027 私、神話の戦いを見る
ダイキ様はヒト族とエルフ族に宣戦布告を行いました。
その翌日、ダイン魔族連合王国はダイキ様の号令の元、まずは奪われた龍ヶ峰を奪還すべく、全兵力を持って不戦の草原に兵を展開してたのです。普通に考えれば過剰すぎる戦力でしょう。
しかし、邪竜討伐時にはなんと邪竜様の盟友である伝説の勇者リューンが召喚されていたといいます。それ加え、Sランク相当と思われる勇者達とエルフが複数人いたそうです。
龍ヶ峰は邪竜討伐時程ではないとはいえ、いまだに結界で覆われていため、向こうの戦力を把握できない状況でありました。
そのため、伝説の勇者らが龍ヶ峰にまだいる場合を考え、ダイキ様は全力で叩き潰すことをお決めになりました。私は大魔総統ではあるものの、ダイキ様のご決定を全力で後押しするしかありません。
これは、旧魔王のお2人を始め、魔族の総意でしょう。
いよいよダイキ様の号令により龍ヶ峰奪還戦が幕を開けようとしていたその時、
とんでもないスピードで何かが飛来してきました。
わたしはこの気配に見覚えがありました。
「全隊!!! 戦闘体制!!!」
軍のトップ大魔将軍である元ガーネット王国の魔王セリュジュ・ガーネットがけたたましい声をあげた。
全隊が即座に戦闘体制へと移行した。
ダイキ様はそれを右手で静かに制しました。
全隊は戦闘体制は解除しましたが、全員がすぐに行動を起こせるように気構えていました。
そして、超スピードの何かは、展開する隊の先頭に立つダイキ様の眼前に着陸したのです。
「イェスタくん、……少しぶりだね」
「あぁ、そうだな」
やはり、イェスタ様でした。
しかし、そのご表情は優れません。
「僕は見ての通り忙しいんだけど」
「お前、本当にこのままヒト族とエルフ族に攻め込むつもりか?」
「うん。そうだよ。あいつらはお父さんに手を掛けた。許すつもりは無いよ。龍ヶ峰を奪還したら、間をおかずに攻めるよ」
「……、そうか」
イェスタ様は私でもほとんど見えないほどの速さで、ダイキ様をぶん殴りました。
ほとんどの者には見えていないでしょう。ほとんどの者には急にダイキ様が消えたようにしか見えなかったことと思います。
そしてダイキ様は遥か遠くの森の木々をなぎ倒してなお吹っ飛んでいました。
少ししてダイキ様は転移魔法で元の場所に戻ってきました。左頬は裂けているうえ真っ赤に腫れ、血もボタボタと流していました。
全隊がイェスタ様に向かって再び戦闘体制をとらせるのに十分でした。
「急に何をするんだイェスタくん!」
「この馬鹿やろー!!!」
「な、なんなんだよ!!!」
「お前の、お前らの力は多種族を滅ぼす為のものなのかよ!?」
「「「「「っ!!!!!」」」」」
「それがなんだって言うんだ!?
イェスタくんはこのまま黙って泣き寝入りしろって言うの!!!」
「そうは言ってねぇ」
「じゃあ、邪魔しないでよ!!!」
「本当に後悔しないんだな?」
「言ってるじゃないか!」
「なら、なんでお前はそんな辛そうなんだよ?」
「っ!!!!!」
「お前は本来ヒト族もエルフ族とも仲良くなりたいはずだ。違うか?」
「っ!!! う、うるさい!!!」
「オレは、力に任せて多種族を侵攻するお前なんて見たくねぇ。
それで苦しむお前なんてもっと見たくねぇんだよ!!!
お前は、前みたいにヘラヘラと笑って、毎日を楽しんでなきゃダメなんだよ!!!」
「「「「「っ!!!!!」」」」」
この言葉に、ダイキ様はもとより魔族の全員がハッとさせられました。
もちろん私もです。
ヒト族とエルフ族への怒りは当然あリます。そのヒト族とエルフ族を攻めると、敬愛する魔王であるダイキ様がお決めになったのです。
私達はそれに全力で応えようと思っていました。
しかし、ダイキ様の本当はヒト族ともエルフ族とも仲良くしたいという気持ちに気づいているものはいません。
ダイキ様自体、その考えを自分の中の奥深くに閉じ込めていたのかもしれません。
その結果、ダイキ様が知らず知らずのうちに苦しんでいたことに誰も気付いていなかったのです。
「うるさい!!! イェスタくんでもこれ以上邪魔するようならゆるさな、」
イェスタ様の拳が再びダイキ様の顔面を叩きました。
そして、ダイキ様はまた森の奥に吹っ飛びました。
今度もほとんどの者には見えなかったようですが、全員がイェスタ様が再びダイキ様を殴ったと感づいていました。
しかし、イェスタ様に敵意を向ける者はいませんでした。
「ふざけるな!!! お前は、オレすらも遠ざけて、世界を敵に回すのか!?
