016 僕、愚痴をこぼす
僕はいま、旧ダイン王国の魔王執務室のやたら豪華な机に突っ伏していた。
新たな首都は建設中の為、僕達は今、旧ダイン王国にいる。
「はぁ〜、なんで僕が魔王に。僕は自由にこの世界を見て回りたいのに」
「主様、期せずとはいえ、関わってしまったのです。
また、前魔王のジョルジュ様のような方を増やしたくはないのですよね?」
「コウ〜。そんないじわる言わないでよ〜」
「申し訳ありません」
「でも、主様は国をおさめるって感じではありませんよね」
「シュン、そうだよね」
「ですが、実際の国政はアイルがやるようですし、別に良いんじゃないですか?」
「サン〜、それはそうだけどさすがに一国の王様が気軽に市井に出向いたり、他国に遊びに行ったりしたらまずいでしょ〜」
僕は、龍ヶ峰での修行中に従えたフレイムバードのコウ、ストームタイガーのシュン、エンペラースライムのサンに愚痴をこぼしていた。
彼らはもともとSランクの魔物だったけど、僕が鍛えて今ではSSランクになっている。
その上、人化させ僕の趣味で執事服を着せている。みんなイケメンだしよく似合っている。
そして彼らはいつの間にか、魔王直属の3執事として広く国中に広まっていた。実力的にも僕に次ぐ強さということも一緒に周知の事実になっていた。
しかもファンクラブまであるらしい。こないだなんて人気の雑誌、魔界カレンダーで特集されてたし。
ちなみに僕は魔王だからかファンクラブとかは不敬というか、もはやそういう対象ではないらしく存在していない。
はぁ、僕って彼女できるんだろうか。それどころか友達もいないんだけど。
ここで今のダイン魔族連合王国について少し説明しておくと、魔王がトップにいて、大魔総統がアイルちゃんとなっている。
日本でいうと僕が天皇で総理大臣がアイルちゃんみたいな感じかな。
それで大臣ポジションは、内務卿が旧ガーネット王国のサイロン・ルータッドさん、外務卿が旧サムラン王国の王太子だったエリオ・サムランさん、他の大臣も旧3国の重鎮がバランス良く配置されているみたい。
それで、連邦制だから旧各国にはそれぞれ代官が配置されて、ダイン地区代官が公爵さん、ガーネット地区代官がまだ10才で王子のアーリュ・ガーネットくん、サムラン地区代官はサムランの内務卿だったガート・バランさん。
軍事はというと大魔将軍が旧ガーネット王国の魔王だったセリュジュ・ガーネットさん、副魔将軍が旧サムラン王国の魔王だったダリオ・サムランさん、あと、御前試合でベスト4に入っていた騎士団団長だったデニス・ボルヘニアさんと冒険者のベリル・オリヴァーさんの2人を加えた4人が四大魔将になっている。
王下十六剣はこの4人の他は、その他の御前試合出場者から4人と旧ガーネット王国から4人、旧サムラン王国から4人選ばれたみたい。その下に王族騎士団と王族魔術団がいる。
ちなみにアンサッスさんは国じゃなくて僕に仕えているからと要職をことごとく拒否した。だから僕の近衛隊の隊長ということにして納得してもらった。
3執事については完全に別枠と思ってもらっていい。
「それにしてもよくここまでの短期間でまとめたよね。アイルちゃんってすごかったんだね」
「そうですね。戦闘力も主様と我々3人、アンサッスを除けば魔族一でしょうし、どうやら我々の知らない所で色々と動き回って交渉していたようです。
政治手腕も高いのでしょう。
旧3国全ての民からの人気も高いですね。こういうのをカリスマというのでしょうか。王女というのもありますが、アイル自身がとても有能というのは明らかですね」
「だよね。やっぱ僕いらなくない? アイルちゃんが魔王でいいじゃん」
「でも主様。後ろに主様がいてくれるからこそ思いっきりやれるって部分があるのかもしれませんよ」
「そうかなぁ」
「まぁ、前向きに考えるなら、今までは実質多種族とは鎖国状態だったわけですから、まともな手では多種族の国家に行けなかったかもしれません。
それを今後は国の代表として真っ当に行けると考えればそれはそれで良いのかもしれないですよ」
「そっか、そういう考えもあるよね。でもそれじゃ自由には見て回れないじゃん。
やっぱ、辞めていい?」
3人とも苦笑いだ。
コンコン。
扉がノックされた。アイルちゃんかな?
