018 僕、獣王国でもいきなり喧嘩を売られる
僕たちは、ダイン魔族連合王国として初の外遊先、ガガリオン獣王国へ向かっていた。
魔王の僕と大魔総統のアイルちゃん(元王女)、外務卿のエリオ・サムランさん(元王太子)と政治担当が50人程、軍からは大魔将軍のセリュジュ・ガーネットさん(元魔王)、副魔将軍のダリオ・サムランさん(元魔王)と騎士団100人、魔術団100人という結構な大所帯で向かっていた。ちなみに3執事とエメラも付いてきている。
いや〜、こう見ると上の方の人は僕以外みんな旧王族なんだよね。ホント僕でいいのかな?
ここまでの道中は、通過する街はどこもパレード状態、宿泊する街はお祭り状態で毎回領主館でパーティ。最初は楽しかったけど、なんかもううんざりしてきた。
僕まだ15だよ。地球ではずっと病院のベッドの上だったし、こっちでも数ヶ月前まで龍ヶ峰にいた常識も何も知らないただの子供なんだよ。
それが正装して堅苦しいパーティに毎回出て、お貴族様のおべんちゃらを聞いて、愛想笑いを浮かべるのホントしんどいよ。ちょっとでも気を抜くと横にいるアイルちゃんにすかさずつねられるし。
料理は美味しいけどアイルちゃんの目が怖いからそんなにバクバク食べられないし。
そんなこんなで、ようやくダイン魔族連合王国の国境を超えた。獣王国の国境までは面倒なのはなさそうで少しほっとしていた。
今回のルートは、旧ダイン王国から旧ガーネット王国と旧サムラン王国を抜けて、溶岩地帯と化している不戦の草原を大きく迂回して不戦の草原を挟んで反対にある獣王国に向かっている。
なので、あと3日程で獣王国に入る予定だ。
おっと、車が停まった。
ようやくお昼休憩みたいだ。
僕はいつも通り3執事とお昼を取っていると、旧魔王の2人がやってきた。
「ダイキ様、この道中も毎日魔力が尽きるまで魔力操作の訓練はしていますが、せっかくなんでもう少し先を教えてもらえないだろうか?」
「我もこの男には負けてられん。我にも教えていただきたい」
この2人はマジで上昇志向が強いよね。後ろで他の兵隊さんが引いてるもん。
「じゃあ、どうしようか。放出魔法、強化魔法、付与魔法、作用魔法、空間魔法の概念はわかったと思うし、2人は大雑把にはもう使えると思うんだよね。
でもやっぱり基本は魔力操作。他の兵隊さんはとりあえず空間魔法が使えるレベルにしてと言われてるけど、2人はもっと先に進んでもいいかもね」
「おお!!!」
「では!!!」
「まずは2人とも、溶岩地帯に向かって最大の魔法を放ってみて」
『おい、やばいぞ離れろ!!!』
『将軍2人の全力だぞ!!! 逃げろ!!!』
「第七位階火魔法<火炎嵐>!!!」
「第七位階風魔法<大嵐>!!!」
2人はそんな後ろの声を全く気にせず、気合いを入れて魔法をぶっ放した。
巨大な火の玉と風の玉が爆音とともに溶岩地帯を抉っている。
これらが収まった時、直径100m程のクレーターが2つ出来上がった。
後ろの兵隊さんたちはドン引きしている。
「ダイキ様、どうですかな?」
「我も負けておりません」
「2人とも結構強力だね。前見たダインの魔王さんよりは現時点で上だと思う。セリュジュさんは火魔法、ダリオさんは風魔法が得意なのかな。才能だけで第七位階まで使えるのはすごいよ。
でも、魔力操作がまだまだ甘いし、作用魔法の理解が足りてないかな。じゃあ、コウとシュン、見本を見せてあげて。
でも3割くらいにしてね。この後浄化するのが大変になりそうだし。僕が言うのもなんだけど」
「「は」」
「第十位階火魔法<地獄の業火>」
「第十位階風魔法<地獄の暴風>」
そしてコウが火魔法、シュンが風魔法をぶっ放した。
さっきの爆音が可愛く感じる程の音をたてて、直径300mは超えるであろう空高くまで立ち昇る火の柱と風の柱が姿を表した。
収まった後には、クレーターどころか、底が見えない巨大な穴が2つ出来上がった。
後ろの兵隊さんたちはドン引きどころか真っ青になって震えている。
僕の言葉に悔しそうにしていた2人も冷や汗を流して唖然としていた。
「あちゃ〜、3割でもやり過ぎだったかな?
でも2人ともわかったでしょ? 2人にはここを目指してもらうからね」
2人は武者震いしている。
そして、僕は亜空間から腕輪を2つ取り出した。
「これからは2人にはこれを付けてもらいます」
「これは?」
「これは僕が作った腕輪なんだけど、魔力操作が不十分だと、魔法が発動しない上に、ごっそりと魔力を奪われるよ。まずはこれを付けた状態で、今と同じように魔法が使えるようになってね。そしたら、コウとシュンに放出魔法、強化魔法、付与魔法、作用魔法、空間魔法を詳しく教えさせるから」
「わかりました!」
「御意!」
2人は腕輪を付けて早速魔法を使おうとしたけど、案の定魔法は発動しなかった。つまり魔力がごっそり持って行かれて、早くも肩で息をしていた。
「2人とも頑張ってね。コウとシュンは少し気を配ってあげて」
「「は」」
「主様。僕は?」
「サンは〜、どうしようか? サンは空間魔法特化な所があるからな〜。また今度かな」
「残念ですけど、空間魔法が得意なのが出てくるまでお預けですかね」
「ははは、そうだね」
空間魔法を素で使えるのって、魔族でも前の魔術団団長さんだけだったんだよね。空間魔法が得意な人なんて現れるのかな?
