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VRMMO [AnotherWorld]   作者: LostAngel
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第百十八話

[第百十八話]


 翌日、五月二日の金曜日。


 今日も午前中はいつもの授業。特に代わり映えがないので割愛する。


 そして、昼休み。


 俺、昇、彰、静に加えて、誠とも一緒に昼ご飯を食べ、オリエンテーションに向けて万全のコンディションを整えた。


「よし、今日も周っていくか」


 昼食を早めに食べ終えた俺たちは、桜杏高校の教室、施設を巡っていく。


 昨日は一、二年の教室を全て訪れたので、今日からは特定の授業でのみ使う教室、いわゆる特別教室や、図書室、体育館などの施設を目指す。


「しかし、一階には色んな教室があるんだな」


 VRゲーム部の集まりで使用したレクリエーション室1のコードを読み取りながら、昇が呟く。


「一階は僕たち一年や二年の教室しかない二、三階に比べて、小さい教室が多くて数もいっぱいだね」


「これは今日中には終わりそうにありませんわ」


 彰と静も感想を漏らす。


「なに、期間はいっぱいあるから、慌てなくても大丈夫だろう」


 誠は冷静だ。昇とは正反対のタイプだな。


「……これでいいな。今日は解散するか。あと五分で次の授業だ」


 入学式で使った講堂のコードを回収し終えたところで、時間になってしまった。


「進行状況で言えば、一階の半分くらいですわね?」


「残りは来週だな」


 三組の誠と別れ、教室に戻って午後の授業の準備を始める。


「午後の授業も気合い入れていこうね」


「ああ」「おう!」「もちろんですわ」


 特に今週は大変だったが、ここを乗り切れば二日休みだ。


 今は授業に集中して、休日は[AnotherWorld]でのびのび遊ぼう。


 俺はそう決めて、タブレットの電源をオンにするのだった。



 ※※※



 さて、時刻は十六時半。


 きちんと授業を受け、高校からまっすぐ帰ってきて家事や課題を済ませた。


 やることは終わったので、ゲームで遊ぶとしよう。


 俺は『チェリーギア』を装着し、もう一つの世界にログインする。


 ログインすると、王都の中央広場だった。


 昨日はエクリプス装備店で、オーダーメイドの杖の発注をした。完成には数日かかるそうなので、今行っても無駄足になるだろう。


 所持金は0タメル。アイテムボックスに預けてあるお金は……確か259000タメル。


 ”工房”の借金は400万タメルだ。完済にはまだまだほど遠い。


 今日も金策に走るか。


 そう思い立った俺は、早速イグルア村に転移した。


 コールドゲイル、ミーンクラン、モイカ。村から行けるこれら三つの街に向かい、その街の依頼をこなしていこう。


 ゲイルベアーが案外楽に狩れたので、まず始めにコールドゲイルの街に行ってみよう。


 村の北門で検問を終え、俺はイグルア村周辺の平原、イグルア平原へと降り立った。


 検問ではゲイルベアー討伐で名が出ていた、バゲットさんには出会えなかった。


 まあ、ほいほい隊長、副隊長に出会えていた今までがおかしかっただけだな。


「こっちか」


