010 僕、さっそく出戻る
僕達は今龍ヶ峰に来ていた。
出て行ったばかりで少し恥ずかしかったが、お父さんは嬉しそうにしてくれたからよかった。
というのも、魔王さんがどうしてもお父さんに会いたいというから連れて来ることになった。魔王さんは忙しいだろうに。
「邪竜様にお会いできるならどんな予定も些事にすぎぬ」
とか言って部下を困らせていたけど大丈夫なのかな?
まぁ、政務とかは僕は知らないし、魔王さんがいいというならいいんだろう。
というわけで連れて来た。魔王さんは、最初は跪いて、感動で涙を流していたけど、すぐにお父さんと打ち解けたようで、人化したお父さんとお酒を酌み交わしている。なんでも魔族でも最高のお酒で魔王さん秘蔵の品を持って来たんだとか。
僕は15歳だけど、この世界では成人だし、そのうちお酒も飲んでみたいな。
「よし、せっかく龍ヶ峰に来たんだし、食料でも狩って来ようかな」
「いえ、そんな事でしたら私にお任せください」
アイルちゃん配下のエメラがそう申し出た。
「いやいや、ダイキ様、ここは俺にお任せください」
アンサッスさんの配下のノワールも負けじと申し出て来た。
「野蛮な馬野郎になんて務まるのかしら」
「なんだと! 蛇女が! やんのか!?」
この2人は同期だからかお互いにライバル心が強くて、よくいがみ合っている。
「じゃあ、2人とも行っておいでよ。より魔王さんを喜ばせた方の勝ちってことで。
でもやるからにはちゃんと調理もして出すこと」
エメラがニヤっと笑った。
「お馬さんには料理という高尚なことは出来ませんものね。諦めてじっとしていたら?」
「うるせいな! 結局は素材がものを言うんだよ!」
2人の間に火花が舞っている。
「では、行ってまいります」
「ダイキ様、最高のものを狩って来ます。楽しみにしていてください」
そう言って2人は出て行った。
「ヒマになっちゃったなぁ。そうだ、久しぶりにトランプでもしよっか?」
「ご一緒させていただきます」
コウ達3人はやってくれるみたいだ。
アイルちゃんとアンサッスさんは2人でお茶を飲んでいた。ここのお茶は美味しいからな。魔族領では普段流通してない種類だし、恋しくなるよね。
「アイルちゃんとアンサッスさんもトランプやらない?」
2人はビクっとしてなぜか青ざめている。
「主様がお誘いなのだ。早く来い」
コウに言われてしぶしぶ2人はやって来た。
見た目はいたって普通のトランプだ。僕が小さい頃にお父さんと遊ぶ為に作った。
ただ、遊ぶ前にトランプに参加者の魔力を登録して、負けると魔力が勝った人に取られるだけ。お父さんと遊ぶ用なので最初にコウ達と遊んだ時は、全員1回負けただけで気を失ってしまった。
それから改良して、1回負けてもせいぜいSランクの魔物1体分の魔力しか取られないように作り直した。
それでも僕以外は5回連続で負けると魔力が尽きちゃうみたいだけど、それくらいじゃないと面白くないよね。
ちなみに僕だけはみんなの100倍持っていかれる。
みんなでまったりとトランプをして、僕とコウ以外が気絶した頃、2人は帰って来た。
「ダイキ様期待してください」
「いーや、俺の方がすごいです。待っていてください」
2人は睨み合いながらキッチンに向かった。
何を狩って来たかは2人とも空間魔法で収納しているからわからないけど楽しみだ。
僕は、コウと1対1でトランプを続けて、コウも気絶したところで2人が料理を運んで来た。
僕は全員の魔力を回復させ、用意を手伝わせた。
今日は今までのメンツに魔王さんもいる。久々の龍ヶ峰の食事は楽しみだ。
「ほう、これが龍ヶ峰の食事か」
