017 私、胃が痛い
私、アイル=ダルムは大魔総統になってしまっていました。
「なんで私が大魔総統なの? 叔父様か旧魔王様の2人のどっちかでいいじゃん。
いや、ダメか。操られていたとはいえ、クーデターの首謀者だし。はぁ」
私は魔族革命の後、3国と交渉し、統一国家のダイン魔族連合王国を作り、その初代魔王にダイキくんを据えました。魔族の発展と自衛の為に、旧3国をひとつにまとめることは必要だと思ったのです。
ヒト族の勇者に3国とも掻き回され、魔族同士で自滅する寸前だったから。
それこそダイキくんがいなければ本当にそうなっていてもおかしくなかったでしょう。
だからこそ、ダイン魔族連合王国の魔王はダイキくんしかいない。でも私自体が大魔総統になるとは思っていませんでした。
自分で勝手にダイキくんを担ぎ上げておいてそんなこというのはお門違いかもしれないけど、旧3国の重鎮全員から押されてしまうと断ることは出来ませんでした。
旧ダイン王国は置いておいても、旧ガーネット王国と旧サムラン王国の人達まで自国の魔王を差し置いて私を押すとは思っていなかったのです。
当たり前だけど、ダイキくんはめちゃくちゃノリ気じゃありません。
ダイキくんが自由に生きたいと思っていることは知っているだけに心苦しくはあります。
けど、そうしないと私がダイキくんと一緒にいれなくなっちゃう。私だけ魔族領で仕事に忙殺されている間にダイキくんが自由に他種族の国に遊びに行ったりするのは嫌。私も行きたい。
「アンサッス様はずるいよ。自分だけ上手いこと要職につかずにダイキくんの近衛隊の隊長とか、ダイキくんとずっと一緒にいれる位置にいるんだもん。エメラもそう思うでしょ?」
「アイル様は民からの人気もありますし、政務の能力も高いです。強さも旧魔王の2人より上です。
それに旧2国におひとりで乗り込んだことで、旧2国からも一目置かれてしまいましたからね。そこはしょうがないかと」
「そんな〜」
私が龍ヶ峰でダイキくんから滅茶苦茶な修行を受けている時に配下にしたSランクの魔物であるキングサーペントのエメラは、メイド服のまま今は私の公設秘書になっています。
そういえば、エメラってメスだけどキングサーペントなんだよね。種族名だしメスでもキングなのかな。私はふと思いついたどうでもいいことを考えていました。
「アイル様、それはそうとそろそろ会議のお時間です」
「もうなの? 私みたいな小娘があの海千山千の人達の相手をしなきゃいけないとか、ホント荷が重い」
あ〜、胃が痛い。
しかも、最初わざわざ偉そうに振る舞ったからもうそのキャラでいくしかないし。
ホント誰か変わって欲しいよ〜。
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旧ダイン王国の大会議室には、旧3国の錚々たるメンツが集まっていました。私が入室すると全員が一斉に立ち上がり右手を心臓に添える敬礼をとりました。
私なんかにそんなことしないでよ、と内心汗ダラダラです。
主だった人だけでも内務卿の旧ガーネット王国宰相のサイロン・ルータッドさん、外務卿の旧サムラン王国の王太子だったエリオ・サムランさんをはじめ財務卿も法務卿も文化卿も技術卿も農務卿も経済卿も建設卿もみんなもともと要職に付いていた怪物たちです。
さらにダイン、ガーネット、サムランの各代官である叔父様、ガーネットのアーリュ・ガーネット王子、サムランの内務卿だったガート・バランさん。
その上、軍からは大魔将軍のセリュジュ・ガーネット元魔王と副魔将軍のダリオ・サムラン旧魔王。この人達が大テーブルにいて、その後ろには各副官や担当者がいます。
総勢100人ほどが私に敬礼している。ホント胃が痛い。
私はお誕生日席である自分の席の前に立つと右手を払い皆の敬礼に答礼した後、まず自分が座ってから、皆に着席を促しました。
「では内務卿、始めてください」
「は。まずは首都建設の進捗について。建設卿説明を」
「は。不戦の草原の横にある森を開拓することから始めておりまして、開拓については8割ほど進んでおります。
同時に旧3国からの街道を整備するための開拓も行っております。こちらは現状3割程度。
首都建設地の開拓は済み次第、首都建設と同時に、大溶岩地帯と化しています不戦の草原の浄化作業を行っていく予定です」
新たな首都は、旧3国いずれの支配下にも置かれていなく、どこからも交通の弁の良い場所として、不戦の草原の横が選ばれていました。
首都防衛を考えると旧3国よりも多種族の領地に近い場所になるため、この場所がふさわしくないのではという意見もありましたが、逆に外交には便利だし、首都には最大戦力を置くため、国の防衛には良いのではということでこの場所に決まったのです。
