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020 僕、獣人族総督と会談する

 獣王国に来て2日目、僕達は国境の街ガルスタンを出発し、首都ヴィナガーデンに向けて出発した。


 ヴィナガーデンに着くまでに3つ街を通ったけど、どこでもそれなりの歓迎があったように思う。

 それりゃ、ダイン魔族連合王国内の街とは比べられないけど、今まで国交がなかった国の使節に対してと考えると想像してたよりずっと歓迎されていると感じた。


 先頭のオープンカーに獅子獣人さんがいて、僕達を先導してくれたことも大きかったかも知れない。

 アイルちゃんに聞いたんだけど、どうやらヴィルヘルム・デ・ガガリオン総督の息子らしい。名前はヴィクトールさん。普通の国なら王太子のポジションだ。


 ただ、獣王国の場は継嗣総督と呼ぶらしい。ヴィクトール・デ・ガガリオン継嗣総督ってことかな。

 獅子らしいワイルドさもありつつ、クールで知性を感じるイケメンだ。当然国民からの人気も高いらしい。

 しかも普通に強そう。Aランク上位〜Sランクくらいの強さはありそうかな。


 そして、いよいよ首都ヴィナガーデンが近づいて来た。


「うわ〜、すごいね!!!」


 真っ白な壁に囲まれ、壁越しに見える建物も全部真っ白だ。

 さらにその奥に中東のモスクのような建物が見える。あれが王城みたいなものなんだろうな、獣王国では総督宮殿と呼ぶみたい。

 魔族はヨーロッパのお城とって感じだけど、獣人族はまた違った文化を感じておもしろいよね。


 獅子獣人さんが門に近づくと門が開いた。門からモスクに向かって大通りが通っている。沿道には獣人族の鼓笛隊が並んでいて、その外には一般の獣人族の人達が集まっている。門や通りの大きさも鼓笛隊や人の数もガルスタンを3倍くらいにしたような感じだ。


 大通りを進んでいく中で見える建物は本当に全部真っ白で、TVで見たイタリアの街並みを彷彿とさせた。

 モスクはもう1枚壁で囲われている。流石にしっかりとした守りがなされているみたい。それに、普通にはわからないだろうけど結界も張ってある。その門が開き僕達はその中に入った。


 獅子獣人さんにエスコートされる形でアイルちゃんがモスクの入り口の階段をのぼると、その中からやたら豪華な服の虎かな? 獣人さんが出て来た。大臣か何かだと思われるその虎?獣人さんとアイルちゃんは挨拶をかわし、握手した。

 やっぱり友好的に迎えてはくれてるみたいだ。


 そうして僕達はモスクに入っていった。

 今日は歓迎の宴があるみたいだけど、僕は明日の総統との会談までは出ていかないことになっているから、今日も通された部屋でゆっくりしている。この部屋がまたすごい!