その先にあるのは孤独だぞ!!!
お前は本当にそれでいいのか!!!」
ダイキ様は転移で戻ってきました。
「うるさい!!! 邪魔するな!!!」
「邪竜はそんなことのためにお前に力を授けたのか?
それで邪竜が喜ぶと思ってんのか!!!!!」
「うるさい!!! うるさい!!! うるさーーーい!!!!!」
「悪いが、一旦黙らせる!!!」
「うわぁあああああああ!!!!!」
ダイキ様は大規模な索敵魔法を展開し、神剣パールを構えました。
「行くぞ」
その瞬間、イェスタ様は消えました。
「っ!!! 索敵魔法にも映らない!!!」
そしてダイキ様は吹っ飛んだのです。
私は呆然としていました。
「お前ら!!! 僕が全力で結界を張る!!! 全力で援護して!!!」
3執事様のお1人エンペラースライムのサン様が超巨大にして超強力な結界を張り始めました。
私達は慌ててその結界を補助し、より強固なものとしました。
以前は3執事様と私の4人で張った結界は、ダイキ様とイェスタ様が5割もお力を出す前にボロボロになってしまいましたが、今回はサン様お1人で前回の5倍は強度がありそうです。
この方もまた、人知れずお力を付けていたということでしょうか。
しばらくしてダイキ様は転移で戻ってきました。
しかし、流石にイェスタ様のパンチを3度も受けたせいか、足元が覚束ないようです。
「イェスタくん、いつの間に気配を完全に消せるようになったの?」
「言っただろ? お前がのんびりドワーフに会いに行ってる間にだよ」
「ホント、参っちゃうよ。なら、僕ただ遊びに行ってたんじゃないところを見せるよ」
ダイキ様は神剣リューンを地面に刺しました。そして神剣を中心に半径100 m程の巨大な魔法陣が浮かび上がり、ダイキ様はとんでもない魔法を唱えました。
「第十位階闇魔法<地獄召喚>!!!」
魔法陣内の空間に悪魔が住むとされる地獄という異空間がそのまま呼び出されたのです。
魔素濃度は、ダイキと邪竜が喧嘩したせいで魔素濃度が上がっている不戦の草原と比べても遥かに高いものなのでしょう。
わずかに漏れてくる魔素だけで、魔法陣の中はSランクでもまともに活動出来ない程の高濃度になっているということがわかってしまいました。
さらに、地獄を呼び込んだだけではなく、大量の悪魔も同時召喚されていました。
悪魔は過酷な魔素濃度の地獄で日々生きているため、最低でもSランク上位であると思われます。
それが100体を超える数でイェスタ様を取り囲んでいたのです。
中には私の目からも明らか別格、おそらくはSSランクに位置付けられるであろう悪魔もちらほらいました。
地獄は魔法陣の中だけとはいえ、その圧倒的な圧力にあてられてBランク以下の兵は気を失っていました。Aランクの部隊長クラスでも立っているのがやっとという様相です。
そして、無事に立っていられるSランク以上の強者はその圧倒的実力に震えました。
我らが王の底知れない実力を目の当たりにし、自らの実力不足を嘆くよりも何より、崇拝に近い感情を抱いていたのです。
「こんなもんがお前の成果か?
舐めるなよ! 獣人化!!!」
しかし、イェスタ様はその地獄の真っ只中にいるにも関わらず、こんなものと切って捨てました。
そしてフェンリルの獣人に変化したイェスタ様は、一瞬のうちに悪魔の9割を葬ったのです。
先程はかろうじて見えていた動きがまるで見えません。
何が起こったのか全くわからないいまま、残るSSランクの悪魔も10秒経たずに姿を消しました。
何というお力。以前にダイキ様と喧嘩された時より更に凄まじい。
「っ!!!!!」
イェスタ様は急に現れた凄まじい気配を感じ、ダイキ様の方を振り向きました。私達も同時にダイキ様の方を振り向くと、
ダイキ様の持つ神剣リューンの周りが陽炎のように揺らめきながら怪しく光っていました。
獣人化したイェスタ様ですら小さく感じるほどの存在感を放っています。
これが、勇者リューンの何物も防げぬ斬撃すらいだというダイキ様の新たなお力なのでしょうか。
「じゃあ、行くよ。これがとっておき」
「やばい! 獣王化!!!」
イェスタ様はそう叫ぶと、暴風がイェスタ様を中心に吹き荒れ、眩い光が放たれました。
そこには紛うことなきフェンリル様がいらっしゃいました。
獣王化とは獣人化を超え、まさにフェンリル様に変化するものだったようです。
そして、フェンリル様の圧力によりAランクの者も気を失いました。
しかし、これはイェスタ様にとってまだ不完全な、奥の手中の奥の手だったようで、口からは血が漏れ出しています。
「すげぇな。イェスタくん」
ダイキ様は神剣パールを構えました。
「行くぞ!!!
