056 僕、ちょっと焦る
「想定通りだね」
僕は自分で淹れた渋い紅茶を飲みながら呟いた。
不戦の草原では敵方が態勢を立て直そうとしている。
まだ動ける者を前に集めているのかな。
何にせよ勇者リューンと海龍であるシー姐がすぐに動かないでいてくれているのはありがたい。
室長が解析を終わらせてくれるまでしのげば勝てる。
僕は紅茶を飲んで待った。
こういう時って時間が長く感じられるね。
しかし、室長から動きがない。
僕は紅茶を飲み干してしまっていた。
おかしい。もしや、解析に使っているスパコンに不具合が。
嫌な予想が頭を巡った。
敵方は動ける者が前線に集結しつつあった。
僕は紅茶を飲んだばかりだというのに喉がカラカラに乾いていた。
プルルルル
僕の携帯が鳴った。
室長からだ!
慌てて携帯を取る。
「もしもし室長!」
「魔王様! 大変であります! 勇者リューンの固有スキルですが、我らが誇るスパコンでも解析しきれないであります!」
「嘘でしょ!?」
このスパコンはこの世界では伝説とも言われる第十位階魔法すら、攻撃が届く前に魔素によるスキャンで瞬時に解析し、無力化できるほどの演算能力を誇る。
勇者リューンの固有スキルが第十位階魔法を超えるものである事は想定できていたから、魔素のスキャンではなく、物理センサーをいくつも用意したのに。
それでも解析しきれないなんて。
「少しは解析できたの?」
「現状では10%程度であります」
「マジか」
10%ではアイルちゃんと旧魔王2人に持たせた大剣にインストールしてもとても再現できない。
「じゃあ、それを結界石にインストールしたら、少しは耐えられる?」
「5つ程重ねがけすれば、1撃なら耐えられるかもしれないであります」
「よし、じゃあまずはそれで時間を稼ごう!」
「了解であります!」
室長はすぐにその作業に取り掛かった。
敵方は伝説の勇者リューン、四神獣である海龍シー姉、召喚された勇者が3人、腹黒エルフ、それに加えて隊長格の合わせて20人くらいが態勢を整えていた。
もう時間がない。
まさか、解析に時間がかかるどころか懐石出来ないなんて。
アイルちゃんは、大剣に情報がインストールされないため、一旦防御陣形を敷く様に指示を出したみたいだ。
すると、シー姉が1人前に出て来た。
『お主ばかり目立つでない。妾にもやらせよ』
おいおい冗談だろ。
シー姉は両手だけ海龍の手、すなわちリヴァイアサンの手に戻し手を開いた状態で、手首を合わせた。それはさながらリヴァイアサンが大きく口を開けているようだ。
マズい!!!
アイルちゃん達は全力で結界を張った。けど、あれじゃもたない。
室長! 急いで!
その時、シー姉が技の発動に入った。
『我らが母なる大海よ、御高覧あれ。世界を統べるは我らを置いて他になし。大気を震わし大地を裂く。絶望とはこの一噛みの事也。最早地上に活路なし……』
ヤバい! 世界でシー姉しか使えない大魔法が来る!
この世界の魔法は普通は詠唱を必要としない。けど、この技はわざわざ詠唱することで海の力を地上でも使える様にするっていうふざけた技だ。
とんでもないエネルギーがシー姉の両手に集まっていく。
『万象よ、刮目せよ。喰らい尽くせ……』
室長!
この瞬間にアイルちゃん達が新たな結界を5つ重ね掛けした。
間に合った!
『<絶対なる大海の一噛>!!!』
シー姉の両手から凄まじい勢いで高さ100m幅1kmを超える大津波が飛び出した。
それが進むにつれて幅を大きくしながら向かって来る。
これだけでも異常な魔法なのに、これは水滴の1粒1粒が第八位階の水魔法に匹敵する圧力を持っている。
それがこの圧倒的質量で襲いかかって来る。
第十位階魔法の域を超えるシー姉の必殺技だ。
同じ四神獣のフェンリルであるフーおじさん、その息子のイェスタくんでいう<獣王の咆哮>にあたる必殺の一撃。
シー姉の場合より広域殲滅によっているけど。
そして、
ズッドーーーーーン!!!!!!!
およそ聞いたことのない程の轟音を立て、アイルちゃん達の結界に衝突した。
そして、<絶対なる大海の一噛>は勢いそのままに不戦の草原を超え、接する森を蹂躙し、遂には王都にまで迫って来た。
いやー、王都は不戦の草原の隣とは言っても20kmは離れてるんだけど。
相変わらずえげつない。
僕は以前一度見せてもらったことがあった。その時は海に向かって撃ってたけど、<絶対なる大海の一噛>が通った後は一瞬海が亡くなったからね。
下手したら国が一撃で消え去るレベルだからね。
しかし、王都は鉄壁の結界で守られている。<絶対なる大海の一噛>はその質量がエグいけど、分解すれば第八位階水魔法の集合体だ。
ならば、王都の結界は耐えられる。王都の結界は第八位階までは防ぎきる。
とはいえ、毎秒何万もの第八位階魔法を浴びることになるから、完全に無事とは言い難いだろうけど。
それから数秒、<絶対なる大海の一噛>は王都に襲いかかった。
ズッドーーーーーン!!!!!!!
先ほどと同じく轟音を響かせた。
ここまでの距離があったのに少しも衰えていない様だ。
王都の結界は耐える。耐える。耐える。
しかし、そこらじゅうが悲鳴を上げ始めた。
ピシ
ヒビが入った音がする。
だが、甘い。僕の想定は超えていない。
王都を囲む塀の上にアンサッスさんをはじめとする近衛隊の面々が姿を表した。
そして、
『『『『『第十位階聖魔法<絶対的聖域>!!!!!』』』』』
王都を光が包み込む。
数分後、王都は健在だった。
さらに、アイルちゃん達も無事だ。
ただ、<絶対なる大海の一噛>が通った跡は地面が数十mを超えてえぐられ、何も残っていない。
いや、置き土産と言わんばかりに膨大な魔素は残されていた。
『キヒヒヒ、これを防ぎおるか。お主の言う通り楽しめそうじゃの』
『シーさん、だから言っただろ。パールの息子が魔王の国だ。絶対に面白いってな』
勇者リューンとシー姉の言葉が聞こえて来た。どちらも初めてプロの試合を見に来たサッカー少年の様に目を輝かせている。
はぁ、やめてよね。
2人が本気を出せる相手なんて限られてるだろうけどさ。なんかその為に僕の国に攻撃仕掛けてる様に聞こえるんだけど。
それに魔素が膨大なのは不戦の草原だけで間に合ってるよ!
このままじゃこの国の大半が不毛地帯になっちゃうじゃんか!
はぁ〜。
僕はもう一度大きく溜息をついた。
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