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VRMMO [AnotherWorld]   作者: LostAngel


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第七十話 『アラニアへの旅』1

2024/08/01 一部を修正、加筆しました。

[第七十話] アラニアへの旅1


 さて、時刻は十九時。バイトから帰ってきて晩ご飯の時間だ。


 今日の晩ご飯は軽めのもので。ご飯とお味噌汁と、若鶏のから揚げにしよう。


 また脂っこいものかよと思うかもしれないが、今は買い出し前で食材が少ない。


 明日買い物に行ってくるから、と誰に対してのものか分からない言い訳をしながら、俺は味噌汁をすするのだった。



 ※※※



 よし、無事に[AnotherWorld]にログインできたな。


 と言っても、優秀な機器のおかげでログインに失敗したことなんてないが。


「ノーレッジ、ちゃんとお前の好きな本を買ってくるからな」


「その名で呼ぶな。……くれぐれも、追われるようなことはするなよ」


「お前が言うな」


 ノーレッジと軽いコントを繰り広げつつ、俺は急いで工房を出る。


 集合は、中央の噴水広場に十九時半だ。


 きちんと忘れずにニ十万タメルを持ってきた。アラニアの街で買い物しなきゃいけないからな。


 広場に着くと、他の全員はすでに来ていた。


「遅いぞ、トール!」


「それでも時間ぴったりだけどね」


「集合の五分前に来るのが常識ですわ」


 ライズ、フクキチ、ローズの三人は、相変わらず言いたい放題である。


 これは、隙を見せた俺が悪いのか?


「わ、私はちゃんとトールくんが来てくれてよかったです」


 フォローを入れてくれるカナメさん。


 気配りができてやっぱり(かわいい)。読まれないように、ちゃんと心にロックはかけておく。


「トールを甘やかしちゃダメ。この間なんて……」


「あーあーあー!ダメですシズクさん!」


 シズクさんがよくないことを吹き込もうとしている。


 俺は慌てて大声を出して制した。


「どうしたんだ、急に大声出して?」


「要するに、トールはシズク先輩の尻に敷かれてるってことよ」


「恐妻家ですっ!」


 今の分かりやすすぎるやり取りをもってしてもなにも分かっていないユーヤと、ひどい言い草のステムとブルーム。


 恐妻家って、意味を分かって言ってるか?


