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VRMMO [AnotherWorld]   作者: LostAngel
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第百話

2024/11/09 一部を修正、加筆しました。

[第百話]


 よし、やっていくか。時刻は十七時。


 カンカン大砂漠から三十分ほどで着くとされている『オアシス』を目指して、ひたすら歩くぞ。


 そう意気揚々と、俺は一歩を踏み出す。


 数分くらいかけて歩いて砂の丘を一つ越える。すると、確かに遠くに連なる家々が見える。


 あれが『オアシス』か。あそこを目指していけばいいんだな。


 再び歩き始めた俺の前に、猛然と走り寄ってくる存在があった。


「キエエエエエエエッッ!!」


 なんだこいつ!


 人型のサボテン、ウォーキングカクタスの上位種か。


 全速力で駆けてきたカクタス(ランニングカクタスとしよう)はウォーキングカクタスと同じく、奇声を上げながら腕を叩きつけてきた。だがウォーキングカクタスとは異なり、その攻撃の速さもキレも一味違う。


「『アクア・ウォール』!」


 俺はとっさに水の壁を張り、バックステップで腕の叩きつけ攻撃を避ける。


「キエエエエッ!!」


 攻撃を外したランニングカクタスは旋回しながら、後ろを向く形で距離を取る。


 よし、狙うなら今だ。


「『アクア・アロー』」


 きちんと偏差を意識して、カクタスに水の矢をぶつける。


「キエエ……!」


 なんと、一撃で倒れてしまった。


 攻撃と移動速度に全振りした魔物だな。


〇アイテム:ランニングカクタスの葉

 砂漠地帯に生息するランニングカクタスの葉。大ぶりで肉厚、ジューシー。


〇アイテム:ランニングカクタスの針

 砂漠地帯に生息するランニングカクタスの針。ウォーキングカクタスのものよりも鋭く、細い。


 やはりランニングカクタスという名前だったか。名前も行動パターンも安直で結構好きだな。


 その後も砂煙を上げてやってくるランニングカクタスを処理しながら、歩を進めていく。


 カクタスは索敵範囲が広いのか、わらわらと寄ってくる。ときには複数体相手することもあった。


 だが、通り一遍の攻撃パターンなので、倒すのにそれほど苦労しない。


「む?」


 こんな感じで砂漠を進んでいくと、近づいてくる気配があった。


「……」


 無言で鋏を繰り出してきたのは、砂色のサソリだった。


 ここまで近づかれていたことに気づかなかった。その体色が周囲に溶け込んでいるためだろう。


 やっぱりサソリもいるよな。


 そう考えながら、鋏の攻撃をしゃがんで避ける。


「『アクア・ランス』」


 そして、水の槍を至近距離から放つ。


 これで倒せるだろ……。


「!!」


「……」


 高速で砂の中に潜って回避した!?


 やつの姿が砂の中に隠れて消える。


 まずい、下から来るか!?それとも後ろから来るか!?


「『アクア・ウェーブ』!」


 とりあえず前方にウェーブを撃っておく。砂を湿らせて動きを鈍らせるためだ。


 きっとこうすれば……。


 来た!


 さああああ、ズシャアアアアッ!


 後ろの砂がゆっくり流れた後、大きな音を立ててサソリが背後から奇襲してきた。


 俺は後ろを向きながら、水の刃を展開する。


「『アクア・ソード』!!」


 いつか言ったか?


 相手が最も油断するのは、勝ちを確信したときだ、って。


「うおおおお!」


 鋏を避けるようにして懐にもぐりこんだ俺は、透明なソードを柔らかいサソリの腹の中に突き入れた。


「……」


 声は上げないが、ダメージは入っているだろう。しかし……。


 ビシャ!


 毒液を飛ばしてきた!?とっさにかばった左腕に浴びてしまう。


 勝ちを確信していたのは、俺の方だった。


 ダメだ、左腕が動かない。こいつの毒は神経毒なのか。


「……」


 腹を突かれてもなお元気そうなサソリは、器用に尾を操り両の鋏に毒を塗りたくった。


 なるほど、こっから第二ラウンドというわけか。


 やってやるよ。



 ※※※



 一撃必殺の鋏のフックを避け続ける。


 中々潜り込む隙がない。二度懐に入ったことで、『学習』された。


 しかも、安易に尾を出してこない。『アクア・ソード』で斬られることを恐れているのだろう。


「……」


 これは俺の無言だ。


 どうする。相手は鉄壁の甲殻と致死の毒を併せ持つ強敵。


 俺なら……、こうする!


「『アクア・ウェーブ』」


 まずは大きな波を出現させ、サソリを洗い流す。


 当たったか潜って躱したかどうかは分からないが、防御したとしたら鋏の毒は洗い流されたはずだ。


「はあああああっ!!」


 さらに俺は、がむしゃらに突っ込む。


 水が引くと、やつは砂に潜ってはいなかったみたいだ。二つの鋏を交差させてガードしていた。


「『アクア・ソード』!!」


 下段の構えで一気に一薙ぎ!


 したが、サソリは左の鋏で刃の勢いを殺し、右の鋏でカウンターをしかけてくる。


 流石に反応しきれず、その一撃をもろに食らってしまう。


 俺の幻影が。


「『アクア・ミラージュ』!」


 フォクシーヌと戦った際に使用した魔法だ。


 サソリは視覚に頼っているためか、俺の幻影にまんまと騙されてくれた。


 今ので二つの鋏は使用不能!俺は次の魔法の準備をしている!


 この勝負、もらった!


