第六十八話
2024/07/28 一部を修正、加筆しました。
[第六十八話]
カゾート大森林の木材加工所内部。俺は木こりのモイットさんと話を続けていた。
「さっき、”大樹の悪魔”と俺たちを結んでいた契約が破棄された。もしかして、あの悪魔になにかあったのか」
ひげを蓄えた顔を曇らせるモイットさん。
「ああ。”大樹の悪魔”は死んだよ」
「死んだ!?」
そうだよな。当然びっくりするよな。
『ええ、そうね。私が燃やし尽くしたわ。だってうるさいんだもの。わしの森を燃やすなって』
そんな理由で殺したのか。流石悪魔といったところか。
『いいでしょ、別に』
まあ、俺も知らん悪魔に肩入れするつもりはない。
話が混線するとめちゃくちゃになるので、俺は”灰燼の悪魔”バーネストとの会話を打ち切った。
「あわわわ、どうするか」
「”大樹の悪魔”が死んで、何か都合が悪いことでもあるのか?」
「大ありだ!森のトレントが攻撃的になっちまうんだ。今まで”大樹の悪魔”が言うことを聞かせていたのが、なくなっちまうってことだからな」
モイットさんが簡潔に説明してくれる。
なるほど。要するに、”大樹の悪魔”がいなくなったせいでトレントがアクティブな魔物になってしまったということか。
『そうみたいね』
なにが「そうみたいね」だ。元凶がどこ吹く風でどうする。
「あー、大変そうだな」
「大変もなにも、木材の供給に支障を来すレベルだぞ!トレントってのは木を伐採しているやつを排除しようとするからな!」
トレントは通称『森の番人』とも呼ばれる魔物だ。確かに、そんな存在の前で木は切れないわな。
と、他人事のように納得してしまう。
「悪かった。火事を止められなかった、俺の責任だ」
俺は深々と頭を下げる。
本当は火事が直接的な原因ではないのだが、全て打ち明けるととんでもないことになりそうなので黙っておく。
「あーあー、なにもトールを責めちゃいねえよ。ただ、これから先が思いやられるってえだけで」
「それだったら、俺に渡す用の五十万タメルで、木こりの護衛の冒険者を雇うっていうのはどうだ?」
俺は提案してみる。
他人事のように反応していたが、全く責任を感じないわけでもない。バーネストを引き取った俺にできることはあと、報酬をもらわないことくらいだ。
「いいのかい、トールの旦那?うちもかつかつだ。あんたに報酬が払えなくなっちまうが」
「今回の件、止められなかった俺にも責任がある。どうぞ使ってくれ」
「助かる!ありがとうトール!」
モイットさんがビシバシと俺の肩を叩く。
木こりをしているだけあって、すごい力だな。
「困ったことがあったら、なんでも言えよ!今すぐに、……はちょっと難しいが、必ずカゾート木材加工所が力を貸すぜ!!」
彼はそう言って、満面の笑顔で太鼓判を押してくれた。
※※※
さて、時刻は十九時半。
カゾート大森林から無事、王都に帰ってきた。
まったく、とんだハプニングに出くわした。ちょっと森を探検しようと思っただけなのに、厄介な呪いを付与されるなんてな。
『あら、背負うものが増えたって言ってほしいわね』
よく言うよ、本当に。
”工房”への道を歩きながら、俺はどうでもいいことを考える。
そういえば、今から”知識の悪魔”と会うが、大人しくしていられるか?
俺は心の中でバーネストに問いかける。
『私を子ども扱いしないで。こっちはまったくもって余裕よ。逆に、あっちが逆上して襲ってくるんじゃないかしら』
彼女はふてくされたように答える。
確かに、それはあり得るな。”知識の悪魔”とか言いながら、すぐに手を出してくるしな。
『でしょ。昔、ちょっとやつのお気に入りの本たちを燃やしちゃったくらいで憤怒してたのよ』
おい!それは誰だって怒るだろ!
『えー、ケチ。トールも細かいことが気になるタイプなのね』
ケチとかケチじゃないとか、そういう次元の話じゃないと思うが。
この悪魔ともコミュニケーションを取るのが難しそうだと思いながら、俺は”工房”のドアを押し開けるのだった。
※※※
工房に入るなり、『アクア・ランス』が飛んできた。
「やめろ!俺だ!トールだ!」
俺は自分の名を言いつつ、とっさに屈んでよける。
「トールよ!あの悪魔の呪いを受けたな!あの忌々しいやつの!!」
『そうカッカしないの、ノーレッジ』
俺の口を操り、バーネストが勝手に言葉を発する。
ん?ノーレッジ?
「トールにも明かしていない、真の名を軽々しく口にするなバーネストよ!」
知識を英語にした単語、ノーレッジが”知識の悪魔”の真の名なのか。
フォクシーヌやバーネストと比べると、いささか安直だな。まあ、悪魔は滅多に自分の名を明かさないものだそうから、安直につけられた名くらいがちょうどいいのかもしれない。
不毛な言い争いが始まる予感がした俺は、とりとめもない思考に逃げ始めていた。
「貴様は二度と許さんと言ったはずだぞ!!」
『あら、そんな口利いて良いのかしら。あなた今、ここに居候してる身分なんですってね。ここを騎士団の方々にご紹介差し上げてもいいのだけれど?』
「ぐぬぬ……汚いぞ!バーネスト!」
すごい、悪魔が悪魔を脅している。なんと醜い光景だろうか。
『とにかく、今日から私はトールと運命をともにすることになったってわけ。よろしくね、ノーレッジっ!』
「ぐぬぬぬぬぬぬ」
”知識の悪魔”には歯どころか口すらないのだが、どこからか歯ぎしりの音が聞こえてきそうな勢いで唸る。
「話し合いはもういいか?俺はこれで失礼させてもらうぞ」
「くっ。手に入れた本は絶対に燃やすなとやつに伝えておけ。それにしても、やつにみすみす呪われるとは………」
あ、また長くなりそう。
”知識の悪魔”改め、ノーレッジによるめんどくさい小言が始まりそうだったので、俺は急いでログアウトするのだった。




