024 僕、ドワーフの王様達と揉める
ドルゴーン連邦に着いた次の朝、僕は部屋で朝食を食べていた。
どうやら、ドルゴーン連邦の食事は鉱山や工場といった暑い場所での生活が基本となっているためか、味付けは基本的に濃いめで、あと辛いものも多かった。
僕は結構気に入っていた。
食べたことないけど、地球の東南アジア系の料理ってこんな感じなのかな? と勝手に考えた。
朝食を終えると、コウが紅茶ではなくコーヒーを淹れてくれた。
どうやらドワーフ族は紅茶よりコーヒーが好みのようだ。
僕は、大人ぶってブラックで飲んだ。苦い。
紅茶をストレートで飲むのはもう慣れたけど、コーヒーはまだ慣れないな。
でもおいしい。けど、苦い。
この日はバザル大王達と会談の予定だ。
しばらくするとアイルちゃんが呼びに来て、一緒に会談場に向かった。
入るとドーナツ状の大きなテーブルがあり、1国につき7席が用意されているようだった。
僕達はダイン魔族連合王国の席の真ん中に僕が座り、僕の右にアイルちゃん、左に外務卿のエリオさん、後の4人はアイルちゃんの部下とエリオさんの部下だ。
ガガリオン獣王国は真ん中を空けて、その右にヴィルヘルム総督の息子の獅子獣人さん、左に虎?獣人さん、あとは何度か会議で見かけた人が4人、ヴィルヘルム総督はまだ獣王国らしく、モニターでつないで参加となっている。
僕達2国が着席してしばらく待っていると、7人のドワーフ族が入って来て、真ん中にはバザル大王が座った。みんなイカツイ。
「ガガリオン獣王国、ダイン魔族連合王国の皆、待たせてしまったかな。早速始めるとしよう」
まずは手短に自己紹介から始まった。
ドルゴーン連邦の7人は、連邦の7人の王様だった。ドルゴーン連邦の最高権力が揃い踏みってことみたいだ。
「詳細は今後詰めるとして、大枠について決めていきたいと思うが良いか?」
僕と画面越しのヴィルヘルム総督は頷いた。
「大王、その前にひとつよろしいか?」
「ゴイアス王か、何かな?」
ドルゴーン連邦の王様のひとりがバザル大王の進行に待ったをかけた。
「ダイキ魔王にお訊ねしたい」
「……、どうぞ」
「貴公が神剣パールをお持ちという噂は真であるか?」
瞬間、うちの面々がピリっとした。全員が額に青筋を浮かべている。
僕も最近まで知らなかったけど、王に対しては陛下という尊称を用いるのが一般的で、それは自国だけでなく他国の王に対してもそうらしい。最低限目上の者に対して使うのであれば貴殿となるみたい。
対して、貴公というのは対等以下の者に使うものらしい。
ゴイアス王も王ではあるけれど、この場においては僕とヴィルヘルム総督とバザル大王とが対等であり、他の6人の王よりは上になる。
それを対等以下として扱ったわけだ。
しかも「であるか?」という言い方からして下にみていると取られてもおかしくない言い方だった。
まぁ、ゴイアス王にも王としての意地みたいなものがあるのかなと思って僕は流すことにした。
「……、はい。持っていますよ」
「そうか! では、まずはそれをこちらに渡してもらおう。話はそれからである」
「はっ?」
僕は思わずポカンとしてしまった。
うちの6人も怒りを通り越してポカンとしている。
「どうした? 早く出したまえ」
流石に僕もキレそうだ。
それをグッとこらえた。
「なぜでしょうか? そちらに渡す理由がありませんが?」
「何を言うか! それは元々我が国で作られたもの。その返還を求めるのは当然であろう」
「その通りだ」
「早く出したまえ」
「我らと同盟を結びたいのであろう?」
「ならばそれなりの礼儀があろう」
「嫌ならば構わんのだぞ」
ヤバい。頭おかしいのかな?
ゴイアス王だけでなく、他の5人の王様も乗っかって来た。
僕は、バザル大王を見た。バザル大王もこいつら何言ってんの? 的な顔をしていた。
そこで僕はあえてバザル大王に問いかけた。
「バザル大王、これはドルゴーン連邦の総意と言うことでよろしいのですか?」
「ダイキ魔王、ま、待ってくれ! 貴兄らは何を言っているかわかっているのか?」
「大王、何か問題がありますかな?」
「我らとしては当然の要求でありましょう」
「わかった。貴兄ら一旦部屋を出るのだ!!!
