表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMO [AnotherWorld]   作者: LostAngel
108/125

第百八話

2024/11/09 一部を修正、加筆しました。

[第百八話]


 四月二十七日、日曜日。今日も爽やかな朝だな。


 今日は午前中に読書部のスライド作りをして、午後はまんてん書店でバイトだ。


 張り切っていくとするか。


 とりあえず、朝食の準備をしながら昨日の戦いについて思いを馳せる。


 ゲーム内でココデクラーケンを倒せたかどうかを聞きたかったので、昨日の夜にライズに尋ねるようなことはしなかった。なので、まだ結果が分からずじまいだ。気になる。


 そんなこんなで考えごとをしている内に、朝ごはんを食べ終わってしまった。


 洗い物を終えて、朝一番から[AnotherWorld]にログインしたい気持ちを抑えて、タブレットを起動する。


 やるべきことをやってこそ、ゲームは楽しく遊べるからな。


 俺はスライドを作成するソフトのアイコンをタップし、作業を始めるのだった。



 ※※※



 ふう。


 無事スライドを作り終え、発表練習も十分にやった。これで本番も大丈夫だろう。


 俺はタブレットの画面を閉じ、小さく伸びをする。


 時刻は十二時。そろそろ昼食の時間だな。


 俺は戸棚から袋めんを取り出すと、中身を開ける。買い置きしていると便利である。


 今日は紅絹先輩にこき使われませんようにと、叶いもしないことを願いながら、水を注ぎ入れてお湯を沸かすのだった。



 ※※※



 ごちそうさまでした。やっぱり袋めんは醤油味だよな。


 どんぶりを洗い、バイトに行く準備をする。


 時刻は十二時半。そろそろ出た方がいいだろう。


 持つものを持って、部屋を出る。一階に降りて寮の前でバスを待つ。


 もう慣れたものだ。すっかりバイトも習慣の内に入った。


 やってきたバスに乗り込み、ショッピングモールへと向かう。中に入り、エスカレータで二階に上がって、まんてん書店の裏口に入る。


 更衣室で着替えて、時刻は十二時五十分。


 よし、今日もいつも通り。


 就業開始時刻にカードを切って、店頭に出る。


「こんにちは、要さん、紅絹先輩」


「こんにちは、透くん」


「ちゃんと来たわね」


 二人への挨拶も欠かさない。


「今日もよろしくお願いします」


「なによ改まって。ちょっとばかりかしこまったって、あんたをこき使うのは変わりないわよ」


 相変わらず厳しい紅絹先輩。


「私も手伝うから、がんばろ、透くん!」


 (あ~天使)。


 いつも通りの、日曜の昼下がりが過ぎていくのだった。



 ※※※



 つつがなくバイトを終え、十八時半。自宅に帰ってきた。


 今日も早めに晩ご飯を食べて、[AnotherWorld]にログインだ。


 昨日のパンの残りがあるので、バターロールとピーナッツサンド、カレーパンを食べた。


 栄養のバランスが悪いが、明日からちゃんと食べるようにしよう(現実逃避)。


「よし、ごちそうさま」


 一人の食事も慣れたものだが、少し寂しさを覚えることがある。今度皆でディナーパーティでもしたいところだ。


 パパっとごみを片づけて、入浴する。


 お風呂から上がったら、時刻は二十時半。


 早速、寝間着に着替えてゲームの時間だ。コントローラとヘッドセッドを装着し、[AnotherWorld]にログインする。


 ログインすると、ホテルの一室で目を覚ました。


 そういえば、ブリザルドの街に着いて、ホテルに泊まっていたんだな。


 王都に戻ってライズたちに会いに行こう。


 杖を持って、姿見で身なりを確認してから部屋を出る。  


 そのままホテルハミングバードを出て、広場から王都にテレポートする。便利でいいよな、テレポート。


 一瞬で王都に着く。街中は夜でも活気に溢れていた。


 一応、航海に参加していたメンバー全員にメールを送っとく。


『クラーケンの結果を知りたいので集合できますか?何時に来れるか返信ください』


