表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/83

022 オレ、魔王の訓練を受ける

 オレ、イェスタ・ヨハンセンは病弱だった。生まれてから一度も病院を出たことがなかった。


 その分時間はあったからインターネットにどっぷり浸かっていた。オンライン対戦ゲームでは神と呼ばれる程にもなった。

 だから、オンライン上には多くの仲間がいた。けど、リアルには友達はひとりもいなかった。いつからか家族すら滅多に病室に来なくなった。


 ある時、先生からは持ってあと1年と言われた。現在の科学では原因すらわからないらしい。このころにはひとりで立ち上がることすら出来なくなっていた。


 ゲームをしている時は血が燃えるように熱くなるけど、オフラインの時にふと思った。なんて虚しい人生なんだと。


 友達と一緒に学校に行ってみたかったし、思う存分サッカーをしてみたかった。考えるだけ無駄だと分かっていても、考えずにはいられなかった。


 そして、余命1年の宣告を受けてから、1年を待たず、オレは死んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 オレは気づくと真っ白な空間に立っていた。


「は?」


 何でだ? つか、オレ、立ってんじゃん!?


「やっほー、イェスタ・ヨハンセンくん」


 オレは突然の声にビクッとして、声の方を振り向いた。


 そこには可愛い幼女が浮いていた。


「大丈夫かい?あまり警戒しないで」


 いや、いや。何だこれ?

 幼女はずっと、ニコニコと笑ったままだ。


「それじゃあ、自己紹介しようか。僕はアウム。君達にわかりやすく言うなら、神様ってことになるかな」


 は? こいつは頭がおかしいのか? それともオレの頭がおかしいんだろうか?


「イェスタくん。僕も君も頭はおかしくないよ。まったく失礼しちゃうな」


 心が読まれた? のか? これが本当に神様だと?


 本当に神様がいるならオレの病気を治してほしいと何度祈ったことか。でも、オレはそのまま死んだ。

 だからオレは神なんて信じていなかった。それでも、もしいるならこんなチンチクリンじゃねぇだろ。


「チンチクリン言うな。これでも結構偉いんだぞ」

「えっ、あ。ごめん」


 本当に心を読まれているみたいだ。

 この状況自体も意味がわかんなねぇし、本当に神様なのか?


「やっと信じてくれた?

 ホント毎回こんなやりとりするのは僕もメンタルに来るんだよ。まぁしょうがないか」


 どうやら、何度もこういうことをしているらしい。


「話を進めるね。君は地球ではさぞかし大変だったよね。

 だから、今度は君が生きやすい世界でもう1度生きてほしいんだ。ここはその中間地点かな」


 !!!

 これは、いわゆる異世界転生ってやつなのか?ニホンで人気のジャンルということは知っている。


「もう一度生きれるってことか?」

「そうだね。君には地球ではなく、僕が管理する世界、アウムスフィアで生きてもらいたいんだ」


 僕は涙を流していた。


「ありがとう。神様」


 その後、色々と説明を受けた。そして僕は、不敬かもしれないと思いつつ、ひとつだけお願いをした。


「出来れば、強い体にしてほしい。もう寝たきりなんて嫌だ」

「アウムスフィアでは、君は十分チートな存在になるだろうけど。

 そうだなぁ、あっ、わかったよ。ぴったりな知り合いがいるから、まずはそこに送るね」


 よくわからないけど、叶えてくれるみたいだ。


「それじゃあ、今度こそ人生を楽しんでね」

「ありがとう。行ってきます」


 オレは白い光に包まれた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そしてオレは気付くと巨大な狼のもとにいた。


 聞くと、この狼はフェンリルで、この世界では四神獣と呼ばれる最強の4体の1体だそうだ。名前はフーというそうだ。


 そして、その4体の中で最も身体能力に優れるらしい。強い体を願ったから、フェンリルの元に送られたってことみたいだ。ありがとう。神様。



 そして、親父の元ですくすくと成長した。体を動かせるってこんなに楽しいのか。



 親父からいろんな技術を学び、世界でも最強クラスのSランク相当になった時、獣人化という奥の手を教わることになった。


 親父はフェンリルの姿から人化してヒトの姿になれる。獣人化はこの逆ってわけだ。

 ただ、この修行は厳しかった。ぶっちゃけ何度も死にかけた。



 2年経ったころ、オレは獣人化を覚えていた。その頃には普段でもSSランク上位。獣人化を使えばSSSランクになると言われた。確かに獣人化を使えば人化状態の親父とも対等に戦えた。