ダイキ魔王、ヴィルヘルム総督、一旦の中座をお許しいただきたい」
7人の王は一旦退出していった。
「魔王様、よく堪えてくださいました。むしろあのままでは私が爆発していたと思います」
「私も我慢の限界でした」
アイルちゃんもエリオさんもブチキレ寸前だったみたいだ。
「しかし、ドルゴーンから誘っておいてどういうつもりなのでしょうか。バザル大王の独断だったとは思えないのですが」
エリオさんは何か違和感を感じたみたいだ。
「よし、じゃあ盗み聞きしよっか」
僕はこの部屋の中にだけ展開していた探知魔法を徐々に広げていった。
すると、7人の王様は隣の隣の隣の大部屋にいた。
その部屋の空気に作用魔法をかけて、空気の振動から何をしゃべっているかを聞き取ることにした。
『貴兄らは何を考えているんだ!!! あれほど、魔族側を刺激するなと言ってあったではないか?』
『何を言いますか。刺激も何も当然の要求でしょう』
『何?』
『では大王は神剣パールが我が国に必要ないと?』
『そうは言っておらんではないか!』
『ならば、良いではないですか。今が一番交渉できる時でしょう』
『あれでは、交渉そのものが潰れてしまうではないか!
我らはいつヒト族に背後から刺されるかわからんのだぞ!
だからこそこの交渉は絶対に必要だと全員納得したではないか!』
へ〜、そんな裏事情があったんだね。
『しかし、我ら要塞連邦がヒト族ごときにそうそう遅れはとりますまい』
『左様、それよりも神剣パールを優先すべきではありませんかな?』
『その通り、まずは神剣パールが第一でありましょう』
『しかし、大王ともあろうお方が随分と及び腰ではないか』
『大王が交渉出来ないのであれば、我らだけで行っても良いのですぞ』
『大王もお年を召されましたからな』
『貴兄ら、一体どうしたというのだ?』
バザル大王は困惑しているみたいだ。
『一旦、わしが戻って会談を後日にしてもらってくる。貴兄らは頭を冷やしておけ!』
バザル大王が部屋を出た。
「アイルちゃん、エリオさん、なんか、ヒト族の匂いがするよ」
「「!!」」
バザル大王が会談場に戻ってきた。
そしていきなり頭を下げた。
「申し訳ない!
6王は神剣パールのことで混乱してしまっているようだ。頭を冷やさせるゆえ、会談はまた後日としてはいただけないだろうか?」
僕は画面越しにヴィルヘルム総督を見ると頷いてくれた。
「僕たちは構いません」
『わしらも構わんぞ』
「かたじけない」
「バザル大王、いくつかお聞きしても?」
「ああ」
「貴国にとって、神剣パールとはどのようなものなのですか?」
「まずはそれをお話しないことにはわけがわからんのも道理だな。」
バザル大王は、ふ〜と息を吐いてから話し始めた。
「神剣パールと聖剣リューン、魔剣ガルム、ドワーフの間では3大秘剣と呼ばれる。それらは失われた技術で作られたものなのだ。」
そんなに凄いものなの?
