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025 わし、不覚を取る

「ほう、この山に下界の者が進軍してくるのは500年ぶりだな。

 麓にはわらわらいるが、登ってきたのは7人のみとは舐められたものだ。しかもひとりは瀕死ではないか」


 その者達は気配を隠すこともなくゆっくりと上がって来た。


「初めまして、邪竜パール。私達はアウム様の使徒、七星。

 人族の繁栄の為に死んでもらう」


 ヒト族の女がいきなりのたまってきた。


「ほう、勇者が4人とエルフの賢者か。アウムの使徒だと。

 ふふ。しかし、アウムは貴様らのことなぞ知らんと思うがな」

「黙れ! 我らを侮辱するか!」

「知らんのなら、教えてやろう。本当のアウムの使徒はこの世界に2人だけだ。」

「黙れ邪竜!」

「聞く耳持たんか。それに七星だと!? それはリューンが後を託した7人の英雄のことだ。

 お前達が七星だと? 笑わせてくれる。

 まぁ良い。わしの家に土足で踏み込んだのだ。死ぬ覚悟は出来ているんだろうな」


 わしは魔力を解放した。


「これほどかよ」

「四神獣を軽視してはいなかったが、それでも過少評価していたようだ」

「お嬢! 大丈夫なんだろうな」

「確かに私達だけでは、難しい」


 この者どもも相手の力量は測れるか。


「力量差がわかったなら帰れ。今なら見逃そう」


「……、姫」


 姫と呼ばれたエルフの女が、持っている杖を掲げた。


「<絶対的聖域(サンクチュアリ)>」


 そして、龍ヶ峰を巨大な結界が覆った。


「くっ、猪口才な。魔力妨害か」

「答える義理はない」


 魔法はかなり制限されるか。これのために、麓にも大勢残していたということか。

 それでも、それだけで勝てると思われているとは。


 グサっ!!!!


「何!?」


 急に背中を刺された。気配も何も感じなかった。

 フーからもここまで完璧に不意打ちをもらったことはないぞ。


 気付けばヒト族の男がいつの間にかわしの背に乗っていた。


「固有スキルか」

「ご名答。どんなものかは言わねえけどな」

「しかし、不意打ちとはいえ、わしの背を刺すとは」

「あなたもよくご存知のはずだ」

「まさか!?」

「その通り、聖剣リューンですよ」

「貴様!!!」


 その時、見えない何かに手足を縛られた。

 くっ、これも固有スキルか。時間限定の行動制限だな。あと10秒は動けんか。


「配置に付け!」


 こやつらわしを取り囲んで何をするつもりだ。


「準備はいいな、行くぞ!

 <七星召喚陣(セブンスサモン)>!!!」


 わしを取り囲むように巨大な魔法陣が出現し、わしを包むように光を放った。


「ぐうぅぅぅううううううう!!!」


 何だ、聖剣に魔力が吸われている。

 しかし、これが奥の手か。不意打ちからの速攻としてはよくやった方だが、わしの魔力を9割吸ったとて、この者達では勝てんぞ。


 !!!


「何だ! 急に巨大な反応が!」


 そうだ、わしの背の上に急に反応が現れた。


「成功だ。召喚は成功した!!!」

「貴様ら、わしの魔力を使って召喚を行ったか!」

「ええ。ですが、のんびり喋ってて良いんですか?」


 エルフの姫が不敵に笑った。


 ブシュっ!


 背の召喚者め、聖剣を抜いたか。


 不味い!


