061 吾、火の勇者と激突す
火の勇者、ホムラ・ジングウジ。
中々に気骨のある小僧のようだ。
遠慮は無用だな。
「第十位階火魔法<獄炎の渦>」
「おいおい、マジかよ」
吾は作り出した第十位階火魔法を大剣に纏わせた。
いわゆる魔法剣というやつだ。
剣に火を纏わせるだけと言えば、簡単に聞こえるだろうが、これは実はかなりの高等技術だ。
一般に魔法とは、火、水、風、土、雷の5大属性と考えられている。
が、この考えしか持たない者は火を放つことは出来ても、剣の周りに留めることは容易では無い。
放出魔法、強化魔法、付与魔法、作用魔法、空間魔法という、ダイキ様による教えによって初めて可能となる。
そもそも、第六位階以上を完璧に操るためには、この概念が必須だ。
これを知らなかった吾は、感覚のみで第七位階までは使えたが、それ以上は使えなかった。
放出魔法とはその名の通り火を放てば良い。これは感覚的にも分かる。だが、これでは第五位階まで。
強化魔法は、自分の身体を強化する。
付与魔法は、武器などを強化する。
そして、作用魔法とは、周りの環境を自分の味方にする。これが第六位階以上を使うには最も重要だ。
最後は空間魔法。これは空間に働きかけ、転移や亜空間収納などを行う。空間魔法はこれ以外にも結界などにも使われる。
とまあ、こんなものなのだが、火魔法を剣に纏わせるには、放出魔法で火を出し、それに剣自体が耐えられるように剣に付与魔法を施し、これが拡散しないように空間魔法で固定する。最低限これだけの工程が必要だ。
さらに、この火魔法が第十位階となると、作用魔法で空気中の酸素に働きかける必要がある。さらに、この酸素が常に供給されるように空気を操ることが必要だ。そこにさらなる爆発力を加えるため、水素も一定量供給する。
これが第十位階火魔法の正体なわけだ。
この酸素や水素というものを理解することが最初は難しかった。なんでもダイキ様が元いた世界の考えなのだそうだ。
そして、この気を抜くとすぐに大爆発を起こす魔法を剣に留めるのはそれはもう苦労した。何度死にかけたことか。
だが、普通は大爆発と共に拡散する魔法を一所に留めるわけだから、その威力は更に凄まじいものになる。
これを制御するには強化魔法で自分の身体も強化しなければ、負けてしまう。
つまり、この魔法剣を使うには、放出魔法、強化魔法、付与魔法、作用魔法、空間魔法を全て高レベルで扱える必要があるというわけだ。
ただし、当たらなければ意味がないと思うかもしれん。
が、その心配はいらん。吾には3執事のシュン様とサン様をも凌ぐ速さを誇る、バイコーンのシルバーがいるからだ。
本気のシルバーに速さで勝てるのは、獣人化したイェスタ様くらいのものだろう。
先程はそこまで速くしなかったが、今回は本気で行かせてもらおう。
「では、行くぞ。火の勇者よ」
「くそったれ!」
吾はシルバーを走らせ、すれ違いざまに火の勇者を真っ二つにした。というより、一瞬で燃やし尽くしてしまった。
「ふう。火の勇者と言えど、呆気なかったな」
吾は大剣を亜空間収納にしまおうかと思ったその時、
ガキーン!!!
背後から強い存在を感じ、反射的に大剣をそちらに振りかざした。
金属音が響く。
何者かの攻撃を防いだのだろう。
吾はその何者かを直視した。
全身が燃える火の勇者が剣を振り下ろしていた。
吾は火の勇者から距離を取った。
「ふう。これが、ダイキ様より聞いていた勇者の固有スキル、か」
「ハハハハハ。ご名答。俺の固有スキルは<陽炎>。自らを火そのものに変化させることができる。この状態の俺にはあらゆる攻撃が効かねえ。
魔族の将軍様、どうするよ?」
中々やっかいなスキルだ。
そして、まったく理解できない。
魔法とは違うとはこういうわけか。ずるいじゃないか。ダルムも苦戦してなければいいが。
「なんだ、策はなしか? ならこっちから行くぞ!」
「む」
吾はシルバーを操り、あっさりと火の勇者の攻撃を避ける。
いくら自身を火に変えても、音速を超えるシルバーを捉えることはできない。雷の勇者が自身を雷に変えるのなら別だが。
「クソが!」
火の勇者は自身の火の火力を上げ、全方位に高出力の火を放った。
それも、吾とシルバーには意味をなさないがな。
「はあ、はあ。クソったれ」
「なんだ。お前の方が肩で息をしているぞ」
「知ったことかよ!」
吾はなおもシルバーを走らせる。
火の勇者の周りを縦横無尽に。
「おいおい、なんだ。俺の火が弱くなってる?」
「ふう。やはりか。いくら魔法と違うとはいえ、火である以上、酸素は必要だったようだな」
「何!?」
「気づいていないか。吾はただ逃げ回っていたのではない。お前の周りの酸素を少しずつ奪っていたのだ」
「何だと!?」
「火のままでいいのかね? そのままでは消えてしまうぞ」
「クソったれー!!!」
この勇者もダイキ様と同じ世界から召喚されたからか、酸素というものを理解しているようだ。
火の勇者は固有スキルを解いた。
その瞬間、吾はシルバーを走らせ、一閃。
火の勇者は今度こそ真っ二つに切り裂かれた。
「ふう。酸素がなくては、<獄炎の渦>もうまくいかんな」
大剣の火も弱々しいものになっていた。
そのため、火の勇者を燃やし尽くすことはできなかったか。
「がはっ。なんだ、魔族ってのは化物の集まりかよ」
「は、吾ごときを化物扱いか。魔族には少なくとも吾より強いのがあと8人はいる」
「はは、冗談じゃねえや」
火の勇者は遠い目をした。
しかし、なぜか何かから解放された火のようなスッキリとした表情だ。
「……ユウヤ、俺もそっちに逝く、ぞ……」
火の勇者の意識はここで途絶えた。
「ふう。この程度では腕試しにもならなかったか」
吾はダルムの方を見た。
こちらも佳境のようだ。しかし、時間の問題か。
ダイキ様、ご覧いただけましたか。
大魔将軍セリュジュ・ガーネット、しかと役目を果たしました。
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