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032 おい、魔王様の麾下に加わる

「あいつか」


 この魔王さんがダスを見据えた瞬間、ダスが恐れを表情に出して逃げようとしおった。


「第十位階闇・空間複合魔法<絶対拘束(リストリクション)>」


 魔王さんが冷たく言い放った瞬間、

 ダスの手足と胴体、首に真っ黒な禍々しい鎖が巻きついておった。

 しかも十位階じゃと?

 さらに複合魔法?

 聞いたこともないわ。

 おいの額には冷や汗がにじんどった。


「そう何度も逃すと思うなよ」


 おいまで寒くなる様な冷たい声が響いた。


「その前に、と。

 第九位階聖魔法<広範囲浄化(プリフィケィション)>」


 おいも含んで全員が光に包まれおった。

 なんじゃ、あったかいのお。


 ドラゴニュート全員の体から薄黒い靄みたいなもんが抜けていった。

 すると、頭が急にスッキリしたようじゃ。


「なんで、おいは魔族が敵じゃと思い込んどったんじゃ?」


 親父もムス爺もあたりをキョロキョロ見渡しながらなんとも言えん渋い顔をしとる。


「さてと」


 魔王さんは転移したんかダスの前におる。

 魔王さんはダスの頭を雑に掴みおった。


「やっぱ、お前か。

 懲りないと言うか。

 ホント何でいく先々で僕の邪魔ばっかするかな?」


 なんじゃ? 魔王さんはダスを知っとるんか?


「魔王様はダスを知ってるんじゃない。

 ヤツに取り憑いている闇の勇者のことを仰ってるんだ」

「おまい、エスパーか?

 勝手に心を読まんでくれや」

「ふん、お前は顔に出過ぎだ」


 おいは思わず自分の顔を触った。

 そんな分かりやすいかのお。


「ああ、分かりやすいぞ」

「そんなか!?」

「そんなだ」


 よっし。気を付けようかの。


「無理だな」

「…………、」


 やっぱ、こいつがエスパーなんじゃないんか?


「ぐ、ぐあああああああああ!!!」

「ダス!?」


 おいはダスの方を慌てて振り向いた。

 魔王さんの手の隙間から見えるダスの顔は苦悶の表情を浮かべておった。


「しっかし、アウム神教国は勇者を何だと思ってるんだろうね。

 必要な情報は手に入れたけど、お前は帰さないよ」

「ぐ、ぐ、うううううううう」

「無駄だよ。この鎖は絶対にお前を逃さない。

 前みたいに無理やり接続を切るとか出来ると思うなよ」


 魔王さんは相当怒ってるようや。

 さらに温度がぐっと下がったようや。


「ぎゃあああああああ!!!!!」

「何!?」


 ダスが急にぐったりしおった。


「ダス!?」


 ダスは動かん。


「おい、エリオ!? ダスは大丈夫なんか?」

「おそらくな。魔王様は同じヘマを繰り返すお方じゃないからな」


 つまり、何度かヘマをしたってことか。


 魔王さんがえらい苦い顔をしとる。


 魔王さんはすぐにその表情を仕舞うと、何やらブツブツ言いおった。


 そうすっとダスの体が光り出した。


「くはっ!!!」

「ダスっ!!!」


 ダスは何が起こったかわからないという表情でキョロキョロしとる。

 何にせよ、無事じゃったか。


「君、意識ははっきりしてる?」

「え? あ、はい」

「名前は?」

「……、ダス」

「じゃあ、ここ最近の記憶はある?」

「え? えーっと、……、ない?」

「そっか、多分ずっと思い出せないから、気になるなら周りの人に聞いてね」

「は、はい」


 魔王さんはムス爺の前に歩いて行った。


「あなたが長老さん?」

「は。左様です。魔王様」

「あなたは、記憶、あるよね?」

「っ!!! は」


 ムス爺が震えとる。


「どう? 今も魔族と敵対したい?」

「いえ、滅相もありません!!!

