幕間003 共戦同盟
「ぐわぁ〜〜〜〜〜〜!!!!」
闇の勇者ユウヤ・キサラギは自分の部屋でのたうち回っていた。
「あの、ガキ!ふざけやがって!くそっ!
ぐぅううう〜〜〜〜ああああああああああああ!!!」
コンコン。
扉がノックされ、返事を待たずに1人の男が入ってきた。
スラッとした長身のワイルドなイケメンである。燃えるような赤色の短髪を逆立てている。
「ホムラ・ジングウジ、……火の勇者様が何の用だ。ぐぅ」
「ふはは、苦しそうだな。キサラギ」
ホムラ・ジングウジと呼ばれたイケメンはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべている。
「まぁ自業自得だろう? 勝手に負けてきた挙句、てめえだけでなく、俺も無口くんもお嬢もさらに教皇様の情報すら魔族にバラしちまったんだからな」
「……、僕は、教皇様の命に従っただけだ。くっ。あんな化物がいるなんて聞いてなかった」
「ハハハハハ。おもしれーことを言うなお前。情報は日々更新されるし、思わぬ強敵、罠、策略、そんなのは当然のことだろうが。仮にも勇者である野郎がそんな甘ったれたことを言うとはな」
「あいつはそんなもんじゃない! アウム神教国どころか人族総出で当たっても勝てるとは思えない! がはっ、う」
「ほう」
ホムラ・ジングウジはニヤニヤした表情からややシリアスな表情に変わった。
「俺がそいつとやりあったらどうなる?」
「5秒持てば褒めてやる」
「はぁ? お前、俺の実力は知ってんだろうが! 舐めてんのか!」
「ゴホッゴホッ、だからそれを十二分に加味しても5秒も持つとは思えない」
ホムラ・ジングウジの左眉がピクピクと動いた。
「舐めて言ってんじゃねえんだな?」
「ああ、ジングウジだけじゃない。あれには誰も勝てない。四神獣と戦うようなものだ。ゴホ、ぐぅ」
「お前、それは教皇様に伝えたのか?」
「もちろん伝えたさ。鼻で笑われたけどな」
「そうか、教皇様は全然魔界を手にすることを諦めてないぞ。さっきもヴァッサーとカタリナが呼ばれてたしな」
「お前は呼ばれなかったのかよ」
「ハハハハハ、俺に頭使うこと期待してないからな」
「ぐうぅううううううう」
「しかし、マジでキツそうだな」
「はん、これは情報を漏らした罰として受け入れるさ。だけど、僕は2度と魔界には行きたくない」
「そうか、うし、じゃあ行くわ。しっかり養生しろよ」
ホムラ・ジングウジは部屋を出て行った。
「なんなんだよ、あいつは。うぐっ」
カツカツカツ。
「ハハハハハ、おもしれえ。キサラギは直接戦闘力はそこまでじゃねえが、とは言え勇者だ。
1度会ってみてえ」
ホムラ・ジングウジは廊下を歩きながら不敵に笑っていた。
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「もう体は大丈夫か? ユウヤよ」
「ええ。教皇様」
「そうか」
この日、闇の勇者ユウヤ・キサラギ、火の勇者ホムラ・ジングウジ、水の勇者アーグア・オー・ヴァッサー、聖の勇者カタリナ・テレーズ、アウム神教国の勇者全員が教皇グレゴリオ8世に集められていた。
「それで教皇様、俺らを全員集めて何の話をしようってんですか?」
「ジングウジ。無礼だ」
「あぁ〜。無口くんが口を開いたと思えば。喧嘩でも売ってんのか?」
「……、あなたでは喧嘩にもならない」
ピクピク。
「試してやろうか!」
「あなたでは相手にならない」
「そうかい。やってやるよ!」
2人が構えた時、2人を暴力的な魔力が襲った。
「「!!!」」
「やめろ! 教皇猊下の御前だ」
2人は構えを解いた。
と同時に冷や汗を流していた。
「へいへい、お嬢。ちょっとした冗談でしょう?」
「……、申し訳ありません」
聖の勇者カタリナ・テレーズは2人を一瞥すると、教皇グレゴリオ8世に向き直り話を促した。
「2人とももう良いかな? 仲良くしろとは言わんがもう少しどうにかならんものかね?」
「こいつ次第じゃないですか?」
「私はいつでも仲良く出来ます」
「はぁ〜?」
「何か?」
「わかった、もう良い」
グレゴリオ8世は若干頭を抑えた。
「では、呼び立てた理由を話すとしよう。
ダイン王国とガーネット王国、サムラン王国が、ダイン魔族連合王国として統一国家となると全世界に声明を出した」
「「「「っ!!!!!」」」」
「それは、魔族領が統一されたと言うことですか?」
「ユウヤ、魔族領ではない。あそこは魔界であろう?
