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013 余、娘の腕の中で死ぬ

 今日は、いよいよ御前試合の準決勝と決勝が行われる。前回は優勝したドルドゥが魔王認定戦を辞退した。果たして今回はどうなるか。


 それにしても、ダイキ達は呑気なものだ。いつの間にか知らぬ小僧も増えておるし。

 しかも本戦出場者に劣らない魔力量。何処で見つけて来たのやら。


『皆様ご起立ください。魔王陛下の御入来です』


 今日も昨日と同じアナウンスが流れた。では、今日も行くとしよう。


 コツン、コツン、コツン、コツン、、、


 今日も、余の足音だけが響いておる。武闘台には勝ち進んだ4名のみ。本来ならば今回で魔王の座を退くはずだったのだが、ダイキのおかげでもうしばらくは頑張れそうである。


「皆の者、面を上げよ。本日も主役は余ではない。まずは、ここにいる4名を讃えよう。本日の主役にして今後の王国を引っ張る英雄達である。

 新たな四大魔将達よ、今日も存分に競い合え。皆も大きな歓声を持って新たな王国に花を添えよ。今日が新たな王国の船出である。皆もしかと見届けよ。

 それでは、御前試合、準決勝の開始である!」


『それでは皆様、本日も昨日に引き続き、司会進行及び実況は王属魔術団第2分隊所属の私、アリシア・カモミール。解説は、王属騎士団第1分隊所属のケイン・マクレーンでお送りします。

 まずは準決勝第1試合、選手紹介です。バハムートの方角は最早説明は不要でしょう。今大会、2戦とも開始1分以内に決着をつけています。前回覇者の実力は本物だ。

 言わずと知れた魔王軍のトップ、ドルドゥ=ダルム公爵様だ〜!!!』


 うむ、アリシアよ、うまく盛り上げてくれるわ。昨日以上に盛り上がっておる。


『続いて、フェンリルの方角、王国における騎士の頂点にして、魔法を除いた戦力では王国一との呼び声高い、王属騎士団団長デニス・ボルヘニア侯爵様だ〜!!!』


 2人とも良い面構えだ。この2人がいてくれれば王国も安泰であるな。


 ゴーーーーーン!!!


『今、開始の鐘が鳴りましたー!!!

 おーっと、2人とも動かない。互いに牽制し合っているのか』


 デニスよ、腕を上げたな。その構え一つでお前がこの10年、いかに努力してきたが伝わってくるわ。


『あっ、はじめて公爵様から仕掛けたー!!! ボルヘニア様は対応出来るのかー!!!』


 ほう、ドルドゥの初撃を防ぐか。


『おっと、気づくと2人はさっきまでの距離にいるぞ』

『ボルヘニア様は今の公爵様の一撃を剣で防ぐと同時に3回切りつけました。公爵様はそれを全ていなして一旦距離をとりました。凄まじい攻防です』

『なんと!? この一瞬で私達にはわからない高度なやりとりがあったようです。

 今度は、ボルヘニア様が仕掛けたー!!!』

『ん? 公爵様は何か魔法を使うようです』

『公爵様から火炎魔法が飛び出したー!!! 公爵様が攻撃魔法を使うのは今大会初です。

 しかし、ボルヘニア様は剣でそれを薙ぎ払う!!!』

『違う!!!』

『いつの間にか公爵様がボルヘニア様の後ろを取っているー!!! あーっ、ボルヘニア様が倒れたー!!!』

『公爵様の先ほどの火炎魔法はダメージを狙ったものではなく、ボルヘニア様の隙を作るためのものだったようです。

 ボルヘニア様が火炎魔法を剣で払ったその一瞬、私達に取っては隙とも言えないわずかな隙に、公爵様はボルヘニア様の後ろを取っていた。やはり公爵様は魔王軍最強という事でしょう』


 ゴーーーーーン!!!


『試合終了〜!!!