「へぇ〜、人化して避けましたか。いかにあなたでも聖剣は効くようですからね」


 わしは、召喚者の聖剣での振り下ろしを人化することで何とか回避した。

 そして、わしはその召喚者と対峙した。


「やはり、……お前か」


 2000年前の友、勇者リューンがそこにいた。


「久しいな、パール。だがどうやら、再開を祝して酒を酌み交わすことは出来ないようだ」

「えぇ、そうですよ、伝説の勇者リューン。あなたには邪竜を倒してもらわないといけませんからねぇ」


 この姫は、召喚が成功してからやけに饒舌だ。


 リューンは聖剣をエルフの姫に向けて振るった。

 しかし、当たる直前で不自然に動きを止めた。


「なるほど、お前らには危害を加えることは出来ないわけか」

「それくらいの安全装置がなくては、危なくて運用出来ませんよ」


 リューンはこちらに向き直った。


「悪いな、パール。どうやらお前と殺し合わなきゃいけないらしい。しかも、お前、魔力が半分も残ってないな」

「ああ、お前の召喚にごっそり持っていかれたわ」

「ほう、外道が。この身体が自由なら、どいつを殺すか迷う必要もないがな」


 リューンの殺気が七星を襲った。


「さ、流石は、伝説の勇者様ですね」


 姫も震えているし、全員大量の冷や汗をかいている。


「さあ、勇者リューン、やってください。邪竜を殺すのです」

「パール、そろそろ限界だ。やり合う準備は出来ているか」

「まったく、お前とやり合うことになるとはな」

「ほんとだぜ。争いを無くすために俺とガルムでお前に会いに行ったてえのに。俺の子孫どもはどこで間違ったんだか」


 リューンの魔力が上がっていく。


「しかし、聖龍のお前がこの時代では邪竜なんて呼ばれてんのか? 笑っちまうな」

「知らんのか。ガルムの奴が『魔族が聖龍を崇めるのはおかしいよな、よし、邪竜ってことにして崇めよう!』と抜かして、魔族内で邪竜教ってのを広めおったからな」

「はっはっはっ、傑作だ! 何やってんだあいつ!」

「おかげでエルフが何度も大軍を送っていたわ」

「エルフがか!? 時の流れはわからんもんだな。確かにさっきのもエルフだったな」


「しかし、お前も丸くなったんじゃねえか?」

「わしにも息子が出来たからな」

「息子だと!? 初耳だぞ!」

「15年前にアウムが連れて来た。」

「アウム様が。そうか。そいつにも会ってみてぇな」

「自慢の息子だ」

「はは、まさかパールが親馬鹿とは。

 死者を無理矢理呼び戻しやがってと、怒りばかりだったが、お前とこれだけ喋れたんだから、案外悪くなかったかもな」


 リューンが聖剣を構えた。


「行くぞパール。不本意だがな」

「来い!」

 

 リューンの斬撃が飛んで来た。

 わしは空間魔法の結界で防ぐ。


「くっ!?」


 防ぎきれん、押し込まれる。

 わしは短距離転移で何とか回避した。

 その隙を逃すリューンではない。空間魔法の上位者同士では短距離転移は出現場所が読まれてしまう。故に先に転移した方が不利になる。


 ズパン!!!


 左手を斬られたか。わしの結界を簡単に抜いてくれる。


 明らかに2000年前よりも強い。召喚の際に強化されたか。

 しかもわしは魔力妨害を受けている。リューンが無事なところを見ると奴らの仲間には影響がないようだが。


 厄介だな。魔力ももう3割もない。しかし、全力で戦うしかない。

 ハンデを負った上で相手が強化されたリューンだ。気を抜くと一瞬で戦闘不能だな。


 何より、固有スキルを使わせるのは不味い。今のこいつの実力でまともに食らえば、わしでも即死すらありえる。だが、あれは打つの溜めが必要だった。ならば、その時間は与えん。


 わしは猛攻を仕掛け、リューンはその悉くをあっさり捌いてくれた。



 時間にして10分ほどたっただろうか、急に見えない何かに手足を縛られた。


「なっ!?」


「パール、すまん! 固有スキル<何物も防げぬ斬撃(ザ・ブレイク)>!!!」


 動けん!

 

 ズッパーン!!!!!!!


 わしはまともにリューンの固有スキルを食らった。


 ザ・ブレイク、か。


 あらゆる結界を無効化し、次元すら飛び越えて切断する最強の固有スキル。

 まともに食らうとここまでのダメージを負うか。


 いや、リューンが僅かに抵抗したのか急所を少し外れている。


 ちっ、まともに魔力が練れんか。


「ハハハハハ、邪竜パール。いいざまですねぇ」


 リューンは、一瞬あさっての方向を見て、再び七星に殺気を放った。


「よくも横槍を入れてくれたな」

「誰も決闘など頼んではいませんよ。邪竜を討伐できればいいのです、勇者リューン」

「貴様!」

「さぁ、とどめを刺しなさい!」


 リューンがこっちに向かって来た。

 死が近いからだろうか。近くにダイキの魔力を感じるようだ。


「悪いがここまでのようだな。もっとお前と話したかったよ、パール」

「わしもだ。リューン。息子の成長を見守ってやれんのは心残りだが、友の手で死ねるのであれば、悪くない」

「一度死んだ俺が言うのも何だが、先にあの世で待っていてくれ。格別に上等な酒を用意してな」

「ああ、そうさせて貰おう」

「さらばだ!」


 リューンが再びザ・ブレイクを放った。わしが死を覚悟し、目を閉じた。


 ガキーン!!!


 しかし、斬撃が飛んで来ない。

 目を開けると、ザ・ブレイクをダイキが防いでいた。


 ダイキ!? 何故ここに!


「ザ・ブレイクが防がれただと!」


 この時、神剣パールと聖剣リューンはお互いに引かれ合うように光だした。


「お父さん、文句は後で聞く!!! とりあえず逃げるよ!!!」

「お前が、パールの息子か。おもしれぇ。さっきからとんでもない魔力を感じてはいたけどな。

 しかも、それは神剣パールだな。この聖剣が共鳴してやがる」

「じゃあそれは聖剣リューン!? ならお前は!!!」

「そうだ。俺はリューン。パールは友だが、今は訳あって敵同士だ」


「勇者リューン!? お会い出来て光栄だが、お前は俺が殺す!!!

 それに奥の奴らは勇者か!? それにエルフ!?」

「勇者リューン、さっさととどめを刺しなさい! そんな餓鬼一人に何を躊躇しているのです」

「おいおい、無茶言うなよ。こいつは全快のパールと同じかそれ以上の化物だぞ」

「なんですってっ!?」

「お前ら覚えておけよ。ヒト族とエルフ族だな。必ず報いを受けてもらう!!!」


 そう言って、ダイキはわしを連れて転移した。


「こ、ここは?」

「お父さん、喋らないで!!! お前ら全力でお父さんを治せ!!!」

「「「は!!!」」」


 ダイキの配下達か、コウ達もよく成長したものだ。


「お父さん、意識をしっかり持って!!!」

「お館様!!!」

「お館様!!!」

「お館様!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 次の日、僕は、


 全世界に向けて、邪竜(お父さん)の死を報告させた。

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【世界最大の敵の元魔王、現在はウエイター見習い 〜人間の領地を侵攻中の魔王が偶然出会った町娘に一目惚れした結果、魔王軍を解体してそのまま婿入りしちゃった話〜】

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