031 おい、里中から包囲される
「ギャハハハ、ほんに愉快じゃ」
おいは、魔族の一行との飲み会の場を離れ、ドラゴニュートの里に向かった。
里の入り口に着いたが、見張りがおらん。
「なんじゃあ、不用心すぎんか?」
おいは不審に思いながらも里の中に入った。
「誰もおらんの。
この時間なら1人くらい外に出とろうもんじゃが」
おいはひとまず家に向かって歩いた。
家に行けば親父はおるじゃろ。
その途中、村の中心の集会場に差し掛かったとこで、大規模な魔力の動きを感じたんじゃ。
「なんじゃあ?」
急においの下に魔法陣が浮かんだ。
そして、突然体の力が抜け、おいはしゃがみ込んでしもうた。
「くっ、力が入らん」
どういうことじゃ、魔族の連中がなんぞしてきたんか?
いや、あいつらが、エリオがそんなくだらんことするわけがないわ。
そして、親父や長老達を始め里の重鎮達と、村の戦士達がおいを囲むように姿を表した。
「おまいは魔族の手先じゃったんかぁ!!!」
「はぁ? 何を言うとんがじゃ!?」
親父がいきなり訳わからんことを言い出しおった。
「肌の色の違いはそう言う訳じゃったか。のお、ドサよ」
「ムス爺。おまいも何を言うがじゃ」
最長老であるムス爺まで訳わからんことを。
「おまいが魔族の連中と楽しそうに酒盛りをしとったんわわかっとるんじゃ!!!」
「親父、それが何で魔族の手先に繋がるんじゃ?
おいは魔族に会うたのは昨日が初めてじゃ」
「黙れ! ただでさえおまいは里の和を乱しとるんじゃ! 我慢もここまでじゃ!」
「待ってくれや親父! おいが里に何をした言うがじゃ!?」
親父はこの時、ゴキブリでも見るかのような目でおいを見てきた。
「…………、親父」
なんでじゃ! 昨日までは、確かに遠ざけられとったが、こんな仕打ちをされるようなことじゃなかったんじゃ。
「構えよ」
親父は右手を挙げ、指示を出しおった。
おいを取り囲む戦士達が手に魔力を込めよる。
「親父、話を聞いてくれやー!!!」
親父はもう一度さっきの視線をおいに向けると、
「放て」
挙げた右手を振り下ろした。
巨大で無慈悲な火の玉が其処彼処からおいに向かってきた。
「くっ」
ダメじゃ、動けん。
火の玉が目の前に迫ってきた。
「エリオ、すまん」
おいは目を閉じた。
『御免!!!』
ギャイーーーーーン!!!!!
けたたましい音が鳴った。
音が鳴り止んだ時、おいは目を開けた。
いや、開けれた?
おいの目の前には、
魔族の男、確かベリル・おり……なんちゃらが立っておった。
「おまい」
「ドサの旦那。何を勝手に向こう側に行こうとしてんすか?
あんたはエリオ様と一緒に魔王様の元に行ってもらわな困るんすよ」
「おまい! 誰じゃ!!! おまいが魔族か!!!」
親父がわめき散らしとる。
「そうだ。ドサの旦那をここで失うわけにはいかないんでね。少しばかり手を出ささせてもらった。しかし、貴殿らと敵対する意思はない!!!」
「黙れ! 魔族が何をほざきおるか!!!」
親父には最早言葉が届かんのか。
この時、強大な気配がいくつも近づいてきた。
しかも、中に1つバケモンみたいなのがおる。
エリオを中心に魔族の一行が若い衆を引き連れて集会場にやって来た。
「エリオ、おまい」
親父達はあっけに取られとる。
「アルバ」
「は」
魔族の魔術士がその瞬間、おいの横に転移して来おった。
そいで、手に持つ杖で魔法陣をカンと叩いた。
パリン!
魔法陣が割れおった!?