「2人とも説明してあげて」
「では、私から。私がお出ししたのは、ワイバーンと魔茸の香草焼きです。付け合わせにワイバーンで出汁を取ったスープもお召し上がりください」
「何っ!? ワイバーンだと!? Aランクの魔物ではないか? 余ですら数えるほどしか食べたことのない高級食材だ」
そうなんだ。僕達は月に1回くらいは食べてたけど。
魔王さんの発言で勝ちを確信したのか、エメラはノワールにめっちゃドヤっている。
「スープもつけるとは卑怯な」
「あら、当然の配慮ではなくて」
「ふん、どうせ単品では勝負できないと考えたんだろう。浅知恵だな」
相変わらずバチバチやってるなぁ。
「俺の方は、グレートファイアボアの焼肉盛り合わせです。霜降り部分と赤身部分。そして新鮮だからこそ食べられる内臓部分を味わってください。
塩で下味はついているので、この熱した魔石の上で各自自分で焼いて食べてください」
「グレートファイアボア!? Aクラスでも上位の魔物ではないか。ファイアボアですら早々お目にかからんというのに。
これはどちらも大いに期待できそうだ」
結果、魔王さんはどっちの料理も夢中になって食べた。勝負のことなんてどうでも良さそうだ。
だから、2人のことはちゃんと褒めておいた。決着がつかなかったのは少し不満そうだけど、まぁ納得してくれたみたい。
宴もたけなわなところで僕はお父さんの横に移動した。
「ん? ダイキか、どうした?」
「昨日魔剣ガルムを見てきたよ」
「おぅ! どうだった?」
僕は買ったばかりのカメラで撮りまくった写真を見せながら、昨日のことを話した。
お父さんは終始楽しそうに聞いてくれた。良かった。いずれ聖剣リューンも見に行かないと。
次の日、僕達は溶岩地帯と化した不戦の草原に来ていた。
「話では聞いていたが、これほどとは」
魔王さんは不戦の草原に絶句している。
「ここならいくらでも魔法打てますよ」
「がっはっはっ、もはやこれではな。
では、久しぶりにぶっ放すか」
魔王さんは右手を天にかざすと急に雲が出来上がり、右手を振り下ろした。
その瞬間、出来上がった雲から高出力、広範囲の雷が溶岩地帯に突き刺さった。
僕は、結構びっくりした。作用魔法の概念を知らないはずなのに魔力効率も高く、凄まじい威力を発揮したからだ。
これは、鍛えるとすごいことになりそうだ。
「まぁ、こんなところか。ダイキよ、余の魔法はどうであった?」
「結構驚きました。鍛えたら威力だけなら雷魔法が得意なシュンにも引けを取らないかもしれないですね」
「現時点ではまだ甘いというかとか?」
「そうですね。今の時点だと、ここにいる誰にも勝てないでしょうね。」
「がっはっはっ。それは面白い。久しぶりに滾ってきたわ」
「魔王さんさえよければ、僕達で鍛えましょうか?」
「なに? 誠か? それは是非お願いしたい!」
この人には余計なプライドみたいなものはないみたいだ。すごく好感が持てるよね。
「エメラ、ノワール」
「は」
「は」
「君たちに魔王さんを鍛えてもらおうかな。もちろん僕も他のみんなも口を挟むとは思うけど。
アイルちゃんとアンサッスさんもそれでいい」
「いいよ」
「構いません」
「よし、じゃあ、ちゃんと魔王さんが1人前になったら、君たちにも合格の証として武器を1つプレゼントしよう」
2人は急に目を輝かせた。
「全身全霊を持って、魔王殿を我らに並ぶ次元に引け上げてご覧に入れます」
「俺も全力を尽くします」
「でも、魔王さんは忙しい人だから邪魔はしないようにね」
この日から魔王さんは政務そっちのけで、鍛錬に勤しむのだった。
大丈夫なのかな?