<次元・斬>!!!」
眩い光と共に、凄まじい斬撃が神剣パールから放たれた。
イェスタ様もまた、ほんの少し遅れて凄まじいの咆哮を放ちました。
「<獣王の咆哮>!!!」
おそらくは2000年以上前、神話の時代の四神獣同士の争い以来の衝撃が巻き起こりました。
地面は半径1kmを超える巨大な穴が空き、衝撃の余波で不戦の草原の周りの森は5kmに渡って木が倒れ、当然のようにサン様を中心にコウ様とシュン様とアンサッス様と私が全力で張った結界も消し飛び、召喚された地獄も消滅したのです。
サン様がいつの間にか気を失っていたAランク以下の兵を1人も残らず体内にしまっていたおかげで、1人も死者は出ませんでした。
しかし、SSランクの3執事様すら満身創痍です。私もかろうじて意識を保っていますが、全身から血が流れています。
余波だけで、この有様なのです。もろに受け合ったお2人はご無事なのでしょうか。
衝撃が収まり、煙が晴れた時、そこには袈裟斬り状に深い斬り傷を負ったイェスタ様と全身が焼け焦げた様になり煙をあげるダイキ様が立っていました。
ひとまずご無事なようでほっとしましたが、それと同時にあの地獄すら消滅させる攻撃を受けてこれだけのダメージで済んでいる異常さは最早形容の言葉が見つかりません。
「ふざけんなよ。なんで獣王の咆哮を受けてまだ意識があんだよ!?」
「そっちこそ! 次元・斬は斬れないものなんてないはずなのに」
「殺す気だったのかよ!?」
「それイェスタくんが言う? 僕なら死んでさえいなければ治してあげられるし。
でも、さっきのあれ何? さっきから回復魔法が効かないんだけど」
「そりゃよかった。オレもちゃんと獣王の咆哮を使えてたってことだ」
「全然よくないよ! まったく」
そしてお2人は同時に倒れました。
「くそ、もう動けねぇ。獣王化使うとただでさえ1日は動けなくなるってぇのに」
「僕も、もうムリ。しばらくは戦いたくないよ」
「はっ、ちっとは頭冷えたかよ」
「っ!!! ……、そうだね」
「やっぱお前は笑ってねぇとな」
「はは、そうだね」
ダイキ様は笑いながら涙を流されました。
「ありがとう。イェスタくん」
「おう。友達だからな」
「うん。うん。ありがとう」
そうしてお2人は気を失ったのです。
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次の日、イェスタ様は旧ダイン王国の王城内の最上級客室のベッドで目を覚まされました。
「痛っ」
客室というにはとても広い客室でしたが、そう感じない程の魔族が集まっていました。
そこにはダイン魔族連合王国の重鎮が全員揃っています。
そして、全員がイェスタ様に向かって跪いていました。
「な!? なんだよ!?」
イェスタ様は驚かれた様子です。
私が、魔族を代表して口を開きました。
「この度は、我らが王をお諌めいただき感謝の念に堪えません」
「は?」
「我らは、王のヒト族とエルフ族を討つと言うお言葉をそのまま実行することこそが王への最大の貢献だと信じて疑いませんでした。
しかし、王は人知れず苦しんでおられた。それを誰も気付けなかったのです。
あのまま攻め入っていたなら、王のお心は閉ざされ、王に悲しい道を歩ませることになっていたでしょう。
我らは自らを恥じるばかりです」
「……、そ、そうか」
イェスタは恥ずかしそうにそう仰しゃいました。
「それで、ダイキはどうなった?」
「王はまだ意識を取り戻しておりませんが、バイタルは安定しております」
「そうか。なら良かった」
この翌日、ダイキ様は目を覚まされました。
ダイキ様は何度も何度もイェスタ様に謝り、感謝をお伝えしていました。
そしてダイキ様は、即時の行軍を一旦取りやめ、まずは防備の拡充と軍の練度の向上を行うとお決めになられました。
私は元より魔族はこの一件により、より一層の団結とダイキ様への忠誠を強固なものにしたのです。
それと同時に、獣王の御子イェスタ様への多大なる敬意を胸に秘めました。
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ダイキ様が方針を変更し、しばらく経ったある日、ダイキ様とイェスタ様は不戦の草原に開けた穴を見ておられました。
「いや〜、僕、よく死ななかったよね」
「こっちのセリフだよバカ」
しばらくお2人はたわいもない話で盛り上がりました。
私は、このお2人のご様子、ご関係を見ながら思わず涙を流していました。
そして、ダイキ様は真剣な表情でイェスタ様を見ました。
「ホント、ありがとう」
「何だよ、もういいって言ってるだろ」
「へへ、でもありがとう」
「ちっ」
ダイキ様の顔は晴れやかでした。
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