第七十六話
2024/08/12 一部を修正、加筆しました。
[第七十六話]
さて、無事アラニアへ到着した俺たち九人。
現在の時刻は十時半だ。まだバイトまでは少し猶予がある。
ぶっちゃけ着いてからのことを考えていなかったので、午前中は誰かについていこうと思う。
まずは第一候補のライズ。
「俺と一緒に行きたいって?もちろんいいぜ!まずはどこから攻める!?やっぱり南のアロハリュウグウか!?」
おいおい。今の今まで大冒険を繰り広げてきたってのに、もう次のフィールドの冒険について考えている。
なんて冒険狂(?)なんだ。
仕方がない。
「今回はありがとな、ライズ」
「ん?こちらこそありがとうな!刺激的な旅だったぜ!!」
半端な時間なのでフィールドには出られないと言って断り、ライズとは別れた。
俺はもう疲れたよ。誰か、市内観光とかする人はいないか?
次は、第二候補のフクキチだ。
「僕と一緒に街を回らないかって?もちろんいいけど、アラニアでモノを売るためのパイプ作りをしなくちゃいけないから、トールは結構暇になると思うよ」
あちゃあ、そっか。
色々売るものを準備してきたって言ってたもんな。
「いろいろ世話になったな、フクキチ」
「なに言ってんのさ。これからもっと僕がお世話になるよ!よろしくね、トール!」
「それじゃあまた今度、機会が合えばな」と言って、忙しそうなフクキチとも別れた。
それじゃあ次の候補だ。
「おーい、ローズ。一緒に街を見て回らないか」
「いいですわね。『従魔の結晶』や新しい槍なんかも見てみたいですし、ご一緒しますわ」
お、やった。
ローズが仲間になった!
胸の中でファンファーレを流していると、シズクさんとユーヤ、ステム、ブルームもやってきた。
「私も行く」
「ちょうど新しい剣が欲しかったんだ。一緒に探そうぜ!」
「いい装備はあるかしら。軽くて頑丈なやつ」
「杖を見てみたいですっ!」
さらにシズクさん、ユーヤ、ステム、ブルームも仲間になった!
「わ、私は服飾ギルドに行かなければならないのでこれで失礼しますね。今回はありがとうございました!」
カナメさんとはここで別れることになった。
残念。あ、いや、こほん。
とにかく、この六人で街を散策しよう。
中央の噴水広場を目指して南に歩きながら、シズクさんが解説してくれる。
「基本的な街の構造は王都と一緒。というか王国の街は全て、王都の構造を参考にして作られてる」
どうも王都にそっくりだと思ったが、やはりそうなのか。
シズクさんは物知りだな。
「じゃあ、中央広場に隣接する建物も王都と一緒なんですの?」
「大体はそうだけど、アラニアには王都にあったチルマ雑貨店が中央広場にはなくて、代わりに魚市場がある」
「魚市場?」
気になったので、俺はオウム返しに聞いてみる。
「そう。アラニアのすぐ南のフィールドにはアロハリュウグウがあって、おいしい魚の魔物が獲れるから活気がすごい。朝の早い時間にはアロハクロマグロの競りが行われている」
なんだか、日本の港町みたいだな。機会があったら行ってみたい。
「トール、なにを言っているの。アラニアは王都随一の港町として有名」
いきなり不勉強を叱られてしまった。
別に思っていただけですが、とは言えない。ナチュラルに思考を読まれているのはもう気にしない。
気にしてもどうしようもないからな。
「そ、それじゃあ、アラニアの周辺で狩りをするならアロハリュウグウがベストというわけですね」
ステムがフォローを入れてくれる。ありがとう。
「別にそうとも言えない。アロハリュウグウは素潜りする冒険者や漁に行くNPCが多くて、流通している素材が若干飽和気味な印象がある。だから私のお勧めは、西のネッサ砂丘」
シズクさんがすらすらと応える。
海産物は、需要に見合う分の供給が十分足りてるということか。
「ネッサ砂丘は、アラニア平原を西に少し行くとあるフィールド。サソリやアリジゴク、サボテンなんかがよく獲れる」
「砂丘っていうくらいですから、そんなに広くないですっ?」
ブルームが鋭い質問を投げかける。
「そう。だから砂漠初心者にぴったり」
砂漠初心者ってなんだ?
「アロハリュウグウのさらに南の地に、カンカン大砂漠がある。ここが攻略勢のフロンティア。それくらい踏破が難しい、広いフィールドになっている」
ひえっ。大砂漠とついているから、よっぽど広いんだろう。俺なんかはまだまだ厳しいだろうな。
そんなことを話しているうちに、中央広場に着いた。
「ここに着けば、テレポートでいつでも王都に帰れる。とっても便利」
確かにそれは便利だな。王都に戻るときに使ってみよう。
俺は広場中心にあるテレポートクリスタルに触れ、転移先として登録した。
「私は冒険者ギルドで依頼を受けようと思っているけど、皆は?」
えっ?長旅のすぐ後に依頼を?
シズクさんも意外とアグレッシブなんだな。
「俺は本でも買おうかな」
「俺は装備を見に。ステムとブルームもそうだよな!」
「え、ええ」「はいですっ!」
「じゃあ私はそれにご一緒しますわ。よろしくて?」
「もちろん!」
どうやら俺は端から、一人になる運命だったようだ。
「それじゃあ、皆昨日からありがとう」
「なに今更かしこまってるんですの。……私からもありがとうですわ」
「こっちも、誘ってくれてありがとな!おかげでめっちゃ楽しかったぜ!!」
「私からも、ありがと。とってもいい経験だったわ」
「楽しかったですっ!次の航海のときもよろしくですっ!」
「航海?」
シズクさんの眉がピクリと動いた。
まずい、この流れは。
「船を買ったので、今度東の海を公開しようってトールと約束したんですっ!」
「トールはなにをしでかすか分からない要注意人物。その航海にも私が同行させてもらう」
ああ、シズクさんにすっかりマークされてしまっている。
というかそれなら、次回の航海も今回の九人で行きたいな。
そんなことを思いながら、俺は五人と別れるのだった。
※※※
どうやら、本を売っている店の多くは街の北西部に集中しているようだった。
先ほど歩いてきた道の脇道に入り、いくつかの本屋を冷やかす。
「うーん……」
正直、ノーレッジに見合うような本はないな。
十分ほど探すが、いい本は中々見当たらない。
諦めて装備でも探すか、と来た道を帰ろうとすると、面白い本が目に留まった。
その名も、『アロハリュウグウの魚図鑑』。
「これはいいな」
図鑑とはいかにも”知識の悪魔”が好きそうな内容だと思い、俺は一万タメルで本を購入した。
中央広場に戻ってきた俺は、噴水の縁に座ってページをぺらぺらとめくってみる。
すると、最後の方のページにアロハメガロドンのことについて書いてあった。
〇アロハメガロドン
アロハリュウグウの深海に生息する大型のサメ。その生態の多くは謎に包まれている。
ほとんどないも同然の情報だったので、俺はこう書き足しておくのだった。
〇アロハメガロドン
アロハリュウグウの深海に生息する大型のサメ。その生態は謎に包まれている。
淡水域(汽水域)にも生息可能。岸辺の獲物に食らいつくほどの旺盛な食欲を持つ。
その大きく発達した顎は、人間の腕をかみちぎるほどに鋭く強靭である。




