幕間004 第8勇者召還
時代は激動していた。
『邪竜の暴乱』が起こり、その騒動が静まる前に『魔族革命』が起こり、その失敗の後『魔界統一』によりダイン魔族連合王国が誕生し、アウム神教国とエルガート聖樹国による連合邪竜討伐の結果、『邪竜の死』が発表され、それが影響したかは定かでないが、『魔獣ドワーフ3国同盟』が締結された。
これまで、静かに平和が保たれていた500年をひっくり返すような出来事が立て続けに起こったのだ。
極め付けはダイン魔族連合王国がヒト族とエルフ族に『宣戦布告』を行ったことだ。
各国は、身の振り方を必死に模索していた。
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■ヒト族『インガイア王国』
「アウム神教国のアホどもが!!! なんてことをしてくれたんだ!!!」
「まったくだ。魔族との全面戦争なんぞ起こってみろ。我が国も無事では済まん」
「しかし、ではどうする? アウム神教国もとてもじゃないが信用できんぞ」
「そうだ、アウム神教国に与しても守ってもらうどころか鉄砲玉扱いされて終わるのが目に見えているわ」
「ならば魔族側に付く、ということは可能なのか?」
「それこそありえんであろう? 魔族だぞ? 同じヒト族というだけで交渉すら出来るかわからんぞ。
奴らはアウム神教国ではなく、ヒト族に宣戦布告してきたのだ」
「ドワーフからの連絡はまだないのか? 魔族と同盟を組んだのだ。少しでも情報を得られれば」
「ドワーフは魔族に対する情報は一切を遮断しているようだ。何も情報をよこさん」
「クソっ、どうすれば」
インガイア王国の重鎮達は陛下の御前である会議でありながら、言葉を選ぶ余裕もないほど慌てていた。
今まで黙して会議を見守っていた陛下が右手で場を制した。
「どちらの勢力にも与せず、中立を保つ」
「しかし、陛下。我らの軍事力では、万が一巻き込まれれば何も出来ずに国が亡くなります」
「勇者召喚を行え」
「「「「「!!!!!」」」」」
勇者は「火」・「水」・「風」・「土」・「雷」の5大属性、「聖」・「闇」・「空間」の特異3属性のいずれかの性質に特化した形で召還される。そして、同じ属性の勇者は同一の時代には召還できない。
既に、アウム神教国が「火」・「水」・「聖」・「闇」、サンガリオン帝国が「土」・「雷」、フォルムート王国が「風」とそれぞれ勇者を召還していた。ポート共和国、インガイア王国は勇者のいない状態である。
「しかし、勇者はもう7人召喚されております」
「まだ、空間が残っておる」
「ですが陛下、空間の勇者は歴史上召喚されたことがありません」
「それはわかっておる。であるから、エルフの力を借りる。かの国もどちらに付くか迷っておろう。我らは彼の国と共に中立を保つ」
会議場は静寂に包まれた。
「魔族はまず龍ヶ峰の奪還に動くであろう。ならばまだ時間はある。まずは、召喚を目指し、エルフと連絡を取れ」
こうしてインガイア王国は動き出した。
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■地球「アメリカ合衆国」
ワシはルーカス・ウィリアムズ。かつては空軍に属し、ベトナム戦争、湾岸戦争を経験した。戦果もいくつかあげ、叙勲も受けた。今はカルフォルニアに移住し、孫を可愛がる毎日だ。
こう見えてユニヴァーシティ時代はもてたものじゃ。先日他界した妻とはその時出会った。
「グランパ。遊ぼ」
「エマか。よし。今日は何をしようかのお?」
「おウマさん」
「よしよし」
孫のエマじゃ。今日も可愛いのお。まるで天使じゃ。
ワシは四つん這いになり、孫のエマを乗せる。それを息子夫婦が優しい笑顔で見守っておる。
その時、ワシの下から強い光が放たれた。
「な、なんじゃ!?」
「グランパ!」
「ダディ!!! エマ!!!」
「ルーカスお義父さん!!!」
そして、ワシとエマは見知らぬ場所にいた。
わしはまわりを見渡した。
大聖堂だろうか。こんな様式は見たことがないが。
「まさか! 成功した!?」
「成功だ!!!」
「しかも、2人?」
「「「「「おおおおおおお!!!」」」」」
なんか知らんが騒々しいのう。
ワシはエマを抱き上げ、周囲を見渡した。
よく分からんが、10人くらいの人間に囲まれておる。どいつもけったいな格好しとるわ。魔法使いみたいな格好しよって。まだハロウィンには早いぞ。
「グランパ。ここどこ?」
「どこじゃろうの?」
「みんな変なカッコ」
ワシはわけが分からないが、こういう時こそ取り乱してはいかんと気を張った。
エマはよく分からんのかキャッキャしておる。
そして、ひとりの女が近づいて来た。なんじゃ? 耳が尖んがっとる。映画の撮影か?