 ま、いいか。とにかく今日俺はこの八人と、アラニアへの旅をする。


「皆、行くぞ!」


「なにリーダーぶってんのよ。ま、私はトールがリーダーで異存ないけど」


 俺がかけ声を出すと、ステムからの厳しい突っ込みが入る。


 なんだよ、こういうのは誰かが行くぞって言って始まるもんじゃないか。


「それじゃあ改めて、れっつごー、ですっ!」


「ゴー!」「ゴー!」「ゴー!ですわ」「ごー!」「ごー」「ゴー!」「ゴー」


 なぜかもう一度言ったブルームのかけ声に合わせて、皆が拳を突き上げる。


 締まらない始まり方をしながら、俺たちの旅が始まるのだった。



 ※※※



「マップをみてもらえば分かるけど、まずはアヤカシ湿原を目指すよ」


 フクキチが前に立って案内をしてくれる。頼りになるな。


 俺たち一行は、まず王都の南門を目指すことにした。


 なんだか、こうしてぞろぞろと街中を歩いていると、観光ツアーみたいだな。


 変なことを考えている間に無事到着し、一人ずつ身元確認を終えて南門を出る。


「アラニアに行くんですか?アヤカシ湿原のフライドラゴンが大量発生しているので気をつけてください!」


 オミナさんが親切に教えてくれる。


 そうだった。そりゃフォクシーヌがいなくなったら、フライドラゴンが跋扈するよな。俺が倒しまくったせいで、ヤゴを食べるカエルの数も少なくなってるだろうし。


 俺がアヤカシ湿原を平定する。いつか、そう誓ったことを忘れていた。


 なに、旅のついでにいけるだろう。俺たちならな。


 そう心の中で決意し、俺は南門をくぐるのだった。



 ※※※



「ええ……、なにこれ」


 何事もなくガルアリンデ平原(南側)を踏破した俺たちは、アヤカシ湿原へと足を踏み入れたのだが……。


「あまりにも多すぎる!これじゃあ手に負えないな!」


 あまりにも多すぎるフライドラゴンの数に戦慄し、茂みに身を隠していた。


 闇夜の中、数多の竜っぽいでかいトンボが徘徊する湿原はもはや、別のフィールドかと錯覚するくらいだ。


「おっ、ライズもそう思うか!俺たち気が合うなあ!」


「そこっ、気づかれるから大声で話すなっ!」


「その声も大きいですっ」


「キシャ?」


 ライズに続いてユーヤ、ステム、ブルームの三人が漫才をしたせいで、フライドラゴンの群れがこちらに気づく。


「キシャアアアッ!!」


「こうなったら……、奥義[タイカイノシズク]」


 ああ、結局こうなるのか。


 全方位を駆け巡る激流が、俺たちを含めて全てを洗い流す。


 奥の手を使うのはやすぎないですか、シズクさん。


 そんなことを思いながら、俺は波に乗って湿原の深部へと進むのだった。



 ※※※



「……うーんと?」


 突然の激流に不覚を取られたのか、俺の周囲には他の仲間はいなかった。


 ダメじゃないか皆。効率を考えて、波に乗ってより南に進まないと。


 ぷんぷんとむくれながら、俺はメニューを開いた。


 目印となるものが湿原にはないので、湿原を抜けた南側で会おうと文章を打って送っておいた。


「これでよし。あとは進むだけ……」


 そんなふうに、よそ見をしていたからだろうか。フライドラゴンの接近に気づかなかった。


「キシャアアアアアアッ!」


 うるさい叫び声を上げて突っ込んでくる、一匹のフライドラゴン。


 やばいっ!


 俺はとっさに水の刃を展開して……。


「『アクア・ソード』」


 カウンターを、ってあれ!?


『私の呪いのせいで水魔法は使えませーん。どう、びっくりした?』


 なにも纏わずに突き出した杖が、フライドラゴンの餌食になった。


 ぱきっ。


 嫌な音を立てて、俺の杖が真っ二つに折れる。


「シャアアアアア!!」


 そのまま、フライドラゴンの鋭い顎がこちらに迫ってきた。


 おい!聞いてないぞ、こんなの!


『だって、聞かれてないんだもの』


 顎を閉じられないように、俺は両腕で抵抗する。


 フライドラゴンの鋭い牙が掌に食い込む。


「なんとかならないか、バーネストさん!」


『バーネストさん、ね。中々いい響きだわ。……いいわ、やつの口内に向けて息を吹きかけてみて』


 突っ込みたいことがあるが、俺は黙って言われた通りにしてみる。


 ふうっ。


 ボッ!!


 突然、フライドラゴンの頭が炎に包まれた。危なっ。


 俺は思わず、やつから両腕を離す。


「シャアアッ!?キシャアアアッ!」


 フライドラゴンは頭部に火をつけたままのたうち回り、やがて動かなくなった。


『どう、大道芸人になった気分は?』


 俺の魔法を封じておきながらなぜか得意げなバーネストが聞いてくる。


 大道芸人とか、そういう人間の知識が悪魔にもあるんだな。


 だが、まあ……。


「これはこれで……」


 火吹き男になるのも悪くはないな。



 ※※※



 その後、バーネストの協力(?)もあり、特に危険もなく道行くフライドラゴンを焼却しながら集合場所にたどり着いた。


 これくらい倒せば、フィールドの生態系は元に戻るだろう。多分。


「遅いぞ、トール!」


「集合時間は決めてなかったけどね」


 あれ、やっぱり俺が最後だった。


「私たちは最短でここまで来た。トールは多分、増えすぎたフライドラゴンを駆除してまわっていた」


 シズクさんが感情のない目で俺を見ながら言ってくる。


 彼女はフォクシーヌのことを見たことがあるので、なぜフライドラゴンが増えているのかについて心当たりがあるのだろう。


 お願いします。今追求しないでください。


「……バレました?あまりに多くて一人じゃ危険だったので、倒して進んでたんです」


「トールの足なら逃げられそうだけどな。夜だし、安定を取ったか?」


「そうだな。デスするのが一番よくない」


 俺は正直に言うと、ライズがいい感じにごまかしてくれた。


「……そう」


 なんとか、シズクさんの追及を躱せたようだ。


 さ、さて、おしゃべりも一段落したところで、俺はアヤカシ湿原を越えた先の南の方角に目を向ける。


「おお!」


 そこには、起伏の激しい丘が連なった緑の大地が広がっていた。


「次のフィールドはアルグスネ丘陵だよ。初見の魔物が多いと思うから、気をつけてね」


 夜の闇のせいで視界は狭いが、新たな地に心躍らせている俺たちにフクキチが注意喚起してくれる。


「ここからが本番だな」


 ついに、未踏のフィールドに来た。


 火しか吹けない男に成り下がってしまったが、足を引っ張らないように頑張るか。


『ちょっと。成り上がった、でしょ』


 うるさい。誰のせいで困ってると思ってるんだ。


 そんな愚痴を吐きつつ、俺は皆とともに丘陵への一歩を踏み出すのだった。

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