「お、動けるぞ!?」
「行くぞ」
「あ?」
その魔術士はおいを強引に掴むと、おいはエリオの横におった。
また転移したんか。
おいは立ち上がってエリオに頭を下げた。
「エリオ、すまんかったのお。助かったわ」
「ふん、お前に死なれちゃ俺が困るからな」
こいつにはほんに頭が上がらんの。
しっかし、こいつ、バカみたいな魔力じゃ。
戦いはからっきしっちゅう話じゃったが、元魔王の息子っちゅうのは伊達やないちゅうことか。
「おまい、こんなバケモンみたいな魔力して、戦いが苦手っちゅうのはどういうことじゃ?」
「ふん、魔力が多いだけだ。
俺にはその魔力を制御することが出来ない。
どんな力も使いこなせなければ何の意味もないからな」
「……、ほうか」
こいつはおそらく、その魔力を制御するための努力は人一倍やって来たんじゃろ。
それを聞くのは野暮っちゅうもんやろうな。
「おまいら! 魔族が何しに来たがじゃ!?」
親父、そがい荒ぶっても仕方ないぞ。
「私は魔族のダイン魔族連合王国の外務卿、エリオ・サムランだ。
ドラゴニュートと友好を結ぶためにここに来た」
「黙れ! 信じられるか! お前達が過去私達に何をして来たかわかっておるんか!」
「ふん、知らん。」
「舐めとるんかぁ〜!!!」
エリオはおもむろに紙タバコを取り出して火を付けた。
昨日、酒を飲んどってもタバコは飲んどらんかったやないか。こんな時にどういうつもりじゃ。
「ふ〜。
なら聞くが、どれだけ前のことかわかっているのか?」
「なんのことじゃ?」
「だから、俺達魔族がドラゴニュートに何かしたというのは、どれだけ前のことかと聞いている。」
「何!?昔のことならば許されるとで言うつもりか!?」
「ふ〜。
魔族の文献によると、ドラゴニュートが最後に確認されたのは347年前。
旧ガーネット王国の愚者の森付近の村にドラゴニュートの10人からなる賊がやって来た。
それを王国の部隊が追い払ったのを最後に確認されていない」
「だから何じゃあ!?」
「それ以前の記述でも、魔族がドラゴニュートに対しては何か行ったと言う記述は見当たらない。
オーガ族やオーク族に対しては迫害を行ったことは文献から明らかであるがな」
「何が言いたいがじゃ!?」
「本当に魔族はドラゴニュートに対して何かを行ったのか? と言うことだ。」
この瞬間、ドラゴニュート側が爆発した。
「舐めとんか〜!!!」
「記述がないからなんじゃあ〜!!!」
「こんな辺境に隠れ住むことになっとるがじゃ! 証拠がいるかあ〜!!!」
おい、エリオ、何を煽っとるがじゃ。
「ふ〜。
じゃあ、聞くがな。そこのお方、ドラゴニュートの長老とお見受けする。
魔族へのこの強いヘイトはいつから存在する?」
「ふむ、そんなものは、…………」
ムス爺の顔が歪んどる。どう言うことじゃ?
おいも大昔から敵対視しとったと聞いとる。
「最長老! そんなもの遥か昔からに決まっとる!」
「待て、ドラ。わしらはいつからそう思っておった?」
「そんなものは、…………?」
親父も顔が歪んだぞ。
「ふ〜。
約400年前、ドラゴニュートはヒト族の迫害から魔族領に逃げて来た。
それを当時のガーネット王国の魔王様が密かにお与えになった地がここだ。
魔族としても大っぴらには出来なかったのだろう。隠れ住む場を与えるだけで精一杯だったのだ。
俺も旧ガーネット王国の秘密書庫を漁ってようやく見つけたのだがな。
魔族一般にはドラゴニュートと言う種族は存在すら疑問視する者がほとんどだ」
ムス爺も親父も頭を抑えておる。
「騙されてはなりません!!!
