029 俺、スカウトに行く
俺はエリオ・サムラン。ダイン魔族連合王国の外務卿だ。
そんな俺は、王下十六剣を4振り引き連れ、愚者の森の近郊を歩いている。
この状況を説明するために、少し遡って話をしよう。
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俺は、元々は旧サムラン王国の王太子だった。
しかし、元魔王である父上のダリオ・サムランの息子であるのに、戦闘力は引き継げなかった。
その分、文官としてサムラン王国を盛り立てようと思っていた。
魔族は強さを信奉する為、舐められないように振る舞うのはそれなりに大変ではあったが、ほとんどのものがステータスを力に極振りしているせいで、内政をまともに行えるものが少なかった。
それと王太子という立場から、文官として確固たる地位を確立するのはそれほど大変なことではなかった。
そんなある日、父上をはじめ、軍がヒト族の勇者に唆され、魔族革命を行い、そして失敗した。
俺はほとんどこの情報を知らされていなかった。正直屈辱だった。
そしてそれによって、サムラン王国は共に魔族革命を起こしたガーネット王国と共にダイン王国の軍門に降った。
はずだった。
しかし、ダイン王国の姫殿下であるアイル様が統一王国とし、旧3国を平等に扱うと言ってきた。
当初俺は、舐められていると思い強く反発した。
だが、アイル殿下の目は目先の利益ではなくただただ大きな世界を見ていた。
それに気づいた時、俺はアイル様に忠誠を誓った。それは、同席していたガーネット王国のサリオ・ルータッド宰相も同様だった。
俺は、強さこそないものの、自分から進んで誰かの下につくことを良しとするとは思ってもいなかった。
それ程の器の大きさをアイル様に感じたのだ。
だがさらに話はここで終わらない。
俺とサリオ殿は共にアイル様を新たな魔王にと推した。俺もサリオ殿も自分達の国の魔王ではなくアイル様を推した。これがどれほどのことかお分りいただけるか?
何度も繰り返すが、アイル様の器はそれほどだったのだ。
しかし、アイル様は自分は魔王の器ではないと言い放ち、ダイキというヒト族の者を推挙した。
ダイン王国で救世主と呼ばれる者ということは知っていたし、操られていた我らとガーネット王国の両軍、さらに両魔王、加えて元凶である勇者をまとめて倒したというとんでもない人物ということもわかってはいた。
ただ、ヒト族なのだ。
普通に考えて魔王にはなれんだろう。
そこにアイル様はとんでもない爆弾をブッこんできた。
『ダイキ様のお父様はかの邪龍、パール・リューンガルム様です。』
何ということだろうか!!!
我ら魔族が国を超えて崇拝している邪竜様の御子だと!?
気づけば俺は震えていた。
アイル様という大器の下で魔族を盛り上げることに胸を熱くしたのも束の間、邪竜様の御子に仕えることが出来る?
にわかには信じられなかったが、アイル様はご自身の首をかけても真実であると仰った。
歓喜だ!!!
これほどの興奮があるか!?
サリオ殿も震えている。気持ちは同じようだ。
斯くしてこの日誕生したダイン魔族連合王国は鉄の結束を持つことになった。
が、さらに話は続く。
ヒト族とエルフ族が邪竜様を討ったのだ。
当然、ダイキ様はすぐに宣戦布告し、奪われた龍ヶ峰の奪還のため、不戦の草原に兵を敷いた。
文官である俺は後陣から見守っていた。
そこに、獣王の御子イェスタ様がやってこられ、ダイキ様を諭したのだ。
それは、本来我らの役目だったはず。私を含め多くの者が自らを恥じたことだろう。
その上、私はお2人の強力な魔力にあてられ、すぐに気を失ってしまった。
目を覚ました時には自分の部屋に横たわっていた。
起きるとすぐにアイル様に状況を聞きにいき、事の顛末を聞いた。
そして私はその足でイェスタ様が眠るベッドの横に行き跪いた。
すでに幾人もの要人が同様に跪いていた。
こうして我らは鉄の結束を最早、金剛石とも言える程の結束とし、さらにイェスタ様にも多大な敬意を持つに至ったのだ。
その翌日、目を覚まされたダイキ様は、即時の行軍を一旦取りやめ、まずは防備の拡充と軍の練度の向上を行うと決められた。
長くなったが、これが今俺が愚者の森の近郊にいるきっかけとなったのだ。
ダイキ様はまず、軍の練度向上としてアイル様、ダイキ様の直属の配下である通称3執事、アンサッス殿、ダイキ様に鍛えられたというこの5名を総動員して訓練に当たらせた。また、ダイキ様自体はポルンという孤児を直々にお鍛えになるという。
そんな事が決まった会議でダイキ様はふとこんなことを口にされたのだ。
『魔族領には、旧3国以外ないの?』
と。
一同は苦い顔をしていた。当然私もしていたことだろう。
我らを代表してアイル様がお話になった。
『魔王様、魔族の国は確かに3国しかありません』
『ん? 何か含みのある言い方だね?』
『はい。と言いますのも、魔族領にはオーガ族やオーク族等、いわゆる亜人と呼ばれる種族が隠れ住んでおります』
『え? なんで?』
やはりというか、ダイキ様には種族に対する偏見が欠片もない。それ自体が不思議なことだが、そんなダイキ様にとっては当然の疑問だろう。
『これらの亜人種というのは他の種族にとっては迫害の対象なのです。特にヒト族とエルフ族による迫害は激烈です。そたのため比較的寛容であり、ヒト族、エルフ族の領土から遠い魔族領に隠れ住むようになったのです』
『魔族も迫害してるの?』
『『『『『っ!!!!!!』』』』』
この無邪気とも言える質問に我らの背筋は凍った。
『…………、恥ずかしながら』
そう答えるアイル様の額にも汗が浮かんでいた。
『そっか。なんで?』
『…………、』
アイル様は答えられなかった。
俺に聞かれても答えられなかっただろう。
『なぜと問われましても、遥か昔より根付いてしまった因習でありますので、』
『そっか、ちなみにさ。その亜人族ってさ。強いのかな?』
『『『『『っ!!!!!!』』』』』
ダイキ様はまさか、亜人達を引き入れるつもりなのか?
