003 僕、ご褒美をもらう
僕は1年かかって、龍ヶ峰を制覇した。いまでは、Sランクのフレイムバード、ストームタイガー、エンペラースライムを従えていた。
僕はその3体を連れてお父さんの元へ向かった。
「お父さん、やっと山を制覇したよ」
「ほう、そいつらが、Sランクか」
「そう、フレイムバードのコウ、ストームタイガーのシュン、エンペラースライムのサン。みんな挨拶して」
皆、高位の魔物のため、人語を理解出来たのはラッキーだった。
「フレイムバードのコウと申します。この度はお館様にご拝謁の機会を頂き、恐悦至極であります」
「ストームタイガーのシュンです。お館様の力はずっと感じていましたが、こうしてお会い出来て光栄です」
「エンペラースライムのサンと言います。お館様のお姿を拝見でき、喜びに堪えません」
こんな風に、挨拶出来るようになるまで仕込むのは大変だった。いくら人語を理解できても、今までは山の王者だったからまともにコミュニケーションなんてとってなかったしね。
「ほう、今まで会ったことはないが、お前ら随分と強くなっているな。息子に負けて成長したか。いや、ダイキよ、お前の仕業だな」
そう、ついでにお父さんから学んだ魔法の概念も仕込んだ。ちなみに、魔物というのは魔力を持ったモンスターだ。当然、魔法も使えるんだけど、本能に任せてるだけで効率がすっごく悪かった。
だから、徹底的に鍛えた。種族としてはSランクでも、脅威度としてはSSランク相当になってるかも。
「お父さんには一発でバレちゃったか。でも大したもんでしょ? ここまで仕込むの大変だったんだから」
「倒すだけなら半年で達成していたのに、そこから半年何をやっていたかと思えば、そんなことをやっていたのか」
「そこまでバレてたの!? でも、お父さんが倒せじゃなくて屈服させろと言ったからさ」
「なるほどな。とりあえずは良くやった。褒美をやるから付いてこい」
そう言ってお父さんは人化した。ロマンスグレーの髪をオールバックにしたナイスミドルだ。貴族と言った装いの服を纏っている。龍であることに誇りを持っているお父さんはあまり人化しない。そんなお父さんがわざわざ人化した。
そして、亜空間から掌くらいの鍵を取り出して、自分の前に突き出した。すると、何もなかった空間に豪華な扉が現れた。
「お前たちも付いて来たければ人化しなさい」
コウ、シュン、サンは慌てて人化した。みんな、20歳前後で執事服を着ている。執事服は僕の趣味だ。たぶんライトノベルの影響だろう。
お父さんが鍵を回すと、扉が光出し、そのまま奥に向かって開いた。僕たちは黙ってお父さんに付いて行った。
20mほど進むともう1つ扉があった。お父さんは別の鍵を取り出してその扉の鍵を開けた。
「さぁ、入りなさい」
僕は、お父さんに促されて、その扉を開けた。
そこには山のような財宝と、山のような武器があった。
僕は驚きで声を失っていた。
「わしもかつては多くの種族に狙われたのだ。ここ500年は静かなものだがな。ヒト族もエルフ族も獣人族もドワーフ族も魔族も、その当時のその種族の勇者や英雄を引き連れてやって来たものだ。わしはその悉くを返り討ちにした。
その時に其奴らが身に付けていたものがここにある。さらにわしと和睦する為に大量の財宝を持って来た。ただ、これらはわしにとっては何の意味も持たない。だからこうして、普段使っている亜空間とは別の亜空間に仕舞っていたのだ」
僕は初めて聞いた話と目の前の光景にただただ驚いていた。
「お前にこの2つの鍵をやろう。武器も財宝もわしには何の価値もない。だが、これから下界に降りるお前には必要になるだろう」
「これを全部くれるの?」
「ああ、わしには必要ない。数千年の間、ここにあるものを一度も使ったことがないのだからな」
「ありがとう。お父さん。大事に使うよ」
「ははは、喜んでくれたならいい。何の意味もなかったが、こうして集めておいた意味があるな」
