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009 僕、奇跡を起こす

 僕達は、魔の森に面した村から、魔動車でルード伯爵領の領都へ移動し、そこから魔動列車で王都へやって来た。 

 生前、車も電車も乗ったことのなかった僕は、終始ご機嫌だった。


「いや〜、楽しかったね。アイルちゃん」

「ダイキくんにとっては初めてのことばかりだからね」


 特に王都が見えた時はテンションが上がった。着くまでにいくつも街を通過して来たけど、どれと比べても比ではない頑強で巨大な塀で覆われていて、中央には巨大な王城がそびえ立っていた。まさにファンタジー。


 列車はそのまま門を潜って、王都に入って言った。僕達は王城の正門前の駅で下りた。


「おい、あれ。魔王様じゃないか?」

「本当だ。何やら人族を引き連れてないか?」

「そんなのどうでもいいんだよ! 病は大丈夫なのか?」

「お前、魔王様が病ごときにやられるわけねぇだろ!」

「でも、お姿を拝見するのは久しぶりだ。なんて雄々しいんだ。」


 すると全身傷だらけでボロボロの魔族の少年が魔王さんに近づいて来た。


「魔王様。これ。王都の近くの森で採った薬草です。病になんて負けないでください」

「おぅ、ありがとうな。坊主」


 そう言って、薬草を受け取ると、そのまま食べた。


「うむ。力が湧いてくる。坊主、貴様のおかげだ。

 余の病は完治した。貴様ら! これからも余について参れ!」


 そう言って魔力を放出し手を高々と上げた。


「「「「「うぉぉぉおおおお!!!」」」」」

「本当にあんな薬草で治ったのかよ」

「それはわかんねぇけど、あの魔力を見ろよ。病にかかる前よりも強いぞ」

「そうだな。うぉぉぉおおおお!!!」


 その瞬間、王城前の広場は割れんばかりの喝采で溢れた。


「魔王様万歳!」

「魔王様万歳!」

「魔王様万歳!」


 この魔王さんは凄まじく人望も人気もあるみたいだ。


「坊主、貴様の行動は魔族一の勇気と忠誠を示した。大儀である。小僧も魔族なら上がってこい。いつまでも王城で待っておる。

 では、ダイキ達行くぞ」


 その少年は泣いていたけど、その目の奥に凄まじい決意を感じた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 僕達は、すごく広い食堂?で魔族料理を食べていた。


「うまーい! すごく美味しいよアイルちゃん!」

「お口にあって良かった。私も久しぶりに食べられてすごく嬉しい」


 魔族の料理は香辛料が効いていてスパイシーなものが多かった。前世では食べたことがなかったけど、東南アジア系の料理ってこんな感じだったのかな。


 バタン!

 突然食堂の扉が開いた。


「兄上!」

「騒々しいぞドルドゥ」

「これが黙って入られますか! 本当に大丈夫なのですか?」

「ああ、そこのダイキが治してくれたわ」

「この少年がですか?」

「そうだ、その少年がだ」


 この人がアイルちゃんを嵌めた公爵さんか。

 そう思っていると、公爵さんは僕に頭を下げて来た。


「ありがとう。これでダイン王国は安泰だ」

「いえ、そんな。頭を上げてください」

「かたじけない。

 !!!