 ドバイの7つ星ホテルもかくやという豪華さだ。ちょっと持て余しちゃうよね。


 とりあえず置いてあったお菓子をコウに淹れてもらった紅茶と一緒にいただいた。ガルスタンの時よりもさらに上等なものだというのは僕でもわかった。


「いや〜、おいしいね」


 僕はコウとシュンとサンとお茶をしてのんびりしていた。


「うれしいよ。今日も来てくれたんだね」

「「「!!!!」」」

「ちっ、やっぱり気付かれちまったか」

「ふふふ、まだまだ甘いよイェスタくん。たぶんこの宮殿でも僕しか気付いてないけど、僕を欺くには足りないよ。サンは少し違和感は感じたかな?」

「は、でも確証は持てませんでした」


「そうかよ。それで、どこがまずかった?」

「そうだねぇ、気配遮断はかなり高レベルだと思うよ。それだけなら僕でも気づけないかも。

 でもほんの少しだけど魔力が漏れてるよね。僕は常時、物理索敵と魔力索敵を行ってるからね。

 といっても、この宮殿の結界程度じゃ感知されないレベルの僅かなものだけどね」

「そうか、わかっちゃいるんだけど。ただ、それを感知できるのはお前くらいだけどな」

「でも四神獣はそういうレベルだからね。フーおじさんを超えるなら身につけないとね」

「そうだな」


 こうして今日も、僕の初めての友達であるイェスタくんとお茶会を始めた。

 ふふ、お茶会。お茶会とか、アニメでしかみたことなかったよ。


 こうして、今日も楽しくお茶会をしていると、イェスタくんが何か意を決したように僕を見た。


「お前にこんな事言うのも変なことなんだが、オレに魔力操作を教えてくれ」

「へっ!? フーおじさんから教わってるんじゃないの?」

「そりゃそうなんだけど、親父はどっちかって言うと魔法は得意じゃないからな。

 そりゃ普通に見たら十分化物なんだけど。さっきお前に言われた微妙なコントロールとなると上手く教えられないんだよ。

 親父は四神獣としてのポテンシャルと長い年月をかけて今のレベルに至ってるし、なんというか豪快すぎて細かい部分を教えるのにはまったく向いてないからな」


「そっか、じゃあ明日はヴィルヘルム総督と会談だから、明後日やってみようか?」

「いいのか?」

「もちろん!」

「悪いな。だ、ダイキ」


 うは〜、イェスタくんがデレたぞ。かわいい〜。


「なんだよ。ニヤニヤしやがって」

「いや、名前を呼んでくれたのがうれしくてさ」

「そんなことぐらいで、喜んでんじゃねえよ」

「でも、僕は友達ってイェスタくんが初めてだし。そりゃうれしいよ」

「そ、そうか。オレも、ダイキが初めてだけどな」

「ふふふ、これからもよろしくね」

「ああ」


 コンコン。

 ドアがノックされた。


「じゃあ行くわ」

「うん。またね」

「明後日、約束だからな」

「わかってるって」

「それじゃな」


 イェスタくんがいなくなったのを確認して僕は返事した。


「どうぞ」

「失礼します」


 アイルちゃんは部屋に入ってくるなり、何かを察したみたい。


「もしや、またイェスタ様が?」

「そうなんだよ。また来てくれてたんだ」

「はぁ、魔王様、少しは自重してください。ヴィルヘルム総督との会談もまだなんですから。

 総督の頭を越して獣王様の御子と話をしているといると言うのは割とまずいですよ」

「あ、そっか。そういうことになっちゃうのか。まぁ、会談は明日だしさ」

「はぁ、気をつけてください」

「あとさ、明後日は予定を入れないでほしいんだ」


「?

 何かあるのですか?」

「イェスタくんに魔力操作を教えるって約束しちゃったからさ。」

「はぁ〜。そんな勝手なことをされては困ります。調整するのは私なんですから」

「ごめん、アイルちゃん」

「わかりました。今回だけですよ」

「ありがとう、アイルちゃん」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 次の日は朝から騒々しかった。


 魔族と獣人族にとって正式な会談は記録に残っている限り1000年以上は前のこととなるらしいから、当然といえば当然かもしれない。今日は歴史的な日になるらしい。

 僕はそんなことを考えず、いつも通りのんびりしていた。


 けど、僕も正装に着替えるとだんだん緊張して来た。


 黒のシャツに黒の燕尾服みたいな服に黒い靴という真っ黒な格好だけど、上等な素材といのは僕でもわかった。これが魔族流の正装みたい。


 そして、魔王証を燕尾服の左側に付けた。なんかテレビで見た天皇陛下みたいになったけど、服に着られてる感がすごいな。


 そして、王証環ソロモンを亜空間から取り出して左腕に嵌めた。


 魔王証は魔力操作を助けるだけだから僕には意味ないけど、王証環ソロモンは魔力を1.5倍にしてくれると言うわけがわからない効果を持っている。だからこれだけは僕が亜空間にしまっている。



 今回の会談は、基本的にはヴィルヘルム総督と僕の1対1の対談で、よっぽどのことがない限り、その後、魔族、獣人族にリアルタイムで中継しつつ、ヴィルヘルム総督と僕が両国民に対して話をするみたい。基本の原稿はアイルちゃんが作ってくれている。


 そして、総督宮殿の会談場に進んだ。


 広い会談場はそこかしこに豪華な装飾がなされていて、いかにも他国の要人と会談する場という雰囲気を醸し出している。


 その真ん中の窓際にこれまた豪華な椅子が2脚置いてある。


 僕はその手前の椅子の前に立った。


 壁際には椅子が並んでいて、そこには両国の重鎮が勢揃いしていた。

 アイルちゃんはもちろん外務卿のエリオ・サムランさんや2人の旧魔王さんもいる。獣王国側も旧魔王2人に引けを取らない人が何人かいた。


 すると反対の扉が開き、一際強そうで凄い存在感を放つ人が入って来た。


 この人がガガリオン獣王国の総督ヴィルヘルム・デ・ガガリオンか。



 ヴィルヘルム総督も椅子の前に立つと、まずは握手を交わした。


 その時、ヴィルヘルム総督から暴力的な魔力が放たれた。


 会談場は一気に緊張に包まれた。


 お〜、やっぱり結構強いな。間違いなくSランクはあるね。

 僕はそれを笑顔で流した。


「ガッハッハっハ。噂以上ではないか。試すような真似をした非礼を詫びる」

「僕は気にしてませんよ。むしろ会談に応じていただけたことに感謝申し上げます」

「ガッハッハっハ。では掛けてくれ」


 僕達2人が席に着くと、他の要人も着席した。


「遠路はるばるよく来てくれた。感謝する。この場は公式の場ではあるが、外に発信される訳ではない。

 両国の会談自体1000年以上なかったこと。腹の探り合いを行う前に、まずはざっくばっらんに語り合おうではないか」


「ご配慮感謝します。総督閣下」


「では、わしから話そう。わしは獣王様にお仕えする獣人族を取りまとめるガガリオン家の当主にして、ガガリオン獣王国の代表、総督の立場にあるヴィルヘルム・デ・ガガリオンである」


