030 俺、ドラゴニュートの男と酒を酌み交わす
「ギャハハハ、お前いけるクチじゃのお?
ただのお坊ちゃんじゃないんか?」
「バカにするなよ! この程度の酒がいけないわけないだろ。
お前こそ田舎もんにしては、そこそこなんじゃないか?」
「ギャハハハ、愉快なヤツじゃ」
『エリオ様、溶け込みすぎじゃない?』
『ああ、俺、今でも恐いんだけど』
ふん、みんな尻込みしすぎだ。
ダイキ様が俺に託した以上、これは外交なのだ。
であれば、俺がここで下手に出るわけにはいかんだろうが。
酒宴の時こそ、外交官の腕の見せ所だ。
公式の場でないからこそ出てくる本音というのは、ある。
まぁ、こいつにそんな気遣いは出来なそうだが。
ガン!!!
俺は飲み干したジョッキを机がわりの岩に叩きつける。
「次を持ってこい!」
「ギャハハハ」
ドラゴニュートの男も俺に煽られてか、ジョッキを飲み干して机に叩きつけた。
「おいにも持ってこんかあ!」
ドラゴニュートの若い衆が慌てて用意に走る。
俺達は不敵に笑いあった。
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『よし、まずは飲み会じゃあ!』
『はぁ???』
俺達は唖然として、目も口も丸くしてしまった。
『ちと、移動するんで、おまいらも付いて来てくれんか?』
いつの間にか立ち込めていた緊張感は霧散していた。
みんな二の足を踏んでいる。
俺は、俺を囲むように陣形を取っているみんなを割って前に出た。
『いいだろう。貴殿に従おう』
『ギャハハハ、お固いのお。
まあ、いいわ。少し先に広場があるけ、そこで酒でも酌み交わそうや』
そうして広場に案内された俺達は、机がわりの岩を挟んで、1人1人差し向かいでドラゴニュートと向かい合った。
程なくして、ドラゴニュートの若い衆と思われるヤツらがジョッキと何かの肉の丸焼きを持って来た。
ドラゴニュートの頭はジョッキを持って立ち上がった。
『今日は良き日じゃ。こんな何もない辺境に、おいが生まれて初めて他の種族のもんがやって来た。
おいはこれを歓迎したい。
おいはドラゴニュートの頭領の息子で、ドサというもんじゃ。よろしゅう。
そいと、さっきは威嚇をしてすまんかった。この里の長老達は頭が固おての。ポーズでもああいうことをせんわけにはいかんのじゃ。
じゃが、おい達はそんなもん知らん。おいは外の世界が見たいがじゃ。
いきなり里の中には入れれんが、まずはここで酒でも飲んで外の話を聞かせてくれや。
ほなら、みんなジョッキは持ったかいの。
では、乾杯じゃ〜!!!』
酒宴が始まった。
俺の前にはドサが座っている。
『貴殿は頭領の息子であったか。にしては品がないな』
『ギャハハハ、もう何百年も外のもんと交流がないんじゃ。品も何も必要ないわ』
『ふん、なら俺も砕けて話して問題ないな』
『構わん構わん。おまいは固おてかなわん』
『ふん。とりあえず俺も名乗ろう。俺は魔族領、ダイン魔族連合王国の外務卿、エリオ・サムラン』
『ほ〜、思った通りのお偉いさんやったか。しっかし、魔族の名前は長いの〜。覚えられん』
『エリオで構わん』
『ならエリオって呼ばしてもらうわ。改めて、俺らで乾杯しよか?』
『ふん、言っておくが、俺は酒がめっぽう強いぞ。
戦いはからっきしだがな』
『ギャハハハ、おいも負けんぞ』
カン。
俺はドサとジョッキを合わせた。
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「ギャハハ、ヒック」
「なんだ、もう酔ったのか?」
「まだじゃ、まだじゃ。もっと持ってこんかい! ヒック」
もう20杯は飲んだけど、結構こいつも強いな。
あいにく俺はザルだけどな。
しかし、こいつはやっぱドラゴニュートの中でも別格だな。
体躯だけみても、他は2mそこそこだが、こいつは2.5mはある。
しかも他のヤツらの体色が緑色なのに対して、ドサはサファイアを思わせる深い青色をしている。
こいつ、ひょっとして上位個体なのか?
「お前はなんで、外が見たいんだ? ずっとみんな外に出てなかったんだろ?
