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023 僕、ドワーフの国へ行く

 今日僕は1日自由時間を貰っていた。


 そこで、3執事と一緒にイェスタくんに案内して貰って獣王国にとって聖域であるキングズガーデンと呼ばれる森に来ている。

 アイルちゃんも滅茶苦茶行きたがっていたけど、外務卿のエリオさんに全力で止められてた。ごめん、また今度連れて行くからさ。


 それにしても、すごく深い森だ。木々が高くてほとんど光も届かない。

 この森の奥地にフーおじさんがいるのか。


 僕らでいう龍ヶ峰みたいなものなんだろう。

 キングズガーデンって名前はフェンリルであり獣王と呼ばれるフーおじさんにとってはこの広大な森すら庭にすぎないって事なのかな。

 ちなみに平気でAランク以上の魔物が跋扈している。


 僕はキングズガーデンを歩きながら、ふと昨日の事を思い出していた。昨日は昨日で楽しかったなぁ、と。



 昼に野球のデイゲームを観て、夜はラグビーのナイトゲームを観に行った。生前は生でのスポーツ観戦なんてした事なかったし、最高に楽しかった。


 ただ、どれも地球より明らかに激しかった。


 野球の球場がまず、地球の倍くらい広いし、観客席までの塀が滅茶苦茶高い。獣人族の身体能力を考えるとそれでも小さく見えた。

 しかも、ピッチャーの球が300km以上出ていた。

 それなのに、3本ホームランが出て、そのうち1本は場外ホームランになった。


 ラグビーは球場の大きさはそれほど変わらないけど、観客席には結界が張られていた。

 ぶつかり合いの激しさがハンパじゃない。ぶつかった衝撃波が客席まで届く勢いだった。


「おい、どうした。ニヤニヤしやがって」

「いや〜、昨日野球とラグビーを観に行ったんだけど、すごくおもしろかったんだよね」

「そうなのか? あんなのお前だったら余裕で即日トップスターになれるんじゃないのか?」

「まぁ、それはそうなんだと思うけど、生前はスポーツ観戦なんてした事なかったしね。そういうのはエンターテイメントとして楽しまないと」

「そういうもんか」

「じゃあ、今度は一緒に行こうよ。楽しいよ」

「お、おう。そうだな。そんな言うなら行ってみてもいいかもな」


 僕達はおしゃべりしながら歩いていた。


「もう着くぞ」

「え、そうなの?」


 もう着くと言われてもフーおじさんの存在をまったく感じない。


 そうすると、急に開けた場所に出た。ずっと鬱蒼とした森の中だったから、一層神聖な雰囲気を感じた。

 ここがフェンリルの住処か。その端に石造りの家が建っている。あそこがイェスタくんの家なんだろう。


 ドン!!!


 僕は森の奥に吹っ飛んでいた。


「いてて。フーおじさん。相変わらずイタズラが好きなんですね」

「がっはっはっは。ダイキ、お前はちっとは強くなったのかよ。こんな老いぼれの気配ひとつ読めないようじゃいかんな」


 いつの間にか、肩まである銀髪をたなびかせて仁王立ちするナイスミドルなおじさんが僕が立っていた所に立っていた。


「フーおじさんの気配を読めるのなんて、ウルヴァースおじいちゃんくらいしかいないじゃん」

「がっはっはっは。そんなものお前が塗り替えればよかろう。イェスタ。お前もなんか言ってやれ」

「親父。ほどほどにしろよ。シー姉は親父のせいで来てくれなくなったじゃないか」

「む、そんなこと言うなよ。悲しいぞ」

「はいはい」


 こうして僕たちはイェスタくんの家に案内された。


 イェスタくんがお茶を出してくれた。結構強烈な味がした。キングズガーデンで取れる魔草を煎じているらしい。

 たぶんSランクはないと飲めないよ。


「ダイキよ、パールは元気にしているか?」

「お父さんは全然元気だよ。なんなら、こないだ龍ヶ峰最強の座をもらおうと挑んだけど決着つかなかったよ」

「がっはっはっは。そうかそうか。パールと対等に戦えるくらいにはなったか」


「ちなみにイェスタくんも強かったよ」

「ほう。そうかそうか。うちのも中々のもんだろう」

「そりゃそうだよ。久しぶりに血が出たもん」


「がっはっはっは。で、どっちが勝った?」

「引き分け? かな?」

「そうなのか? イェスタ?」

「まぁ、勝負がつくまえにストップがかかったし」


「そうか。でも、イェスタ。お前危なかっただろ?」

「!!!