あやつの口車に乗ってはなりませんぞ!!!」
1人のドラゴニュートが前に出て来たおった。
「……、ダス、おまい」
昨日の酒宴にも同席させたおいの右腕であるダスがドス黒い笑いを浮かべておった。
「そうだ!!! 遥か昔から魔族は敵だ!!!」
「その通りであろうな」
ムス爺も親父も目に怪しい光が灯りおった。
「ダス!!! 何をしたー!!!」
ダスはおいを侮蔑するように目を向けた。
「頭、おいは普通のことを言っただけですぜ」
「おまいも昨日は魔族の連中と楽しんで酒を飲んどったじゃろうが!?」
「グフ、グフフフフ。頭、あんなの本心な訳ないでしょう?」
「なんでじゃ!? おいの考えにいつも1番に付いて来てくれとったじゃないか。昨日のことも真っ先に賛同してくたれたんはおまいじゃろうが。」
ダスは邪悪な笑いを浮かべた。
「グフ、グフフフフ、頭に同意したことなぞありません。心の底ではいつも笑っておりましたわ」
「…………、」
なんということじゃ、ダス、おまい。
「ふ〜。
ドサ、わかっただろ?」
「何がじゃ!?」
エリオ、おまいはおいのこのザマをバカにするんか?
「ダスが誰かに操られているってことがな」
「っ!!!」
「その操ってるヤツが、この里ごと洗脳したってわけだ。
ただ、多少はダスの心に付け入る隙はあったんだろうがな」
おいはダスは再び見つめ直した。
「グフ、グフフフフ。まったく何を言っとるのか? 誰が操っとると言うんです?」
「ふ〜。
ふん、魔族は同じ様なことがあったばかりなんでな」
「つまり、おいも闇の勇者に操られとると? 適当なことは言わんでくださいよ」
「ふ〜。
お前は何で魔族を操ったのが闇の勇者だと知っているんだ?
昨日まで魔族について何も知らなかったはずだがな?」
「……、あなたが言っとりましたよ。酔っ払って忘れたんじゃありませんか?」
「ふ~。
悪いな。俺は生まれてこの方酔ったことがないんだ。」
「……、では、別の方だったかもしれんですね。」
「ふ~。
俺は用心深くてね。」
「それが、どないしたと?」
「俺以外の者の首に何が付いているかわかるか?」
「……、首輪?」
「正解だ。ただし、この首輪は俺が魔王様にお願いして作ってもらった特別性でな、外すまでは特定の記憶だけを消すというものだ。
つまり、今こいつらは闇の勇者のことなんぞ知らんってわけだ。
ふ~。」
ダスの口調が変わった。
「ふふふ、ぬかったな。ならば仕方ない」
「……、ダス?」
ダスの周りに黒い魔力が集まった。
「第七位階闇魔法<操り狂戦士>」
親父も長老達も戦士達もみんな目から光が消えた。
「「「「「GUAAAAAAAAAA!!!!!」」」」」
「親父!?おまいら!?」
ダスは右手を前に出した。
「やれ!」
全員がこっちに向けて魔力を練り始めおった。
「ふ〜」
エリオはタバコを吸い終わったんか、タバコを指でピンと弾いた。
そして、地面に落ちたタバコの火を軽い風魔法で消した。
何を悠長なことをと思ったんじゃが、
それも束の間、
タバコを中心に魔法陣が浮かび上がったんじゃ。
「今度はなんじゃあ?」
タバコが強い光に包まれおる。
「構わん!!! 打て!!!」
ダスが叫びおったと同時に100を超える魔法が飛んで来おった。
じゃが、そいつらはこっちに届く前に全部消えてしもうた。
気付くと、タバコのあったとこに見知らぬ少年が立っておった。
バサっ!!!!!
複数の服が翻る音がしたんじゃ。
おいはその方向を向くと、エリオも含め魔族の連中が全員跪いておった。
「魔王様、お呼び立ていたし、申し訳ありません」
「いいよ。エリオさん」
「はぁ???」
このちっこいのが魔王?
確かに佇まいにはまったく隙がないが、見たとこ魔力を全然感じんぞ?
しかしこの後、この魔王さんの魔王っぷりを存分に見せつけられることになるんじゃ。