第七十一話 『アラニアへの旅』2
2024/08/02 一部を修正、加筆しました。
[第七十一話] アラニアへの旅2
「ちょっと最初の戦闘は俺に任せてくれないか。見せたいものがある」
九人でつつがなく平原を越え湿原を越え、アルグスネ丘陵に踏み入ったところで、俺は皆に言う。
皆は俺が水魔法を使えると思ってるので、その誤解を解かなければならない。
「いいですわよ。なにか新しい技でも覚えましたの?」
ローズが了承してくれる。
他の皆も頷いて、俺の言葉を待つ。
「いや、覚えたというか、忘れたというか……」
「どういうこと?」
俺がお茶を濁している間に、他の皆は疑問符を浮かべている。
まあ無理もないだろう。俺も自分で言っていて意味が分からない。
「グァウッ!」
そうこう会話しているうちに、ファングウルフに似た見た目の、緑色をした毛並みの狼の群れと接敵した。
「あれはグリーンウルフだね。グリーンラビットみたいに光合成をするオオカミ」
フクキチが簡単に解説してくれる。助かるな。
「ガラウッ!」「グウアアウッ!!」「ガアアアゥゥゥゥッ……!」
数は三匹。早速、深緑色の牙を向けて噛みついてきた。
「ふうっ」
俺は息を吹きかける。
あれ?
「ふううっ」
吹きかける。
あ、あれ。
『都合のいい女じゃないの、私は』
おい、話が違うぞ!
「あのー、ちょっと助けてもらえると……」
鋭い牙と爪による攻撃を避けながら、俺は他の八人に助けを乞う。
「おいおいなんなんだ、任せろと言ったり助けてくれと言ったり」
本当にその通りです。すいません。
俺は平謝りしつつ、お願いする。
「仕方ないですっ。『ウインド・アロー』、『ウインド・アロー』、『ウインド・アロー』!」
やれやれといった感じのブルームが助け舟の魔法を打って、グリーンウルフの群れを倒してくれる。
「結局なに……?今の意味の分からない寸劇は」
挙句、シズクさんに寸劇扱いされる。
本当に申し訳ないです。
「実は、悪魔の呪いにかけられてまして……」
俺は事のあらましを説明する。
百聞は一見に如かずとばかりにやってみせようとしたのだが、バーネストのさじ加減で火吹きができたりできなかったりするので、やめた。
「そうだったの。悪魔なんて呼ばれる魔物がいるのね」
「話を聞く限り、とんでもなく強そうですっ!」
「戦ってみてえなあ!」
ユーヤ、ステム、ブルームは悪魔の存在を知らなかったみたいだ。
「トールが水魔法を使えないとなると、戦力が大幅ダウンですわね」
ローズが落ち込んだ声で言う。俺もショックです。
「やい、”灰燼の悪魔”とやら。トールを呪いから解放しろ。さもなくば……」
一方シズクさんは、少し低い声でバーネストを脅す。
「『そんな文句には屈しないわよ。トール自身の”格”が上がらないと解除できない仕組みになってるもの』」
俺の口を乗っ取り、バーネストが発話する。
「むう、それなら仕方がない。トール、前線に立って」
するとシズクさんは無茶なことを言い始めた。
聞き分けよすぎません?というか、急にスパルタすぎませんか?
「わ、分かりました」
とはいえ、シズクさんに頭が上がらない俺。言われた通りに、ライズやユーヤとともに前線に立つ。
現在の俺たちの陣形はこうだ。
前衛に俺、剣士のライズ、ユーヤ。中衛に魔物使いのローズ、商人のフクキチ、槍使いのステム。そして後衛に水魔法使いのシズクさん、風魔法使いのブルーム、服飾職人のカナメさん。
もともと後衛だった俺が前衛に移ったので、三人ずつのバランスの良い構成になった。
「早速来たぞ、トール!」
「キエエエエエエッッ!!」
ウインドイーグルが突っ込んでくる。これはガルアリンデ平原にも居た魔物だな。
って、素手でどうすればいいんだ?今まで魔法で戦ってきたから分からん。
とりあえず、イーグルの掴みかかり攻撃を転がって避ける。
「キエ?キィエエエッ!!」
やつは再び上空に飛んでいってしまった。
「素手じゃ歯が立ちません。どうしたらいいですか、先輩方!」
俺はへりくだって、近くのライズとユーヤに聞く。
餅は餅屋。近接戦闘に慣れている二人にイロハを教えてもらうのが、今俺にできる最大限の行動だ。
「こういうのって、パっとよけてガッて攻撃すればいいんだよ!」
「おっ流石ライズだな!俺も同感だ!」
ダメだ。まったく参考にならなかった。
やはりというべきか、ライズとユーヤは感覚で体を動かして戦っているらしい。
「仕方ない」
あれを使うか。
俺は”試験管ホルダー”にセットしておいた毒薬を取り出す。
「うげっ!なんだそれ!」
ライズがなにか言っているが、とりあえずスルーしておいて……。
「キエエエエエッ!」
来た。
俺はイーグルの突進を半身でよけると、毒薬をその体に振りかける。
「キエッ!キエエエエエエエ!!!」
途端に動きが鈍り、悶え苦しみ始めた。
俺は急いで、イーグルの首を絞めて倒す。
せめて苦しまないようにな。
〇アイテム:ウインドイーグルの嘴
平原や丘陵に生息するウインドイーグルの嘴。硬く鋭いので、ナイフなどに用いられる。
〇アイテム:ウインドイーグルの羽根 効果:風属性魔法威力強化:微
平原や丘陵に生息するウインドイーグルの羽。軽くて強靭。矢に用いられる。
〇アイテム:ウインドイーグルの肉 効果:疲労回復:小
平原や丘陵に生息するウインドイーグルの肉。淡白な味でなかなかイケる。
〇アイテム:ウインドイーグルの脚
平原や丘陵に生息するウインドイーグルの脚。鋭い鉤爪がついている。
はあ、はあ、やっと一体倒したぞ。
『アクア・ソード:がどれだけ恋しいか。
まだ返してくれないのか?俺の水魔法。
『ひどい戦い方ね……。まだだめよ』
くうう、小癪な。
と思いつつも俺は、次の戦闘のためにホルダーに毒薬を四本セットしておく。
残る毒薬は九本。
どうせなら一体でレベルが上がるような、でかい魔物よ、こい。
そして、バーネストに見合う”格”、つまりレベルアップとやらを果たしてやる。
こいこいこい!