 そ、そんなことねぇし」

「がっはっはっは。そういうことにしておくか」

「ちっ」


 そしてフーさんは昼間だというのに酒を飲みだした。

 イェスタくんが止めてたけど、久しぶりの客人なんだから飲まずにはいられるかっていう僕らにはわからない理論を振りかざしてガブガブ飲んでいた。


「それでダイキ、同盟はどうなった?」

「あれ? フーおじさん、そのこと知ってるの?」

「当たり前だ。俺は獣王だぞ」


「そっか。それで同盟なんだけど、ヴィルヘルム総督と会談してる時に、ドワーフのバザル大王から連絡が入って、この3国で同盟を結ぶことになったよ。

 だからこの後僕達はドルゴーン連邦に行くことになってる」


「ほう。そうかそうか。それはおもしろいな。お前の国もガガリオンもより良くなるよう努めろよ」

「もちろんだよ」


 イェスタくんが急に僕の目を真っ直ぐに見てきた。


「ダイキ、オレはお前と違って王とかじゃないけど、何かあったら頼れよな」

「ありがとう。イェスタくん。もちろん頼らせてもらうよ」

「がっはっはっは」


 この日は僕も楽しくなりすぎて、気づいたらその場で寝ちゃったらしく、起きた時には朝だった。


「やっば」


 アイルちゃん怒ってるだろうなぁ。夜までに帰るって言ってたのに。


 3執事はもう起きてた。

 フーおじさんは深酒したせいかしばらく起きそうにない。


「イェスタくんは?」

「イェスタ様は家の外におられます」


 家を出ると、まだ朝だけどイェスタくんはひとりでシャドーをしていた。


「おはようイェスタくん」

「おう。起きたか」

「早いね。いつもこんな時間から?」

「そうだな。日課だな」

「そっか。僕も負けてられないね」


「もう行くんだろ? ドルゴーン連邦に行くって言ってたからしばらくは会えないな。

 だから、その間に殺気をコントロール出来るようにしといてやるよ」

「なら僕ももう1段階強くならなきゃね」


 僕はイェスタくんと握手を交わした。


「じゃあ、またね」

「おう、またな」


 僕達は、総督宮殿の部屋に転移した。

 この後、部屋で鬼のような形相で待っていたアイルちゃんに滅茶苦茶怒られたのは言うまでもない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 この日から3日は僕もアイルちゃんと一緒に会議に出た。獣王国側にはヴィルヘルム総督もいた。


 ぶっちゃけほとんどアイルちゃんが話してて、たまに頷くだけだったけど、国のトップが参加してることが重要みたい。



 あっという間に3日が過ぎ、ドルゴーン連邦に向かう日になった。


 ガガリオンとドルゴーン間は街道がしっかり整備されているらしく、2日あればドルゴーンに着くらしい。


 僕達の隊列も準備が整い、ヴィルヘルム総督と握手を交わすと、キングズガーデンの方からとんでもない魔力を感じた。


「この魔力は! イェスタくん!

 でも、こないだより明らかに強い」


 魔力はイェスタくんのものに違いないのに、強さも質も獣人化の状態よりもさらに強い。

 そして、


『ぐおおおおお!!!!!』


 という、獣王国中に響きわたったんじゃないかという咆哮と共にとんでもない魔力光線が空に向かって伸びた。


「あれは、獣王の咆哮(キングロア)。まさか、イェスタ様が。いつの間にそこまでのお力を。

 皆の者! イェスタ様に負けるでないぞ! この者達の門出でに祝福を!!!」

「「「「「ぐおおおおおお!!!!!」」」」」


 獣人族のみんなの咆哮が響き、鼓笛隊の演奏に見送られて、僕達は獣王国を出発した。


 イェスタくんめ、あんなとんでもない技を隠し持ってのか。第十位階魔法すら霞むじゃん。くそ〜、負けてられない!!!

 でも、ありがとう。最高の出発になったよ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ドルゴーン連邦に向かう間、僕は悩んでいた。


「う〜ん。ダメだ〜! 思いつかない!」

「主様、どうかしたのですか?」


「ガガリオンを出るときに、イェスタくんが見せつけてくれたじゃん。

 あれに対抗するものを身に付けたいんだけど、思いつかないんだよね。

 僕は今まで第十位階魔法が最強だと思って、そこに疑問を持ったことってなかったんだよね。第十位階魔法の威力を上げる努力はしてきたけど、そもそもあの獣王の咆哮(キングロア)はそういうレベルじゃなかった。