 こんな感じで送ればいいだろう。確認してみると全員ログインしていたので、返事を書いてくれるだろう。


 案の定、数分で全員から返信が来た。二十一時に王都の中央広場で集合ということになった。


 また一番最後になるのが嫌なので、ここでずっと待ってることにする。


「こんばんは、トールくん」


「こんばんは、カナメさん」


 一番に来たのはカナメさんだった。


 集合にも時間に余裕をもってやってくるのは(やっぱり天使だ)。


「”アレ”だけど、実は完成したんだ。後で渡すね」


「遂にできたんだね!カナメさんにお願いしてよかったよ!」


 やっと”アレ”が手に入る。戦力爆上がりだな。


「なにっ、トールが僕よりも早く来ているだと……。ありえない」


「やっぱり面白いな、フーライって!」


「面白いというよりかはめんどくさい感じだけどね」


「私たちが巻き添えにならなければどっちでもいいですっ」


 フーライとユーヤ、ステムにブルームも来たな。


 一気に騒がしくなる。


「トール、お疲れ様。重要な局面で魔力切れを起こした件で、後で話がある」


 シズクさんも到着。


 俺怒られるのか?最善の手を尽くしたと思うんだけどな。


「か~っ!俺たち最後かよ!!」


「トールを除いたら毎回遅かったんだから、今さら悔しがることないんじゃ……」


「でも約束の十分前ですわ!皆さんが几帳面ということでよろしいんじゃなくて?」


 ライズ、フクキチ、ローズが最後にやってきた。


 これで全員だな。


「それじゃあ、航海はどうなったのか、というより、クラーケンはどうなったのかを訊きたい。どうなった?」


「俺から説明するよ」


 最後に顔面へ攻撃をしたとみられる、ライズが手を挙げる。


「それじゃ、頼む」


「おう。残った皆がサポートしてくれたおかげで、俺の『クレセント・スラッシュ』はクラーケンにヒットした。……ヒットしたんだが、倒すことができなかった」


 重い沈黙が俺たちの周りを支配する。


「その後は再生した触手に攫われたり、海に投げ出されたりして、全滅した。私も[タイカイノシズク]を撃ってみたけど、効いていた様子はなかった」


 シズクさんが一歩前に出ながら補足する。


「あ、あの、『ドリーム号』は……」


 早々に脱落したブルームが、恐る恐るシズクさんに訊く。


「沈没した」


「いやあああ……」


 ヘロヘロとその場に崩れ落ちたブルーム。


 目玉が飛び出るほど高かったから、気持ちは分かる。


「というわけだ。まあ、惨敗だな!」


 ライズが無邪気に言う。ポジティブなのはいいことだ。


「リベンジの相手が出来たって思えば、すげー燃えてきたぜ!」


 もう一人、底抜けに明るいやつがいた。ユーヤだ。


「そうと決まればレベル上げだ!いくぞっ、ステム、ブルーム!!」


 彼は一人で燃え上がり、広場を飛び出していってしまった。


「ちょっと、待ちなさいよ!」


「置いてくな、ですっ!」


 ユーヤの後を追うように、ステムとブルームも出て行った。


「自由だね……」


「まあ、それも彼の美点でしてよ」


 フクキチとローズが溜め息を漏らす。


「じゃあ、僕もお邪魔させてもらうよ。クラーケンにもトールにも、次は絶対勝つからね!うおおおっ!」


 フーライも勝手に盛り上がって、テレポートした。


「私はトールに話がある」


「私もです……」


「分かった。なら先に済ませるといい。私は待ってるから」


 シズクさんとカナメさんが会話を交わしている。


 お説教、短いといいなあ。


「お待たせしました、トールくん。”アレ”のお披露目ですよ!」


「”アレ”ってなんだ?」


 ライズが訝しむ。


 まあ、今に分かるよ。


「じゃじゃーん!フォクシーヌの素材を使ったローブです!」


 カナメさんがインベントリから白いローブを取り出す。


「おおっ、すごい」


 手渡されたそれはフカフカだ。広げてみると、裾と袖口が朱色に染まっている。なかなかおしゃれだ。


「後ろを見てください」


 と言われたので、裏返してみる。


 すると……。


「おおお!」


 腰の辺りから九本の尾が伸びているデザインになっていた。


 かっこいい!かっこいいぞ、これ!