 オレは親父と2人、森の奥で生活していたが、たまに来訪者がいた。


 ひとりはこの森が属するガガリオン獣王国の総督であるヴィルさんだ。たまに来ては親父に愚痴を言っている。1度、ヴィルさんはこっそりと息子のヴィクトールを連れて来たこともあった。


 あとは、親父と同じ四神獣の3体だ。


 特に邪竜はよく来ていた。毎回親父とベロベロになるまで酔っ払っていく。正直メンドくさい。後始末するのオレなんだけど。

 ただ、その時に聞く、邪竜の息子の話には興味を引かれた。オレよりも5年くらい前にこっちに来た転生者らしい。

 会ってみてぇ。生前もオレと同じ境遇だったみたいだし。


 と、友達になってくれるかな。



 オレが10才になった頃、久しぶりにヴィルさんがやって来た。


 オレは最近では獣王国のいろんなところに遊びに行ったりしていたけど、うちに誰かが来るのは久しぶりだった。


 どうやら、魔族の国でクーデターがあり、その後、魔族が統一されたと。

 そして、魔王になったのが、邪竜の息子だというのだ。


 オレはそれはもうテンションが上がっていた。オレと同じ境遇のやつが魔王? マジか?


 ヴィルさんは、その新しい魔族の国から国交を結ぼうと打診を受けていると語った。それについて親父に相談に来たみたいだ。親父は魔王が邪竜の息子なら是非受けるべきだと答えた。


 ヴィルさんは少し考えた後、決心したのか、この打診を受けると語った。まずは魔族を国に招待して、魔王と会談すると言って、戻って行った。


 つまり、邪竜の息子も来るってことか!!!

 ダイキっていったっけ。ついに会えるぞ!!!


 どうやったら友達になれるかな? でもダイキってやつは魔王だしなぁ。


 オレが悶々と考えていると、気付くと魔族の一行がガガリオンにやって来ていた。

 オレは考えがまとまっていないにも関わらず、その一行の元に向かっていた。体が勝手に動いてしまった。


 行列が見えて来た。


 ヴィクトールと女の子が握手している。あの女の子も結構強いな。それにポツポツと強うそうな反応がある。

 けど、1人、明らかに異質な奴がいる。こいつがダイキってやつか。


 オレはヴィクトールと女の子の横に突っ込んでいた。


 えっと、それで、どうするんだっけ?

 なんかみんな見てるんだけど?

 やばい、やばい、どうしよう。そしてオレは咄嗟に、


「おい! ダイキっていうやつ! いるんだろ? 出てきて僕と勝負しろ!」


 あっ。やっちまった〜!!!!!


 オレがどうしようかと思っていると、魔族の女の子が近づいて来た。


「さぞ、高名な方とお見受けします。失礼を承知で申し上げます。ここは一旦引いていただけませんでしょうか?

 ここで我が魔王と戦うことになれば周辺への被害も甚大になりましょう」

「うっ」


 確かに〜。やべっ、マジでどうしよう。


「後日、魔王と戦う場を用意いたしますので、何とぞこの場はお納めください」


 !!!

 なんか知らないけど、ダイキってやつと会う場を用意してくれるってことか?

 そしてオレはこれに全力で乗っかることにした。


「絶対だぞ! 絶対に絶対だぞ! ダイキとかいうやつ絶対に逃げるんじゃないぞ!」


 あ〜、また、変なこと言っちゃた〜!!!

 とりあえずオレはその場から逃げ出した。


 一旦森に戻ったオレはのたうち回っていた。

 何でオレはあ〜なんだ。友達になりに行ったんじゃないのかよ〜!!!