「僕は、邪竜パール・リューンガルムの息子にして、ダイン魔族連合王国の初代魔王、ダイキ・リューンガルムです」


「では、噂通り、邪竜様の息子であるか」


「その通りです。僕は数ヶ月前まではお父さんと一緒に龍ヶ峰にいました」


「ガッハッハっハ。それはそれは。我が国にも獣王様の御子がおられる。是非仲良くしてもらいたものだ」


「それはもちろんです」


 その後、お互い両国の現状を話した。


 獣王国はアイルちゃんから聞いていた通り、農業が盛んで、スポーツが盛んだった。

 一方で、工業や魔法の技術、芸術なんかは遅れているようだった。


 僕は、魔族革命からダイン魔族連合王国の建国についてと魔法が盛んであることを語った。


「ある程度話したか。では、両国の今後の付き合い方について話していくか」


 ここで、急にヴィルヘルム総督の雰囲気が変わった。


「獣王国としては友好的に付き合って行きたいと思っている。

 だが、いきなり全面的に信頼をというのも無理な話であることは納得してもらいたい」


 僕は頷いた。


「であるからまずは、自由交易と技術協力から始めてはどうか。

 軍事の部分などはナイーブな話でもある。それは後年改めてということでどうか」


「願ってもありません。貴国の農産物、スポーツという文化など、我が国にも取り入れたいものが多数あります。

 我々も技術協力は惜しみません。

 まずは不戦協定と国交回復がなされれば、両国にとってこの上のない発展的なものとなりましょう」


「ガッハッハっハ。しれっと不戦協定を言葉にするか。わしがぼかしたところを。

 いいだろう。詳細は配下同士に詰めさせる。調印についてはそれがまとまり次第とする」


 コンコン。


 扉が開き、獣人族の役人さんが入って来た。役人さんは席に座っていた虎?獣人さんに耳打ちした。

 虎?獣人さんは驚いた顔をした後、ヴィルヘルム総督に近づいて行った。


「総督、至急お耳に入れたいことが」

「この場すぐに必要なことか?」

「は」

「仕方ない。ダイキ魔王、しばし中座するがよろしいか?」

「構いませんよ」

「では失礼する」


 そう言って、ヴィルヘルム総督と虎?獣人さんは会談場を出て行った。


 何かあったのかな? 僕と違ってやっぱ1国のトップともなると大変なんだな。


 僕はアイルちゃんを見ると、アイルちゃんは強い目で頷いてくれた。今の所、僕の判断は間違ってなかったようで、ほっとした。


 しばらくすると、ヴィルヘルム総督と虎?獣人さんが戻って来た。


「ダイキ魔王、至急報告したいことがあるのだが良いか?」

「はい。構いません」

「今、ドワーフ族の国、ドルゴーン連邦の大王であるバザル・ドルゴーから連絡が入っている。この場で繋いでも良いだろうか?」

「えっ?」


 ざわざわ。


 アイルちゃんを見たら、アイルちゃんも戸惑っている。

 魔族だけじゃなくて獣人族も戸惑っているから本当に急なことみたいだ。


 僕は、受け入れることにした。


「ええ、構いません」

「感謝する」


 僕が入って来た扉側の壁にモニターが降りて来た。


 そして、凄いいかついドワーフ族が映し出された。

 お〜、これがドワーフか〜。


『ヴィルヘルム総督、ダイキ魔王、ガガリオン獣王国、ダイン魔族連合王国の皆、ドルゴーン連邦の大王バザル・ドルゴーである。

 急な連絡にも関わらず、応じてくれたこと感謝する』


 このドワーフさんもめっちゃ強いな。画面越しだけど、Sランクはありそうというのが伝わって来た。


 そして、2国間会談は急遽、3国間会談へと変わったのだった。

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【世界最大の敵の元魔王、現在はウエイター見習い 〜人間の領地を侵攻中の魔王が偶然出会った町娘に一目惚れした結果、魔王軍を解体してそのまま婿入りしちゃった話〜】

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