幕間006 エルフの姫、復讐の鬼と化す。けれど……
■アウム神教国
「あああ〜、魔族の□□□□□□どもが!」
グビグビ。
エルフの姫は荒れていた。
とても姫が使ってはいけないような汚い言葉すら発してしまう程に。
「……もう空なの? 早く次を持ってきなさい」
まわりにはワインの空瓶が10本は転がっている。
「姫様、この辺りでお止めになった方が……」
「えぇ!?」
「ひっ」
「いいから持ってきなさい!」
「は、はい! ただ今!」
コンコン
ノックの音が聞こえるが、エルフの姫は返事をしない。
どうせヒト族の教皇グレゴリオ8世に決まっている。
小言は散々聞いたはずが、今更何の用か。相手にしたくない。胸中を推し量るならそんな所だろう。
ぎ〜
扉が開き、教皇グレゴリオ8世が部屋に入ってきた。
「おうおう、荒れておるの」
「何の用です?」
「そう邪険に扱うな」
エルフの姫は教皇を睨みつける。
「此度の戦い、我らの被害は甚大であった。ついてはしばらくは魔族への侵攻を取り止めようと思う」
「何ですって!?」
「エルフ側も多くの魔術士を失ったはず。我が聖騎士隊に関して言えば、大隊が5つも壊滅したのだ。その上、勇者2人も復帰の目処が立っておらん。加えて先日も魔王に精神を掴まれた闇の勇者を旅立たせたばかりであるしな」
「まだ、火の勇者がいるでしょう?」
「ホムラ・ジングウジ、か。あやつが此度の作戦に反対していたのは知っておろう? それを強行したのは姫、あなたではないか? そのホムラが出兵に応じるとでも?」
「そうさせるために隷属魔法をあなたに教えたんじゃない!」
「しかしな、もし万が一ホムラを失うことにでもなれば、事実上我が国に勇者が1人もいない状態になってしまう。隣国のインガイア王国は、嘘か誠か第8の勇者を召喚したと言っておる。隙は見せられん」
「勝てばいいのでしょう?」
「おや? 何か策がお有りですかな?」
「……」
姫は黙るしかなかった。教皇は、暗にお前の策が大失敗したばかりだが、と言っているのだ。
必勝の策で望んだはずが、蓋を開けてみれば大敗。
今の姫に今度こそ間違いなく必勝と言える策はなかった。
「では、お伝えしましたぞ。魔族側も龍ヶ峰を奪還して以降、動きを見せておらん。暫しの間は事実上の休戦だ。
次に動くのは勇者2人が回復してからとする。では」
教皇グレゴリオ8世はそれ以上の反論を許さずに退出して行った。
バリン!
「はぁ、はぁ」
姫はワイングラスを床に叩きつけ、血管が切れるのではというほど激しい形相となっていた。
「……あの狸じじい。全ての責任を私に押し付けるつもり?
こうなったら私達だけでやるしかないわ」
エルフの姫は、復讐を誓った。
先に手を出しておいて、返り討ちにあったから復讐という思考が、そもそもズレているのだが、姫は気付かない。
「一旦国に帰るわよ。秘匿していたドワーフ製の武器を全部出すよう伝えなさい!」
「は、はいぃ!」
姫は次の日、復讐の炎を胸に国に帰って行った。
だが、姫は気付いていない。
いくら姫が復讐に燃えて1国で魔族に当たったとしても、魔王ダイキにとっては駄々をこねる子供をあやす程度の事すらもないという事に。
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■ダイン魔族連合王国
「なんか、最近よく龍ヶ峰の麓で爆発起こってない?」
「はい。エルフが侵入を試みてトラップにかかりまくっているのかと」
「あ、そうなの?」
「ヒト族は一旦手を引いたみたいだけどエルフは諦めてなかったんだね。
勝手に自滅してくれてるなら楽でいいよね。
とっとと諦めて帰ればいいのにね」
「そうですね」
「あ、紅茶のおかわりもらえる?」
「かしこまりました」
コンコン
「!!!」
「失礼します。あれ、魔王様は? 確かにいたはずですが?」
「アイル、お前がノックした瞬間にお逃げになられた」
「はぁ〜、魔王様。
しかしノックはしない訳にはいきませんし、何か考えなくてはいけませんね」
「……、紅茶でも飲んでいくか? 魔王様の為に淹れたのだが、お逃げになられたのでな」
「良いのですか? 頂きます」
「……、コウ様、美味しいです」
「それは良かった」
今日もダイン魔族連合王国は平和だ。
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