 本来、我らは貴方様方にご恩こそあれ、敵対する意思ははありません」

「僕は、こないだ魔王になっちゃったんだけどさ、ドラゴニュートとか亜人って呼ばれてる種族に是非仲間になって欲しいんだよね。

 もう魔族内で迫害も差別もないよ。もしあるなら僕が許さないからさ。

 都市部に住めるとこも用意するし、仕事も用意するよ。ただ、戦える人は軍に入って欲しいけどね」

「もう隠れ住む必要はないと?」

「もちろん。

 ちなみに、僕が死んだ後に次の魔王がひっくり返しちゃうかもっていうのが心配かもしれないけどさ、たぶんだけど、僕あと200年くらい生きれそうなんだよね。

 だから、当分の間は大丈夫だよ」


 ムス爺は涙を浮かべとる。


「ありがとうございます。一族は魔王様に従います」


 ドラゴニュートも全員が跪いとった。

 もちろんおいもじゃ。


 今ならエリオの言っとったことがよう分かるわ。

 この魔王さんはモノが違う。

 強さはもちろんじゃが、とにかくこの人の元ならえっらい楽しそうじゃ。


「エリオさん、後の調整はお願いね」

「は」


 魔王さんが転移しようとしおった。


「待ってください!」


 おいは思わず、魔王さんの前に出て、そこで跪いたんじゃ。


「魔王様、里の皆をお救い頂き誠にありがとうございます。

 お力もさることながら、その深いお考えに感服いたしました。

 私を貴方様の麾下に加えていただけませんでしょうか?

 必ずやお役に立ってみせます」

「お、早速!?

 いいよね。エリオさん?」

「その者は十二分にお役に立つかと」

「じゃあよろしくね」

「はっ!」

「役職とか配属とかは後日決めるよ。とりあえず、エリオさんの下について他のみんなと一緒に護衛任務をやってもらえる?

 エリオさんはこれからオーガとオークのとこにも行かなきゃ行けないしさ」

「畏まりました」

「そうだ、名前はなんていうの?

 僕はダイキ」

「私はドサと申します」

「じゃあ、ドっさんだね。

 でも、良かったよ。ここに転移した時からドっさんは絶対仲間にしたいと思ってたからさ」

「過分なお言葉、恐悦至極であります」

「とりあえず、よろしくね。

 エリオさん、頼んだよ。

 早く帰らないとまたアイルちゃんにドヤされるからさ。

 じゃあね」


 魔王様は転移していなくなった。


 ふとエリオを見るとえらい渋い顔をしとる。


「お前、ちゃんと話せるんじゃないか」

「話せんとは言っとらん」


 ゴン!


 エリオにどつかれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 その後は、エリオと長老達での話合いが行われた。