僕は笑ってその場をごまかした。
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残り2日で獣王国の領土に入るわけだけど、僕は獣王国についてほとんど知らない。だから、道中でアイルちゃんに簡単に教えてもらうことにした。
「ガガリオン獣王国は、総督であるヴィルヘルム・デ・ガガリオン様が統治している獣人族の国家です。首都はヴィナガーデンといいます」
「トップがヴィルヘルムさんなんだよね?
なんで獣王じゃなくて総督なの?」
「ガガリオンでは、四神獣のフェンリル様こそが獣王であり、ヴィルヘルム総督すらその代わりに過ぎないという考えが浸透しているからです」
「なるほど、そういう考え方なんだね」
「そして、先日までの魔族がそうであったように、同じ種族でも複数の国家があることは一般的ですが、獣人族についてはガガリオン獣王国のみで統治されています」
「すごいね。総督さんはすごいカリスマを持ってるってことかな?」
「そうですね。ヴィルヘルム総督にカリスマがあるのはもちろんですが、獣人族にとってはそれほどフェンリル様が特別ということでもあるかと。また、獣人族は気質として、非常に義理堅い種族ですので、建国以来一度も反乱が起こっていないと言われています。
それを差し引いても、建国以来1500年間ずっとガガリオン家が統治していますので、ガガリオン家自体も獣人族にとって特別なものなのでしょう。
魔族も皆邪竜様を信仰しておりますが、3国に別れてしまいましたし、旧ダイン王国は、初代のダイン様が2000年前に建国されて、1000年前に本家は途絶えています。それ以降分家で回していましたが、サムラン家が500年前、ガーネット家が350年前に独立して、3国体制が続いていました。
それを考えると、1500年ずっと同じ家系で存続していることがどれだけすごいかわかります」
「へえ〜。それで、どんな国なの?」
「そうですね、主たる産業は農業です。世界最大の農業国です。国交が回復したら是非我らも農産物を輸入したいと思っています。
あとは、種族としては魔法は苦手としていますが、身体能力が全種族でもトップと言われており、身体能力を競う競技が発達しています」
「魔法なしのコロシアム的なこと?」
「それは徒手による格闘技という形で発達していますが、スポーツと呼ばれるものがとても発達しています。
もともとはヒト族からもたらされたと聞いていますが、単純な走る、跳ぶ、投げるといったものを競う陸上競技、泳ぐスピードを競う水泳競技、あとは球技も人気なようです。
球技では特に人気なものは、スイカ大のボールを足のみを使ってゴールという籠に入れて点数を競うサッカー。
拳大のボールを投げて、バットと呼ばれる木の棒で打ち返す野球。
ヤシの実のようなボールを相手陣地まで押し込むラグビーなどですね。
また、4年に1度それらの競技の頂点を決める大会、オリンピアが開催され、この催しは全世界的にも注目されるようです」
「へぇ〜、おもしろそうだね。見てみたいな」
「では、滞在中に観戦出来るように手配しましょう」
「ありがとう、アイルちゃん。そう言えば、魔族ではスポーツはやってないの?」
「全くないわけではないのですが、魔法が発達しているためか、身体能力だけで競うこと自体がナンセンスという風潮がありまして、魔族では広まってないですね」
「そうなんだね」
僕は絶対、ヒト族の勇者が持ち込んだに違いないと思っておかしくなった。
でも、獣王国に行く楽しみがひとつ増えたとニコニコ顔だった。
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「魔王様、もうまもなくガガリオン獣王国です」
「やっと着いたー。そこから首都のヴィナガーデンまではどのくらい?」
「今日は国境の街ガルスタンに泊まり、明日の夕方には首都ヴィナガーデンに着く予定です」
「いやー、もうちょっとだね」
そして、国境の門前で僕達は整列した。
アイルちゃんが先頭で何か口上を述べると、ゆっくりと門が開いた。
ゆっくりと門の中に入って行くと、門から続く大通りの両脇に獣人族の鼓笛隊? が並んでいて、すごく陽気な音楽を演奏していた。犬とか猫とか兎とかいろんな獣人が同じ服を来て演奏していた。
「歓迎してくれてるってことかな。それにしても、獣人族っていろんな種類がいるんだね。それをひとつの国がまとめてるって、やっぱすごいな」
僕達の全隊が門の中に入ると、門が閉まり、僕達も行進をストップした。そして、アイルちゃんが代表で先頭に立つと、獣王国側の代表と思われる獅子の獣人族が前に出てきた。アイルちゃんと獅子獣人さんがいくつか言葉を交わして、握手すると、一際大きな音で演奏された。
「!」
「主様!」
「うん、これまたとんでもないのが近づいて来てるね」
これは、3執事並に強いんじゃないか?
その反応はそのままアイルちゃんと獅子獣人さんの横に着陸した。
そいつは10才くらいの少年だった。金髪碧眼で、地球の欧米人の子供って感じだ。こっちのヒト族を見たことがないからなんとも言えないけど。
「おい! ダイキっていうやつ! いるんだろ? 出てきて僕と勝負しろ!」
その欧米人くんはいきなり僕に喧嘩を売ってきた。
「主様、お知り合いですか?」
「いや全然。というかさ、なんで僕は他国に行くたんびに喧嘩売られなきゃいけないんだよ」
ダイン王国に初めて行ったときを思い出した。あの時は魔王さんにいきなり喧嘩売られたんだよね。
僕はため息をついた。




