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028 僕、魔王様に鍛えられる

 僕は今日も死にかけていました。


 元ガルム王国ドルドゥ=ダルム公爵直属部隊隊長であり、元ダイン王国最強の魔術師、現在はダイン魔族連合王国の近衛隊隊長であるアンサッス・マクルーン様から地獄の訓練を受けていたことが理由です。


 僕は「過魔力蓄溜症」という魔王ダイキ様が名付けた先天性の病に冒されていました。

 しかし、ダイン王国の御前試合の予選に敗退した後、魔王になる前、ダイン王国で救世主と呼ばれていた時のダイキ様に見出され、その病を治してくださいました。


 この「過魔力蓄溜症」は常人をはるかに超える内在魔力が体外に排出出来ずに体内に溜まり続けることで、身体に悪影響を及ぼすという病だそうです。


 病を治してもらったあと、ダイキ様から魔力操作を教わりました。魔力操作を覚えた僕は、最早魔力による悪影響はありません。


 それどころか、膨大な魔力を自分のものにしたことでダイン魔族連合王国でも有数の魔力量を持つに至っていました。魔力量だけなら、ダイキ様とその配下の3執事様に次ぐと言われるほどです。

 しかし、魔力操作を覚えたとは言ってもまだまだ不完全。今日も僕はアンサッス様から地獄の訓練を受け続けていました。


「ポルン、お前もだいぶ魔力操作を扱えるようになってきたな。

 それに、結局、付いてこれたのはお前だけだったな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ダイキ様が初の外遊にお出かけになる少し前、僕は近衛隊に仮配属されました。

 ダイキ様がまずはアンサッス様の元で実力を付けろと仰せになったからです。


 近衛隊についてはダイキ様直属の部隊ということで、魔族の兵からは憧れの部隊ともなっています。

 その為、志願者は多く、その選抜はアンサッス様に一任されていました。


 僕もこの選抜に参加することになりました。

 ダイキ様の為にも絶対に合格しないとと気持ちを奮い立たせました。


 アンサッス様は、ダイキ様が初めての外遊を行なっている間の兵の訓練を任されていましたが、近衛隊の志願者には殊更厳しい訓練を課しました。

 そして、ダイキ様が外遊から帰って来るまで付いてこられた者を近衛隊に正式採用すると告げました。


 ダイキ様を守ることが第一の意義である近衛隊は生半可な戦力、精神力では務まらないからだそうです。

 100人を超える志願者と頑張って訓練を行いました。


 ダイキ様に鍛えられ、魔族革命も騒動の中心で経験を積んだとはいえ、歴戦の兵に比べると僕はまだまだ弱かったです。

 そのため、初めのうちはダイキ様のコネで入った田舎者と僕を下に見るものも少なくありませんでした。だからこそ、人一倍頑張りました。


 訓練から1週間がすぎる頃には、僕を明らかに下に見るような人はいなくなっていました。

 誰もが付いていくだけで精一杯の中、誰よりも死にかけ、誰よりも多くの訓練を自ら求めたからです。

 逆に頭がおかしいんじゃないかという声が聞こえてきました。失礼な話です。


 そして、志願者の中で誰も敵わないほどになった時には、僕しか残っていなかったです。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「来週にはダイキ様もドワーフの国から戻ってこられる。

 しっかり成果を見せねばな」

「はい! アンサッス様!」


 僕がさらなる向上をと決意を新たにしたこの日、ヒト族とエルフ族による邪竜討伐が行われたのです。


 ダイン魔族連合王国は怒りに湧きました。

 当然、僕もアンサッス様も今まで感じたことも無いような怒りを覚えていました。


 そして、ダイキ様はヒト族とエルフ族に宣戦布告を行ないました。

 僕もアンサッス様も全力でヒト族とエルフ族を潰すつもりでした。もちろん魔族の兵は全員が同じ気持ちでした。


 そして翌日、僕は多くの兵に混じり不戦の草原で隊列をなしていました。


 その時、僕が今まで出会った誰よりも強い存在が物凄いスピードでこっちに向かってきました。


「全隊!!! 戦闘体制!!!」


 軍のトップ大魔将軍である元ガーネット王国の魔王セリュジュ・ガーネット様がけたたましい声をあげ、全隊が即座に戦闘体制へと移行しました。


 しかし、ダイキ様はそれを右手で静かに制しました。

 そして、超スピードの存在は、魔王ダイキの眼前に着陸しました。


「イェスタくん、……少しぶりだね」


 それは四神獣フェンリル様の御子であるイェスタ様でした。

 僕も話には聞いていました。でも、当然お会いするのは初めてです。

 フェンリル様の御子ということは邪竜様の御子であるダイキ様と同じ境遇です。おそらく実力も。


 そこからの怒涛の展開は全ての者に衝撃を与えました。


 僕もまた頭をハンマーで殴られたような衝撃を受けていました。

 敬愛する魔王ダイキ様のためと思っていたことが、ダイキ様を苦しめていた。

 その事実はとてつもなく重かったです。


 僕は自分を恥じました。ヒト族とエルフ族への自分の怒りをダイキ様の言葉で正当化していただけなのではないか?