その女はワシの前に来たら片膝を床につきおった。
「勇者様。ご降臨いただきありがとうございます。どうかお力をお貸しください」
「はぁ? なんじゃあ?」
周りのヤツらも全員が片膝をついておる。
どうも映画の撮影という感じではないのお。
「グランパ。このお姉ちゃんダレ?」
「ダレかのお?」
ワシはその女を見た。
女は察したようだ。
「私は、アングラシア聖森国の巫女、ルミア・フォンテーヌと申します」
「アングラ? なんじゃあ?」
「ここは貴方様の世界とは別の世界であります」
「はぁ?」
「私達は貴方様とお嬢様に害をなすつもりはございません。お名前をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」
糞ほど怪しい状況ではあるが、礼節を持って対応してきておるし、名前くらい名乗るかの。
「ワシはルーカス・ウィリアムズ。元合衆国軍人じゃ。この子は孫のエマじゃ。それで、これはなんじゃ?」
「場所を移して詳しくご説明させていただきたく存じます」
「ああ。エマもそれで良いか?」
「うん」
ワシとエマは別室に案内された。華美ではあるが嫌味のない上品な調度品でまとめられた部屋だ。
紅茶と茶受けのお菓子が出された。エマはおいしい。と言って喜んでいる。
ワシも紅茶に口をつけた。うむ。うまい。アールグレイに近いが上等な茶葉を使っている。
少しすると、ワシらの正面に座っている巫女とかいう女が口を開いた。
「まずは、改めまして、この度はご降臨いただきありがとうございます。
先程も申しましたが、貴方様方を害する気は毛頭ありません。話を聞いていただけますと幸いです」
「うむ。お主らに害意ということはひとまず信じよう。それでじゃ。
ワシらは気づいたらあそこにおった。説明してもらえるかの?」
「はい。この世界はアウムスフィアと呼ばれる世界でございます」
そうして女は語り出した。
なんじゃあ、エルフはおるはドワーフはおるは獣人はおるは魔族はおるは。魔法まで使えるとは。まるで映画の世界じゃ。
しかも、魔族が人間とエルフに宣戦布告したじゃと? 原因は別の人間の国とエルフの国が魔族にちょっかいをかけたからと。迷惑な話じゃな。
「それで、巻添えを喰う格好になったというわけじゃな」
「左様でございます。しかし、ヒト族はもとよりヒト族よりは魔術に長けるとはいえエルフ族も魔族には敵いません」
「じゃあ、なんでちょっかいなんぞかけたんじゃ?」
「エルフは集団で行使する大規模魔法が使えます。
そしてヒト族には勇者と呼ばれる超常の力を持ったものがおります。
加えて、我々と敵対しておりますエルフのエルガート聖樹国とヒト族のアウム神教国は長年魔族が信奉する邪竜を主敵と定めておりました」
「勇者ってのはなんじゃ? さっき大聖堂でワシに向かってもそう言ったの?」
「勇者というのは特殊な召喚魔法により異世界より召還された者のことです。その召還の際、超常の力を得ると言い伝わっております」
「つまりワシらも勇者ということかの?」
「左様でございます」
なるほど、全くわけは分からん。
しかし、事実として世界を割るような戦争の真っ只中に呼ばれてしまったわけか。
「訳は分からん。しかし、おぬしの言うことは理解はした。
それで、ワシらをどうするつもりじゃ?」
「我ら、アングラシア聖森国とインガイア王国はこの戦争では中立を保つつもりです。
ですが、軍事面で遅れを取っておりましたので、勇者召喚を行ったのです。
つきましては、ルーカス様、エマ様には抑止力となっていただきたいのです。」
「分からん話ではないが、なんで今更その召還とやらを行ったんじゃ?」
「勇者は同一年代に7人しかこれまでの歴史上召還できておりません。今すでに7人の勇者は召喚されております。
しかし、理論上はもうお1人召還することは可能でした。ですので今回、召還成功の確率は非常に低いものでしたが、何もしないわけにはいかず……」
「うん? ワシとエマで2人おるぞ?」
「それにつきましては、我々にも分かりません。何か理由があるものとは思いますが……」
「まあ、いいわ。それで、その戦争とやらが終われば、合衆国に返してもらえるんじゃろうの?」
女が狼狽え出した。
