005 私、少年に会う
私は何故この人達に追われているのか?
どうして、攻撃を受けているのか?
何故、飲まず食わずで逃げ回らなければいけないのか?
私は、病に臥せっているお父様の為に薬草を取りに森に来ただけなのに。
あ、森を抜けた。
暖かい日差し。
ここで私の意識は途絶えました。
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「おや、目が覚めた?」
そこには、知らない男の子がいました。私とそんなに変わらない歳に見えます。
「あなたは?」
「僕はダイキ。君が急に倒れたから、取り合えず回復させて、保護させてもらったよ」
そういえば、傷がふさがっています。
「えーとっ、ありがとう」
「どういたしまして、お姫様」
!!!
私が王女だと知っている?
この男の子は私の味方なの?
「ごめん、不安にさせてしまった? お姫様が気に障ったなら謝るよ。君があまりに可愛かったから、つい」
!!!
私は、自分の顔が赤くなるのがわかりました。
私が、可愛い?
そんなの、お父様からしか言われたことがありません。
というより、私には同年代の親しい友達はいませんでした。
現魔王の娘で、次期魔王筆頭と言われる実力もあったせいで、誰も本心から親しくなってはくれなかったからです。
「ごめん、逆に困らせちゃった? 取り合えず自己紹介しよう。
あらためまして、僕はダイキ。君は?」
この男の子は無邪気に笑っています。
私は、自分の意志とは関係なく鼓動が早くなっているのを感じていました。
「……、アイル」
私は、名前だけ答えるのが精一杯でした。
「そっか、アイル。可愛い名前だね」
私はより一層、顔が赤くなりました。本来は警戒しなければならない初対面の男の子に、私は間違いなく惹かれていました。
「ここは、どこ?」
私は、自分から質問することで何とか自分を落ち着かせようとしました。
「ここは僕の家だよ。今は僕のベッドに寝てもらってる。申し訳ないけど他に布団がなくて」
!!!
男の子の部屋にいるの?
しかも、この男の子のベッドで寝ているの?
私の事を、お花畑とか恋愛脳とか馬鹿にしたければすればいい。憧れてはいたけれど、恋人になりそうな男の子どころか、女友達すらいなかった私に耐えられるわけがありませんでした。そんなキャパシティは私にはない!
「大丈夫? さっきから顔が赤いけど?
僕の回復魔法は完璧だったと思うけど、ちゃんと人にするのは初めてだったし、もしかしてちゃんと効いてなかった?」
私は全力で首を横に振りました。
「大丈夫。ちょっと緊張してるだけ」
本当はちょっとじゃないけど。
「そっか、それなら良かった」
男の子は優しく笑いました。
吊り橋効果とでもいうのでしょうか? 自分の危機を助けてくれたから、彼のことを王子様のように見てしまっているのでしょうか?
「取り合えず、話は出来る?
僕もまさか草原で女の子を拾うとは思ってなかったから、状況がわからなくてさ」
私は、取り合えず首肯しました。
「じゃあ、最初の質問だけど、アイルちゃんは何で、草原に血まみれで倒れていたの?」
!!!
いきなり核心を突かれて思わずビクっとしてしまった。
「言いにくいようならムリに言わなくてもいいよ」
「いえ、ダイキ、、、くん、は私の命の恩人です。お話します。
私のフルネームはアイル=ダルム。ダイン王国現魔王、ジョルジュ=ダルムの娘です」
ダイキくんは驚いた表情を浮かべた。
「ダイキくんは魔族について詳しいですか?」
ダイキくんは首を横に振った。
「魔族は基本的に強さを第一と考えます。そのため、魔王とはその国最強の者の称号でもあるのです。
つまり世襲ではありません。10年に1度の御前試合で優勝した者は魔王への挑戦権を獲得でき、その権利を行使し、魔王認定戦に勝利すれば、そのものが新しい魔王になれるのです。
世襲ではありませんが、血筋というものは存在していて、私のお祖父様が先代魔王でした。そして、現魔王であるお父様の血を引く私も時期魔王筆頭と呼ばれるほどではあるのです」
私は一旦息を吐いた。
「それを快く思わない方も当然いらっしゃる。それが私の叔父で、お父様の弟であるドルドゥ=ダルム公爵です。お父様は現在、病を患っており、次の魔王認定戦は辞退するつもりです。
つまり、次の御前試合は優勝した者がそのまま魔王になれるのです。順当に行けば、軍の大将でもある叔父様になるでしょう。しかし、私は12歳ながら王国で5本の指で数えられています。私が成長して実力が及ばなくなることを懸念した叔父様は今のうちに私を亡き者としようとしたのでしょう」
私は叔父様を思い出し、悲しくなった。昔は可愛がってくれていたのに。
「叔父様にお父様の病を治せる可能性がある薬草の話を聞き、魔の森へ入ったのです。それが罠とも気付かず。
そして、王国魔法使い最強と言われるアンサッス様の部隊に囲まれました。いきなり魔法による攻撃を受けましたが、直撃を避けた私は一命は取り留め、何とか逃げていたのです。」
私が説明していると、なぜかダイキくんはテンションが上がっていきました。
「そのダイン王国って、2000年前の魔王ガルム=ダインが作った国?」
「はい。その通りですが」
「そっか。じゃあ、アイルちゃんはその子孫なの?」
「はい。直系ではありませんが血の繋がりはあります」
ダイキくんはうれしそうに頷いている。
「そういえば、私を追っていたアンサッス様達は私を見失ったのでしょうか?」
「いや、リビングでお茶でも飲んでるんじゃないかな?」
「えっ?」
「どうかした?」
「なぜ、お茶を?」
「う〜ん、僕が倒して取り合えず連れてきたからかな。取り巻きは逃げちゃったけどね」
ダイキくんは何を言っているのでしょうか? 魔法だけなら叔父様もお父様も上回ると言われるアンサッス様を倒した?
