第82話 さぁ、帰ろう!
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
感謝です。
さて、俺も帰ろう。
アニム王といると、とても居心地がいい。
だが、アニム王も忙しいはずだ。
自分の転移が俺たちの世界システムを変えてしまったと、妙な責任を感じている。
俺にとっては最高なんだが。
どんな世界であっても、人は死ぬときは死ぬ。
ただ、今の世界では蒸発してしまうのが何とも言えない。
地球が人を吸収しているみたいな感じもする。
・・・
そう考えると、怖いな。
アニム王が声をかけてくる。
「テツは強さを得て何のために戦うのかな?」
一瞬、俺は虚を突かれたような感じがした。
う~ん・・何だろう。
俺の戦う目的か。
「・・何のため・・私が言うのもなんですが、人種族のためではないですね」
俺はそこで言葉が途切れ、少し考え込んでしまった。
我々の人種族は、自分達以外のすべてのものの犠牲の上に生が成り立っている。
昔は少なくとも自然というものを自分達の上位に存在するものとして畏敬の念を込めていたはずだ。
それが、科学技術が進歩して、自然を支配できると考えているようだ。
いや・・だからこそ地球がこのシステム選んだのか?
そして、人が神の席を奪おうとしているから・・。
俺はアニム王のいるのも忘れて、ブツブツつぶやいていた。
・・・
アニム王は静かに聞いてくれている。
俺はハッとする。
「あ、失礼しましたアニム王。 つい余計なことを口走ったみたいで・・」
「いや、いいよ。 続けてくれたまえ」
アニム王が静かに言う。
あれ?
俺も何を言おうをしたのかわからなくなったが、今頭にあることを伝える。
「ありがとうございます。 今、アニム王が高レベルの魔物を排除しても、自然とまた高レベルの魔物が発生しているのですね?」
アニム王がうなずく。
「それならば、自然に任せてある程度落ち着いてから、アニム王が排除された方が良いのではないですか?」
俺は思うままに言ってみる。
「あはは・・テツは過激なこと言うね。 だがね、目の前で起きる事象は、私が転移して来なければ起こりえなかったものなのだ。 それを思うと・・ね」
アニム王が下を向く。
転移による世界改変の責任を感じているのだろう。
俺は言葉を出せなかった。
チラッとアニム王の方を見る。
少しうつむき加減で微笑んでいるが、その寂しそうな目を見ると何とも言葉がない。
「アニム王・・もしお疲れになったら、是非私のところにいらしてください。 ご一緒に今の世界を回ってみませんか?」
アニム王が少し驚いたような顔で俺を見る。
「ありがとう、テツ。 しかし、テツは自分の種族をあまり好ましく思ってないように感じるのだが」
「いえ、嫌いなわけではありません。 いや、嫌いなのかな・・よくわかりません。 ただ、自分たちも自然の一部だということを理解していないことが嫌いなのです」
人間は、進歩と称して何をしたのか。
確かに便利になった。
でも、それは地球という環境があったからだろう。
その母体を当たり前と思って、船が沈むまで食いつぶすつもりか。
そんなことが俺の頭に浮かぶが、軽く頭を振って切り替える。
アニム王は優しい眼差しで俺を見ている。
「そうか・・では、私が疲れたその時には、テツのところにお邪魔させてもらうよ」
アニム王はそう言うと、手を差し伸べてくる。
俺は慌てて手を差し出す。
お互いに堅く握手を交わした。
「では、テツ。 会えてよかったよ、ありがとう。 また、いつでも念話を飛ばしてきてくれたまえ」
そう言うと、マントを翻してアニム王は都市部へと戻って行った。
そのアニム王の背中を見送りつつ、俺は余韻に浸っていた。
・・・
俺は本当にいっぱい、いっぱいお土産をいただいた。
まず、こんなにレベルが上がるとは思ってもいなかった。
アニム王・・想像以上の人物だった。
非の打ちどころがない。
・・・
!!
それよりも、俺の頭に強烈に焼き付いたキーワードがある。
エルフ!
存在しているんだ!
見たい!!
くぅ、妄想が駆け巡る。
龍族や魔族は・・いらないな。
ドワーフは武器づくりに必要そうだが。
・・・・
・・・
そんな非生産的なことばかりを考えてしまった。
時間は14時15分。
魔物との戦闘自体はあっけなかったのだが、アニム王との話がとても楽しくて、ついつい長居をしてしまった。
さて、帰ろう!
アニム王と別れ、来た道を帰って行くだけで俺はよかった。
ただ、来る時と違うのは、安心して帰れることだ。
魔物の脅威は、ほぼないだろうと思う。
レベルのある世界でのレベル差は大きいだろう。
ただ、慢心は禁物だな。
俺はそう思い歩き出す。
東名高速を下って行く。
富士山が見えるくらいのところでお腹が空いてきたので、軽く食事をしようと思った。
10分くらいで移動してきただろうか。
凄く速いな。
魔物にもあまり探知されなかったようだし。
俺は普通にアイテムボックスからリュックを取り出し、栄養補助食品などを口に運ぶ。
やっぱりこの機能は便利だよな。
未だに信じられないが、慣れてきた。
少しの休憩の後、考えていた。
というのは、もう1度名古屋や大阪の都市部に立ち寄ってみたいと思っていた。
自分のレベルを試したい。
危険なのはわかっているが、試したい。
その感情が沸き起こって来る。
今現在、出発してまだ半日程度しか経過していない。
帰ろうと思えば、おそらく今日中に帰れるだろう。
少しゆっくりして、明日の朝に帰ってもいいんじゃないか?
そんなことを考えていた。
・・・
よし!
やはり立ち寄って行こう。
俺はそう思い、名古屋方面に向かった。
来るときは名古屋駅周辺だったが、テレビ塔のある久屋大通や栄町も見てみたいしな。
あそこは地下街が発達していて、栄駅の地下街でいつもお茶の匂いのするところがあったよな。
そんなことを考えていると、名古屋駅付近に到着した。
やはり移動速度は極端に上がっている。
俺的には普通に移動しているつもりでも、周りから見れば凄まじい速度だろう。
だが、移動している本人の体感景色は普通の感覚だ。
さて、前方にオーガが3体いる。
レベル22。
問題ないだろうが、行きのイメージがある。
あのマッチョの体格で迫られると、かなり威圧感があった。
索敵を少し広げてみる。
オーガの他には・・あ、いた。
トロウル:レベル28が2体。
ゴーレム:レベル31が1体。
後、高いレベルの魔物は・・いないな。
・・・
まぁ、いざとなったら大きく逃げて、魔素の少ない地域へ逃げ込めれば、何とかなるだろう・・たぶん。
そんな風に楽観的に考えてみた。
よし!
そう思うとオーガへと向かう。
すぐにオーガの前へ出た。
オーガにしてみれば、いきなり目の前に俺が現れた感じだろうか。
ギョロッとこちらを見ようとする。
俺は止まることなく、そのまま刀を振り抜く。
スパン!
?
あれ?
行きと全く違うぞ。
手ごたえがない。
1体のオーガは横に一文字に斬れていた。
残りのオーガ2体はまだ俺の方を向こうとしている最中だ。
斬られたオーガの両腕が落ち、身体もズレてその場に崩れ落ちる。
『経験値を獲得しました』
残り2体のオーガがようやく動こうとする。
だが、2体も難なく討伐。
あっけなかったな。
何というか、ゴブリンを討伐したような感じだ。
見た目はマッチョマンなんだが。
次はトロウルだ。
それに、ゴーレムは動きが遅そうだな。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
よろしければ、ブックマークなど応援お願いします。