036 僕、暗躍する
「やっぱりこうなっちゃったか〜」
僕は、旧ダイン王国の王城の執務室から空間魔法を応用して戦況を見守っていた。
いざとなったら応援に行けるよう、ポルン達には黙って軍に準備もさせていた。
「でも、大丈夫だと思うけどね。
プランがBに移っただけだし」
ポルンが指示を出したね。ドっさんがタバコを吸い出したよ。
ちゃんとプランBに移ったみたいだね。
このタバコは、以前エリオさんに渡したヤツの別バージョン。
こないだのもそうだけど、いきなり召喚されても召喚される側の状況もあるしね。
だから、タバコの火が付いたら準備開始の合図、火が消えたら召喚ってことになってるんだよね。
ただ、今回召喚されるのは、ドワーフに融通してもらった特性の魔導爆弾。
威力が馬鹿高い代わりに、動作を開始してから爆発するまでに時間がかかるんだよね。
だから、今頃は科学省の人達が冷や冷やしながら爆弾のスイッチを押してるはずだよ。
タイミング間違えたらこっちで爆発しちゃうからね。
でも、いっぱい練習させたから大丈夫でしょ。
あ、今押したね。
しかも今回はタバコ1本で今回の作戦に関わった人を全員不戦の草原に飛ばして、代わりに人数分の爆弾をプレゼントすることになってるんだよね〜。
それで、爆発の後に再度強襲するってわけ。
「いや〜、楽しみだね。ねぇ、コウ、シュン、サン」
「主様は敵に回したくありませんね」
「本当に」
「裏をかいたつもりで調子に乗ってたら、ボンってなるんですよね? 流石にちょっと同情しちゃいますよ」
「カウントダウンしちゃおっかな」
今も、頂上ではエルフの高笑いが聞こえている。
後1分後、どんな顔してるかなぁ。
「でも、ヒト族の兵士達は可哀相だよね。完全に捨て駒にされてるわけだし」
「じゃあ、僕が行って食ってきましょうか?」
「良いねそれ! じゃあ、10秒前からカウントダウンするからさ、5秒前に飛んで、5秒以内に食って戻ってきてくれる?」
「わかりました」
「じゃあそろそろだよ。
10、9、8、7、6、5、」
「では」
「4、3、2、1、ドーン!」
「サン、お帰り」
「ポルン達を驚かせちゃいましたね。ですが、タイミングバッチリみたいで良かったです」
「どれどれ」
うわ〜、麓は完全に壊滅してるね。
「山頂はっと」
エルフのヤツ、龍ヶ峰に張ってた結界を自分だけ守る結界に切り替えたな。
1人だけほぼ無傷か。
勇者2人は頑張ったみたいだけど、まともに戦うことは出来なそうだね。
うわ〜、3人とも凄い顔してる。
ウケる〜。
「これならポルン達だけで楽勝だね。
あ、転移の魔道具で逃げちゃった」
まあいっか。
あとは、ポルン達が手筈通り龍ヶ峰に結界を張ってくれればオッケーだね。
「サン、謁見の間でさっき食ったヒト族を出してよ。
貴重なヒト族だし、この際仲間にしちゃお。
折角だし、みんな集めよっか」
「主様、悪い顔をなされております」
「おっと、でも今日ばっかりはこの顔を直せないかも」
そうして、謁見の間に国の重鎮を武官も文官もみんな集めた。
僕は玉座に座っている。偉そうだから普段はあんまり好きじゃないけど、こういう時は雰囲気って大事だしね。
いや〜、僕がヒト族の兵士の立場だったら失神しちゃいそう。
魔族の重鎮勢揃いはそれくらい凄い緊張感と圧力があるよ。
「サン、じゃあ出して」
「は」
サンがペッとヒト族の兵士達を吐き出した。
「ん? ここは、え?」
ヒト族の兵士達はみんなメドゥーサに睨まれた後のようにピクリとも動けない。
「ようこそ魔王城へ」
僕は少し威圧しながら語りかけた。
「「「「「っ!!!!!」」」」」
「君達は不遜にも龍ヶ峰を占拠していたわけだ」
ヒト族の兵士達はブルブルと震えだし、多くの者が股間を濡らしていた。
「しかし、今回の戦いで我らは龍ヶ峰を奪還した」
「「「「「っ!!!!!」」」」」
驚いてるね。彼らからしたら、勇者とエルフによって形勢逆転したと思ってるだろうからね。自分達が捨て駒になったことによってね。
「君達は捕虜というわけだ。