 アイル! 生きていたのか!?」

「はい。叔父様。私もアンサッス様もダイキくんに保護されていました」

「アンサッス!? 2人ともよく無事で戻った。ダイキであったな。何と礼を言って良いか」


 あれ? なんか想像してたのと違うんだけど。


「ドルドゥよ、取り合えず落ち着かぬか。今は客人との晩餐の場だ」

「失礼をした。食事が終わってからで良いから、これまでのことを聞かせてはくれぬか?」

「そうであるな。余も詳しくは聞いておらぬしな」

「わかりました」


 食後、アイルちゃんは公爵さんに聞いて薬草を取りに行き、そこでアンサッスさんに襲われたところを僕に助けられ、アンサッスさんと共に3年間修行していたこと。


 そこは龍ヶ峰でお父さんとも一緒だったこと。最後に僕とお父さんが戦ったこと。なんかを掻い摘んで説明した。


「どこから突っ込んでいいやら」


 公爵さんは頭を抱えている。


「とにかく今は不戦の草原に危険はないのだな?」

「それは大丈夫だと思います」

「兄上が急に緊急事態を取り下げたのはこういう理由でしたか。しかし、兄上、とんでもない爆弾を抱え込みましたな」

「まぁ、こやつが悪人でなくて良かったわ。こやつが暴れまわったら、王国どころか大陸が滅ぶからな」

「だから、そんなことしませんて」

「がっはっはっはっ、わかっておるわ」

「ところでアンサッスよ。お前はどうしてアイルを狙った? 返答次第ではただでは済まされんぞ」


 公爵さんはすごい形相でアンサッスさんを睨みつけた。


「なっ!? 私は、公爵様より書状を受けたためでありますが」

「ドルドゥ、どういうことだ!」

「いい加減なことを言うな! 私はそんな書状を書いた覚えはない! アイルに薬草について話したことは事実だが、私がアイルのことなど狙うものか!」

「アンサッスよ、その書状は今出せるか?」

「いえ、そう言った書状は読んですぐの焼却が通例でありますれば」

「やはりそうか、では、その書状は誰より受け取ったのだ? 内容が内容だ。一兵卒に持たせるとは思えん」

「王属魔術団団長、カーミル・マクロンであります」

「なに!? カーミルだと!

 しかし、アンサッスよ、ドルドゥからの書状をカーミルが届けたことを不信には思わなかったのか?」

「確かに普段は公爵様より直接受け取るか、公爵様直属の配下より受け取っておりましたため多少は思いました。しかし、カーミルは王属魔術団団長でありますし、何より書状には公爵印が押されておりましたので」

「急ぎ、カーミルを呼んで参れ!」

「陛下、カーミル様は現在ガーネット王国との小競り合いの沈静化のため、国境へ出向いております。お帰りになるのは御前試合の直前かと」

「そうか、間の悪い。あと1週間は戻って来んわけか。なら、御前試合が終わってから話を聞くほかあるまい」


 この日は、こうして情報交換をして終わった。

 ホテルのスイートルームかというほどの部屋に各自案内され、僕の魔族領1日目は何やかんやで楽しく終了した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 次の日、僕達のことが新聞に顔付きで紹介されていたらしい。


 魔王さん曰く、魔族は比較的多種族への偏見は少ないらしいけど、人化している配下も僕もパッと見ヒト族に見えるし、魔力量も少なく見えるから、余計な衝突を避ける為に周知しておいたほうがいいとのことだった。

 少し恥ずかしいけど、これで快適に観光出来るならいいか。


 ちなみにカメラや新聞はあるけど、TVやネットはないようだった。生活の基盤が魔法に依存しているから魔法で出来る領域は現代の地球と変わらない水準だと思う。ただ、TVやネットは空間魔法の概念がないと魔法では再現が難しいらしい。


 僕達はこの日、王都内の観光に出かけた。僕のお目当は当然、大聖堂だ。アイルちゃんは私が案内すると張り切っていた。


 そして、僕達はどこへ言っても街の人達に囲まれることになった。新聞のおかげで魔王さんの病を治したのも、アイルちゃんを連れてきたのも僕達のおかげというのが、広く知れ渡っていて、ある意味、救世主的な扱いだった。


 だから、どこに言っても囲まれて、皆から感謝の言葉を贈られた。中には色々とくれる人も沢山いて、配下に持たせていたけど、みんな両手で抱えるほどになっていた。観光はしずらかったけど、みんな本当に善意で向かってきていたから嬉しかった。生前は褒められたことなんてなかったし。


 予定より大幅に時間を押して、ようやく僕達は大聖堂に到着した。


 地球でいうとノートルダム大聖堂に近いのかな。外観からすでに凄まじく立派だった。中はさらに感動的な空間だった。

 しかし、その空間も一つの圧倒的存在感の前には小さいものだった。一番奥の大祭壇の一番上にお目当の魔剣ガルムは刺さっていた。2000年の間で錆がいくつも見えるけどそれでも尚、圧倒的だった。


「……、これが、魔剣ガルムか」


 2000年に渡って魔族の信仰の中心にあったからか、神々しく輝いて見えた。僕が最初に見た時の神剣パールよりは明らかに強い。剣って信仰を集めたら強くなるんだろうか?


