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033 僕、裏方として頑張ることを決める

「いや〜、いい感じだよね。うん、いい感じ」


 僕は今日、かなり浮かれていた。


「主様、どうなさいました?」

「……、ん?」

「いえ、随分とご機嫌がよろしいようですので」


 僕直属の配下で3執事と呼ばれるフレイムバードのコウが今日も執事服をビシッと着こなし、僕の紅茶を淹れながら不思議そうに僕に投げかけてきた。


「だってさ、ドラゴニュートにオーガにオークがみんな仲間になったんだよ!?

 しかも上位個体も結構いたしさ。

 そりゃテンションも上がるよね」

「左様でしたか」


 そうなのだ。

 先日、外務卿のエリオさんに頼んでいたいわゆる亜人種のスカウトが、思いのほか早く完了したのだ。


 生前にライトノベルやアニメが大好きだった僕からしたら、そのうような種族が仲間になるとか楽しすぎてヤバい。


 しかも、現時点でヒト族の観点からは十分強力なのに、理論的な訓練を全くしていないようだから、鍛えればドンドン強くなるんだよ!?

 楽しみすぎるよ。


「ポルンも順調に育ってるし、軍も全体的に底上げができてるし、ホント楽しいよね」

「ヒト族、エルフ族に対抗する意味でも良い状況かと」

「それなんだけどさ。龍ヶ峰は絶対に奪還するけど、それ以降はこっちからは手を出さずにおこうと思うんだよね」

「やはり、そうなさいますか」

「そうだね。

 もともと僕は自由に生きたくて龍ヶ峰を下りたのに、報復に囚われてたら、むしろ不自由だもんね。

 イェスタくんに気付かされたわけけどさ。ホント、イェスタくんという友達がいて良かったよ」


 カチャ。


 コウはそれ以上は何も言わず、淹れた紅茶を僕の前に置いて後ろに下がった。

 僕はルンルンって感じでコウが淹れてくれた紅茶を飲んだ。


「ん〜、今日も美味しいね」


 最近は、1日の半分をポルンの訓練にあてて、残りは執務室という名のダベり部屋で紅茶を飲んでのんびりしている。

 いや〜、有能な配下が多いと僕は楽できていいよね。


『自由に生きる』という目的を思い出した僕は、積極的に仕事を配下にぶん投げて、自分はゆったりのんびりと日々を生きることに決めたのだ。


 コンコン。


「げっ」


 執務室の扉が開き、大魔総統のアイルちゃんが入ってきた。


「魔王様、お伝えしていましたように、これから会議ですので。

 議場にお越しください」

「やっぱ、僕も行かなきゃダメ? アイルちゃんでよくない?」

「ダメです!!!」

「……、はい」


 こういう会議は一応僕がトップだし、出なきゃいけないんだよね。

 たまにブッチして、後から滅茶苦茶アイルちゃんに怒られるってことも何回かあったけど。


 でもまぁ、今日のは出とかないとダメだよなぁ。議題が「龍ヶ峰の奪還について」って言ってたし。


 僕は、あ〜やだなぁと思いながら紅茶を飲み干して、議場に向かった。


 僕が入ると全員が起立して僕の着席を待った。

 議場には、武官も文官も主だった所がいつものように揃っていた。

 今回はドラゴニュート、オーガ、オークもいるようだ。


 僕は1人だけやたら豪華な椅子に座ってから、右手でみんなにも座るように促した。


「アイルちゃん、じゃあ始めてもらえる?」

「は。今回はヒト族とエルフ族に奪われた龍ヶ峰に関してです」


 議場全体がピリっとした。

 やっぱりみんな、思う所があるみたいだ。


「では、魔王様より今後の方針を賜ります」


 えっ? いきなり僕なの?

 まぁ、そりゃそうか。一旦止めたの僕だしね。


 みんなの熱い視線が集まってる。


「え〜と、もうすぐ龍ヶ峰が奪われて1か月になるよね。

 あんまり長くあいつらに好き勝手させとくのも癪だよね。

 だから、龍ヶ峰の奪還戦を来週決行しようと思う」

「「「「「お〜」」」」」


 議場が暑くなる。

 やっぱみんな早く奪還したいんだな。


「それでなんだけど、この奪還戦は、新戦力のお披露目会にしようと思うんだ」

「「「「「っ!!!!!」」」」」


 議場が静かになった。


「ダイキ様、と言いますと?」


 大魔将軍のセリュジュ・ガーネットさん(元魔王)が聞いてきた。


「つまりね、新たに仲間になったドラゴニュート、オーガ、オークのみんなでやってもらおうかなって」

「「「「「っ!!!!!」」」」」


「し、しかし……」


 この人もこの1か月でかなり強くなったし、セリュジュさん率いる軍もかなり底上げされてるから、自分が先頭に立って戦いたかったんだろうな。


「わざわざさ、強くなった魔王軍の本隊を見せる必要はないでしょ?