こうして、僕は多くの武器と財宝を手に入れた。中にはかつての英雄が使っていたであろう、圧倒的な業物がいくつもあった。龍ヶ峰にしかいたことのない僕はこれらの価値がどれほどのものかわからないけど、お父さんがくれたということがとても嬉しかった。
それから僕は、コウ達3人と1か月かけて中を整理した。これで、いつでもどれでも空間魔法で出し入れできるようになった。
それにより、何もないところからここの武器を取り出したり、そのまま発射したりとかなり戦術の幅が広がった。ただの剣や槍は1万ではきかないくらい数がある。
いくらでも無駄撃ち出来るけど、発射した剣を発射した先で空間魔法を使って回収すれば、無限に剣の雨を降らすことが出来るわけだ。
さらに、別格と思える業物の剣や槍も20〜30本はある。中でもお父さんの身体に似た真っ白な剣を僕は気に入っていた。
「ほぅ、その剣が気に入ったか。2000年前にわしに名前を付けた者達からもらったものだ。今思えば、その時代は各種族はまだ手を取り合っていた。
その当時、わしには2人の友がいた。人族の勇者リューンと魔族の王ガルムだ」
「それって……」
「そうだ。わしはの苗字は二人の名前をもらったものだ。名前はこの剣をもらったときに真珠のような身体だからと付けられた。まったく安直なものだ」
そう言いながらもお父さんは嬉しそうだった。
「その剣はその時代最高の武器職人だったドワーフの名工に私をイメージして作らせたと言っていた。銘は神剣パールという。剣もわしもパールと名付けるセンスは今でもどうかと思うわ」
お父さんは本当に嬉しそうだ。言わないけど。
「その時、2人も1振りずつ作ってもらっていた。わしはその2振りにお返しとして聖剣リューンと魔剣ガルムと名付けてやった。そして、お互いに付与魔法を掛け合ったのだ。
その当時では間違いなく世界最強の3振りになった。と言っても2000年前の話だ。中にはこれよりも強力な武器もあったろうに。それでも、あれだけの武器の中からこれを選ぶとはな。
どこにやったかわからなくなっていたが、この中に混ざっていたのか。これをダイキが使ってくれるならこんなに嬉しいことはない」
お父さんは懐かしむようにこの剣を見つめていた。
「お父さん、僕、決めたよ。下界に降りたら、聖剣リューンと魔剣ガルムに会いに行ってくる」
「ははは、そうか、今どうなっているかはわしにもわからんが、その土産話は楽しみだ」
「お父さん、この剣に僕も付与魔法をかけていい?」
「ほぅ、いいぞ。そうしたら、また世界最強になるかもしれんな」
継続付与魔法というのは実はかなり高度な魔法だ。自分が触れているものを強化したり、離れていても短い間強化するのは簡単だけど、触れていなくても継続して効果を発揮し続けるのは難しい。
それも2000年前の付与がいまだに続いているというのは3人ともかなりエゲツない。ただ、僕はお父さんから徹底的に鍛えられている。
僕は今までで一番気合いを入れて付与を行った。
付与に大事なのはイメージだ。
僕は決して折れず、決して曲がらず、何物も切断するという剣への付与としては基本的なものを強く、強くイメージした。
「出来た」
お父さんは目を見開いている。
そして、急に人化して
「その剣を見せてみろ」
「……、うん」
僕は剣をお父さんに渡した。
お父さんはしばらくこの剣を眺めて、
「お前はとんでもないな。この剣は間違いなく史上最強の剣だろう」
!!!
「でも、僕、剣への付与としては当たり前のイメージしかしてないよ」
「しかし、この結果はあまりにも非常識なものだ」
僕は僕が行った付与の説明を受けた。
そして気づいた。
「ねぇ、お父さん。この付与の内容で自分の身体を強化出来たら、めっちゃ強くない?」
「!!!!!!!!」
お父さんがまた、驚愕している。
「それは非常に興味深いな。もし可能ならば、私が龍が峰最強と呼ばれるのはその魔法が完成するまでのことになるだろうな」
その日から、僕はこの偶然出来た付与を強化魔法にするべく、研究と訓練を重ねた。
そして、1年後、ついに僕はこの強化魔法を完成させた。