 そんなわけで、街道の上を歩きながらイグルア平原を北上していく。


 道中のグリーンウルフは『アクア・アロー』で簡単に処理する。


 討伐依頼が出ているせいか、岩みたいな姿をしたゲイルベアーの数は少ない。


 だからかは分からないが、小物の魔物が多くなっている。


「ここから先は、未知の領域だな」


 地面の草がまばらになっていき、ついに茶色い土しかなくなった。


 それに、どことなく風が強くなってきた気がする。


 きっとこの辺りが荒野と平原の境なんだろう。


「なにが出てくるか……」


 実はマップを買ったおかげで、出てくる魔物は把握している。


 初見でなくなってしまったのは残念だが、もはやそんなことを言っていられるレベルではない。


 しっかりと対策を講じなければ、あっという間にやられてしまうだろう。


 そんなことを思いながら足を進めていくと、岩陰からピョンッとなにかが飛び出してきた。


「なんだ?」


 瞬時に杖を構え、目の前の相手を観察する。


 濃いオレンジ色の体色。そして、大きな後ろ足と長い尾。


 この魔物は、ゲイルカンガルーという。発達した後ろ足による優れた跳躍力がうりで、機動力で翻弄してくるタイプの魔物だ。


「……」


 相対するカンガルーは、つぶらな瞳でこちらを見つめてくる。


 だが、騙されてはいけない。これはこちらを油断させるための罠だ。


「……『アクア・アロー』」


 膠着状態になってしまったので、仕方なくこちらから攻める。


 充分な速度を持った水の矢を、カンガルーはピョンッと横に跳ねて避けた。


 そのまま足に力を込め、大きくジャンプしてこちらに突進してくる。


 速い。


 ……だが。


「『アクア・ソード』」


 ゲイルカンガルーの基本戦法はカウンターだ。決して自分からはしかけず、業を煮やして相手が動いたところを機動力をもって攻め返す。


 俺はそれを予想していた。似たような攻め方をする、ブリザルドユキヒョウやブリザルドペンギンとの戦闘を経験していたからだ。


 わずかに横に動いて突進を躱すと、水の刃を纏った杖ですれ違いざまに切り裂く。 


 体勢を崩し、地面を転がって静止するカンガルー。


 しかし、傷は浅かったようだ。再度立ち上がろうとしている。


 今が好機だ。


「『アクア・アロー』」


 ソードを解除し、アローを放つ。


 体勢を立て直しつつあるカンガルーにクリーンヒットし、相手は倒れた。


〇アイテム:ゲイルカンガルーの耳

 コールドゲイル荒野に生息するゲイルカンガルーの耳。適度に柔らかく、ぺらぺらとしている。めぼしい用途は無い。


〇アイテム:ゲイルカンガルーの毛 

 コールドゲイル荒野に生息するゲイルカンガルーの毛。短く、細くふさふさとしている。筆や刷毛の材料に使えるが、短すぎるのが難点。


〇アイテム:ゲイルカンガルーの袋膜 

 コールドゲイル荒野に生息するゲイルカンガルーの袋膜。柔軟で割と大きい。皮袋に最適。


〇アイテム:ゲイルカンガルーの尾 

 コールドゲイル荒野に生息するゲイルカンガルーの尾。長く柔らかく、そしてふさふさとしている。何かに使えそうで使えない。


 カンガルーは以上四つの素材を落とした。


 特に効果のある素材がないな。説明でもあまり使い道がないと書いてあるし、高額で買い取ってもらえなさそうだ。


 これなら、出会っても逃げた方がいいか?


