幕間001 邪竜の暴乱
その日、何の前触れもなく全世界を観測史上、類を見ない圧倒的な魔力振動が襲った。
人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、魔族の全てが大慌てで緊急の対策会議を開くことになった。
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■ヒト族『インガイア王国』
「発信源はどこだ!」
「恐らく、龍ヶ峰の方向と思われます!」
「龍ヶ峰だと! 伝説の邪竜がいるとされるところか!」
「はい! しかし、正確には不戦の草原が発信源だと思われます!」
「どちらでもいい!原因は!」
「不明です!」
「急ぎ調べろ! もし本当に邪竜の仕業だとすると、こんなものがこの国にやって来たらこの国は終わりだ」
「!!!
強力な魔法振動をもう1つ確認!」
「何だと!」
「先ほどからのものと同程度の出力です!」
「仮にその1つをランクで表すならどうなる?」
「100年前に現れたSS級魔物、通称『浮遊戦艦』の記録と比較すると100倍以上です!」
「!!!
本当に邪竜が現れたと考えるしかないじゃないか!
しかも、同程度の反応がもう1つだと!
四神獣のうち残りのどれかと邪竜が闘争を開始した以外にどう考えろと言うのだ!」
「……、それは、あまりにも、」
「数値が物語っているではないか! 仮に違っていてもそれに準じる何かが起こっていると想定するしかあるまい。今後は四神獣同士の闘争と想定して動く! いいな!」
「は!」
「班長! 魔力振動の数値がさらに上がっています!」
「何っ!
最早一刻の猶予もないか。
急ぎ、開発途中の戦術魔法兵器を用意しろ!」
「しかし、それには評議会の承認を得てから国王様の下知が必要です!」
「待ってられるか! 責任は私が取る! 国の一大事だぞ!
それと同時に特A級の緊急事態を宣言しろ! これも上の承認はいらん!」
「は!」
部下達は慌てて各方面へ散って行った。
「はぁ、何て事だ。邪竜は歴史書によると500年前のエルフ族の龍ヶ峰への大進行以来、歴史の表舞台に出て来ていないはずだ。今ではその存在すら怪しまれていたと言うのに。
それが2体。戦術魔法兵器でどうにか出来るとも思えんが、やるしかない。
とにかく私は、上へ報告に行かねば。どうせ、糞の役にも立たん会議と言う名の責任のなすり付け合いをしているだけだろうが」
案の定、会議は紛糾していた。
「では、軍務卿にはお考えがお有りで?」
「まずは、龍ヶ峰方面の国境付近の兵を増大するしかありますまい」
「兵站はどうするのです? こんな急に用意出来るのですか?」
「それをどうにかするのが内務卿の仕事だろうが!」
「なっ! だから私は常々申していたではないですか! ただただ軍備を拡大しても無意味だと!」
「私が悪いと申すか!」
「そうは申しませんが、現実的な案を出さねばどの道破滅ですぞ」
「とにかく、各貴族に通達し、兵と兵站を出させるしかない」
「軍務卿! それでは貴族も黙っていませんぞ!」
「貴族の顔色を伺っている場合か!」
はぁ、会議室の中から聞こえてくる非生産的な会議の内容に入る前から嫌気が差す。誰も彼も事の重大性を全くわかっていない。
もし本当に邪竜が動き出していたならば、いくら兵を集めても全く意味がない。それは歴史が証明している。
歴史上誰も邪竜を討伐出来ていないのだ。しかも今回はそれが2体だぞ!!!
気が滅入りながらも会議室のドアをノックし、室内へと入って行った。
「失礼します」
「誰だ! 今は重要な会議の最中だぞ!」
「ですのでやってまいりました、軍務卿閣下。私は防衛局対策第一班の班長グイン・マックソンと申します」
「何の用だ!」
「此度の魔力振動について、龍ヶ峰方面からのものということは第一報で伝わっているかと存じます」
「それはわかっている」
「つきましては、先ほど私の方から、戦術魔法兵器『ラムダ-03』の使用準備と特A級の緊急事態宣言の発令を指示しました」
「なっ!」
「貴様! それは重大な越権行為だ! それにラムダ-03はまだ試験運用が終わっただけで実践段階ではないではないか!」
「特A級の緊急事態宣言とは、国家消滅の危機に出されるもの。いたずらに市民を不安がらせるだけではないか!」
やはり、事の重大性が全くわかっていない。
「ですから、私は国家消滅の危機だと申し上げているのです。
であるならば、試験運用段階などと言っている場合ではありません。
結果的に何事も起こらなければ、それに越したことはありませんが、我々の観測チームは、魔法振動の原因は邪竜とそれと同等の力を持つ何か、恐らくは他の四神獣のうちの1体が闘争を開始したと結論付けました」
「バカな!」
「いい加減な事を言うな!」
「観測された数値は100年前の浮遊要塞に比して、少なくとも100倍以上です。それが2体分観測されています」
「そんなことがありえるのか!」
「信じられん」
「私も信じたくはありませんが、事実であります」
「ラムダ-03の使用準備と特A級の緊急事態宣言の発令を急げ!」
「陛下!!!」
「今の報告が事実なら、のんびりと会議を行なっている場合ではないわ! 超法規的措置を取れ!
内務卿はドワーフに連絡を取り、大規模破壊兵器の使用準備を促せ!
軍務卿はエルフに戦術集団術式の準備を進めさせろ!
そこで情報に齟齬があれば、その時にまた対応を考える! まずは迅速に動け!
これは国家の緊急事態ではない! 大陸の緊急事態だ!」
「は!」
「は!」
本当に、この国は陛下の力だけで持っているな。
「グインよ」
「は!」
「迅速な対応見事である。引き続き頼む」
「は! 全力を尽くします!」
そして、この未曾有の魔法振動に対し、インガイア王国と同様の観測結果を得ながら判断出来ずにいたドワーフとエルフも、インガイア王国からもたらされた情報により、重い腰をあげたのだった。
各国が、建国以来最大の緊張状態の中、魔法振動は観測から3日経った時、突然消えたのだった。
各国は、その後1週間、特A級の緊急事態を継続した後、緊急事態の段階を順次引き下げた。
1か月後、インガイア王国、エルフ、ドワーフの3国共同の調査チームは魔法振動の発信源とされる不戦の草原に出向き、驚くべき光景を目にする。
広大な草原だった場所は、見渡す限りの溶岩地帯に変貌し、凡そ人が行動出来るより遥かに高濃度な魔素であふれていたのだ。
また、いたるところに邪竜のものと思われる鱗の破片が落ちていたことから、原因はやはり邪竜であったと判断された。
しかし、対戦相手のものと思われる鱗などは一切見つからなかった。
この調査結果を受け、各国は軍備をより拡大し、次の事態には迅速に動けるように体制を作り変えて行くのだった。
この原因不明の魔法振動は、後に邪竜の暴乱として語り継がれていくことになる。
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