「『アクア・ランス』!!」


 十メートル前方の標的に向かって放たれた水の槍が、サソリの頭部を粉砕する直前……。


 細長い尾が割り込んできた。


 なにっ!?


 しかし、そんなものではランスの勢いを止められず、水の槍は尾を貫通してサソリの頭部を抉るのだった。


〇アイテム:サンドスコーピオンの鋏

 砂漠地帯に生息するサンドスコーピオンの鋏。分厚く鋭利なので武器に用いられる。


〇アイテム:サンドスコーピオンの甲殻

 砂漠地帯に生息するサンドスコーピオンの甲殻。軽く、硬い。防具に多用される。


〇アイテム:サンドスコーピオンの短い尾

 砂漠地帯に生息するサンドスコーピオンの切れた尾。商品価値は下がるが、細長く良くしなる素材はなにかに使えそうだ。


〇アイテム:サンドスコーピオンの毒液 効果:神経毒:中

 砂漠地帯に生息するサンドスコーピオンの毒液。触れただけで感覚がなくなるほど強力。


「はああ、疲れた」


 俺はその場に座り込む。


 最後に尾で防がれたときは第三ラウンドを覚悟したが、ランスが貫通してくれてよかった。


 強敵だったな。こんなのがゴロゴロいるのか、この砂漠には。


 ふうう。それじゃあ、日も暮れそうだし、再び歩き始めるか。


 と、立ち上がろうとすると……。


 さらさらさらさら……。


「ん?」砂が流れる音がすぐ近くから聞こえる。


 急いで立ち上がって周囲を観察する。サソリはいない。


 となると、下か!


 嫌な予感がして、俺はその場を転がって避ける。


 ズサアアアアアアンッ!!ガチンッ!


 周囲の砂を搔き分け、巨大な顎が俺を真っ二つにせんと閉じるところだった。


 なんだ、これ。もしかして、アリジゴクか…?


 さらさらさら……。


 鋏のように鋭く尖った顎は再び砂の中に潜った。


 とにかく、立ち止まっている余裕がないことだけは分かった。俺は歩くのを再開した。


 『オアシス』まではあと半分くらいだろうか。どんどん歩き続ける。

 

 しばらく歩き続けると今度は左手から、映画『ジョーズ』に出てくるようなサメの背びれがこちらに向かってくるのが見えた。


 その数、ひい、ふう、みい、よお。四体。


「やれやれ、砂漠でもサメと相手しないといけないのか……」


 とはいえ、一頭一頭は小ぶりなようだ。砂の上をぴょんぴょんと跳ねているその姿から分かった。


 背びれたちは俺の近くまで来ると、一斉に砂の中に消える。


 来るっ!


 一匹目。


「『アクア・ソード』!」


 真下から突っ込んできた個体に水の刃を突き刺す。


 二匹目。三匹目。


 一匹目を倒した隙を狙って、前後から迫ってくる。


 ギザギザの、ヤスリみたいな歯がよく見える。


「はあっ!」


 俺は前の一体の口内に刃を突き入れながら、前に回避する。


 後ろの一体は攻撃を回避されて砂の中に再度潜った。


 残りは二体。どこから来てもいいように警戒しながら待つ。


「……むう」


 だが、どうやら逃げたようだ。戦闘を終了したことを知らせる、経験値が入った音が鳴る。


 ずるがしこい魔物もいたもんだ。一匹一匹は非力だから、数が少なくなると退散するのか。


 面白い。流石、攻略最前線のフィールドだ。


 再び徒歩を始める俺は、そうしみじみと思うのだった。


〇アイテム:デザートシャークの歯

 砂漠地帯に生息するデザートシャークの歯。ヤスリのようにギザギザとしている。


〇アイテム:デザートシャークの皮

 砂漠地帯に生息するデザートシャークの皮。ぶにょぶにょとして伸縮性に優れる。


〇アイテム:デザートシャークの背びれ

 砂漠地帯に生息するデザートシャークの背びれ。意外とおいしい、かも?



 ※※※ 



 時刻は十八時半。その後も何回か戦闘があったものの、俺は無事『オアシス』に到着した。


 目の前には木造の小さな門と、そこから横に広がる木の壁がある。これで魔物対策をしているんだな。


「ようこそ『オアシス』へ。アラニアから来た人だね」


 門番の騎士さんが言う。


 あれ、ここにも騎士さんがいるのか?


「ここはアラニアとゴルディスを繋ぐ中継地点のような村だからね。両方の都市から騎士が派遣されてくるんだ」


 と、人のよさそうな男性騎士さんが教えてくれた。


 ゴルディス?もしかして、第三の街か!


「親切にどうもありがとうございます。まずは『オアシス』の散策をしてみたいと思います」


「こちらこそ、来てくれてありがとうだよ」


 騎士さんと別れて『オアシス』の中に入る。


 中は布で仕切られたテントのような建物が並ぶ村だった。ところどころにヤシの木が生えている。


 俺は地面を足で蹴ってみる。


 門から入ったときから感じていたが、地面はしっかりとした土のようだ。だからテントも建てられるんだな。


 色々と感心しつつ家々を見て回っていると、見たことのある人とすれ違った。


「あっ、もしかしたらあなたは……」


 ショートカットに細く華奢な身体。全身をサンドスコーピオンの甲殻で作られた防具で埋めた彼女は……。


「もしかして、体験版やってくれた子かな!?」


 [AnotherWorld]の体験版を遊ばせてもらったときに知り合った、陽野明美先輩だった。

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