第百一話
2024/11/09 一部を修正、加筆しました。
[第百一話]
すれ違った相手はなんと、VR活動部の体験会でお世話になった陽野明美先輩だった。
「やっほー!ここまで来れたってことは、随分[AnotherWorld]を楽しんでくれてるみたいだね!」
そう言ってにっこり笑う陽野先輩。
「あ、明美でいいよっ!」
そうですか。じゃあ明美先輩で。
「って、明美先輩、すごい格好ですね。それじゃあまるでサンドスコーピオンみたいだ」
「えへへ、そうでしょ!かっこいいでしょ!」
いや、かっこいいとは言ってないんだが……。本人が嬉しそうなので黙っておく。
「それで透くん、だっけ!?こっちでの名前なんていうの!?」
「トールです。『ー』の方です」
「そーなんだ!透くんにしては単純だね!私はアケミ!そのまんまだよ!」
人のこと単純って言っといて、自分はそのまんまなんですか。
「もしよかったら、これから狩りに行かない!?私たちならクイーンサンドも倒せるよ!!」
快活な声で明美先輩が言う。
うっ。やっぱりサンドスコーピオンにもクイーン個体がいるのか。
「いいですね。でもその前に依頼を受けてもいいですか?」
「いーよ!冒険者ギルドの出張所が『オアシス』の中央にあるよ」
だが断る理由もない。先輩とのコンビネーション、魔物たちに見せてやろう。
俺は先輩を引き連れ、ギルドへと向かった。
受付の人は日に焼けたお姉さんだった。
「Dランクのトール様が受けられる依頼はこちらになっております」
お姉さんがそう言うと、依頼の書かれたウインドウが目の前に表示される。
俺はその中からよさそうなものを二つ、ピックアップした。
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[依頼]:カンカン大砂漠におけるクイーンサンドスコーピオン一頭の討伐
〇発注者:カンディア・アマジー
〇報酬:50000タメル
〇詳細:『オアシス』騎士団防衛隊隊長のカンディアだよ!
毎度のことだけど、また現れたから依頼を出すよ!
サンドスコーピオンの女王、クイーンサンドがまたまた生まれちまったよ!
砂漠の南東部で確認されたから、その辺りを探索すると見つかるだろうよ!
討伐証明はいらないよ!それじゃ頼んだからね!
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[依頼]:カンカン大砂漠におけるサンドスコーピオン二十頭の討伐
〇発注者:ピラニル・アマジー
〇報酬:20000タメル
〇詳細:……『オアシス』騎士団防衛隊副隊長ピラニル。
……お姉ちゃんが出した依頼を見れば分かる通り、クイーンが頻発するほど
サンドスコーピオンが大量発生している。
……だからお姉ちゃんの依頼と一緒に受けた方がいい。
……討伐証明はいらないから、暴れてきて。
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騎士団のカンディアさんとピラニルさんの依頼ということで、セットで受けろということだろう。
またスコーピオンだが、今度はアケミさんと二人だ。まあ大丈夫だろう。
攻略のフロンティアで活動している冒険者の強さを拝見させてもらおう。
「オッケー!?じゃいこっか!」
元気に言ってくる先輩。とても、これからスコーピオンの群れを相手する人の様子には見えない。
というわけで、俺たちは連れ立って『オアシス』の南門を通り、カンカン大砂漠へと出た。
「これから寒くなっていくよ!防寒は大丈夫!?」
あ、忘れてた。マントがあるから大丈夫だろう。
それよりも、装備の更新を随分としていなかったな。借金がだいぶあるが、お金がたまったら新調してみよう。
「大丈夫です。アケミさんの方が寒くないんですか?」
「サンドスコーピオンの甲殻は耐暑、耐寒どちらにも優れているの!だから大丈夫!」
「そうなんですね、勉強になりました」
そんなに便利なものだったとは……。これはカナメさんに知らせておこう。
「じゃあ南東部にいこっか!」
「はい」
アケミさん、一緒にいると心強いな。
砂漠をぽつぽつと歩き始める俺たち。確かにちょっと寒いかもしれない。
そんなことを考えていると、走ってくるランニングカクタスが見えた。
「『アクア・アロー』」
「キエエエエエッ!!」
即、その身をアイテムに変えるカクタス。
「水魔法使いなんだねっ!それにレベルも高い!」
「それほどでもないです」
「でも魔力を温存しておいた方がいいね!次は私がやるよ!」
アケミさんはそう言って前に出てくれる。優しい。
「来たね!」
もう一体ランニングカクタスが来た。砂煙を上げて突撃してくる。
「奥義[マトイコブシ]・砂!」
アケミさんがそう唱えると、右の握り拳を地面すれすれにこすりながら大きく振りかぶる。
さながら、砂を拳に纏わせるみたいに。
「はあああああっ!」
「キエエエエエエ……!」
メキョッ!!