 ともかく僕は途中で買った残景機カメラで写真を撮りまくった。完全にお上りさんだ。

 その時ふと、僕は思いついた。


「アインちゃん。何もしないから、1本の剣を出してもいい?

 お父さんからもらった、魔剣ガルムの兄弟剣があるんだけど、2000年ぶりに合わせてあげたいいんだ。」

「念のため、司祭様に確認してくるね」


 そういってアインちゃんはどこかへ走って言った。しばらくして、豪華な袈裟を着た司祭さんを連れて来た。優しそうなおじいちゃんといった感じだ。


「ダイキくん、こちら大聖堂を実質的に任されてる司祭のベインさん」

「初めまして。ダイキ様。ベインと申します。この度は本当にありがとうございました」

「いえ、大したことは何もしてませんよ」


 司祭さんはニッコリと笑った。


「それで、ダイキ様はこの魔剣ガルムの兄弟剣をお持ちだとか。それであれば、是非合わせてあげて下さい。

 しかし、私も長く教会に属していますが、兄弟剣というのは初めて聞きました」

「そうなんですか?

 僕は邪竜パールに育てられたことは知っていますか?」

「なんとっ!」


 司祭さんはそれはもう驚いた顔をした。この情報までは知られてなかったみたいだ。


「では、ダイキ様は神の使徒といって差し支えないお方ですな」

「大袈裟ですよ」


 司祭さんは僕に向かって拝みはじめてしまった。僕は苦笑いだ。


「お父さんに聞いた話ですけど、2000年前に、お父さんは魔王ダインと人族の勇者リューンと友達だったらしいんです。

 それである時、魔王ガルムと勇者リューンはその当時の最高の武器職人だったドワーフの職人に3本の剣を打たせて、その1本をお父さんに渡したらしいです。

 その時それぞれの剣に3人で強化を施したと聞いています」


「なるほど、この魔剣から感じられる邪竜様と国祖様以外のもう1つは伝説の勇者リューンでしたか。

 これは長年の研究が大きく進歩しますぞ」


 司祭さんはテンションがめっちゃ上がっていた。

 魔王ガルムは多くを語っていなかったらしい。

 そんなこんなでやりとりしていると、気になったのか礼拝に来ていた他の信者の方が集まって来ていた。


「それじゃあ、そろそろ剣を出してもいいですか?」

「はい。私も大いに興味があります」


 その時、コウがみんなに諭すように言った。


「全員最大限に魔力を高め、最大限に気を張れ!

 さもなくば主様の持つ神剣の前では意識を保つことすら難しい。」


 みんなポカンとしている。


「皆、聞きましたか? 全力で気を張るのです。」


 そう言って司祭さんは率先して魔力を解放した。結構すごいぞこの人。最初にあった時のアインちゃんよりは強いんじゃないか。

 続いて、他の信者の方も皆魔力を解放したようだ。


「では出しますね」


 僕は亜空間手を伸ばし、しまってある神剣パールを何もない空間から取り出した。

 その瞬間、僕達と司祭様以外の信者全員が倒れた。


「これほどとは!」


 司祭さんが額に汗を流しながら驚愕している。


「この剣には僕も強化ほ施しましたからね。ただ、ちょっと強くなりすぎちゃって」


 その時、魔剣ガルムと神剣パールが光り出した。


 光りが収まると、魔剣ガルムは先ほどまでの姿が嘘のように、錆一つなく新品同然の輝きを放ち、さっきまでよりさらに強力な存在感を放っていた。

 神剣パールも1段階強くなったように見える。


「パール、お前も兄弟に会えて嬉しいんだな」


 司祭さんは震えていた。


「……、奇跡だ」


 そう言って魔剣に祈りを捧げ始めた。


 この日の出来事はあっという間に王国中に広がり、翌日から参拝する信者が後を絶たなくなったとか。

 そして、魔剣新生の奇跡として永く語り継がれることになるのは、また別の話。

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【世界最大の敵の元魔王、現在はウエイター見習い 〜人間の領地を侵攻中の魔王が偶然出会った町娘に一目惚れした結果、魔王軍を解体してそのまま婿入りしちゃった話〜】

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