「ウインドイーグルが一撃って、結構えげつない毒だな、それ」
「流石に俺もちょっと引いたぞ」
俺が決意している傍らで、ライズ、ユーヤの二人が声を潜めるのだった。
※※※
あの、強い魔物来いと言ったんですが、いくらなんでもこれは……。
「ボウショクモグラだね。平原にいたモグモグラの上位種だ」
こんなときにも、フクキチは冷静に説明してくれる。
解説する余裕があるなら、助けてほしいんですが?
「大丈夫。これくらいならトールは余裕」
シズクさん。なんの根拠があってそんなことを。
「ブモオオオオオッ!!!」
大きな鳴き声を上げながら、真っ赤な巨体が迫ってくる。地面から露出している部分だけでも三メートルはあるだろうか。
というか、モグラってこんな鳴き声だったっけ。
「トールくん、バイトではすっごく頼りになるんですよ」
「それは意外」
「でも、ヤラシイこと考えてんじゃないの、キリッとした顔しておいてさ」
「絶対そうですっ!」
後衛の三人とステムはもはや、雑談に花を咲かせている。
もっと危機感を持ってくれ。大きなモグラが迫ってきているんだぞ。あと俺の話はやめてください。
まあ愚痴を言っても仕方がないので、モグラに毒薬を投げつける。
「ブモモモモッッ!!」
効いてる効いてる。苦しそうにし始めたモグラに向かってもう一本。
「ブモオオオオオオッッ!!」
かわいそうになるほどに苦しんでいるな。
でも、楽にさせようにも暴れすぎていて近づけない。
「ライズ、剣貸してくれるか」
「お、おう。俺のでよかったら」
俺はなぜかタジタジになっているライズから、剣を借りる。
「ブモオオオオッ!ブモオオオッッ!!」
そして、未だ叫び声をあげるモグラの口内に、一突き。
結構体力が減っていたのか、それだけでモグラは息絶えた。
「ん?皆どうしたんだ」
ふと周りを見ると、八人はドン引きしていた。
「『灰燼の悪魔』さん、どうかトールに水魔法を返してくださいまし!」
ローズがなぜか必死に懇願している。
そんなに俺に水魔法を使ってほしいのか?
『見てるこっちが魔物に同情したくなるわね。……いいわ、私の呪いを加護にしてあげる』
[バーネストの呪い]が消滅しました。
[バーネストの加護]を獲得しました。
バーネストの呆れるような声とともに、ウインドウで二つの通知がきた。
やった。短い間だったけど、水魔法禁止期間が終わったぞ。
『これ以上、毒で苦しむ魔物たちを見てられないわ……』
あれ、俺悪魔に怖れられてる?戦闘で毒を使うのって、普通じゃないのか?
「……トール、これが新しい杖」
そんなことを思う間に、若干引いていたシズクさんが杖をくれる。
俺が壊すことを見越して複数本持っているのだろうか。シズクさんの過保護な一面を垣間見た気がするが、なんにせよありがたい。
〇大鯱の骨の杖 水属性 効果:水属性魔法威力強化:中
東の海岸のフィールド、ココデ海岸のココデオオシャチの骨を使って作られた杖。ぽっきりと折ってしまわないように注意。
しかも、以前使っていたのよりも性能が一回り上のものだ。
「ありがとうございます、シズクさん」
「これくらい、大したことない」
新しい杖をもらった俺はウキウキだ。この調子で丘陵を攻略していこう。
「なんでもこい」
「……よかった~」
「一魔物使いとして、今のは見過ごせませんでしたわ……」
フクキチとローズが変なことを口走るのを見ながら、気持ちを新たにした俺は、再び後衛に戻って皆と行軍を始めるのだった。