 強い、強い、強すぎる〜!!!

 公爵様はこのままで優勝まで突き進むのでしょうかぁ〜!!!』


 うむ、ドルドゥよ、見事である。この10年で成長していたのはデニスだけではないということか。


『引き続きまして準決勝第2試合、バハムートの方角は、冒険者として史上初となる四大魔将入りしました精鋭。

 Aランク冒険者であり、Sランクに至ることは確実と言われるその力は、決勝に届くのか〜! ベリル・オリヴァー!!!』


 この10年の進歩は軍だけでなく冒険者にも及んでいたということか。喜ばしいことである。


『続いて、フェンリルの方角、騎士団と双璧をなす王国の守り手である魔術団。そのトップにして、魔術学院時代から数々の最年少記録を打ち立ててきた天才。

 前回大会では若干15歳にして四大魔将入りを果たしています。これも史上最年少記録だ。今回目指すは史上最年少優勝かぁ〜!

 王属魔術団団長カーミル・マクロン侯爵だ〜!!!』


 カーミル、こやつも著しい成長を遂げておる。アイルに対する疑いは晴れておらぬが、こやつが王国の為に働いてくれるなら、これ以上に心強いものもないな。


 ゴーーーーーン!!!


『今、開始の鐘が鳴りましたー!!!

 ベリル・オリヴァーが2本目の剣を手にしたぞ。これまでは1本で戦っていましたが、本来は双剣使いだったのか〜!』

『行った!』

『ベリル・オリヴァーが仕掛けたー! あーっ、マクロン様がなす術なくぶった斬られたー!

 なんと言うことでしょうか。あの天才マクロン様が開始わずか10秒で倒れている〜!

 ベリル・オリヴァーの実力は本物なのか〜!』


『おかしい』

『ケインさん、どうしました?』

『マクロン様から魔力を感じない』

『それはどう言うことでしょうか?』

『わかりません。魔力がないと言うことは死んでいると言うこと、しかしあのマクロン様は瀕死に見えますが死んでいるようには見えません』

『どう言うことでしょうか? もしやマクロン様は何かの魔法を発動しているのか〜!

 あっ、マクロン様が消えました! 一瞬です。一瞬のうちに姿が見えなくなりました。やはり何かの魔法なのかぁ!

 あーっ、ベリル・オリヴァが倒れています。いつの間にかマクロン様が消えたと思ったらベリル・オリヴァがダウンです。

 おーっと、急にマクロン様が現れました。先ほどの斬り傷は見当たりません!』


 ゴーーーーーン!!!


『試合終了だー!!!

 何をやったか全くわかりませんでしたが、マクロン様が決勝に駒を進めたー』


 カーミルめ、空間魔法の応用による幻術か。見事である。果たしてドルドゥとカーミルどちらが勝つか。


『決勝戦は1時間後になります。皆様しばらくお待ちください』


 うむ、茶でも飲んで待つとしよう。


 コンコン。


「陛下、アリシア・カモミールであります」


 実況の娘か。


「入れ!」

「失礼いたします。陛下、先ほどカーミル・マクロン様より決勝戦の辞退の申し出がありました。

 いかがいたしましょうか?」

「何!?

 そうか、残念ではあるが、無理に闘わすこともあるまい。至急この旨をアナウンスせよ。予定を変更し、決勝戦の開始時刻から表彰式を行うものとする」

「畏まりました。すぐに手配いたします」


 バタン。

 アリシアは急いで出て行った。

 しかし、決勝を辞退とは。臆したのかカーミル。そんなたまではあるまいに。アイルの件もあることだ、念のため用心しておくか。

 まぁ、魔剣ダインほどの伝説級の武器以外で余を傷つけられるのはダイキ達だけであろうがな。


『皆様にお知らせいたします。予定されていました決勝戦ですが、カーミル・マクロン様より辞退の申し出がありました。

 これを魔王陛下は承諾いたしました。つきましては、決勝戦の開始時刻より、表彰式を執り行います』


 うむ、余も準備をするか。褒章の確認をせねばな。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『皆様、お揃いでしょうか。これより御前試合の表彰式を執り行います。皆様ご起立ください。魔王陛下よりお言葉を頂戴します』