 だからどうしたらいいかわかんなくてさ。3人は何か思いつく?」


「申し訳ありませんが、我々では妙案が浮かびません。

 ですが、見たところ、あの技はイェスタ様というより、獣王様の最終奥義という感じがしました。

 ならば主様は、お館様に聞かれてみてはどうかと」


「それはつまり、フーおじさんと同じで、お父さんにも最終奥義があるんじゃないかってこと?」

「お館様ほどのお方であれば、あるいは」

「そうだよね。あのお父さんが、フーおじさんが持ってる最終奥義に対抗出来るものを持ってないわけないよね。

 帰ったら聞いてみようかな」


 僕はそうは言ったけど、自分でも何かないかと考えるのをやめることは出来なかった。


 とは言え簡単に思いつくわけもなく、ドルゴーン連邦についてもほとんど知らなかったから、道中でアイルちゃんに概要を聞いていた。


「ドルゴーン連邦は、7つの山に囲まれる盆地を中心に発展した国です。

 それぞれの山とその裾野が1つの国になっており、それぞれに王がいます。1つ1つはそれ程大きな国ではありませんが、その7つの山、7つの国がまとまっているのがドルゴーン連邦です。

 その中で、真ん中に位置し、最高峰である山が霊峰ドルゴーン。その名前から7つの山はまとめてドルゴーン山脈と呼ばれます。

 そして、代々、ドルゴーンの王が連邦の代表として大王と呼ばれます。現大王は先日画面にて拝謁しましたバザル・ドルゴー様です。首都はドルゴーンが兼ねています」


「なるほど。いろんな国の形があるね」


「そうですね。ドルゴーン連邦はドワーフ族の国ということもあり、工業が盛んです。

 7つの山はそれぞれが鉱山になっており、大陸における鉱物の60%がドルゴーン山脈で取れると言われています。また、それぞれの山は頂上にそれぞれAランクの魔物が陣取っているため、山を超えることが通常困難です。

 そのため、入国ルートは7つの山の切れ目に限られ、天然の要塞となっています。その切れ目も非常に高い壁で塞がれているため、過去、ドルゴーン連邦を落とした国はありません。

 別名、要塞連邦と呼ばれます」


「そんなにすごいんだ!?」


「はい。ドワーフ族は魔法も身体能力も他種族と比べて突出している訳ではありません。

 ですが、その類稀な創作能力の高さから、作られる武具は圧倒的な高品質を誇ります。兵士全員がAランク装備を身につけているため、軍としては他種族に引けをとりません。

 その上、対軍兵器が多数運用されており、上位のものでは第八位階魔法同等の威力に達するとされています」


「それはすごいね! 旧魔王の2人でも第七位階魔法だったもんね。そう考えると、個人の能力によらないで第八位階魔法を放てる兵器が複数あるってことでしょ?それは落とせないよ」


 僕は話を聞いてますますワクワクしながら車に揺られた。


 ドルゴーン連邦までの道中は聞いていた通り街道が整備してあったこともあって快適だったし、あっという間に着いた。


「たっか〜!!!」


 山と山の切れ目を塞ぐように作られている壁はゆうに高さ100mを超えている。

 そして、壁のいたるところに見るからにヤバそうな兵器が顔を覗かせていた。


「かっこいい〜!!!」


 門が開くと僕達一行は門に入って行った。


 でも、100mは超える僕達の行列が全部入っても出口が見えない。

 僕達の行列が全部入ったところで門が閉じ、さらに100m先に見える門が開いた。


 そこまで進んでもまだ出口が見えない。第2の門も行列が全部入ったところでその門が閉じ、さらに100m先の第3の門が開いた。その門を超えるとようやく壁を抜けた。


「お〜!!! すっげぇ!!!」


 門の中は聞いていた通り、盆地になっていて、盆地内の建物は全て金属製だ。


 そして、7つの山の全てにボコボコ穴が開いている。中にも街が出来ているらしい。


 盆地からも山からもいたるところから煙が上がっている。


 生前は工場萌えって言葉もあったけど、この光景はそんなレベルじゃない。国全部が工場になってるみたいだ。


 僕達はそのまま、霊峰ドルゴーンに向かっていった。


 山の麓に山の中に続く門があった。

 これも、入国の門並に厳重だった。


 山の中は、山をくり抜いた場所だというのに、広く、そして明るかった。

 この山1つ1つが、王城なんだとアイルちゃんから後で聞いた。


 この日は部屋に通されて、そのまま何事もなく終わった。アイルちゃんはまだ色々とあるみたいだったけど。


 山の中はエレベーターが縦横無尽に走っていて、僕の部屋は山の8合目あたりだったけど、あっという間に着いた。


 部屋からはドルゴーン連邦が一望出来た。

 昼間見たドルゴーン連邦もカッコよかったけど、夜になって所々ライトアップされているドルゴーン連邦はさらにカッコよかった。

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【世界最大の敵の元魔王、現在はウエイター見習い 〜人間の領地を侵攻中の魔王が偶然出会った町娘に一目惚れした結果、魔王軍を解体してそのまま婿入りしちゃった話〜】

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