魔族なんぞに大陸の領有権を我々は認めていない。そうであろう?」
「はっ。
失礼、いたしました」
数年前までは全世界的に魔族領で通っていたが、教皇がグレゴリオ8世に変わってからアウム神教はこのように主張し始めていた。
今では、この主張はヒト族の中では浸透しつつあった。
「教皇猊下。ダイン魔族連合王国ということはトップに立つ魔王はダイン王国のアイル王女でしょうか?」
「うむ、ダインの名を残しておるが、魔王ジョルジュ=ダルムはユウヤの策で亡き者としておるからな。わしもそう思ったのだが、新たな魔王はダイキという者だ」
「っ!!! あいつだ」
「それって、キサラギがやられたやつってことかよ」
「おそらくそうなのだろうな。ユウヤからの報告を話半分に聞いていたが、そうでもないのかもしれんな」
「マジかよ。じゃあそいつが魔族で1番強いってことじゃねえか」
「いや、あいつはどう見てもヒト族だった。何で魔族に手を貸してるのかはわからないが」
「はぁ〜? じゃあ人族のくせに魔王になってるって言うのか?」
「今はそう判断する他ないな。魔族どもが何を企んでいるかは現状わからんが、我々も手を打たんわけにはいかん」
「教皇様、じゃあどうするおつもりで?」
グレゴリオ8世はおもむろに手を叩いた。
「入ってくれたまえ」
扉が開き、純白の衣装に身を包んだ絶世の美女が入ってきた。
透き通るような白い肌、白い髪、翠色の眼。そして尖った長い耳。
「エルフ、だとっ!?」
そのエルフは冷たい笑みを浮かべたままカツカツと優雅な足取りでグレゴリオ8世の横に並んだ。
「エルガート聖樹国のアルナリア姫だ」
アルナリアと紹介されたエルフの姫は4人の勇者に仰々しくお辞儀をした。
「ちょっと待ってくれ、教皇様。まさかアウム神教国はエルフと組むって言うんですか?」
「その通りだ。わしらはエルガート聖樹国と同盟を結ぶ」
「マジかよ。エルフと言えば500年以上どの国ともまともに外交のチャンネルすら開いてなかったはずじゃ」
「いや、そうではない。秘密裏にとはいえ、敵国のインガイア王国はエルフのアングラシア聖森国と手を結んでおる」
「「「「っ!!!!!」」」」
「先日、カタリナとアーグアと魔界を我らのものとする方策を話し合ったが、良好な案は出なかったな。
そこにこの魔界統一の声明だ。ならばわしらも動かねばならん」
「まったく、どうやってエルフを口説いたんですか?」
「わしにも色々とネットワークがあるからな」
「へぇ〜、あいかわらず恐ろしい方だ」
「教皇猊下、ではこの先はどのように?」
「まずは、ユウヤをもう1度魔界に潜入させる」
「!!!!
嫌です! 僕はあんな所にはもう2度と行きたくない」
グレゴリオ8世は困った顔をしてから、開いた右手をユウヤの方に向け、そのまま握りしめた。
「ぐっ、あぁあああああああああ!!!!!」
「キサラギ!!!」
グレゴリオ8世は手を開いた。
「はぁ、はぁ、はぁ、」
「ユウヤ、やってくれるな?」
「は、はい。教皇様」
「ならば、今日は同盟を祝して会食としようではないか。
ふっふっはっはっは」
こうして秘密裏に結ばれたアウム・エルガート共戦同盟はダイキ達を巻き込む大きな渦となっていくのだった。
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