ただし、そもそも君達は捨て駒にされていた。それはわかっているね?」
恐る恐ると行った感じでみんな頷いた。
「本来僕達はヒト族ともエルフ族とも敵対するつもりはなかった。でも龍ヶ峰を奪われ、邪竜様を討たれて黙っていられるわけはない。わかるね?」
思わず威圧を強めてしまったせいか、みんな首肯することも出来なくなっていた。
危ない危ない。これ以上強めたら本当に失神させちゃうとこだった。
「しかし、龍ヶ峰は取り返せたわけだ。そこで、捨て駒にされた君達にはいくつかの選択肢をあげよう。
一つ、この場で自害する」
「「「「「っ!!!!!」」」」」
「一つ、いくつか条件はあるが、解放し、国に帰る。ただ、捨て駒にされた君達が国に帰って無事でいられるかまでは知らないけどね。」
「「「「「っ!!!!!」」」」」
「一つ、我らに寝返る。この場合、叛逆出来ないように魔法で縛りはするけど普通に生活できることは約束しよう」
「「「「「っ!!!!!」」」」」
「さあ、選べ」
あ、みんな威圧のせいで動くことも出来ないのか。
「皆の者、一旦威圧を解け。この者達に発言の機会を許そう」
「「「「「は!!!!!」」」」」
「はぁ、はぁ、ぜぇ」
みんな過呼吸みたいになってるな。
おや、唯一股間を濡らしてなかったヤツが片膝を付いて礼の姿勢をとったよ。
「魔王陛下、ご拝謁賜り、恐縮の至りであります」
「うん」
「さらにはこの度のご温情、感謝の言葉もございません」
「うん」
「つきましては、我らは陛下に忠誠を誓いとうございます」
「ほう」
「しかし、それはあまりにも虫の良い話。私の首を持ってその証とさせていただきたく存じます」
「「「「「っ!!!!!」」」」」
他のヒト族がめっちゃ驚いてる。
こいつは良いな。欲しい。
「わかった。僕自らその首断ち切ってくれる」
そして僕は神剣パールを抜き、一瞬で首を断ち切った。
他のヒト族の兵士達はこれ以上ないという程震えている。
「では、君達は僕に忠誠を誓うということでいいかな?」
全員が首が取れるんじゃないかという程激しく首を縦に振った。
「第六位階闇魔法<裏切りの炎>。
これで君達は裏切った時には地獄の業火で焼かれることになる。
余計なことをしなければ、ヒト族の国以上の暮らしをさせてやろう」
ここでヒト族の兵士達は気を失った。
「ふ〜、まぁ上手くいったかな。どうだった、アイルちゃん?」
「ヒト族を取り込めたことは良かったです。ですが、魔王さま。口調がおかしかったですね?」
「え? あれ?」
「明日からはそこに付いてもしっかり学んでもらいます」
「あれ〜」
おかしいぞ、褒められる流れだったはずなのに。
そして、若干もやもやしながら僕は執務室に戻った。
「サン、出して」
「は」
出てきたのはさっき僕が斬ったヒト族の兵士だ。
「第九位階聖魔法<死者蘇生>」
兵士の体が光り、離れていたはずの首がくっついた。
死んでからそれ程時間が経ってないことと、自分より遥かに弱い者という条件でのみ発動出来る。
強い者程使う魔力が膨大になるため、僕ですらSランクの者は蘇生出来ない。
「あ、あれ? 死んだはずじゃ」
「気が付いた?」
「魔王陛下!?」
この兵士は慌てて片膝を付いた。
「いいよ、楽にして。ここは僕達しかいないしさ」
「は」
「僕さ、君のことが気に入っちゃってさ。あの場では殺したけど蘇らせちゃった」
「っ!!!」
「もちろん他のみんなは生きてるし、言ったように普通に生活させるよ。
君の覚悟に敬意を表して殺したけど、こうして生き返ったわけだし、改めて僕に忠誠を誓ってくれない?
死んだことになってるから大ぴらには出来ない代わりに、僕直属の裏で動くようになって欲しいんだ」
「っ!!!
この身は一度死んだ身。この命は陛下のものであります」
「ありがとう。よろしくね」
こうして僕はヒト族の兵士と裏で動いてくれる人材を手に入れました。
やったね!
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