「申し訳ありません。召喚者を元の世界に戻す逆召喚につきましては方法が確立しておらず、」
「あぁ!!!」
「ひぃ!!!」
ワシは思わず女を睨んでしまった。
しかし、超常の力ってのも本当なのかもしれんの。
目に見えない圧力みたいなもんが女に飛んで行った感じじゃ。
「ワシはいい。どうせ老い先短いからの。
しかし、エマはまだ6才じゃ。この歳で両親から引き剥がされるのがどういうことか分からんわけじゃないじゃろ?」
「は、申し訳ありません!!! 戦争が終わるまでに全力を持って逆召喚の方法を探ります!!! 何卒ご容赦を」
「うむ、仕方ないの。ここで凄んでもどうにもならんしの」
「あ、ありがとうございます」
「しかし、その方法とやらが見つからん場合は覚悟してもらうぞ」
「っ!!!! 全力を尽くします」
えらいことに巻き込まれたもんじゃ。エマには血生臭いものは見せたくないのじゃが。
エマの頭を撫でるとエマはキャッキャと笑った。
「グランパ、見て見て」
「ん? なんじゃ?」
するとエマは右手で持っていたお菓子のクッキーを瞬時に左手に移動させた。
「おぅ?」
ワシは正面の女を見た。
女も目を見開いて驚いておる。
「そのお歳で、なんの教授もなく空間魔法をお使いになられるとは。ルーカス様! エマ様はまごうことなき天才です!!!」
「おぅ、そうか」
孫を褒められるのは嬉しいが、それでますます戦場に出る機会が多くなるのではと心配にもなる。
こうしてワシらは異世界での生活を始めることとなった。
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■人族『インガイア王国』
大会議場にはインガイア王国の陛下、アングラシア聖森国の巫女、ルミア・フォンテーヌを始めとする両国の重鎮が揃っていた。
「ルミア殿、勇者様はいかがであった?」
「陛下、お2人ともとんでもないお方です。エマ様は召喚されて1時間と経たない内から空間魔法を使っておられました」
「なんと!」
「逸材です」
「「「「「おおおおおおお!!!!」」」」」
会議場は沸き立った。
「もう1人の方はどうであった?」
「ルーカス様の魔術適正はまだ分かりませんが、確実に生死の境を彷徨うような修羅場をいくつも潜り抜けておるかと。
さらに、こちらの御仁は召喚して幾ばくも経たないうちから魔力で威圧を放たれました。とても私では太刀打ち出来ないと思わされました」
「「「「「おおおおおおお!!!!」」」」」
またも会議場は沸き立った。
「これで、なんとかなるかもしれんな。しかし、エマ嬢はともかくルーカスの方は危ういな」
「はい。油断するとこちらが食われるかと。しかし、エマ様の安全を確保している限りは変な行動をとる心配はないと思います」
「そうか。他には何かあったか?」
「戦争終了までは協力していただくことを約束してもらいましたが、戦争終了時には逆召喚にて元の世界に返すことを強く望まれております」
「なんだと。出来るのか?」
「現状ではできません。アングラシア聖森国の全霊を持って研究を進めます」
「今はそれしか出来んか。頼みむぞ。中立を保ったとしても、内側の爆弾が爆発しては元も子もない」
「はい」
「そもそも何故2人も召喚されたのだ?」
「それもわかっておりません。もしかするとそこに空間の勇者の召喚が今まで成功しなかった理由がそこにあるかもしれません」
「こちらも並行して調べてもらえるか?」
「かしこまりました」
「では、これより2人の勇者をどのように扱っていくか、この召喚成功をどのように世界に知らせるべきか。これらについて決める。意見のあるものは遠慮なく述べよ」
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インガイア王国とアングラシア聖森国が密かにルーカスとエマの召喚を成功させたその1か月後、魔族が龍ヶ峰の奪還に成功した。
それに合わせるかのように、インガイア王国とアングラシア聖森国の共同声明が世界に発表された。
『第8勇者の召喚に成功』
この声明は各国に衝撃を与え、各国はその対応に追われることになった。
こうして世界にまた1つ大きな波が生まれた。
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