皆が一斉にさらに緊張した。
『正確なところは分かりかねますが、過去の文献によりますと個人の力は相当のものであったと記載されております。
しかし、ヒト族の数の暴力には勝てず住処を追われたと』
『へ〜』
ダイキ様がニヤリと笑っている。
嫌な予感しかしない。
『じゃあさ、仲間にしよう』
『『『『『っ!!!!!!』』』』』
来た!
やっぱりこうなったか。
確かに合理的かもしれない。
亜人の力は強力だと言われている。
しかし、魔族内にも差別的意識は広く浸透しているし、魔族も過去には少なからず亜人にとって辛い行いをしてきているのだ。
そう簡単なことではない。
『みんなは反対?』
『『『『『っ!!!!!!』』』』』
ダイキ様のお考えに反対なぞあるはずがない。
しかし、誰も声をあげることが出来なかった。
『そんな簡単じゃないのかな? 僕はわかんないけど、獣人族だって言ったら亜人じゃん。それこそヒト族からしたらドワーフもエルフも魔族も亜人なんじゃないのかな。
あ、これに卑下する気持ちはないよ。あくまで客観的に見てってことね』
『『『『『…………、』』』』』
誰も答えられない。
言われてみると確かにそうなのだ。
しかし、生まれてこのかた刷り込まれてきた亜人に対する考え方はそう簡単に変えられるものではなかった。
『エリオさんはどう思う? 外務卿だしさ』
俺に来た!?
突然ダイキ様は俺に振ってきた。
そこはアイル様に振ってくださいよ!!!
『え〜、そうですね、』
俺は慌てて考えをまとめる。
とりあえずは無難に、、、
いや、俺はいつからそんな誰かの顔色を伺うようになったのだ?
敬愛するダイキ様だからこそ、無難な意見でお茶を濁してどうする?
ダイキ様はアイル様以上に大きな世界を見ているのだ。
古い因習に囚われている場合ではない。
我らは目下、ヒト族とエルフ族と戦争中なのだ。
俺は意を決した。
『魔王様、魔王様は素晴らしい慧眼をお持ちかと』
『『『『『っ!!!!!!』』』』』
一同は目を瞠いて俺を見てきた。
『そっか。ありがとうエリオさん。
じゃあ、亜人を仲間にしようと思うけど、異論のある人はいる?』
皆、黙すことで肯定を示した。
『じゃあ決定ね』
ダンっ!!!!!
全員が右拳で机を叩いた。
ほとんどの者はどうにでもなれという表情だ。
『それでさ、亜人についてもっと教えてほしいんだけど。オーガ族とオーク族以外にはどんなのがいるの?
そもそもオーガとオークについても教えて』
俺が引き続き答えた。
『文献によりますと、オーガ族は2mを超える体躯ですが、比較的ヒト族に近い姿をしており、額に2本の角を持つと言われております。
その身体能力は獣人に勝るとも劣らず、更に魔力も魔族に匹敵すると。ただ、知性は少し劣るようです』
『へ〜、すごいじゃん!?
知性って言ってもコニュニケーションは取れるんでしょ?