そんな里の空気の中だから、やっぱお前は異端視されるだろ?」
「ヒック、そりゃあな。
そもそもおいは、なんでか里の連中と違って体が青じゃからな。
昔から煙たがられとった。頭領の息子じゃから、少しはマシやったんかもしれんがな。
それでも、やっぱ居心地は悪いんじゃ。
いつしか、おいはそんな里じゃなく、外に出たいと思うようになっとった」
ドサは周りのドラゴニュートを見渡した。
「こいつらは、そんな俺に付いて来てくれる愛すべきバカ達なんじゃ。ヒック」
「そうか。
お前は強いな」
「なんじゃあ、いきなり」
俺はジョッキを一旦置いた。
「魔族の国は長く3国の三つ巴だった。今は3国が統一されているが。そして、俺は統一前の1つの国の王太子だった」
「ほう、思ってた以上のお坊ちゃんやったわけじゃ。ヒック」
「そうだな。詳しくは省くが、今は統一され、さっきも言ったが俺は外務卿の地位にいる。
つまり、俺の上には大魔総統閣下と魔王様がいらっしゃるわけだ」
「ほう。おまいは戦闘には向かんのかもしれんが、おいを前にしてここまで堂々としとれるヤツは里にもそうはおらん。
そのエリオの上にまだ2人もおるんか。会うて見たいのお。ヒック」
「そうだ。ドサ。お前には是非お2人にお会いしてほしい。
いや、絶対に会ってもらうぞ」
「おおう。ヒック」
「あのお2人の深さは私には測りきれん。特に魔王様は俺の理解の遥か先にいらっしゃる。遠すぎて見えないほどに」
「そこまでか」
「ああ。そこまでだ。
魔王様は私達にはない自由な考えをお持ちだ」
ドサも少しはシリアスになったようだ。
「仮にだが、器を与えられ、その中に料理を盛り付けろと言われたとしよう」
「ほいで、なんじゃあ?」
「普通は食材や調理法にこだわるだろうが、魔王様は器をぶっ壊して、器から作り始めるようなお方だ。
分かりにくいかもしれんが、あのお方に既成概念というのは存在しない。
最善の結果を求める上ではそんなもの必要ないのだ。私を含め、魔王様以外は目の覚める思いだよ」
「俄然、興味が湧いて来たのお」
「魔王様は戦えばこの世界におよそ敵なしと言える程強大なお方だ。
だが、俺はあの思想、考え方こそが魔王様の強さを表していると思っている。
そういう意味で、ドサ、お前も強いヤツだと俺は思う」
「おう、なんじゃ、照れ臭いのお」
俺はジョッキを飲み干して、次を促した。
そのジョッキを受け取ると、俺は立ち上がって叫んだ。
「ドサ!!! 我らと手を組まないか!?
今の魔王様になってから、君たちへの偏見はなくなった。
もうこんな辺境に住む必要もないのだ!!!
我らと共に広い世界を見たくはないか!?」
ドサもジョッキを持って立ち上がった。
「それはなんじゃあ、おまいらの下に付けゆうことか?」
ドサが凄む。
「ふん、俺は手を組もうと行ったのだ。下に付けとは言っておらん。
だが、お前も魔王様にお会いしたなら、下に付くことを望むだろうがな」
「ギャハハハ、いいじゃろう」
ドサは片方の唇を釣り上げる。
「まあ、まずはその魔王様とやらに会ってみてからじゃな」
「ああ、それでいい」
俺達は再度ジョッキを合わせた。
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その後はひたすらに飲みまくるただの酒宴になっていた。
そう経たないうちにドサはイビキをかいていた。
俺は1人でジョッキを傾けていると、1人のドラゴニュートが近づいて来た。
こいつはベリルの前にいたドラゴニュートだな。この中ではナンバー2なのだろう。
確か、ダスだったか。
「エリオ殿、ありがとうございます」
「ふん、なんのことだ?」
「おい達、あんなに楽しそうな頭を見たのは久しぶりでした」
「……、そうか」
「頭は里の多くのもんに嫌われとります。肌の色が違ごうっていうだけで。
ただ、おい達みたいなはみ出しもんには優しかった。
全員1回は頭にボコボコにされとるんです。
おいなんかは、肌の色が違ごうて目立っとったもんで何回も喧嘩売って、その度にボコボコにされたもんです。
ですがね、頭はいつも笑って受け止めてくれるんです。
いつしか、里のはみ出しもんはみんな頭と一緒におりました」
ダスは遠くを見ながら懐かしむように語った。
そして俺に向き直ると襟を正して俺に頭を下げた。
「頭をよろしくお願いします」
「「「「「よろしくお願いします!!!!!」」」」」
他のドラゴニュート達も皆が俺に頭を下げた。
「ああ、ドサは間違いなく大物だ。すぐに英雄の1人になるだろう。
お前達はそれをしっかり支えてやれよ」
「えっ?」
「ん? なんだ?」
「おい達も連れて行ってもらえるんですか?」
「当たり前だろ。なんなら里ごと連れて行くつもりだぞ」
「「「「「うぉぉぉおおおおお!!!!!」」」」」
酒宴は最高潮だ。
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俺達はそのまま広場で1夜を明かした。
日が昇りみんなが寝てしまった頃、ドサが俺の横に立っていた。
「んじゃ、おいは親父のトコに行ってくるわ」
「おう」
「もうちょい待っといてくれや。
中に入れれるように話してくるわ」
「おう」
「寝ちまっとるうちのもんも見とってくれるか」
「おう」
俺達は黙って拳をぶつけた。
そのままドサは森の中に消えて行った。
俺は小さな岩に腰掛けた。
「ふ〜、流石に俺も少し疲れたな。
それにしても、護衛が全員俺を放って寝ちまったらダメだろうが」
しかし、俺は自然と笑みが溢れた。