「本当にありがとう、着てみるね」


 今着ているマントを脱ぎ、フォクシーヌのローブを着てみる。


 フカフカで着心地が軽い。


「サイズもぴったりで、よかったです」


「かっけえええっ!!」


「よく似合ってますわ」


「トールにしてはおしゃれ」


 周りの三人も絶賛してくれた。


 それにこのローブ、着心地だけじゃなくて、なにか……。


 温かい?


「気づきましたか?なんとこのローブ、発熱しているんですよ!」


「保温とかじゃなくて、発熱してるんだ?」


「そうなんです。これで寒いところでもポカポカですよ。反対に、熱いところでもお構いなしに発熱するので、それは注意してくださいね」


 常時発動して止めることができない効果なんだな。分かった。


「最後に、説明欄を見てみてください」


「おっけー」


 えーっと説明は……。


〇胴:九尾の悪魔・フォクシーヌのローブ 効果:火属性耐性:大、火属性魔法威力強化:大、火属性付与、発熱

 アヤカシ湿原に現れた九尾の悪魔・フォクシーヌの素材を使って作られた、ゆったりとしたローブ。火属性への強固な耐性と火属性魔法の威力を強化する。さらに、着用者の全ての攻撃に火属性が付与される『火属性付与』と、着用者を温め続ける『発熱』の効果がある。


 火属性付与!?


「火属性付与ってことは、俺の魔法にも火属性が乗るのか!?」


「おそらくそうです。本来なら相性の悪い二属性、火と水の魔法は一緒に使えないんですけど、『火属性付与』は火属性を付与という方法で属性をプラスするので、いけると思います!」


「私もそう思う。二属性の魔法の発動は相性が左右するけど、発動した魔法に属性を付与する方法なら大丈夫。裏技」


 なるほど、奥が深いな。よく考えられてる。


 属性や魔法の仕様は難しいが、なんとなく理解できた。


「それじゃあ、私はこれで失礼しますね。ライズさんやローズさん、フクキチさんにシズクさんも、服飾関係の装備が欲しくなったらご贔屓にしてください!」


 丁寧に挨拶をして、カナメさんは広場を後にした。


「トール」


「はいっ」


「お、俺たちは失礼しようかなあ……」


「そ、そうだね……」


「君子危うきに近寄らず、ですわ……」


 ライズ、フクキチ、ローズは逃げるようにしてどこかへ行ってしまった。


 薄情者!


「トール」


「はいっ!」


「魔力の残量は常に把握しておくこと。昨日みたいなことになる」


「はい!仰る通りです」


「でも、船のエンジンに魔力を割いたのは良い采配だった。トールは周りを冷静に分析できる力を持っている」


 あれ、褒められてる?


「でも、それはそれ。今後、戦闘中に魔力を切らすのは絶対に避けること。いい?」


「はい!」


「分かればいい」


 おや?お説教がそんなに長くないぞ。


「私ももっと強くなる。今度はクラーケンを倒す」


 シズクさんが珍しく燃えている。


「トールも、もっと強くなること。いい?」


「はい。もちろんです!」


「それじゃ、解散。また一緒に遊ぼう」


「はい!」


 シズクさんとの会話が終わると、彼女はログアウトした。


 強くなる。クラーケンを倒すくらいに。


 俺は新しい気持ちと新しいローブを身に纏い、もっと強くなることを誓うのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