絶対仲間にするべきじゃない?』
確かにそうなのだ。
『ですが、繁殖力が弱く個体数が非常に少ないそうです。その分、結束が強いと言います。そのため、仲間に引き込むのは、過去の迫害がありましたので、一筋縄では行かないかもしれません』
『そっか。でも、是非とも欲しいよね』
ダイキ様はまたニヤリと笑っている。
『じゃあ、オークは?』
『オーク族は豚のような顔を持ち、巨漢が多いと言います。
オーガ族と違い繁殖力が非常に高いと言われており、個体数は相当数がいると予想されます。ただ、こちらはオーガ族よりも更に知性に劣るそうです』
『へ〜、それで強いの?』
『膂力だけならオーガ族を超えると言われております。その分敏捷性には欠けるようです。また、魔力も乏しいと言われております』
『でもさ、それだけ力の強いのがさ、そんなにいっぱいいるんだったら、それだけで強くない?』
『仰る通りかと』
『欲しいよね』
ダイキ様のニヤリは止まらない。
『それで、他にはどんなのがいるの?』
『有名なところではゴブリン族でしょうか。
また、これは真偽もはっきりとはしない言い伝えみたいなものですが、特に強力な個体として伝わっていますのが、ドラゴニュート族です。他にもいるのでしょうが、正確なところはわかりません』
『ドラゴニュート!?
それははどんな感じ?』
ダイキ様の食いつきがすごい。
邪竜様の元で育ったダイキ様にとって、竜に関係しそうなドラゴニュートという存在は気になるのかもしれない。
『龍人族とも呼ばれ、龍のような鱗と羽を持つとされます。
パワー、スピード、魔力、知性のどれもをかなり高い水準で持ち合わせていると言われております。ただ、オーガ以上に繁殖力は弱いと言われております』
『それは絶対欲しいよね!』
ダイキ様は子供のように目をキラキラさせている。
『また、これらの種族には稀に上位個体が現れると言われております。
ハイオークやオーガキング、ホブゴブリンなどがそうです。ドラゴニュートはそもそもが高ランクであるためか、上位個体は確認されておりません』
『どうやったらなるの?』
『どのようにして上位個体が生まれるかはわかっておりません』
『 そっか。それで、どれくらい強くなるの?』
『そうですね。目安ではありますが、ゴブリン族は種族アベレージがDランク、オーク族はCランク、オーガ族はBランク、ドラゴニュート族はAランクと考えられております。
そして、上位個体になると、それぞれ1ランクは上、場合によっては2ランク以上上になることもあると言われております』
『すごいね! いたらいいよね〜、上位個体』
ダイキ様はもうニコニコだ。
『でも、まずはドラゴニュートじゃない? 1番強いんならまずはじめに仲間にすべきだよね』
『そうなれば、最上かと』
『じゃあ、エリオさん』
ダイキ様は俺を見てニッコリと笑った。
猛烈に嫌な予感が、
『ドラゴニュートの住処に行って、スカウトして来てよ。
護衛は王下十六剣から4振り持って行っていいからさ』
来た〜!!!
とんでもない無茶振りだ〜!!!
でも、否はない。
『はっ! 必ずや仲間に引き入れて参ります』
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こうして、冒頭に戻るわけだ。
我々は古い文献を元にドラゴニュートが隠れ住んでいるとされる場所に向かっている。
「エリオ様、もうじき文献の示すあたりに到着です」
王下十六剣の1振りであり、四大魔将でもある、元冒険者のベリル・オリヴァーがそう告げた。
本来四大魔将は兵の育成に大忙しであるが、元冒険者ということから、今回の任務に最適であるとダイキ様があててくれたのだ。
「いよいよか」
私は、気を引き締める。
「しかし、オークやオーガはまだしも、ドラゴニュートなんて本当にいるんすかね?
お伽話みたいなもんっすよ?」
「さあな。その確認も含めて、今回の任務だ。だが、ダイキ様の為にもいてもらわねばな」
「まったくっすね」
ちなみ残りの面子は、王下十六剣から索敵に特化したサーチ・ミレリア、魔術士であるアルバ・ヘクトル、剣士のムーサ・ミヤルガと、ベリルの冒険者時代の仲間が4人という構成だ。
「全員構えろ!」
サーチが叫んだ。
次の瞬間、私の前で「ガキン!」と音がなった。
「エリオ様、大丈夫ですか?」
「あ、ああ」
地面に折られた矢が落ちていた。
どうやらムーサが私に向かって飛んで来た矢を叩き落としたようだ。
「くそっ、囲まれてる。
俺が、ここまで接近に気づかないなんて。」
サーチが慌てて武器を構える。
「全員C陣形!!!」
ベリルがそう叫ぶと、全員が俺を取り囲むように陣形を組んだ。
…………………………………、
お互いに対峙したまま、静かに時間が流れた。
そして1つの人影が我々の前に動き出した。
我らに緊張が走る。
人影の姿が明らかになる。
俺の心臓は跳ねた。
その姿は、我らが求めているドラゴニュートに違いなかった。
「おまいらは魔族か?」
その人影は、凄まじい威圧とともにそう語りかけてきた。
やはり、友好的にとはいかんか。
「ああ、そうだ」
ただ答えるだけで意識を持っていかれそうだ。
そのドラゴニュートの男は静かにこちらを見つめて来た。
我らの周りにはドラゴニュート が取り囲んでいる。
俺は息を飲んだ。
そして、ドラゴニュートの男は口を開いた。
「よし、まずは飲み会じゃあ!」
「……、はぁ???」