 全員が魔族の都市に住む場所をもらう。

 戦士は軍に所属する。

 他の者はそれぞれ仕事をもらう。


 魔王様が仰ったことを確認した形じゃ。


 エリオはこの後オーガの隠れ里とオークの隠れ里に向かい、ドラゴニュートと同じようにするつもりじゃから、実際の動きはその後になるようじゃ。


 この日、魔族とドラゴニュートは友好を結んだ。

 それはなくても、おいは魔族に付くがな。


 話合いの後は里をあげての宴会になった。


 おいは1人で酒を飲みながら今後の魔族との活動に思いを馳せておった。


「おいはこの時代に生まれてよかった」


 少し前、魔王様が魔王になる前の時代に生まれていたら、ずっと里で燻っていたんじゃろう。


「今日は酒が美味いのお」


 ガサ、ガサ。


「ん、……ダスか」


 ダスはいきなり頭を地面に擦り付けおった。


(かしら)、すんません!!!」

「気にすんな。お前も操られとったんじゃ」

「でも、おいはなんてことを」

「…………、ダス。おいは今でもおまいをおいの右腕じゃと思っとる」

「っ!!!」

「これからも付いてきてくれるか?」

「こんなおいを、許してくれるっちゅうんですか?」

「言うたじゃろ? 気にすんな」


 ダスは大泣きして何度も謝ってきおった。


 なんじゃ、止めいや、せっかくの美味い酒がしょっぱくなったじゃないか。


 この日の宴会は夜明けまで続いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「じゃあ行くぞ」


 エリオは長老と握手を交わしてから、おい達に向かってそう呟いた。



「しっかし、おまいは元気じゃのう。昨日も一昨日も一睡もせんとずっと飲んどったじゃろ?」

「ふん、それくらい出来ないでどうする」

「ベリル、おまいも出来るんか?」

「まさか。エリオ様もバケモノっすよ」

「お前らがだらしないだけだ」


 一行はみんな苦笑いじゃ。

 こうしておい達はオーガの里に向かった。

 この中にはダスも一緒じゃった。



 オーガの里はおい達が近づくと大慌てじゃった。

 最初はいきなり戦闘になったんじゃ。


 それをベリルが1人で無力化しおった。

 やっぱこいつも十分バケモノじゃな。


 そうすっとオーガの族長が出てきた。

 こいつは強いのお。

 他とは明らかに違ごうわ。

 どうやらオーガキングとかいう上位個体っちゅうことじゃ。


「ほお、誰も殺しておらんのかい。

 お前かいな。おもろいな」

「どうも」

「あっしとタイマン張って立ってられたら、話くらい聞いてやろうかい」


 このオーガキングはやっぱ強いのお。

 ベリルとほぼ互角じゃ。

 じゃが、ベリルはオーガキングを殺さんように手心を加えとる。


 それはオーガキングも察しとるようじゃ。


「お前強いな。

 この技を最後にするよ。耐えられたら、お前の勝ちだよ」

「来な」


 とんでもない超威力の打撃じゃったが、ベリルは真っ向から受け切りおった。


「ガハハハ、お前の勝ちだよ」


 そして、エリオが交渉してオーガを引き入れた。


 この日はオーガの里中で宴会じゃった。

 エリオはこの日も最後まで飲み続けとった。

 オーガキングすら酔い潰すとか、ほんにこいつの肝臓はどないなっとんじゃ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 オークの里に向かう一向には、オーガキングの息子とその取り巻きが3人加わった。

 この息子も種族はオーガキングっちゅうことじゃ。

 なんとも心強いのお。

 じゃが、おいは何もしとらん。


「エリオ、オークとも戦闘になったら、今度はおいにやらせい」

「ふん、まあいいだろ。

 ただし、負けるなよ」

「当たり前じゃ! おいを誰じゃと思うとるんじゃ」


 おいはやる気マンマンじゃ。



 オークの里に着くと、いきなりオークは全面降伏してきおった。


「なんでじゃあ!? 戦わんかい!」

「「「「「ひいっ」」」」」

「やめろ」


 ゴン!


「痛いのお。なにすんじゃ!?」


 エリオが拳骨しおった。

 なんかしらんがこいつの拳骨はえらい痛いんじゃ。


「戦わなくて済むなら、それにこしたことはないだろうが」

「しかしのお。おい、何も役に立っとらんし」

「ふん、お前は十分役に立っている」

「???」


 ほんに何もしとらんぞ。


 ベリルが耳打ちしてきおった。


『ドサの旦那はドラゴニュートっすからね。オーガやオークにとってはより上位の存在。それが魔族に従ってるだけで、十分向こうからしたら脅威なんすよ。

 何もしなくても、存在自体が役に立ってるってわけっすよ』

『ほうなんか?』

『そうっすよ』


 どうやら役に立っとったらしい。

 でも、やっぱおいも暴れたいのお。



 オークとの交渉はえらいすんなり済んだ。


 そしてこの日もやっぱり宴会じゃ。

 オークの中には上位個体のハイオークが5人おった。

 エリオは5人纏めて酔い潰しとった。


「…………、」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 こうして、おい達はハイオーク3人を加えて魔王様のおる都市に戻ったんじゃ。


 魔王様はえらいはしゃぎっぷりじゃった。

 おいも含め、亜人全員と握手を交して声を掛けてくださった。


 特にハイオーク達はガチガチに緊張しとったが、えらい感激しとるようじゃった。


 全員と声を交わした後、魔王様は満面の笑顔でおい達に語りかけてくれたんじゃ。


「みんな、これからよろしくね」

「「「「「は!!!」」」」」


 おい達は魔族と仲間になったんじゃ。

 そいで、一緒に仲間になった亜人達とは特に仲良くなったんじゃ。


 共に忠誠を誓い合ったおい達は、魔族の発展に全力を尽くしていくことになるんじゃ。


ほんにこの時代に生まれて良かったわ。

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【世界最大の敵の元魔王、現在はウエイター見習い 〜人間の領地を侵攻中の魔王が偶然出会った町娘に一目惚れした結果、魔王軍を解体してそのまま婿入りしちゃった話〜】

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