 満員の客席は皆、立って頭を垂れておる。武闘台には此度の選手が16名。うむ、これからの10年も王国は明るいのぉ。


「皆の者、面を上げよ。今回の御前試合、皆素晴らしい試合ばかりであった。

 まずは拍手を持って、この英雄達を讃えようではないか」


 場外まで響くであろう拍手が木霊した。


「16本の剣達よ、皆見事であった。そして、ドルドゥ=ダルム、カーミル・マクロン、デニス・ボルヘニア、ベリル・オリヴァ、其方らを四大魔将に任命する」


『デニス・ボルヘニア、ベリル・オリヴァ前へ』

「は!」

「は!」

『2人には、四大魔将の証として魔将褒章が授与されます』


 そして、両名に魔将褒章を手渡した。


「両名とも、これからの働きに期待する」

「は!」

「は!」


『続いて、カーミル・マクロン前へ』

「は!」

『準優勝のカーミル・マクロンには魔将褒章に加え、魔王軍副将軍の証として副将軍褒章も授与されます』

 

 カーミルに魔将褒章を手渡し、続いて副将軍褒章を手渡そうとした時、


「お父様〜!!!」


 グサリ


「ぐふっ」

「油断しましたね、魔王陛下。まさか私ごときに不意を突かれるとは思っていませんでしたか」

「カーミル、貴様!」


 グシャ


 剣を根元まで突き刺されたか。これは、もう助からんか。

 お魔力をうまく錬ることが出来ん。しかし、余の身体をやすやすと貫くとは。


 ブシュ


「それは、まさか!?」

「そうです、魔王陛下。魔剣ガルムですよ。大聖堂から拝借して来ました。

 これならば流石の陛下も無事ではすまないと思いましたが、思った通りですね。魔剣も飾られているよりこうして血を吸う方が喜ぶでしょう」


 しかし、カーミルも尋常な様子ではない。


「私は残念ながら魔剣に認められませんでしたからね。所持するだけで、魔力が乱されます。

 それを使ったんですからいまは、立っているのもやっとですよ」


 カーミルよ、その覚悟をなぜ王国のために使わんのだ。


 そして、余は右腕を切り落とされた。


「ぐっ!」

「貴方にこれはもう必要ない」


 カーミルは余の腕から王の証である王証環を取り上げた。


「カーミル、もうよかろう」

「ドルドゥ、貴様が黒幕か!」

「え〜、そうです、兄上。あのまま大人しく王位を退いてくれていればこんな真似しなくて済んだものを」

「アイルを狙ったのも貴様の仕業か!」

「え〜そうですよ。邪魔になりそうだったのでね」

「公爵様、こちらです」

「うむ、これが王証環ソロモンか。手に馴染むではないか」


「うわぁぁぁぁああああああ!!!!!」


 アイル! 今飛び出してきては。

 くっ、最早意識を保つことも難しいか。


「お父様、しっかりしてください!」

「アイル。お前、は、生きろ。ここで、死ぬ、な」

「莫迦なことは言わないでください。お父様! 貴方こそ死んではならない人です! お父様!」


 ああ、不意に来た最後であるが、娘の腕の中で死ねるとは邪竜様(かみさま)も粋なことをしてくださる。

 邪竜様、どうか、アイルのことはよろしくお願いいたします。


 こうして余の人生は幕を閉じた。


「お父様〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」

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【世界最大の敵の元魔王、現在はウエイター見習い 〜人間の領地を侵攻中の魔王が偶然出会った町娘に一目惚れした結果、魔王軍を解体してそのまま婿入りしちゃった話〜】

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