第七十八話
2024/08/16 一部を修正、加筆しました。
[第七十八話]
時刻は十九時。
あれから要さんと少し話をした後別れ、ショッピングモールへ買い出しに行って帰ってきた。
あの提案もできたし、ますます強くなること間違いなしだな。
「よし、作るか」
さて、今日の晩ご飯は麻婆豆腐だ。
便利なパウチの素を使って、餡を作る。木綿豆腐は手のひらに乗せ、一口大にカットしていく。
餡と豆腐を混ぜ合わせながら少々炒めたら、できあがりだ。
「まずく作りようがないよな、これ」
タケノコとかネギとかをさらに入れてアレンジするのも面白そうだ。
そんなことを考えつつも、炊き立てのご飯の上に乗せて、いただきます。
※※※
それから、時刻は二十二時。
入浴や課題、読書に時間をかけていたら、いつの間にかこんな時間になっていた。
中途半端な時間だ。今夜は[AnotherWorld]はやめておこうか。明日に響くとよくないし。
俺は寝間着に着替え、掛け布団にくるまりながら今日を終えるのだった。
※※※
日付が変わりまして、今日は四月二十一日月曜日。
いつも通りの一週間が今日からまた始まる。
「相変わらずうまい」
まずは朝のご飯を食べる。ブルーベリージャムを塗ったトーストにコーンスープとトマトのサラダだ。
「ごちそうさまでした」
後片付けをして外出する準備を整えたら、登校する。三週間経つと流石に慣れてくるな。
校門をくぐり、一年二組の教室に入る。
やはりもう全員そろっている。皆几帳面だな。俺が遅すぎるのか?
「おはよう」
「おはよっ!」
「おはよう!」
「おはようございますわ!」
そう考えながら、昇、彰、静と挨拶をする。
もう少しで朝のホームルームが始まる。
「今日も全員いるな。結構結構!」
時間になるとアロハ短パンが壇上に現れ、手元のタブレットを見ながら今週の連絡事項を伝える。
どうせ、今週も気を抜かずに、[AnotherWorld]に現を抜かさないように、っていう注意だけだろうな。
「どうせ、今週もおんなじことを言うだろうと思った者、正直に言え?俺はつまらない男じゃないぞ!」
事務的な連絡一つで、その人がつまるとかつまらないとかないだろう。
なんて突っ込みは、すぐに胸の中から掻き消す。また読まれたら面倒だ。
「今日はお知らせがある。なんと来月五月一日から十四日の間に、わが桜杏高校のオリエンテーリングを開催することが決定したぞ!!」
オリエンテーリング!?
「期間中、高校の各施設、各教室にQRコードを設置しておくから、タブレットのコードリーダーを表示させて読み取ってくれ!達成数に応じて成績に加点、はないが、[AnotherWorld]ではいいことがあるみたいだぞ!!」
アロハ短パンが含みを持たせた言い方で言う。
なんだ?”いいこと”って。
気になるが、いわば昔で言うところのスタンプラリーみたいなことをやるってことだな。
ちょっと面白そうだ。図書室や体育館、レクリエーション室などは行ったことはあるが、まだまだ訪れたことのない施設は多い。
これを機に高校の地理を覚えてくださいってことか。ついでにゲームでも良いことがありますよ、というおまけつきで。
来月になるのが少し待ち遠しくなった俺はそれでも、アロハ短パンが「くれぐれも今週も気を抜かずに、[AnotherWorld]に現を抜かすなよ!」と定型的な月曜日の挨拶をするのを聞き逃さないのであった。
※※※
「”いいこと”ってなんだと思いますの?三人は」
お昼休み。ご飯をぱくつきながら静が聞いてきた。
「僕はやっぱり、タメルの報酬じゃないかなあって思ってるけどね」
両目をタメルにして、彰が応える。
現金だな。[AnotherWorld]内では商人をしてるのだから当然と言えば当然だが。
「ポイント的なものがあって、最終的に強い武器とかアイテムとかと交換できるようになるんじゃないか!?」
昇が中々鋭いことを言う。
確かにそれ、ありそうだな。限定のポイントで限定アイテムと引き換えっていうのは、ゲームではありがちな戦法だ。
「俺もそれに一票。[AnotherWorld]はプレイの幅も広いし、報酬を広く設けられるからありそうじゃないか?」
「やっぱりそうですかね?ちゃんと景品に『従魔の結晶』はありますかしら?」
魔物使いをしている静が疑問に思っていることを口にした。
それは大丈夫だろう。運営はマイナー職にも目を向けてゲームを作っている気がする。
「大丈夫だよ、もしなかったら僕が格安で売るから!」
「もう結晶を取り扱うようになったんですの!?結構珍しいアイテムですのに」
「アラニアに伝手ができたおかげだよ」
「俺もアラニアで装備を一新したぞ!」
少なからず、アラニアに行けたことが皆のレベルアップにつながっているようだ。よかった。
俺はかつ丼をもぐもぐと食べながら、そんなことをしみじみと思うのだっ……。
「トールは、なにかアラニアで新しいことができたか?」
た。と言おうと思ったが、昇が急に質問してきた。
「ああ。本を買ったな。あと、今後予定していることもある。皆にも協力してもらうから、覚悟しておいてな」
「あー、これは報告案件ですわね」
おい、今日の俺は地獄耳だぞ。
俺は呟いた静の言葉を聞き逃さなかった。
「雫さんなら大丈夫だと思うけど、あんまり他言しないようにな」
「もちろん、計画は内密に、だよな!」
「僕も一枚噛ませてね、約束だよ?」
「安心してくださいまし、端からお姉さま以外に言うつもりはありませんわ」
これだけ念を押せば大丈夫だろう。
「それで、予定していることってなんだ?」
「それは……、そのときになってからのお楽しみだ」
「なんだよっ!」
「悪いことじゃありませんわよね?」
「ふふふ……」
ああ、計画を実行に移すときが待ち遠しい。
そんな黒幕のようなことを思いながら、食後のお茶をすするのだった。
※※※
午後の授業も終わり、今日もいつも通り部屋に帰ってきた。
今日は昨日の夜できなかった分、がっつり[AnotherWorld]をやるぞ。計画のこともあるしな。
彰はVR開発部の活動でログインが遅くなりそうなので、まずはカナメさんとの用事を済ませる。
ログインした俺は、早速メニューの機能でカナメさんにメールを送る。
すぐ返信が返ってきた。
「中央広場に十分後に会いましょう、ね。もういるからちょっと暇だな」
と思ったが、向こうも広場近くにいたのだろう。
五分もせずに彼女がやってきた。
「すいません、待たせてしまいましたか?」
「いや、今来たところだ」
よしっ!
待ち合わせで言いたいセリフ上位に入る文句を言えたぞ。
俺は心の中でガッツポーズを作った。
「あ、あの、タラフクベアーの毛皮とあの素材を……」
「分かった、はいこれ」
俺はいくつかの素材をインベントリから引っ張り出し、カナメさんに譲渡した。
「本当にありがとうございます。それであれですが、縫製では装備を作るのに失敗しても失われることがないので、あの素材も無駄になることはありません」
「よかったよ、こちらこそありがとう」
早速製作に取りかかるとのことで、彼女は王都へとテレポートしていった。王都に工房があるのだろうか。
よし、これで”あの件”については片がついたな。
俺は少し肩の荷が下りた気分になりつつ、広場を後にするのだった。