「じゃあ、リビングに移動しようか」
「は、はい」
混乱していますが、とにかくダイキくんの後を追いました。
リビングでは、本当にアンサッス様が他3人の執事服姿の男性とお茶をしていました。
私に気付いたアンサッス様は慌てて私に跪きました。
「アイル様、この度は誠に申し訳ありません。謝って済む問題でないことは百も承知しております。ですが、しばし生き永らえさせてはいただけないでしょうか」
「えっ?」
私はさらに混乱してしまいました。あんなに傲岸で、私の事も見下していたアンサッス様が。
そして、アンサッス様はダイキくんに向かって頭を下げました。
「ダイキ様、どうかあなた様にお仕えする事を許していただきたい」
!!!
アンサッス様が自分から仕えることを志願しています。
叔父様に従っていたのも国家に縛られず自由に出来るからで、ご自身も次期魔王の座を狙っていたはず。
「コウ、シュン、サン。どうしよっか? 少しは話たんでしょ? どう思う?」
「この者の忠誠は確かでしょう。そして鍛えれば以前の我々程度にはなるかと。
また、我々は下界には疎いゆえ、下界の者を配下に付けることは利があるかと」
燃えるような赤い髪の男性がダイキくんに言いました。この人の発言が正しければ、この3人はいずれもアンサッス様よりはるかに強く、そしてダイキくんはその3人を従えてることになリます。
「シュンとサンも同じ?」
「は。私もコウに同意します」
「僕も同じです」
金髪の男性と青い髪の男性も同意を示しました。同じようにダイキくんを上に見ているようです。
「じゃあ、アンサッスさんを仲間にしよう。その代わりがっつり鍛えるから覚悟してよね」
「は。ありがたき幸せ」
アンサッスさんは、見たこともないほど目を輝かせています。
でも、3人の男性はすごく可哀相なものを見るようにアンサッスさんを見ていました。
「アンサッス、死ぬなよ」
「え? コウ殿、それはどういう?」
「私達3人が何度死にかけたことか。下界の常識は知らんが、明らかに訓練の域じゃなかった」
「コウ、心外だな。君達を思ってのことだったのに」
2人も激しく頷いています。アンサッス様は顔が青ざめていました。
「そい言えば、アイルちゃん」
「は、はいっ!」
「次の御前試合って、いつ?」
「3年後ですが」
「そっか、じゃあその時は15歳だね。僕も同じなんだ。この世界は15で成人って聞いてるから、僕は15になったら山を降りて下界を見て回ろうと思ってたんだ。
アイルちゃんが良ければ、それまで僕が鍛えてあげるよ。御前試合くらい楽勝で勝たせてあげる。その代わり魔族の国を色々見せて欲しいな」
突然の申し出に私は言葉が出てきませんでした。
「是非、そうなさいませ。ダイキ様やこのお3方の魔法は魔族の魔法の遥か先にいらっしゃる。
この繋がりは決して無駄にしてはいけません」
アンサッス様が必死に訴えてきたのです。
お父様とお母様には心配をかけることになるけど、戻っても城で1人で過ごすだけなら、ここでダイキくんと過ごした方が楽しいかも。
私は意を決しました。
「ダイキくん。お願いできますか?」
「喜んで」
ダイキくんはニッコリ笑いました。
「じゃあ、これからのこともあるし、2人をお父さんに紹介するね。付いて来て」
そう言って、ダイキくんは家の外に出て行きました。
「2人とも、主様のお父上の事は聞いてないな」
「はい」
「気をしっかり持っておけ」
???
私とアンサッス様は顔を見合わせました。
そして、私達も家の外に出ると、
30mを超えるドラゴンがいたのです。
「やぁ、2人とも、これが僕のお父さん」
私とアンサッス様はそこで気を失ってしまいました。