008 僕、魔王の病を治す
「お待ちください! 陛下!」
アンサッスさんが僕と魔王さんの間に割って入った。
「こちらのダイキ様は何も悪くありません。処断ならば私が受けます」
「お前は、アンサッスか!? お前も生きておったのか!」
さらにアイルちゃんも。
「お父様、やめて!」
「ほぅ。貴様ら随分と肩を持つな。弱みでも握られたか?」
2人が僕の為に止めに入ってくれてる。
『アンサッス様、早く止めないとお父様が殺されてしまいます』
『アイル様、わかっています。何としてもお怒りを沈めてもらわねば』
「貴様ら、何をこそこそと喋っている」
「お父様、とにかく一旦落ち着いて。少なくとも私は無事に戻ったじゃないですか」
「そうです陛下。こちらのダイキ様は私達を保護してくださっていたのです」
「3年もか?」
『アンサッス様どうしましょうか。どこまで話して良いのか。というか信じてもらえる気はしないのですけど』
『でしたら、修行を付けていただいたとふわっとお伝えしてみては』
『そうですね。そうしましょう』
「お父様、私達は、このダイキくんに鍛えてもらっていたのです」
「鍛えてもらっていただと?アイルもアンサッスも以前より明らかに魔力量が減っているではないか。一般市民と変わらんほどに」
「では、お父様、この部屋の中の者を強いと思う順に述べてみてもらえますか」
「何のつもりか知らんが、まぁ良いだろう。
ふむ。
まずは白髪の執事とメイドだろう。この2人ならば騎士団でもそこそこ戦えそうだ。
次にアイルとアンサッス。貴様らはなぜか魔力が一般市民レベルまで下がっているがな。
次に残りの執事3人。一般市民よりも魔力量が少ない。
そして小僧だな。全く魔力を感じん」
「お父様は?」
「余か? 聞くまでもなかろう。1番強いに決まっておるではないか」
アイルちゃんはため息をついた。
「お父様、わかっていましたが、その順序は全部逆です」
「は?馬鹿を言うな。魔力量から明らかではないか」
「それは、私達が本来の魔力量を隠しているからです」
「嘘を言うな。魔力を抑えているだと? その痕跡を見逃す余だとでも思っているのか?」
「いえ、お父様、私達は抑えてはいません。散らしているのです」
「どう言う意味だ?」
「私達は強すぎます。その魔力を垂れ流せば、市中に影響を及ぼします。
ですので、空間魔法により影響が出ないだろうところと何か所か繋いで、そこに分散して放出しているのです」
「馬鹿な。空間魔法だと? 使えるものすら稀有な魔法だぞ?
それを同時にいくつも展開し、それを常時発動しているとでも言う気か? 馬鹿馬鹿しい」
「お父様、その通りです」
「何っ!?」
「ただし、お父様の仰る通り、凄まじく高度な技術が必要です。
その為、まだまだ未熟な私達はダイキくんと違ってゼロにすることは出来ていない。そう言うことです」
魔王さんはめっちゃ驚いてる。
「そこまでの事が本当に出来るならば、押さえ込んでも、痕跡を残さない事くらい容易なはず。なぜそうしない? そちらの方が遥かに易しいはずだが」
「もちろん出来ます。ただ、ダイキくん曰く、この世界の魔素は少しずつですが減っているそうです。ですから、私達のように膨大な魔力を持つ者は少しでも魔素を放出したもうが良いらしいのです」
「小僧、何故それを知っている?」
魔王さんがめっちゃ睨んできた。何で?
「う〜ん、神様が教えてくれたからかな」
「巫山戯た事を。魔素の減少については、最近になって研究班から上がってきた最新の情報だぞ。
それもこの世界の根幹を揺るがしかねないため、余が情報を秘匿するよう命じておったものだ」
「そう言われても。本当に神様から教えてもらったんだけどな」
突然、魔王さんが膝を着いた。
「ぐっ、やはり病には勝てんか」
「お父様!」
魔王さんはやっぱり病気なのか。めっちゃ元気そうだけど。でも、あの感じ、ちょっと気になるな。
「魔王さん、ちょっと失礼」
そう言って僕は魔王の頭を触った。
「貴様、何を」
やっぱりか。生前の僕と同じだ。体内に魔力が溜まり過ぎてる。この世界でこの症状が出るって、この魔王さんはどれだけの魔力量を持っているんだか。
「ちょっとビリっとしますよ」
「ぐわ〜!!!」
魔王なのに大袈裟だな。中の魔力を出してあげただけなのに。しかし、すごい量が溜まってたな。こりゃ、動くのもしんどいはずだけどな。
「お父様!」
「大丈夫だよ。アインちゃん。すぐ起き上がると思うよ」
そう言ってる間に魔王さんは上体を起こした。
「貴様、余に何をした!」
「身体はどう? だいぶ楽になったと思うけど」
「?