お父さんの宝物庫にはもっとすごそうなのもあったけど。
「その技術で作られた剣のうち存在が確認されていたものは聖剣リューン、魔剣ガルムだけだった。ゆえにドワーフ族にとっては何がなんでも取り戻したいものなのだ。
しかしその2振りはそれぞれ、ヒト族のアウム神教国、魔族のダイン王国が国宝に指定しており、取り戻すのは容易ではなかった。そこに神剣パールの存在が確認された。
しかも他の2振りと違いダイキ魔王個人の所有。であれば、他2振りは無理でも神剣パールならあるいはと。浅はかではあるが、その考えが暴走したのだと思う。」
僕はこれを聞いてもさっきの対応はアホなんじゃないかという考えは変わらなかった。
「残りの剣はどうなったんですか?」
「それについては、剣の鍛造の歴史を話させてもらいたい。」
バザル大王は、ここでもう一度息を吐いた。
「2000年前、3大秘剣が作られたころは大陸全土が戦乱の時代だった。そのため、より強い剣をとドワーフ全体が切磋琢磨していたのだ。
その時、ヒト族の勇者リューンと魔王ガルム、邪竜パールが手を組んだ。当時最大勢力であったヒト族と魔族に加え邪竜までもが手を組んだのだ。
その証にと勇者リューンに頼まれて作られたのが3大秘剣と言われている。これによって、次第に戦乱の時代は静かになっていったという。」
そんな、歴史上重要な剣だったんだ。
お父さん、雑に扱いすぎだよ。
「しかし、その輪に入っていなかったエルフ族は邪竜パールを主敵と定め、遠征を繰り返した。それも500年前の大侵攻の失敗を最後に終わりを告げる。
つまり、それまでは剣の需要があったが、それ以降の世では剣の需要がなくなってしまったということだ。
その上、邪竜に敗れたエルフは個人の力ではなく、集団魔法の研究を開始した。
時代は対個人から対軍に移ってしまった。この500年、大きな戦争は起こっていないが、時代は確実にそういう風に流れていった。当然、我らドワーフも剣より対軍兵器の開発に力を入れた。
さらに400年前、ヒト族から銃が伝わったことが、剣の需要下落に拍車をかけた。それが結果として剣の鍛造技術の喪失に繋がってしまったのだ」
その結果が、今のドワーフの兵器ってわけか。
「なるほど」
「そして、当時から3大秘剣ほどのものは少なかったと伝わっている。
当時は戦乱の中であったから、人知れず失われてしまったのだろう。
遠征時のエルフに与えていたものは全て邪竜討伐の為のもの。その悉くが失敗に終わっているのだ。全ては使い手とともに龍ヶ峰にあるのだろうが、それを取りに行くようなことは出来ん。
もしかするとエルフが隠し持っている可能性はあるが、それもわからないのだ」
あれ? やっぱり、僕めっちゃ持ってるよ。
お父さんにまるっと武器とか財宝をもらった時に、僕が付与する前の神剣パール並の剣は20振りくらいあったし、それ以上の剣も7振りあった。
その7振りはなんかセットぽかったから、コウとシュンとサンにあげて、残りも今後の仲間にあげようと思ってるんだよね。
だから、それ以外の20振りの中からなら1振りくらいあげてもいいけど。
アイルちゃんをチラ見したら、首を横に振った。
つまり、交渉材料になるから簡単には出すなってことか。
この日はこのまま解散となった。
僕は部屋に戻ってコーヒーを飲んでいる。アイルちゃんとエルムさんも一緒だ。
「しかし、面倒なことになっちゃたよね」
「魔王様はヒト族が関わっているとお考えなのですか?」
「そうだね。魔族革命の時と一緒で、操られていると考えるとスッキリしない?」
「なるほど、そう考えれば確かに。」
「それでどうするのですか?」
「そうだね、本当にヒト族が関わっているとしたら、こないだと同じで、闇の勇者に乗っ取られているやつがいると思うんだよね。
ただ、自分が完全に外にいる状態で複数人を操るのってかなり難しいんだよね。だからアンテナっていうか中継地点として近くに自分の分身を置くと思うんだ。
6人の王様の誰かがそのアンテナになってたらメンドくさいけど、多分別にいるんじゃないかと思うんだよね。
6人の動きは探知魔法で追ってる。怪しいやつとそのうち会うと思うから、そこを押さえようと思う。」
「承知しました。」
でも、0時まで待っても今日は特に動きがなかった。
僕達は解散して、僕はそのあとすぐにベッドに入った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
!!!
「こんな時間に動かないでよ」
時計を見ると午前3時だ。
「コウ、シュン、サン、起きてる?」
「「「は」」」
「行くよ」
僕は3人と一緒に転移した。
転移した先には最初に突っかかってきたゴイアス王と、こないだ見た闇の勇者がいた。また自分の姿とはいい度胸してるよね。
「なっ」
「お前、あれほど気をつけろと!」
「君も懲りないね」
僕は、闇の勇者の頭を掴んでまた逆探知からのハッキングを行った。
!!!!!
「はっ、はっ、はっ、こんな所でのんびりしてていいのかな。魔王〜!!!」
僕は咄嗟に全力で精神破壊を行ってしまった。
それが効いたのか、接続を切られたのか、闇の勇者だったものはパラパラと崩れ落ちた。
「コウ、シュン、サン!!! そこのも含めて6人の精神支配を解け!!!
その後、ダインの王城の庭で待機しろ!!! 僕は行く!!!」
「「「は!!!」」」
闇の勇者をハッキングして見えたのは、
ヒト族の勇者4人とエルフの軍勢が龍ヶ峰を包囲しているところだった。