第六十五話
2024/07/22 一部を修正、加筆しました。
[第六十五話]
”知識の悪魔”にレシピを渡した後。
俺はリアルで入浴して、課題をやって就寝した。特にまあ、言うべき点もないのでダイジェストでお送りする。
さて翌日、四月十八日金曜日。
俺は桜杏高校に登校し、授業を受けていた。
「これで本日のVRデベロップメントの授業は終了とする。復習はしっかりしとけよ」
「「「はい」」」
先生の声の後に、十六人の声が重なる。
やっと一時間目が終わった。
教室に戻りながら、俺は昇、彰、静の三人と雑談をする。
「じゃあ要さんっていう女の子と、ユーヤ、ステム、ブルームっていう三人パーティ、さらに静のお姉さんのシズクさんを加えてアラニアに行こうということだね」
「そうだ。静にはもう話したが、二人は了解してくれるか?」
「もちろんいいぜ!旅は道連れ世は情けっていうしな!」
「僕もいいよ!いろんな人とお近づきになるのは大歓迎だからね!」
よかった。二人も了承してくれた。
これで、九人で旅に出られるな。改めて考えると九人って意外と多いな。
「そうと決まれば、俺もレベル上げしとかないとな」
「おい。これ以上レベル上げてどうすんだ!透は大人しくしておけって!」
「そうはいかないぞ。どんな敵が待ち受けているか分からないからな」
昇のヤジもなんのその。
俺はもっと高みを目指すぞ。ココデダルマオコゼのように、初見殺しをしてくる魔物だっているんだからな。
「まあなんにせよ、土曜日が楽しみですわね!」
「そうだね!どんな儲け話が転がり込んでくるか今からワクワクするよ!!」
「彰はいつも通りですわね……」
そんなふざけたことを話しているうちに、二時間目の始まりを告げるチャイムが鳴るのだった。
※※※
本日分の授業が終わり、放課後になった。
部屋に無事帰りついた俺は、しっかりと手洗いうがいをして、以前買ってきた本を少し読んだ。
ある程度きりのいいところで、ページにしおりを挟んで本を閉じる。残りは次に取っておこう。
「いい時間だ」
時計を見ると、時刻は十六時半。
そろそろ[AnotherWorld]にログインしよう。
ベッドに腰掛けて『チェリーギア』を頭に装着し、俺はもう一つの世界にダイブする。
「……」
ログインすると、今はもう見慣れた工房の景色が目の前に広がる。
「おお、きたな」
これもまたいつものように、”知識の悪魔”が出迎えてくれる。
「昨日の本、なかなかのものだったぞ。今後もああいったものを頼むぞ」
「ああ。気に召してくれたようでなによりだよ」
『調薬の組み合わせレシピ』をあげたお礼を言ってきた。
あれ、本の厚さからしてボリュームが薄そうだったが、意外と楽しめる内容だったんだな。
「またなにか見つけたら持ってくる」
「頼むぞ」
さて、これからなにをしようか。
調薬は昨日たっぷりやったから、パス。そもそも、やろうにも試験管の空きがない。
ならば、冒険と戦闘だ。
今は少し機嫌が良いので、”知識の悪魔”に「出てくる」と言い残し、俺は軽やかに工房を出るのだった。
※※※
とことこと街中を歩き西門にたどり着くと、アレックスが応対してくれた。
「おう。久しぶりだな、トール!たまにはこっちにも顔見せてくれよ?」
そう言って、彼は肩を小突いてくる。
彼はずいぶんと陽気な性格のようだ。NPCにも色々と個性があっていいな。
「元気そうだな、アレックス」
「こちとら、体が資本の騎士団員だからな!」
ニッカと笑う彼の笑顔に眩しさを覚えながら、西門をくぐる。
「がんばれよ!」
彼は俺の姿が見えなくなるまで、ブンブンと手を振ってくれた。
めちゃくちゃいいやつだな。
なにか依頼を受けておけばよかったと思いつつ、俺は大森林へと歩を進める。
ところで、俺は意外にも王都西部のフィールド、カゾート大森林には一度も行ったことがない。一度は行こうとしたが、あの痛ましい『フライ・センチピード』が発生してしまい、それどころではなくなってしまったのだ。
しっかり反省しております。二度と魔物のフィードはしません。……多分。
「森だな」
そんなことを考えていると、あっという間にカゾート大森林に到着した。
大きな葉を広げた木々が立ち並んだ森の中は、下草や低木が少なくて意外にも歩きやすそうだった。日差しも地面まで差し込んでいるし、ハイキングにちょうどよさそうな明るい森だ。
「あれか……」
さて、ガルアリンデ平原に接する森林東部の入口には、伐採したカゾート木を加工するカゾート木材加工所がある。そこで木こりの依頼を受けることができるそうなので、ぜひ行こう。
さらに数分、木の根で少しでこぼこした道を歩くと、木材加工所に到着した。
加工所は、外観は丸太でできたログハウスのような見た目をしている。横にある広場では何人かの木こりだろうか、が薪割りや丸太を運ぶ作業をしている。
木の板張りのドアを開けて中に入ると、右側に受付が三つある。そのうち一番手前の窓口に行くと、ひげもじゃの、いかにも森の住人ですといった出で立ちをしたおじさんが応対してくれた。
「おう、こんちは!見ねえ顔だが、森は初めてか。俺はモイット・ラスクルスだ。よろしくな!」
ううっ。この人も笑顔が眩しい。
髭のせいで老けて見えるが、意外と若く見える。アレックスと同じくらいの年齢じゃないか?
「こんにちは、水魔法使いのトールと言います。今日来たのはここで木こりの……」
「な、なあ、トール、だったか…」
「依頼を……、はい?」
俺が自己紹介を終えたあたりで、モイットさんの様子がおかしくなった。
急に俯いて、言いにくいことがあるかの如くもじもじとし始めた。
「トールは水魔法使いで、かなりレベルが高いと見える。もしよかったら、今から話す極秘依頼を受けてくれないか」
彼は声を潜めてそう言った。『極秘』というくらいだから、周りに聞かれたくないのだろう。
くんくん。これは、タメルの臭いがする。
「……」
にやあ。
藪から棒に出てきた依頼のお願いに、俺は不謹慎にも邪悪な笑みを抑えきれないのだった。