ジャストタイミングで放たれた、砂纏う右ストレートがカクタスの頭部を粉砕した。
オーバーキルです……、アケミさん。
「どう!?すごいでしょ!カクタスは針が痛いからこうやって倒してるんだ!」
「すごい威力ですね、[マトイコブシ]」
「そーでしょ!」
周囲のものを纏わせて放つ拳だから、[マトイコブシ]か。いい奥義だ。
俺のリアクションがよかったせいか、鼻歌を歌いながらずんずんと先を急ぐアケミさん。
「私とトールくんならクイーンも瞬殺だね!」
「そうですか?群れがいて結構厄介だと思いますが……」
「私のパンチで全部粉砕してあげるから、大丈夫!」
いくらパンチの威力があったとしても、それが群れの中心にいるクイーンにヒットしなければ意味がない。俺がサポートしなければならない。彼女のパンチが当たるように。
そう思っていると、ついに群れを視界にとらえることができた。
ブラックスコーピオンとは比にならないほどの量。とてもこれが自然にできたものとは思えない。誰かがトレインしてきたかってくらいの数がいる。その数、百匹はくだらないだろう。
「アケミさん、どうしますか……?」
「そんなの、正面突破だよ!!」
そう言って駆け出すアケミさん。
え!なにか作戦とかないんですか![AnotherWorld]の体験版作るくらいだから、形から入るタイプだと思ってたのに!
「[マトイコブシ]・砂!!」
メキャッッ!!
気合を入れて一体の頭部を破壊する彼女。
ええい、アケミさんに続くしかあるまい。
「[マトイコブシ]・砂!」
俺が覚悟を決めていると、彼女はさらに左の拳にも砂を纏わせたではないか。大きな砂の拳がアケミさんの両手に形作られている。
「これでまとめてっ!!」
時計回りに回転しながら前に突っ込むアケミさん。右の裏拳と左の正拳がサソリたちを蹂躙する。
メキョメキャッメキャメキャメキョッッ!!!
すごい。たった一人でサソリの群れを圧倒している。
拳の竜巻が収まるとそこに立っていたのは、アケミさんだけだった。
これが、攻略組の力……。
「アケミさん、流石です」
「来るよっ!トールくん!クイーンのお出ましだい!」
彼女がそう言うと同時に、一際巨大なサソリが目の前に現れた。
依然として周りにオスを侍らせているが、これ以上オスを減らされたくないと感じたのか、自身が出張ってくるようだ。
「……」
無言で鋏を構えるクイーン。対して、両の拳を固めるアケミさん。
どちらが先に動くのか。俺は完全に蚊帳の外だった。
「はあああっ!!」
先手を打ったのはアケミさんだった。
彼女は一息にクイーンの目の前に行くと……。
「[マトイコブシ]・解!」
奥義を解除した!
「……!!」
目測を誤ったのか、応戦する鋏の一撃をすかしてしまったクイーン。
彼女はこの後、どうするのか!?
「ランス、ちょうだい!」
するとアケミさんがいきなり、そんなことを言い出した。
え?
「はやく!!私に向かって撃って!」
完全に油断していた。俺は急いで杖を構えると……。
「『アクア・ランス』!!」
言われた通りに水の槍を放った。
一体どういうつもりだ?アケミさんに向かって撃てだなんて。
ランスが当たってしまうんじゃ……。
「はあああああっ!!!」
と思っていたら、なんということだろうか。
彼女はすんでのところで俺の魔法を躱すと、ランスの表面に拳を這わせた。
「[マトイコブシ]・『アクア・ランス』!!」
「……!!」
水魔法の最大火力のランスを乗せた拳と、クイーンの鋏が衝突する。
メキャッッッ!!!
勝負は一瞬だった。大きな音を立て、クイーンは構えた鋏と胴体を貫通されて倒されるのだった。
あれ、これ俺要りました?
※※※
「強すぎますよ、アケミさん」
「そんなことないよ!ここじゃ砂を纏わせるくらいしかできないし!」
サソリの残党を倒しつつ、雑談する俺とアケミさん。
謙遜してはいるが、彼女は『オアシス』でも屈指の強さだろう。でなきゃ、一撃でクイーンを倒せるはずがない。
「あれはトールくんの魔法のおかげだよ![マトイコブシ]は纏わせるモノによって攻撃力や属性が依存するから、強力な魔法を撃ってくれたトールくんの活躍でもあるの!」
そう言ってもらえると、俺がいた価値もあるってもんだ。
「これで、ラストっぽいし……」
メキャッ!
「帰ろ!……[マトイコブシ]・解!」
時刻は二十時。最後のスコーピオンを処理し、俺たちは『オアシス』に帰るのだった。
俺は通常個体を倒すのに苦労してたし、やっぱり必要だったのか?