第391話 それぞれの日常
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<元連合国の街>
部屋をノックする音が聞こえる。
「どうぞ」
そう声をかけるとドアが開けられ、一人の男が入って来た。
「宗主様、時間です」
宗主はうなずくと男と一緒に外へ出て行く。
建物の外へ出れば、宗主ではない。
好々爺を演じている。
戦争や不幸な事故、いろんな事象で心を傷つけた人の話を聞いたり、助言をしたり寄り添ったりして、街を回っている。
怪我人の回復も行う。
今では誰からも絶対の信頼を置く人物になっていた。
この地球の住人たちにしてもそれは例外ではない。
建物の外を歩いていると、街行く人がその姿を見て寄って来る。
「こんにちは、司祭様。 今日もお祈りに行かれるのですか?」
若い女の人から声がかかる。
宗主はにっこりと微笑み、答える。
「えぇ、私にできることは祈ることだけですから。 あなたにも神の祝福がありますように」
そう言って女の人に手をかざし、移動していく。
そう、神の祝福は間もなく訪れるでしょう。
宗主はそう心の中でつぶやいた。
◇◇
<帝都ギルド>
様々なところから冒険者が訪れる。
帝都には何といっても60階層のダンジョンがある。
レベルアップができ、貴重な魔石が得られる可能性がある。
己の力を試したいものや、強い武器を作りたいもの、後はレベルアップしたいなど、いろんな人が集まって来ていた。
また、学校に通う人たちもかなりの数がいた。
帝都で滞在しなくても、飛行船でかなりの距離を通学できる。
それに朝から学校に滞在せずとも昼から授業に参加してもいい。
学校は、自分に足りないものを強化したり、属性を伸ばしたりと自由な感じだ。
帝都ダンジョンは、今のところ35階層までが公にクリアしたとされている。
騎士団などは秘密裡に40階層辺りまで進出したようだが、詳細はわからない。
帝都ギルド、飛行船の発着場。
時間は10時頃。
一組の親子が降りて来る。
「ここが帝都か・・初めて来たな。 ハル、気ぃつけて降りや」
藤岡が子供と一緒に来ていた。
「町田の家がどこかわからんが、受付で聞くと教えてくれるってディアナさんが言ってたな。 それに、この時間で来れるんやったら、学校も通えるでハル」
藤岡が自分の子供、ハル君を見ながら微笑んでいた。
ハル君は賑やかな帝都ギルドの雰囲気でそれどころではないようだ。
藤岡はディアナの紹介状を片手に持って、ギルド受付へと向かって行く。
◇◇
<帝都ギルド>
受付を見ると忙しそうに3人で応対をしている。
その受付を見ながら、ややどっしりとした男の人と若い男の人が掲示板を見ながら話していた。
田原さんだ。
「風吹、学校の方は調子どうだい?」
「うん、優とは違うクラスだけど楽しいよ。 たまに、一緒にダンジョンに潜ることがあるけど、授業の一環だからね」
風吹君が慣れたように答えている。
「そうか、それは良かったな。 父さんもダンジョンに行ってるけど、まだまだだよ。 とてもソロではいけないね」
田原さんは風吹君を見ながら言う。
「だからこうやって一緒に行くんじゃないかよ。 クエストを探さなきゃ」
風吹君は掲示板を端から端まで見ている。
田原さんは風吹君の背中を見ながら壁を背に自分のステータスを確認していた。
ようやくレベルが28になり、職種もクルセイダーというクラスになった。
相手の攻撃も結構耐えられるし、自分が耐えている間に風吹たちが戦ってくれる。
また、地域の住人たちもたまにパーティを組むが、何とか死なずにレベルを上げていける。
町田さんに聞いてから、家族中心でレベルを上げてきたが、町田さんのように帝都に住むようなことはできない。
とはいえ、帝都までは数分で来れるので、今のところでも何の問題もない。
地域住民で帝都に移住したのは、町田さんくらいだろうか。
ご近所さんで、レベル上げに行って帰って来なかった人もいる。
それほど親しい人ではなかったが、顔は知っていた。
そういった人を失った奥さんや子供たちの顔が忘れられない。
そうならないように、自分が盾の役割を徹底して強くしていかなければと田原さんは思っている。
そんなことを考えていると、風吹が帰って来た。
「父さん、やっぱり魔石集めが一番効率がいいね。 えっと、父さんはどこまでダンジョンのカウントしてるの?」
風吹君が言う。
「あぁ、俺は・・・」
田原さんは風吹君に返答しながら、親子で一緒にダンジョンに向かって行った。
◇◇
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