058 私、戦場に送り込まれる
私は燃えていた。
今年は魔王将棋のプロリーグが3年目。
私は遂にタイトルに手が届く所まで来た。
これは最大のチャンスだ。相手はアイル。現在魔王のタイトルホルダーであり、この2年勝てなかった2人のうちの1人だ。
しかし、今年の私は勝てなかったドラゴニュートの棋士を破った。この時の興奮を私は生涯忘れないだろう。
そして、今年Aリーグに上がって来て、Aリーグの棋士を次々と薙ぎ倒した新鋭のハーフリングの若棋士を20時間を超える死闘のすえに倒した。下馬評では圧倒的に不利とされていたが、これはAリーグでずっと戦って来た私の経験が最後に勝敗を分けたのだと思う。
私はいま、勢いがある。この勢いのままタイトルの奪取まで走りきるつもりだ。
私は、同じAリーグを最初から戦っている戦友である魔族の棋士と特訓している。
アイルの棋譜を並べ、弱点はどこか、嫌がる戦法は何か、アイルの得意戦法に対する対応など徹底的に対策をしている。
「コウ様、いけますよ」
「ああ、其方のおかげだ」
「いえいえ、コウ様の努力の賜物です」
この魔族の棋士とはアイルが最初に開催したトーナメントの3位決定戦で戦って以来の付き合いだ。
私はこの者と火の鳥研究会という会を作り、日々研鑽を積んでいる。今では弟子も数人出来た。弟子達も私達の横で話を聞いている。
「今日の研究はここまでにして、1局どうだ」
「よろこんで!」
私はこの者と真剣に1局打ち始めた。この者もAリーグのトッププレイヤーであり、手を抜いて勝てる相手ではない。
研究会の中の対局であり、幾度も打って来た相手ではあるが、一手一手に力が入る。
対局を始めて3時間を超えた時、大勢は決した。私の勝ちだ。
私は右手の人差し指と中指に挟んだ駒を力強く盤に振り下ろす。
「王手!」
しかし、この時に盤が消えた。振り下ろした右手が虚しく空を切った。
「シュン次は勝つよ!」
「おう!」
気付くと隣に同じ3執事の2人、シュンとサンがいた。
「「「あれ?」」」
3人の声はシンクロし、揃ってポカンとしてしまった。
あ。主様に強制召喚されたな。
強制召喚はあ初めてじゃないが、された時は決まって主様がニコニコ笑って内心でめっちゃ怒ってる時だ。
恐る恐る主様を見ると、やはりニコニコと笑っている。
私も、シュンもサンも冷や汗をかきながら片膝を付いた。
「お願いがあるんだけど、いいかな」
「「「は」」」
この問いに拒否権はない。
「3人はすぐに転移して勇者リューンとシー姉の相手をしてきて欲しい」
「「「っ!!!」」」
今が戦時だということは分かっていたが、いきなり勇者リューンと海龍様ですか。
「あの2人とまがりなりにも渡り合えるのは君達しかいないからさ」
「「「畏まりました」」」
私達が趣味に走っても怒らないでいてくれる主様が、私達をわざわざ呼び寄せたのだ。
ここでご期待に答えなくてどうする。私達は心を燃やした。
私達はなんだかんだで、主様が作るこの国が好きなのだ。
数年前までは、龍ヶ峰で魔物相手に暴れるだけの毎日だった。それが今は心から楽しめるものに出会い、美味しいものを食べ、平和に日々を過ごせる。それがこんなに充実したものだったとは思いもよらなかった。
「あの2人にさ、こう伝えて。『これ以上国を壊すようなら僕は出て行かない。加えて3執事以外には攻撃しない。その上で3執事で満足出来ない様ならば僕が相手してやろう』ってね」
「「「は」」」
私達3人はすぐに勇者リューンと海龍様の元に転移した。
「おお!? なんだお前達は。待てよ。お前らパールの息子の匂いがするな」
「キヒヒヒ。此奴らも面白そうじゃの」
勇者リューンと海龍様は一目で私達の戦力を理解したようだ。
「私達は魔王ダイキ・リューンガルム様の直属の配下、3執事。ダイキ様の命でやって来た」
「ほう。それで、その執事様が何の用だ?」
「ダイキ様からの伝言だ。『これ以上国を壊すようなら僕は出て行かない。加えて3執事以外には攻撃しない。その上で3執事で満足出来ない様ならば僕が相手してやろう』以上だ」
勇者リューンと海龍様の魔力が膨れ上がる。
「つまり、お前らを倒せばパールの息子が出てくるんだな?」
「キヒヒヒ、なら、遊んでやろうかの」
瞬間、汗が吹き出した。
主様、やっぱ無理そうです。
私達はこの世界の伝説に向かって行った。
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