第17話 王の憂鬱
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テツがステータス画面に気づく6時間くらい前。
◇◇◇
白い光の靄が晴れてきた。
だんだんと景色が見えてくる。
「ここは・・木がある。 空は・・暗いな」
中年と呼ぶにはまだ若い、男の人が立っていた。
顔立ちはさっぱりとしたイケメンともいえなくもないが、格好がコスプレだ。
濃い青色のマントを纏っている。
だが、その全体的な雰囲気には何かしらの品格を感じる。
緑色の瞳。
「元老長・・すまない」
そうつぶやくと、左手人差し指をおでこにあてて何やら考えているようだ。
『誰か、いないか。 返事をしてくれ』
・・・
返答はない。
どうやら念話ができないらしい。
もしかすると、私だけが転移されたのか。
緑色の瞳の男は空を見上げる。
空気が汚れているな。
◇◇◇
どこかの王宮のようだ。
玉座に濃い青色のマントを纏い座る男がいる。
先程、夜の空を見上げていた男だ。
その男に、いかにも長老という雰囲気の男が必死で叫んでいた。
「王よ。 どうか生き延びるご決断をしてください」
「しかしな、元老長。 我々が転送されればその先で迷惑がかかるかもしれない。 それに我が種族は滅びる運命にあったのだ。 仕方ないことだと思うぞ」
王と呼ばれる男は椅子に片肘をつき、顎を指で撫でながら元老長を見つめて言う。
「王よ。 我らアニム王国は侵略者ではありません。 この恒星系の太陽がもはや寿命なのです。 時間がありません。 光の神も同意されております。 どうぞご決断を」
元長老と言われる男が、優しく諭すように言う。
「・・・」
王は答えることができなかった。
目を閉じ考えている。
太陽が寿命なのは仕方ない。
他の恒星系へ行ければよいが、太陽の様子が急変したのだ。
宇宙空間は磁場や重力が乱れすぎて、とても船(宇宙船)での航行はできそうもない。
ワープしようにもどこへ飛ばされるかわからない。
まして次元の狭間にでも落ちようものなら、永遠に苦しむことになる。
そこで転移をしようと元老長以下、魔術師、魔導士が言い出したのだ。
ただ、時間がないために転移先をゆっくりと選んでいる時間がない。
「元老長よ、単なる転移ではなかろう。 これだけの悪条件の中、神の同意まで得られているのだ。 我が恒星系が消えるのではないのか」
王が言う。
元老長の額はすでに汗でいっぱいだった。
「・・返す言葉もありません。 その通りでございます。 何が原因かはわかりませんが、この3日の間に急変したのです。 生き延びればこそ原因もわかりましょう。 ですから王よ、ご決断を」
元老長の言葉を聞きながら、王は決しかねていた。
転移するのはいい。
ただ、転移先を選べないのが問題なのだ。
神が同意しているということは、神も一緒についてくるということだ。
転移先の理が変わってしまうかもしれない。
多大な迷惑をかける。
我が一族は侵略民族ではない。
王が決しかねている理由がそれだ。
だが、確かに生き延びてこそ光もあるだろう。
「・・わかった、元老長よ。 そなたに任せる。 転移先への影響をできるだけ最小限にしてもらいたい」
これは気休めだ。
王はそう思いつつも答える。
元老長はゆっくりと目を閉じ、深々と頭を下げる。
「御意に」
言うが早いか、元老長は即座に行動に移っていた。
王は考える。
何の予兆もなく太陽が消えようとしている。
我が星でも観測はしていたはずだ。
それが3日前に、そのエネルギーが急速に低下。
それ以来、膨張したり収縮したり不安定な活動をしていた。
昨日にはその活動も停止。
内部に膨大なエネルギーが溜まる一方だった。
もはやいつ爆発してもおかしくはない。
だが、そんなことが自然と起こりえるだろうか。
もしかしたら、誰かの意図したことかもしれない。
・・・
考えても、もはやどうしようもない。
自分たちの星を捨てねばなるまい。
せめて船が利用できれば、多くの民を救うこともできただろうに。
王がそう思っていると、扉がそっと開かれた。
若い魔導士が一人現れ、一礼をする。
「アニム王、準備が整いました」
「すぐに行く」
王は立ち上がり魔導士の後を歩いて行く。
元老長のもとへ到着すると、元老長を中心に10名の魔導士、それを囲むように20名ほどの魔術師がいた。
元老長は何か苦しんでいた。
「・・はぁ・・はぁ・・王、お越しくださいましたか。 では、早速始めます」
王はすぐに違和感に気づいた。
「元老長、なぜ中心で術式を発動するのだ。 そこは魔法陣を描くところではないか」
王はそういうと立ち止まり、元老長を見つめる。
元老長は王を見つめて深々と頭を下げた。
「王よ、お許しください」
そういうと上着を脱いだ。
!?
なんと、自身の身体に魔法陣を描いているではないか。
自分の肉体と命のエネルギーを触媒とするようだ。
「・・な、なにをやっている!」
王は心臓が飛び出しそうな感じを覚えた。
頭の中に、今まで元老長との思い出が一気にあふれ出てくる。
「・・王よ、私は神のもとへと参ります、ご安心を。 ただ、全国民を転移できるかどうかわかりません。 光の神のご意思次第です。 光の加護あるものの転移を願ってこのような形になりました・・さらばです」
元老長は苦しそうに言葉を出しながらも最後に微笑んだ。
王の周りがわずかに白く光る。
徐々に輝きが大きくなり、閃光に包まれた。
王は声も出すこともできなかった。
・・・
・・・・
!!!
・・・
・
白い光の霞が晴れてくると、王は薄暗く木々のある場所にいた。
◇
元老長は転移が成功したことを喜んだ。
「はぁ、はぁ・・はぁ・・王よ・・どうか良き人生をお送りく・・だ・・さ・・い・・」
それだけを言うと、元老長はその場に倒れ込む。
その場には元老長だけが残っていた。
元老長を囲んでいた魔導士や魔術師はいないようだ。
風も吹かず、音すらも消えたような感じだ。
時間すら動いていないようだった。
静寂。
まさにそういう言葉がふさわしい雰囲気だ。
元老長は動く気配はない。
倒れている元老長の髪がわずかに揺れたような気がした。
すぐに凄まじいエネルギーの暴風が襲う。
すべてを飲み込み、音すらも食らうようなエネルギーの嵐だ。
・・・・・
・・・・
・・
アニム王国のあった空間には何も残らなかった。
ただ、闇だけが存在していた。
◇◇◇
どうやら転移は成功したようだ。
王は自分の存在を確認し、つぶやく。
「元老長・・」
まさか自分の命を使うなどと。
しかし、そのおかげで拾ったこの命。
大切にしなければなるまい。
簡単には死ねない。
王はそう思い、ゆっくりと前を向く。
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