 気付くと陽もだいぶ傾いていた。

 後日会えると分かっていても、いてもたってもいられないオレはこっそりダイキってやつの所に行くことにした。


 全力で気配を消して国境の街ガルスタンに近づいた。

 ダイキってやつは、魔力をかなり抑えているけど、その強者としての気配は隠せない。すぐに領主館にいるとわかった。


 厳重な警備だが、オレには関係ない。ダイキってやつのいる部屋のベランダからこっそり覗いてみた。


 あいつがダイキか。地球の東洋人みたいだな。どう見ても魔族ではない。


 でも、見れば見るほど、隠しても隠しきれていない圧倒的な存在感を感じた。

 あの女の子と執事服姿の奴が3人いる。どいつも強いな。


 少しして女の子が部屋を出て行くと、執事の1人がお茶を淹れ始めた。

 そしてダイキってやつは呑気にティータイムを始めた。そういえばお腹減ったな。


『それはそうと、君もお菓子食べる?美味しいよ?』


 !!!

 バレてたのか!? 全力で気配を消してたのに。

 僕は出て行くことにした。


「よくわかったな。お前がダイキってやつなんだろ?」


 こうして、オレは生前を含めて初めての友達となる、ダイキと出会った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そして今オレは、ダイキから魔力操作について教わっている。


 何でも、気配を消しているつもりでごく僅かに魔力が漏れているらしい。

 ダイキ以外の4人でも気付けないほどらしいけど。

 でもダイキは気付くからな。


 ダイキからも何故オレがダイキの気配に気付くのかと聞かれたけど、ぶっちゃけ勘なんだよな。

 そういうとダイキに笑われた。しょうがねぇだろ、親父がああなんだから。


 それで訓練はというと、ダイキがオレの身体に負荷をかける。その中で魔力をコントロールするという単純なものだ。

 だけど、少しでも不完全だとごっそりと魔力を持っていかれる。魔力が空になるなんていつぶりだろうか。

 魔力が空になるとすぐさま回復され、これを繰り返した。結構容赦ないな。


 10回繰り返したころ、僅かに糸口を掴んだ気がする。

 100回繰り返したころ、あと1歩という感じだけどまだ何かが違う。

 1000回繰り返したころ、これだ。という感覚を数回に1度手にした。


 そして、陽が落ちるころ、オレは魔力操作の感覚を完全に掴んでいた。


 4人が滅茶苦茶驚いている。


「イェスタくん流石だね。まさか半日で出来るようになるなんて。アイルちゃんは半年。この3人でも3か月はかかったのに」

「そうなのか? でも、これでダイキにも気配を掴ませなくて済むかもな」


「今の時点であらゆる探知に引っかからないと思うよ。あとは、殺気を消せれば完璧かな。殺気を感じると僕なら気付いちゃうしね。でも殺気を消すのだけは実戦で慣れるしかないかな」

「ほんとお前は化物だよ」

「でも、先に仕掛けられないと気づけないってことだからね。だからさっきみたいにはもう戦えなそうだし、僕も対策を考えないと」


 そう、さっきダイキと喧嘩した。マジで強かった。獣人化を使わされた上、その状態で傷をつけられた。ダイキ自体が化物なのにあの神剣は反則だ。正直逃げたくなった。


 あの時は4人が止めてくれたから良かったけど、あのまま続けてたら負けてたかもしれない。

 ぶっちゃけあんな恐怖を受けたのは初めてかもしれない。親父は言っても親父だ。本気で戦ってくれと言ってもどこかで手心があるからな。


 もちろんただで負けるつもりはなかったけど、4人がいう通り周囲は滅茶苦茶になっていただろうし、オレもダイキも無事じゃすまなかっただろうと思う。


 さらなる隠し玉もあるにはあるけど、あれはまだ未完成だし、マジでダイキを殺しかねない。

 しかも、オレ自身も反動でどうなるかわからない。あれはまだオレが使うには早い。


 まずはダイキの言う殺気を完璧に消せるようになることだ。

 今すぐダイキともう1回戦うつもりはないけど、その時はもう1回喧嘩してもらおう。


 これが、生涯の親友となるダイキとの始まりの物語だ。

 これが幸か不幸か、後の運命を大きく変えることになる。それについてはまたどこかで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▼新作の短編書きました。こちらもお願いいたします!!!▼
【世界最大の敵の元魔王、現在はウエイター見習い 〜人間の領地を侵攻中の魔王が偶然出会った町娘に一目惚れした結果、魔王軍を解体してそのまま婿入りしちゃった話〜】

ご愛読の皆様いつもありがとうございます。
この小説がいいなと思っていただけたら
是非一票をお願いいたします!

↓ 一票入れる ↓
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