 当然魔族であれば怒って当たり前ですが、それによってダイキ様を苦しめていたのでは何の意味もないと。


 それからイェスタ様は体を張り、死にかけながらダイキ様を諌めてくれました。

 魔族は皆、自分を恥じると同時にイェスタ様に多大な尊敬の念を抱きました。

 そして、2度と我らが魔王ダイキ様を苦しめるようなことをしないと固く心に誓ったのです。


 ダイキ様とイェスタ様が天変地異とも言える大喧嘩をした次の日、僕はアイル様を始めとする重鎮達と共にイェスタ様が眠るベッドの脇で跪いていました。

 誰が言うともなく、皆自然とベッドの脇で跪いていました。いつ目覚めるともわからないイェスタ様の脇で。


「痛っ」


 イェスタ様が目を覚ました。そしてアイル様が代表して感謝の気持ちを伝えました。


 僕はこの時の恥ずかしさ、感謝、尊敬、いろんなものが混ざった不思議な高揚感を絶対に忘れない。絶対に忘れてはならないと強く心に刻見ました。


 この翌日、ダイキ様は目を覚まされ、即時の行軍を一旦取りやめられました。

 そして、まずは防備の拡充と軍の練度の向上を行うことに決められました。


 ダイキ様はヒト族とエルフ族に侵攻することは一旦おやめになりましたが、龍ヶ峰の奪還だけは絶対に行うつもりでいました。


 ともあれ、軍全体の強化を急がせました。

 アンサッス様はもちろん、アイル様、3執事様までも動員して軍全体の底上げを図りました。


 そしてダイキ様自身は僕を鍛えてくださることになりました。


 ダイキ様が僕を見出したためと言うこともあリますが、僕が闇魔法に高い適正があったことが大きな理由でした。


 闇魔法と言えば、先日ダイキ様が行った第十位階闇魔法<地獄召喚(ヘルサモン)>の衝撃が忘れられません。

 そんな魔法を使えるのはこの世界でダイキ様だけでしょう。

 僕はと言えば、第五位階闇魔法がせいぜいです。


 しかし、闇魔法というのは、魔族革命の時にヒト族の勇者が行ったように精神に干渉する魔法出会ったり、他には悪魔の召喚や契約を行うものであったり、死んだ魔物をアンデット化して操ったりと、倫理的に悪いものが主です。


 その為、魔族の間でも半ば禁忌であり、そもそも扱える者も少ないです。だからこそ、ダイキ様が直々に教えてくださることになりました。


 そして今、旧ガーネット王国にあるとある森に来ていました。

 通称、愚者の森と呼ばれています。

 魔族にとっても高ランクの魔物が跋扈している為、この森に入る者は愚かものであるというところからそう呼ばれています。

 魔物のアベレージがBランクという、魔族領内ではトップの危険区域です。Aランクも相当数存在しており、森の中心にはSランクの魔物、この森の主がいると言われています。


 しかし、ダイキ様にとってはそこらの街を歩くのと変わリません。ダイキ様は僕を連れてスタスタと進んでいきました。


 ある程度歩くと、少しひらけた場所に出ました。


「ここらでいいかな」


 ダイキ様はそう言って止まりました。


「じゃあ始めようか」

「はいっ!!!」


 いよいよと思うと胸が高鳴ります。


「ポルンもこないだイェスタくんと戦ってたの見てたでしょ?」

「はい!!! 凄すぎました!!!」


 僕はいま思い出しただけで興奮してきました。


「さすがにあれはムリだろうから、第七位階の〈不死軍団召喚(アンデットアーミー)〉と、第八位階の〈悪魔軍召喚(デビルアーミー)〉を覚えよう」

「っ!!!」


 ダイキ様はニコっと笑いながらとんでもないことを言い出しました。


 〈不死軍団召喚(アンデットアーミー)〉は〈不死兵召喚(アンデットサモン)〉、〈悪魔軍召喚(デビルアーミー)〉は〈悪魔召喚(デビルサモン)〉のそれぞれ上位互換です。

 〈不死兵召喚(アンデットサモン)〉、〈悪魔召喚(デビルサモン)〉はそれぞれ1体のアンデットもしくは悪魔を召喚します。


 ですが、〈不死軍団召喚(アンデットアーミー)〉と〈悪魔軍召喚(デビルアーミー)〉はただでさえ強力なアンデットと悪魔を複数体召喚するというものです。


 だってアンデットも悪魔も基本物理攻撃が効かないんですよ?

