄だな。他のことに思いを馳せる。
カナメさんに頼んだアレは順調だろうか。早く完成したものが見てみたいな。ユーヤたちとの航海の話も進めないとな。具体的な日取りの計画と、かかる時間の計算をしておこう。あ、そうそう。フクキチと始める新しいサービスについても色々決めなきゃな。
そんなことを考えていると、工房に着いた。
「ただいま」
俺は木の扉を開けて、久々の帰宅を果たすのだった。
次回の投稿は12月15日(水)20時です。