「それで建設卿、首都が完成するまであとどれくらいかかる見通しですか?」
「は。順調に行きますとあと半年ほどでまずは王城が完成する見通しです。
街の主だった整備にはさらに半年、民の受け入れにはさらに半年ほどかと。
各街道の完成は民の受け入れに間に合わせる予定であります。
問題は不戦の草原の浄化ですが、新首都建設地においてもその高濃度の魔素の影響下にありまして、その浄化については未だはっきりとした目処が立っておりません。
そこについては技術卿に説明をお願いしたいと存じます」
「では技術卿」
「は。現在、科学省では不戦の草原の調査を行っているところであります。
今判明しておりますところでは、不戦の草原の魔素濃度は基準値の実に1000倍を超える魔素濃度であります。新首都建設地においても100倍以上となっております。
軍に所属する屈強な方々は駐留できましても、一般の民は1か月を待たずして身体に重大な影響が及ぶものと予想されます。
現状考えられる方法としましては、魔素を別の場所に散らして活動できる程度の濃度まで下げ、最も高濃度となっている溶岩を冷やした上で埋めてしまうというものです。
ですが、魔素を散らす方法が現状では画期的な方策がなく、この研究を全力で行っているところであります。また、散らす場所についても考える必要がありますがなかなか難しい状況です」
なるほど。空間魔法が使えれば龍ヶ峰に散らしちゃえばいいんだけど。使えるのはダイキくんと3執事、アンサッス様とその配下のノワール、私とエメラくらいしかいないんだよね。
「わかりました。
まず、魔素を散らす場所については龍ヶ峰で良いでしょう。念のため邪竜様には確認を取りに行くことにしますが、大丈夫でしょう。
次に散らす方法ですが、空間魔法を使いましょう。現状では私と魔王様など数名しか使えるものがいません。
ですので、魔王様、アンサッス様にもご協力いただき、軍をはじめ、この国の者達に空間魔法を使えるようになってもらいます。
ですが、この魔法は悪用されると国に重大な危険をもたらしますので、まずは軍の部隊長以上、各省庁の部長以上としましょう」
「「「「「っ!!!!!」」」」」
「総統! 誠ですか? しかし、空間魔法は基本の5大属性ではない特異3属性のひとつです。
果たして取得可能なのですか?」
「可能です。事実私も使えるようになっています。
私は並行し色々な鍛錬を行いましたので、完全に使えるようになるまで1年かかりましたが、空間魔法に絞るならば、首都が完成する半年後には、軍の主だった者ならば間に合うでしょう。
まずは魔法の概念を根底から変える必要がありますが、それは魔王様から直接教えを請いましょう。」
ざわざわざわ。
会議室中が喧騒に包まれました。
それを私は右手で制したました。
「これについては魔王様に奏上した後に連絡を入れます。
内務卿、次の話題に」
「えっ!? は、はい」
まだ会議室は静まっていないけど、無理やり次に進めました。
軍関係者が特に興味津津みたい。2人の旧魔王が目をめっちゃキラキラさせています。
「え〜、では次ですが、国交回復をと書簡を送っていました、ガガリオン獣王国から返答の書簡が届きました」
「「「「「っ!!!!!」」」」」
次の話題も強烈だったのか、会議室は急に静かになりました。
国交の回復を考えた際に、ガガリオン獣王国が最も良いと書簡を送っていたのでした。
ヒト族は論外として、500年前とはいえ邪竜様に兵を差し向けたエルフ族も候補から外れ、ドワーフ族と獣人族に絞られていました。
どちらも魔族に偏見の少ない種族ですが、地理的に近い獣人族にまずは書簡を送っていました。
「内容としましては、前向きに考えたいが、まずは会談してみたいとのことです」
「「「「「お〜!!!」」」」」
皆、前向きな返答に沸き立っています。
「内務卿、時期については指定はありますか?」
「は。詳しくはありませんが、出来るだけ早い段階でと書かれております」
「では、こちらも早急に準備しましょう。最速で行うならいつ出立できますか?」
「は。我々としては初の外遊となりますので、それなりに盛大に行うべきでしょう。え〜、1週間あればなんとかなりましょう」
「わかりました。外遊の準備を最優先として進めましょう。1週間後に出立と返答してください。
その1週間の間で魔王様から空間魔法について講義をしてもらいましょう」
今日の会議はこの後2つほど報告があり終わりました。なんとか今日も乗り切れたかな。疲れたよ。
はぁ〜、これからダイキくんにお願いに行かないと。
またダイキくんに嫌な顔されちゃうかなぁ〜。
ホント胃が痛い。