 聖属性魔法は滅茶苦茶効きますけど、使える人は多くないし。だから他の魔法で削っていくしかないんです。


 しかも、悪魔は御しきれなければ、逆に術者の魂を喰らうといわれています。

 僕に御しきれるでしょうか。


 そもそも第六位階以上を使える人は魔族内でも30人はいないです。


「大丈夫。出来るよ」


 僕の不安が伝わったのか、ダイキ様は優しく励ましてくれました。

 やってやる!

 いや、やれる!!!

 僕がやる気を出したのを見計らってダイキ様は続けました。


「この2つは、術者の魔力でドンドン強くなるんだ。

 魔力が多ければ、多くのアンデットや悪魔を召喚出来るし、召喚したアンデットも悪魔も供給する魔力量が多ければもっと強くなる。

 だから、魔力量の多いポルンにはうってつけなんだよね」


「なるほどです。

 ですが、高位階であり、いくら禁忌とはいえ、なぜこんなにも強力な魔法を使う者がいないのでしょうか?

 闇魔法の属性を使える強い人自体は結構いると思うのですが」


「それはね、ポルンくらい魔力が多くないと、ぶっちゃけかなり燃費がかなり悪いんだよね。

 アンデットは自分が倒した魔物だし、悪魔も契約してくれる程度のやつを召喚するから、基本的には自分より弱いわけ。自分より強い悪魔を召喚すると前の魔術師団長さんみたいになるからね。

 それに大量に魔力を使って2、3体召喚するくらいなら自分でより強力な魔法を覚えた方がいいんだよね」


 なるほどです。

 たしかに魔術師団長のカーミル様は爆散していました。

 ただ、ダイキ様の発言に気になる部分がありました。


軍団(アーミー)というくらいなので、10体とか召喚するのではないのですか?」

「そこなんだよね。普通はそんなに召喚出来ないんだよ。2~3体、せいぜい5体がいいとこなんだよね。

 でも、ポルンなら100以上もいけるかもだよ」

「っ!!!」


 アンデットや悪魔を100体? 本当ならとんでもない戦力です。


 小さな国なら落とせるレベルです。


「ちなみにダイキ様はどれくらい召喚出来るんでしょうか?」


 僕はつい気になって質問してみました。


「やってみようか?」


 やってみせてもらえるの?

 僕は勢いよか首を縦にふりました。


「いくよ。〈不死軍団召喚(アンデットアーミー)〉」

「っ!!!!!」


 次の瞬間、僕達がいる愚者の森のひらけた場所はアンデットでいっぱいになっていました。


 100、200ではききません。1000体は超えていそうです。

 しかも、その全てがBランク以上の魔物です。


「いったい、何体召喚されたのですか?」

「1万くらいかな」

「は?」


 思わずダイキ様に「は?」って言ってしまいました。


「龍ケ峰で狩りまくったからね」


 そもそも龍ヶ峰は愚者の森以上の魔境なんですが。


 僕は、さらに気になったことを聞いてみることにしました。


「それで、アンデットは普段どこにいるのでしょうか?」


 僕からしたら急にアンデットの大群に囲まれたわけですし。


「僕が影の空間って読んでる異空間で待機してるみたい。正直はっきりとはわかんないんだけどね。

 ただ、そこにいてくれてる間は魔力の消費がそんなにないから便利だよ。

 まぁ、魔力があまりない人はそこにストックするだけで少しずつ魔力を消費しちゃうから、そういう意味でもあまり使う人はいないよね」


 ダイキ様はさっらと言われたけど、恐ろしい。だって常に1万体以上ストックしてるってことだから。


 僕は冷や汗をかいていました。


「ちなみに悪魔もそれくらい召喚出来るよ」

「凄まじいですね」

「でもさ。こないだのイェスタくんに瞬殺された悪魔達って、100体だったけど、悪魔の中でも悪魔王を除けば上位100体だったんだよ?

 しかも地獄ごと召喚したから、普通に召喚するより遥かに強いんだよ?

 マジでイェスタくんはバケモノだよね」

「はははは、」


 乾いた笑いしか出てきません。

 もしかしたら、ダイキ様なら悪魔王すら召喚できるのではないでしょうか。でも、恐ろしくて聞けませんでした。


 そして、ダイキ様はとんでもないことを言い出しました。


「それで、ポルンを鍛える方針だけど、まずはこの森の主を倒してアンデットにしよう」

「は?」


 また、「は?」って言ってしまいました。


「そしたら、その後片っ端からアンデットにしていこう。

 その後、そのアンデットを触媒にしてドンドン悪魔とも契約していこう」

「………………、」


 この時から1か月、僕は本当の地獄を味わったのです。


 あー、アンサッス様はまだまだ優しかったんですね。



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【世界最大の敵の元魔王、現在はウエイター見習い 〜人間の領地を侵攻中の魔王が偶然出会った町娘に一目惚れした結果、魔王軍を解体してそのまま婿入りしちゃった話〜】

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