 新戦力だけで奪還すればさ、向こうからしたらこんな戦力があったのかって驚きと共に、まだ魔王軍本隊が控えてるのかってプレッシャーも与えられるよね」


 ザワザワ、ザワザワ。


「それに、魔族は亜人を迫害しない。むしろ手を取り合っていくっていうのを世界にアピールしたいんだ」


 ザワザワ、ザワザワ。


「異論のある者はいますか?」


 アイルちゃんが場を進めてくれた。


 これに、全員が黙することで肯定の意を示してくれた。


「では、龍ヶ峰奪還線はドラゴニュート、オーガ、オークによって行うこととします」


 ダンっ!!!!!


 全員が右拳で机を叩いた。


「それでね。この奪還部隊の隊長はポルンに任せようと思う」

「「「「「っ!!!!!」」」」」


 ザワザワ、ザワザワ、ザワザワ、ザワザワ。


 さっきよりも騒がしくなった。

 当のポルンは目を丸くしている。


「ダイキ様、それならば私に任せてもらいたい」


 やっぱセリュジュさんは自分で取り返したいんだな。


「それはダメだよ。本隊の力は隠すんだから、セリュジュさんとか1番出ちゃダメでしょ?」

「それは、そうだが。ならばなぜポルンなのだろうか?」


 僕はニヤリと笑って答えた。


「僕は新戦力のお披露目って言ったよね?

 だから、これまで軍に所属してなかったポルンに任せたいんだ」


 ザワザワ、ザワザワ、ザワザワ、ザワザワ。


「それにポルンは孤児院出身ていうのはみんな知ってると思う。

 過魔力蓄溜症だっただけ、孤児院にいただけでこんな戦力が埋もれてたんだよ?

 アンサッスさん、今のポルンてかなり強いよね?」

「は。魔王様がお鍛えになる前の時点で、魔族内で上位20には入るほどであったかと」

「だからさ、今後もポルンみたいのを取り立てていくつもりだし、その意味でもここでポルンに活躍の場を与えるのは重要だと思うんだ」


 場が静かになった。

 こういう時はみんな理解してくれた時って場合が多い。


「では、龍ヶ峰奪還戦の隊長はポルンとします」


 ダンっ!!!!!


 みんな同意してくれた。ポルンはオロオロしてるけど。


「セリュジュさん、あと1週間でポルンに隊の上に立つ者としての気構えとか教えてあげてもらっていい?」

「は!」


 ポルンも意を決したように真剣な眼差しになった。

 よしよし。


「あと、もう1個言っとこうと思うんだ」


 また、場が緊張した。


「今後はさ、僕は極力表には出ないようにしようと思うんだ。

 もちろん会議とか、国の行事とかは出るけどね?」


 ザワザワ、ザワザワ、ザワザワ、ザワザワ。

 また騒がしくなっちゃったな。


「それは、何故でしょうか?」


 今度はエリオさんが聞いてきた。


「今回みたいにさ、常にさらに奥っていうのを用意しときたいんだ。ドラゴニュート、オーガ、オークの奥にはさらに魔王軍本隊がいて、その更に奥に魔王(ぼく)がいる、みたいな。

 常に相手に対して優位にたちたいからさ。みんなには僕を最後の切り札として扱ってほしい」


 場は静かになった。


「僕が出るのはあくまで最終手段。

 でもさ、みんな出来るよね? 僕まで出番を回さないでね」


 ダンっ!!!!!!!!!!


 今日一番の音が響いた。


 良かった。今日はこれを通したかったんだよね。

 これで、僕は楽できるね。


 ぱっとアイルちゃんを見ると満面の笑みだ。

 ……、嫌な予感がする。


 この後、いくつか議題があったけど、僕は適当に相槌を打って終わった。


 翌日、僕がいつものように執務室でダベっていると、


 コンコン


「げっ。

 コウ、今日は会議なかったよね?」

「なかったかと」


 扉が開いて、アイルちゃんが入ってきた。


 大量の書類と共に。


「あの〜、アイルちゃん?

 その大量の書類は?」

「もちろん、魔王様に目を通してもらうためのものです」


 アイルちゃんは満面の笑みでそう答えた。

 いや、ニコっじゃないよ。


「僕の出番をなくすって話したばっかだと思うんだけど……」

「確かに魔王様は表に出ないと仰しゃいました。

 ですので、裏で出来るお仕事を厳選して持ってきました」


 なんでだよ〜!!!


 僕の心の叫びは虚しく響き、

 結局、むしろ仕事が増えてしまったのでした。

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【世界最大の敵の元魔王、現在はウエイター見習い 〜人間の領地を侵攻中の魔王が偶然出会った町娘に一目惚れした結果、魔王軍を解体してそのまま婿入りしちゃった話〜】

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