何だと!? 苦しさが消えておる。」
「お父様、本当なの?」
「ああ、こんなにも身体が軽く感じるのはどれだけぶりか」
やっぱり、思った通りだったみたいだ。
「小僧、礼を言う」
「別に大したことはしてないよ」
「しかし、国中の名医が原因すらわからなかったというのに」
「それは、簡単。魔王さんが強過ぎたせいだよ」
「どう言う事だ?」
「この世界の生物にとって魔素はなくてはならないけど、魔素が強すぎると逆に身体に悪影響を及ぼすのは知ってるよね?」
「無論だ」
「それと一緒。魔王さんは魔力が膨大すぎて、放出されない魔力が溜まりすぎた。それが身体に悪さをしていたんだよ」
「そんな事が」
「多分普通は起こらないよ。普通は生きているだけで自然と放出されるからね。
ただ、魔王さんは魔力が膨大すぎて、普通に生活しているだけじゃ、足りなかったんじゃないかな。最近はあまり魔法も使ってなかったんじゃない?」
「確かにここ10年は政務に追われて魔法を使う機会は減っておったな」
「多分そういう事だよ」
アインちゃんは魔王様に抱きついた。号泣している。
魔王さんはそっとアインちゃんの頭を撫でた。そして、魔王さんは立ち上がった。
「小僧、改めて礼を言う。ありがとう」
そう言って魔王さんは頭を下げた。
「気にしないでください。それと、僕はダイキです」
「ふむ、ダイキであるな。姓はないのか?」
「ここに来る前にお父さんの姓を名乗っていいと言われたから、姓はリューンダインですね」
「何だとっ! それは伝説の邪竜様の姓ではないか!?」
「はい、僕のお父さんです」
魔王さんはめっちゃポカンとしている。
「がっはっはっは。事実なのだろうな。のうアイン?」
「はい。事実です。私とアンサッス様も3年間ご一緒させていただきました」
「そりゃ、すぐに帰ってこれんわな。余もお会いしてみたいのぉ」
「いいですよ。お父さんも今は1人でヒマしてそうだし。
それに、魔王さんも今後は定期的に魔法を撃たなきゃまた、溜まっちゃうけど、魔王さんのレベルだと気軽に魔法撃てないでしょ。だから不戦の草原でついでに撃ってくればいいしね」
「不戦の草原だと?」
「お父様、不戦の草原がどうかしたの?」
「いや、1週間前に不戦の草原から、大規模な魔法振動を観測してな。国家の危機と言うレベルを超えるほどの規模であったからな。それも反応は2つあってのう。何か心当たりはないか」
僕たちは、皆少し背中に汗をかいた。
「えーと、多分、僕とお父さんが戦ったから、かな?」
魔王さんは目が飛び出しそうなほど驚いている。
「がっはっはっは。ダイキ貴様、化物ではないか。では、今は不戦の草原に危険がないのか?」
「危険はないけど、草原じゃなくて溶岩地帯になっちゃたかな。」
「………。
もう驚けん。余にも限界があるわ。
最後に、これだけは聞いておくぞ。
ダイキよ、貴様は魔族に仇なすものではないな?」
「?
何で? 僕は観光に来ただけでだよ? 仇なすも何も、何もするわけないじゃん。」
「がっはっはっは。貴様はもっと自分を理解した方がいい。戦術破壊兵器以上のものが歩いているのと変わらんのだからな。
まぁいいわ。貴様らを王城に招待したい。」
なんか知らないけど、王城に行けるらしい! やばっ、テンション上がって来た!
そして、僕達は王城へと案内されるのだった。