第百三話
2024/11/09 一部を修正、加筆しました。
[第百三話]
朝になった。四月二十六日土曜日。
今日は午前中に課題と読書をして、午後にバイトをしに行く。
そして夜には[AnotherWorld]で航海だ。目指せ、ココデクラーケン撃破。
予定を確認したところで、早速課題に取りかかろう。
「まずはがんばらないとな」
俺はタブレットの電源をオンにし、黙々と作業を始めるのだった。
※※※
ふう。読書はこれくらいでいいか。スライド作りは明日でいいな。
時刻は十二時。四時間ほど勉強と読書ができたな。
俺はタブレットをしまうと、昼食の準備を始める。
今日もカップラーメンでいいかな。腹八分目くらいの方がバイトで動きやすい。
お湯をカップに注ぎ入れて、三分待つ。
それじゃあ、いただきます。
※※※
ちゃんと後片づけを終わらせ、バイトに出る準備をする。
トートバッグに必要なものを詰め込んで、部屋から出発する。
今日も元気な紅絹さんの相手をしなければならないと思うと心が荒むが、天使の要さんに会えるからよしとしよう。
俺はそんなことを思いながら、麓へのバスを待つ。
すると、俺の横に立つ影があった。
「彰!?もう体調は大丈夫なのか?」
「おかげさまでね。これから買い出しに行くところだよ」
彰だった。顔色がよさそうなので、本当によくなったのだろう。
「よかった。今日の夜も大丈夫か?」
「もちろん。大切な航海だからね。買い出しから帰ってきたら安静にして万全の体制にするよ」
「それなら最高だな。ちゃんと十人で旅に出られそうだ」
よかったよかった。フクキチも貴重な戦力だからな。いないと困る。
「透はバイトかい?どこだっけ」
「ショッピングモールのまんてん書店。先輩や同期がいてなかなか楽しいぞ」
「いいねえ。僕もバイトしようかなあ。いつまでも親の仕送りだけで暮らしていくのは忍びないし……」
おっ、彰もバイトへの意欲があるのか。大変だが達成感はあるぞ。
なんて話してたらバスが来た。
料金を払って乗り込む俺たち。席は隣同士にした。
「どんな職種がいいとかはあるのか?」
「そうだねえ……。やっぱり飲食かな。賄い食べたい!」
「食費が浮くもんな。……じゃあファミレスとかか?」
「いいねえ!確かモールの一階にあったよね。ホームページをチェックしておくよ」
などなど、雑談を繰り広げながらバスに乗ること十分ほど。
バスがショッピングモール前に到着した。
「透とファミレスの話してたら行きたくなっちゃった。ここでお別れだね」
「ああ。また[AnotherWorld]でな」
「うん」
俺と彰は一階のエスカレータ前で別れた。
俺はそのエスカレータを昇って、まんてん書店に入店する。
裏口に行き、更衣室に入って制服に着替える。
時刻は十三時五分前。時間ばっちりだな。
タイムカードを押して業務を開始する。
店頭に出ると既に要さんがいた。
「こんにちは。透くん」
「こんにちは。要さん」
ああ~。やっぱり(かわいいな)。
ポーカーフェイスを作りながらそう思う。庇護欲をそそる小柄な体型と丸顔が癒しである。
「なーに鼻の下伸ばしてんのよ」
「伸ばしてないですよ」
そこに、もはや俺の天敵となっている紅絹さんがやってきた。
ポーカーフェイスが見破られている……!?
「伸ばしてないならこれ、お願いね」
紅絹さんはなにかにつけて俺に雑用を押し付けてくる。まあ、大半が力仕事なのでしょうがないが。
「がんばって」
「ありがとう。要さんにはレジをお願いするね」
こんな感じで、いつもと変わらないバイトが始まるのだった。
※※※
さて時刻は十八時半。バイトを終え、帰宅した。
夜、航海があるので早めに晩ご飯にしよう。
今日のご飯はショッピングモールのパン屋で買ってきたパンだ。
甘いものが食べたい気分。チョココロネとクリームパンと、あんぱんにしよう。
カロリーは気にしない。気にしたら負けだ。
それじゃあ、いただきます。
※※※
時刻は十九時半。ご飯を食べた後は早めの入浴を済ませた。
航海への準備はばっちりだ。どんとこい。
俺は寝室に行きヘッドセッドを被り、[AnotherWorld]の世界にログインした。
集合は二十時に王都の中央広場になっている。一回王都に戻らないとな。
『オアシス』の中央広場でスポーンした俺は、即座にテレポートを使って王都に転移した。
流石にまだ誰も集まっていない様子だった。これなら『工房』に戻る時間があるな。
南の大通りを歩いて工房へと向かう。
木の扉を開くと、ノーレッジが暇そうにしていた。
「この『魔法使いの鉄則 ~水魔法版~』とやら、書いてある内容が初歩的過ぎて全然満足できん。もっと難解な本はないか?」
そう言って、俺に本を突き出してくる。
俺はそれを受け取ると……。
「そう言うと思って、とっておきのを持ってきたぞ」
インベントリから分厚い書物を取り出した。
「ほう、魔界代語で書かれた歴史書か。これは興味深いな」
表紙を見るなりそんなことを言うノーレッジ。
「書いてある内容が分かるのか?」
「当たり前だ。魔界代で公用語だった魔界代語で書かれているのだからな。もっとも今読める人間なぞ、ごく一握りだろうが」
「それなら、全部翻訳してくれないか?紙なら買ってくるから」
「なぜそんな面倒くさいことを!」
「居候」
「……分かった」
最強のワード、『居候』を繰り出すことによって抗議を黙殺する。
「全く、悪魔をなんだと思っている…」
そう言いつつ、読書を始めたノーレッジは静かになった。
話が終わったので、俺はやつに背を向き、工房のアイテムボックスを開いた。
ボックスに残りの所持金の一万タメルと素材を詰め、閉じる。
よし、これで準備完了だな。
「ノーレッジ、これからちょっと長旅をするから、大人しく待ってろよ」
「私は犬ではないわっ!」
目をページに這わせながら大声を出す”知識の悪魔”。
この世界にも犬がいるのか?
新たな疑問が生まれたが、集合に遅れそうだ。
小さな疑問を頭の中で払拭し、俺は工房を後にするのだった。