「はい。どうぞ」
アイルちゃんが入ってきた。やっぱりアイルちゃんだ。というかアイルちゃん以外入ってきたことないけど。
「魔王様。ご報告があります」
「ちょっと、だから魔王様ってやめてって言ってるじゃん。ついこの間までダイキくんだったじゃん」
「今は魔王様ですので」
「なんかアイルちゃん固いよ。スマイルスマイル」
アイルちゃんは一瞬ニコっと笑った。
「では、報告ですが、」
そんな礼儀的に対応しなくても、
「不戦の草原を浄化する為に魔素を龍ヶ峰に散らしたいのです。
その為に上層部の者に空間魔法を教えてもらえないでしょうか?」
「えっ? 別にいいけど、それだったら僕がやっちゃえば早くない?」
「魔王様なら簡単でしょうけど、それでは国として強くなっていきません。なんでも魔王様に頼るようになってはいけません」
「そっか、そうだよね。僕はいつでもいいよ。執務室にいるけど何もしてないから暇だしね」
「ありがとうございます」
よ〜し、頑張って鍛えちゃうぞ!
「あっ、でもまずは首都建設の為に浄化を出来るだけ早く行いたいので、私やアンサッス様に行ったような修行ではなく、まずは空間魔法を覚えさせるようにしてください。
全体の修行はそのあとゆっくりやっていきましょう」
「あっ、そうなの? そっか、残念」
ま、いっか。アイルちゃんやポルンを鍛えていて思ったけど、僕って鍛えるのが結構好きなんだよね。
そういえば、ポルンも近衛隊に入っていて、今はアンサッスさんがバリバリ鍛えているよ。
「それで、次なんですが、魔王様は喜ばれると思います」
まだあるんだ。僕が喜ぶってなんだろ?
「獣人の国であるガガリオン獣王国と連絡がつきました。つきましては、1週間後にガガリオンに向けて出立していただきます」
「お〜!!! 行けるの? 獣王国に?」
「はい。ですが、初の外遊ですので、我が国家の威信を示す為にも盛大に行きます」
「え〜、僕が飛んで行けばすぐじゃん」
「だめです。これは外交ですが、ある意味では戦争です。国と国のぶつかり合いです。決して舐められてはいけないんです」
「はぁ、獣王国に行けるのは嬉しいけど、堅苦しいのは嫌なんだけどなぁ。ちなみに獣王国まではどれくらいかかるの?」
「10日ほどですね」
「10日!? その間ずっと車の中なの?」
「そうですね」
「じゃあ出発したら、ここに戻っていい。着く頃にまた車に戻るからさ」
「駄目です。行く先々で魔王様の存在をアピールしなければなりませんので」
「え〜。だるいよアイルちゃん」
「我慢してください。ガガリオンに着いたら1日は自由時間を作りますから」
「ホント!? 絶対だよ!?」
「はい。絶対です」
僕はガッツポーズした。
『アイルは上手いな』
『そうだね。主様を上手いことノセたね』
『いや〜、楽しくなりそうだね』
3執事がなんか言ってるけど、僕は獣王国に行って遊ぶことで頭がいっぱいだった。
「ですので、その1週間の間に空間魔法について教えていただければと思います」
「いいよ〜。じゃあ早速明日からやろう。1週間みっちり鍛えるよ」
次の日から僕は空間魔法を教える為にみっちり鍛えた。
やっぱりみんな放出魔法、強化魔法、付与魔法、作用魔法、空間魔法の概念を知らなかった。
だからまずは魔力操作の修行をさせたけど、みんな死にそうになっていた。
旧魔王の2人は流石というかもっとどんどん来いって感じだったけど。
あっという間に1週間が経った。
一緒に獣王国に行く旧魔王さん達には道中も僕が教えるけど、残る人は続きをアンサッスさんに任せることにした。
アンサッスさんは近衛だけど、3執事がいれば十分すぎるから、残って兵を鍛えてもらうことにしていた。
そして僕は、ダイン魔族連合王国として初の外遊先、ガガリオン獣王国へ向かった。あ〜、楽しみ!!!