 素早いので逃げられるのかどうか分からないが、次はそうしてみよう。


 そう決めて再び歩き出す。


 すると今度は、真下の地面がゴゴゴッと鳴るとともに、若干の揺れが生じる。


 これは、地中からなにかが来るな。


「『アクア・クリエイト』」


 数歩下がりながら水を生み出し、地面にぬかるみを持たせる。


 ひときわ大きな音と同時に、太いミミズのような生き物が地面から伸びてきた。


 ぎざぎざの歯が取り囲むようにして生えている、大きな円状の口。そして、灰色の体色と太く長い体。


 この魔物はゲイルワームだ。


 こちらも厄介な魔物である。体が分厚い皮で覆われているために、物理も魔法も効きが悪い。


 その上、あの大きな口で噛みつかれると、多数の裂傷を負ってほぼ即死する。


 カンガルーやベアーよりも相手をするのが大変だが、鈍重な魔物だ。


 さらに今、ワームはぬかるみで動きを制限されている。 


 今この状況なら、倒せる。


「『アクア・ランス』」


 ぶよぶよの厚い皮に突属性は相性がいい。


 大きな水の槍が無防備なワームの体をえぐり、なんとか一撃で仕留めることができた。   


〇アイテム:ゲイルワームの鋸歯 

 コールドゲイル荒野に生息するゲイルワームの鋸歯。小さいが硬く、鋭利である。やすりなどに用いられる。誤って指を傷つけないように注意が必要。


〇アイテム:ゲイルワームの肉 効果:疲労回復:微

 コールドゲイル荒野に生息するゲイルワームの肉。癖の強い味で珍味として愛されている。


 ワームも取り立てて効果がある素材を落とさないな。


 こいつも出会ったら逃げる、でいいな。


 素材を回収した俺は、またまた歩き出す。


 荒野には背の低い草や木がまばらに生えているだけで、あとは茶色の岩石や砂が占めている。


 体色の似ているカンガルーは発見しづらく、ワームは地中から現れるため、見つかる前にあらかじめ遠くに逃げるといったことができない。


 だが、岩になりきっているベアーは灰色であるため分かりやすい。


 まずは街に着きたいので、灰色の塊を避けつつ北に進んでいく。


 カンガルーやワームからは走って逃げつつ、約三十分後。ようやく、遠くに壁が見えてきた。


 王都やアラニアのものよりも高く、頑丈そうな壁だ。


 ここまで来ればもう少しだ。頑張ろう。


 足を速めようとしたその瞬間、翼が羽ばたく音とともに、肩に力が加わって前に突き飛ばされる。


「なんだ?」


 急いで振り返る。


 が、なにもいない。


 そうか、聞こえた音からして鳥の魔物。


 俺を攻撃して通過していったから、今は前方に……。


 そう思って正面に向き直そうとすると、今度は大きな突風が前から襲いかかってくる。


「……ぐっ!」


 あまりの風の強さに、立っていられず後ろに倒れ込んでしまう。


 まずい!このままじゃ一方的にやられる。


 風属性の魔法を撃ったということは、魔物はまだ前にいるはずだ。


 正面を見上げると、少し高い位置に猛禽類がいた。


 黒い頭に白みがかった腹。それに風属性の魔法を使う。


 間違いない、ゲイルファルコンだ。


 戦いづらさと強さを兼ね備えた、鳥の魔物。


 そのファルコンが、爪を立てながら急降下してくる。


「『アクア・ソード』」


 ファルコンが近づいてくるのはこの攻撃のときのみ。大抵の遠距離攻撃は躱されてしまう。


 だから、カウンターをしかけるしかない。


 俺は水の刃を展開し、飛び込んでくるタイミングに合わせてソードを振り下ろす。


 腹部を切り裂いた攻撃は有効打となったようで、失速して地面に落ちるファルコン。


 そこを追撃し、二、三度切ったところで倒れた。


〇アイテム:ゲイルファルコンの嘴 

 コールドゲイル荒野に生息するゲイルファルコンの嘴。鋭く、鉄のように硬い。


〇アイテム:ゲイルファルコンの翼 効果:風属性魔法威力強化:小

 コールドゲイル荒野に生息するゲイルファルコンの翼。大振りでふさふさした羽毛が特徴。風属性魔法の威力を少し上昇させる。


〇アイテム:ゲイルファルコンの羽 効果:風属性魔法威力強化:微

 コールドゲイル荒野に生息するゲイルファルコンの羽。ふわふわ。風属性魔法の威力をわずかに上昇させる。


〇アイテム:ゲイルファルコンの足

 コールドゲイル荒野に生息するゲイルファルコンの足。鋭いかぎづめが四つついており、取扱いには注意を要する。


 ファルコンは翼と羽が効果持ちだ。といっても、翼を防具に組み込むのは難しいので、羽の方が有用だな。


 さて、これで荒野の魔物の大部分と戦うことができた。


 なかなか手ごわい魔物ばかりだが、きちんと対策すればどうということはない。


 街道に沿って、だんだんと大きくなってきた外壁を目指しさらに進んでいく。


 道を阻む魔物を倒したり、逃げたりしながら歩くこと十分ほど。


 ついにコールドゲイルの街の南門に辿り着いた。


 時刻は十七時半。一時間くらいかかったな。


「こんにちは、イグルア村からのお越しですか?」


 検問には、優しそうな女性の騎士が立ち会ってくれた。


「はい、そうです。水属性魔法使いのトールといいます」


「まあ珍しい。ここまで来るのは大変だったんじゃないですか?」


「いえ、それほどでもなかったですよ」


 水属性魔法の威力が低いので心配されたが、俺には[オトヒメの加護]がある。


 これが火力を底上げしてくれているので、今まで戦ってこれたというわけだ。


「そうなんですね。でも、困ったことがあったらなんでも言ってくださいね。私なら力になりますので」


 この人も天使だった。


「ありがとうございます。頼りにさせて頂きますね」


「あっ、言い忘れていました。私の名前はルーリエ・ローラントといいます。コールドゲイル騎士団南門防衛隊の隊員です」


 ルーリエさんだな。覚えておこう。


「ご紹介ありがとうございます」


「いえいえ。……それでは、チェックも済みましたのでどうぞお通りください」


「はい、ありがとうございました」


「こちらこそ、ご協力ありがとうございました」


 カナメさん、クララさんに続く新たな天使の登場に、俺は頭を垂れて絶対に守護することを誓うのであった。 

ちょこちょこ更新していきます。

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