第七十九話
2024/08/18 一部を修正、加筆しました。
[第七十九話]
時刻は十七時。
カナメさんと別れて広場を後にした俺は、アラニアの西門に向かった。
今日はネッサ砂丘に行こうと思う。いずれは南の砂漠のフィールドにも行くことになるだろうからな。
数分間歩いて西門にたどり着くと、バンダナを口元に巻いた男性騎士が検問をしていた。
「……初顔だな。王都から来たか」
静かな声で男性は言う。
俺は自己紹介を済ませる。
「水魔法使いのトールと言います。ご推察の通り、王都から来ました」
「……だろうな。俺はハロメ・デラヘルトという」
「デラヘルトっていうことは……」
もしや、あの妙に鋭い女騎士さんの親族?
「……ああ、王都東部の防衛団長、ミューン・デラヘルトは俺の姉だ」
ドラギスト兄弟と言い、[AnotherWorld]の住人はきょうだいで同じ職に進む風潮があるのだろうか。
「……とにかく、トールでいいか」
「はい、大丈夫です、ハロメさん!」
「……通っていいぞ。砂丘の相手は手強いが、トールなら大丈夫そうだ」
「どうして俺が砂丘に行くと思ったんですか?」
「……アラニアの西から出るやつなんて砂丘目当てだからな。果樹林は北で、リュウグウは南でいい」
なるほど、アラニアはフィールドごとに特色があるから、外に出る人がどこに行くのか推測しやすいのか。
「ありがとうございました」
「……ああ、気をつけろよ」
寡黙なようでいて意外と喋るハロメさんに挨拶をして、俺はアラニアの西門を初めてくぐるのだった。
※※※
道中の魔物を無視して、ネッサ砂丘へとやってきた。
「しかし、暑いな」
燦々と照らす太陽と砂だらけの大地を見て、俺は後悔した。
しまった、防暑対策をするのを忘れていたな。
まだ夕方なので西日が強く、気温は十分に高い。
まあ、少しの間なら大丈夫か?
砂丘というくらいだから、小高い砂の丘がいくつもそびえている。
一つ越えるのも一苦労だなと思いつつ砂を蹴っていると、音もなくやつは現れた。
「…………」
少し待ってみたが、特に鳴かなかった。鳴き声はないのか。
大きな黒いサソリだ。反り返って頭の上にある尾は鋭く、いかにも毒を持ってますよという見た目をしている。
「『アクア・アロー』」
ビシャアアンッッ!!
あいさつ代わりに鋭い水の矢を顔面に放ったが、硬そうな両の鋏で防がれてしまった。
あの鋏も要注意だな、高レベルと自負している俺の『アクア・アロー』でも貫けなかった。
「……!」
お返しとばかりに、サソリは尾を突き出してくる。
チャンスだ。
「『アクア・ソード』」
水の刃でいつものごとくカウンターをしかける。
スパッ!!
見事、中ほどから両断に成功する。
しかし、サソリは勢いのまま突っ込んでくる。
そうか、節足系の魔物は痛覚がないのか。
あの鋏との鍔迫り合いは分が悪いと感じた俺は、バックステップを踏んで攻撃を避け……。
こけっ。
くっ、砂で足を取られて転倒してしまった。足場がよくないことを考慮していなかった。
とっさに防御姿勢を取る。
迫りくる左右の鋏に俺は挟まれ……。
「『スタンプ』!」
メキャッ!!
「そして、『スウィープ』!」
グシャッ!
……ることはなかった。
初めの『スタンプ』で俺を刻まんとする鋏を潰した後、二打目の『スウィープ』で顔面に槌を叩きつけてサソリを倒したのは、フクキチだった。
「そろそろ約束の時間だよ、トール」
確かに、時刻は十八時。俺が約束した時間はもう過ぎていた。
俺は差し伸べてくれたフクキチの手を取る。
さあ、計画の話をしようか。
※※※
アラニアに戻って、中央広場のベンチに座ってフクキチと話し合いをする。
「それで、昨日の今日で素材の買い取りの話かい?」
「いや、仕様を少し聞きたいと思ってな」
「仕様?」
「ああ、都市間のテレポートについての仕様だ」
「なんだ、そのことね。任せてよ」
フクキチによると、テレポートにはお金などは必要なく、一日に何度も行うことができるらしい。
だが、他のゲームにはない少し変わったことがある。それが、時間の経過だ。
テレポートをする場合、プレイヤーの体感時間では一瞬だが、通常の旅にかかる時間の倍ほどの時間経過がペナルティとしてアイテムに与えられるらしく、大抵の生鮮素材は腐ってしまう。
そのため、フクキチのような商人による行商が重宝されているというわけだ。
「なるほど、時間の経過がかかると。それなら、俺の魔法が利用できそうだな」
「魔法?」
そう、俺が選んだ二属性目の魔法とは……。
氷魔法だった。
「”知識の悪魔”との契約で、氷魔法を覚えたんだ」
「ええ!?もう二属性目の魔法を覚えたのかい!」
フクキチがびっくりした声で言う。
そんなに珍しいことなのか?
「珍しいもなにも、公開サーバーでも覚えている人は少ないらしいよ」
公開サーバーというのは、現在販売されている[AnotherWorld]の製品版のサーバーのことだ。当然というか、公開サーバーは桜杏高校の限定サーバーよりもガチ勢が多く、攻略がめちゃくちゃ進んでいるとのこと。
そんな公開サーバーでも覚えている人が少ないというと、複数属性を覚えた魔法使いは相当珍しいことになるな。
「まあそれはいいとして、俺が身に着けた氷属性魔法を使えば、ある商売が成り立つんじゃないか?」
「ある商売?もったいぶってないで早く言ってよ。もうもどかしいよ」
「そうだな、種明かしといこう。俺が考えていることは……」
俺は大きく息を吸い込んで言う。
「氷魔法を使った生鮮食品の輸送だ」
「氷魔法を使った生鮮食品の輸送!」
俺が言った途端、被せるようにしてフクキチがオウム返しをする。
「……って、どういうこと?」
分かっていなかったのかい。
俺はずっこけたくなる気持ちにブレーキをかける。
「つまり、氷魔法を使って魚や果実を凍らせてから王都へテレポートすることによって、行商要らずで生鮮食品を運ぶことができるんじゃないかってことだ」
「な、なるほど!……ってそれじゃあ僕の立つ瀬がないじゃないか!文字通り商売上がったりだよ!」
「だから、仲介人としてフクキチを任せたいと思っている。どうだ、請け負ってくれるか?と言っても、この話を聞いたからには協力してもらうけどな。他に知ってる商人もいないし」
「もちろんだよ!トールが凍らせて僕が売る。まさに新ジャンルの商売になるよ!!」
今ここに、最強のビジネスタッグが誕生するのだった。




